昴くんはなにもしない   作:あまも

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この話は後々改訂する可能性があります。話の流れは大きく変わらないと思います。

それほど重要な話でもないので……

閲覧ありがとうございます!

2025/06/19:サブタイトル変更しました。


7-1:気になるあの人

 

 

 海外来たんですけど、荷物をホテルに送って、空港からタクシー乗って約束の駅に降りて……

 開幕迷子ですこんにちは、私です。

 

 私の一番良くないところ出ちゃいましたね。

 

 ……方向音痴じゃないですよ、本当ですよ。

 

 空港とか駅ってなんでこんなに広くて入り組んでるんだか。

 ナンバリングが悪いんだよ。B3って言われてB3で待ってたら隣の建物のゲートB3で別の建物の中にもB3があるとかここじゃないとかもう意味がわからないよ。なんで隣合った建物が全部同じ名前なんだよ。

 

 そう……報連相が足りない!

 

 なら聞けばいいって?

 気軽に聞ける、有希子さんみたいな相手ならもうとっくに聞いてるんだけど。

 

 

 案内図を前にして首を傾げていたら、日本語の上手な米国美人が親切にも声をかけてくれた。

 メールの文章から察して、目的地の正解を教えてくれたので、なんとか約束の待ち合わせ場所について事なきを得た。

 

 あの人、来月には日本に行って、日本の高校で英語教師やるって言ってたけど、あんなにペラペラなら他の職でもやってけそうだったな。

 美人だったし。

 

 

 

 ま、これから会う人のほうが美人なんだけどね!

 

 

 ■

 

 あの人に会う時、私はいつもフワフワ浮ついて何言ったかわからなくなるから……気を付けないと。

 ……毎回気を付けようとして、無理なんだけどね。

 無理だよ、あんな美人前にしていつもの調子保つなんて。

 

 約束のB3ゲートからすぐの道路沿い。ゲートから離れた奥の方の、人気のないベンチ前で約束の時間を待っていると、音もなく、黒いタクシーが目の前に止まった。

 パカリと後部座席のドアが開いて、赤いマニキュアの目立つ、白い指がするりと伸び、人差し指だけでトントンと、車のシートを叩く。「Come」と、綺麗な発音の声もする。

 そんな、飼い犬呼ぶんじゃないんだからさ。

 

 そんなんでも、指の端までキレイで参ってしまう。

 

 車に近寄ると、開いた扉側の席をポンポンとその手が叩く。座れということですね。

 

 のそのそと乗り込むと、途端にぶわっとバラの香り。ピンク…いや赤かな。大きなバラの花束が、隣の席との間の足元に立てて置いてあった。誰かからの貰いものか?大変おモテになられて……当たり前か。

 

 残念なのは、私は花の匂いはあまり好きではない事かな。

 

 

 私がちゃんと座って落ち着いたのを確認したのか、ドアが閉まってスルスルと車が進み出す。

 隣に座る人へ、まずはご挨拶。

 

「お久しぶりです。わざわざご足労をおかけしまして……すいません」

「いいのよ。一人でここまで、長旅お疲れ様。久しぶりの飛行機は大丈夫だった?」

「ええ、相変わらず、雲の上を飛ぶのは見てて楽しいです。それに機内食が美味しくって」

「そう、良い席だったのね」

 

 

 あの……

 私書類上では今年27なんですけど……

 

 この人、出会った時からずっと、同じ中学生かそこらのガキだと思ってる対応なんだよね。

 

 

 

 それをそのままこの歳までやってる私も私だけどね。

 

 いや、うん。わかってるんですよ。私が大人な女性とオトナな会話出来る気しないから、彼女もこの対応してくれてるんです。私があんまりにも吃るせいで、彼女が気をつかってくださっているんです。

 いや〜ありがたいありがたい。

 

 

 長い、ウェーブのかかった薄いブロンドの髪をかきあげて、背中へと払う彼女。

 私が見ている事をわかっていて、にこりと笑いかけてくれる。この……有希子さんや妃弁護士、先の米国美人とも違う、完璧な美人。

 黒いパンツスーツの姿は、地味な服装とはひと言も言えない。足を組む様もキレイときた。

 

 こっちも同じ黒いスーツなのに何だ、この違いは。

 これでも我、沖矢 昴やぞ。鏡見てもちゃんと美形やぞ。

 

 

────中身がダメ?…………確かに!

 

 

 

 外国人とひと目でわかるその姿から、流暢な日本語が聞こえてくるのはなんともチグハグで、けれどこんな美人ならそれくらいできて当たり前とも言いたくなる。

 

「でも良いんですか?星付きのお店なんて……そんな所で大女優が妙な男と会っていたら、密会だなんて言われてしまいませんか?」

「あら。場所なんて関係無いわ。内緒で男と会ってたら、どこでも密会になるんじゃなくって?」

「だから……その相手が私なんかでパパラッチされたらどうするんですか」

「フフ……私の小鳥は見目麗しいから、写真写りも良いんじゃないかしら?」

「……何言ってるんですか、もう!」

 

 クスクスと、口元押さえて控えめに頬を染める笑顔も美人め!!

 くそう!わかってる!

 

 私は顔が良い相手に……露骨に弱い!

 

 私が悔しがる様子がまたおかしかったのか、さらにコロコロと笑う美人。

 

 

 彼女こそは世界的大女優、クリス・ヴィンヤードその人である。

 

 

「なんだか最近、みんな私を鳥に喩えるんですけど、何なんですかね。そんなにパタパタ忙しないですか?」

「自由気ままにやってる様子がそう見えるんじゃない? そうだ、明日は燕尾服を着るって聞いたわよ。次のプレゼントで見れるかしら」

「……グゥ……たぶん有希子さんが撮るので……交ぜます……」

「有希子とのツーショットでも良いわよ」

 

 有希子さんの話が始まって、途端ににっこにこ具合が5割増。

 

 この人、工藤家フリークで工藤家をめちゃくちゃファンガールしてる人なのである。

 有希子さんは大親友、というか、なんだか可愛がっている。新一くんの事はクールガイとか呼んでキャッキャしてる。工藤氏の事は2人ほどには興味無い…のかと思ってたけれど、どうも何か懐かしさ?のようなものを感じてる様子でもある。

 あとそこに、工藤家の若い王子様の想い人も追加で。エンジェルってなんなんだホント。

 

 

 なにはともあれ、そんな彼女にひょんなことから知り合ってしまったのが運の尽き。

 

 私は、件の白いからすが如く、工藤家のあることしたことしでかしたことを度々彼女に漏らす、告げ口チクリメガネになってしまったのだ。

 

 …………いやすっごいひょんなことだからね。

 

 

 ■

 

 

 私がまだそれ程大きくなかった頃に、有希子さんに連れられて、彼女の母、シャロン・ヴィンヤードと出会ったのが最初。

 シャロンさんは有希子さんのことをとても可愛がっていて、一応その有希子さんの目の前では普通に接してくれていたけれど、彼女が目を離すと「お前みたいな身の程知らずが有希子の側に?」と言いたげな視線は感じていた。

 

 まぁ……うん……その後色々あって、有希子さんが行き過ぎた藤峰有希子ファンの方に襲われそうな所を、私が咄嗟に庇って以来、シャロンさんからの視線がめちゃくちゃ柔らかくなったんだよね。色々あって。

「なるほどね、男爵が雇った騎士って事……」って、何かそんな感じのポエミーな事言ってたけど……ぼくにほんじんだからえいごよくわかんないなぁ!!……小っ恥ずかし!

 

 ……で、そんなヴィンヤードさん家との付き合いは

 有希子さんを守る会発足から始まり

 「あーしの有希子、厄介ファン多くね?(意訳)」という相談に続き

 「待って!?王子様……可愛いうえに……かっこよくない?(意訳)」のファンのひとりごとになり

 「私のエンジェルとクールガイ!(直訳)」の推しへの歓声になっていたのだ。

 

 ちょっとよくわからない?

 そう、私もよくわからない。

 

 

 通話相手がシャロンさんだったのに、新一くんの事件解決の話を聞かせていたら、KARATEで相手を粉砕した蘭ちゃんが話に出てきた辺りで『流石私のエンジェル!』と、声が娘のクリスさんに変わって……以来、私に何の説明もなく、シャロンさんはクリスさんになったのだ。

 

 わからないだろ?

 私もいまだにわからない。

 

 シャロンさんは亡くなったのに、そのまま連絡会は続くし。

 クリスさんは当たり前のように、“私が”、シャロンさんとクリスさんが同じ人物だと、気づいていたみたいに話す。

 

 マジでわんこそば形式で彼女の中の工藤家への愛がさらけ出されてしまい、お前もそうだよなぁ?の圧力と美貌に屈した私は、深いことは聞けず。

 

 工藤家と阿笠さんへの恩は死んでも返す所存だけどさ……

 

 以来、私は工藤家見守りの会という名の、彼女への情報、というか写真や、事件での推理ショーや家族の様子などの横流しをするようになった。

 

 

 

 ……熱量的にはそっち(工藤家)が本命の気もするけれど、彼女が私と接触するのはもう一つ理由がある。

 

「お仕事はちゃんと出来た?」

「出来てますよ。ご期待に添えるかはわかりませんが……動作チェックはしていますが、もし動かない時はいつもの番号にご連絡ください」

 

 胸ポケットから、グレーの正方形の薄いケースを渡す。彼女の指がそれを持っていって、パチリと開けると中身を見て……口元を緩ませて笑っておられる。

 

「ええ、わかったわ。……アナタ、案外気に入ってるの?」

「何をですか?」

「コレ。最近どこでも使ってるようだけど」

 

 ゲ、ゲェーッ!

 

 中の白いフロッピーディスクの端に、彼女が指差した先でちょこんと控えめに貼られたステッカー。

 ヒロキくんに連絡する時に使っていた、私の画伯っぷりが遺憾無く発揮された、心理テストの白い鳥ちゃんがパタついていやがる!!

 白に白だから気付かなかった!

 ………………ヒロキくん!!!

 

「そ、れはぁ……私のお遊びごころと言いますか……剥がしても…………ん?最近どこでも?」

「かわいいからそのままにするわね。どうせ中身は他に移してしまうから。最近、この白いことり、結構見かけるわよ」

「えぇ、どこでですか?」

「……そりゃ、私が見かける所よね」

 

 にっこり笑顔が大変よろしいご尊顔で……

 

 大女優が見かけるところって、どこ?!

 こんなことするの、ヒロキくんとノアズ・アーク以外いないでしょうに、……後でノアズ・アーク問い詰めてやる……

 

「今進めてるプロジェクトの調子はどう?」

「それは、彼と合同でやっているほうですか?」

「そうね、どちらもかしら。私、あなたの作るものを楽しみにしてるのよ」

「えぇ……本当に?嬉しいですね。ええとですね……」

 

 わかりやすく煽てられたので煽てられておくかぁ。

 

 今やってるのは、ヒロキくんが命懸けで作ろうとしていたDNA探査プログラムのリメイク版だ。あれは極論、トマス・シンドラーに殺人鬼の血が流れている事を証明するためのプログラムだった。

 それを社会のために利用するなら?と3人で相談した結果、対象を人間ではなく、動植物で判定してみたらどうかという話になり。

 とりあえず試しに鳥、渡り鳥や近所の雀が、どこからきて何処にいたものかを、調べることが出来るのか?といった実証実験中。いずれは化石から恐竜について、なんて調べられたら楽しそう。恐竜の遠い子孫が鳥だから。

 ぶっちゃけデータが圧倒的に足りないので、各地を彷徨いている教授が色々拾ってきてくれるのを待っている。

 私も集めに出かけてはいるんだけどね。

 

 そしてもう一つ。

 

「私の作っていた人工知能を復元……いえ、再現ですね」

「あら……」

 

 クリスさんの目が、鋭くなった。そうだよね。

 

「『闇の男爵』に消された物を、また作るの?」

 

 “うちの子”は、2年前に綺麗さっぱり消された(ころされた)わけだけど。

 

「ええ。あれは私の挑戦です。何かが、『闇の男爵』の使用者にとって見過ごせないものだったんだとは思いますが、Nebula(ネブラ)は複数のシステムを持つ統合型です。どの子が悪かったのか……悪いという言い方はしたくないんですが……一度、ひとつひとつ個別で作ってみようかと」

 

 万が一『闇の男爵』がこちらまで来ても、今度は万全セキュリティとノアズ・アークが迎え撃つ。

 ……こちらまで辿って来ることはないだろうけど。

 

「……なんて、昔はコツコツ集めてた集積データがあったんですが……そこも一からで……しかも機材が無くて…………

 全然進んでないんですけどね」

「アラ……」

 

 クリスさんから、どこか拍子抜けしたような、僅かにホッとした、気を抜いてしまった気配。私の作るものの話を聞いて、面白そうな表情をしている、という態度は崩していない辺り当然ながらプロのワザマエ。

 

 ……なるほどね。

 

 

 ■

 

 

 私が彼女と取り引きしているのは、理由は勿論ある。

 

 大きく分けて3つ。まず1つ。

 

 

 この美人と話せる。

 

 

 これ大事。すごく大事。普通に知り合えないからね。世界的大女優。

 正直言っていい?

 マジで顔が良いんだよこの人。眼福眼福。拝んでもいい。この顔が一番好きまである。かわいいも好きだけど、綺麗を突き詰めたこの人は本気で完璧なんだよ。語彙が無くて困る。

 でもポエミーはちょっと……

 

 まぁ、彼女とどうこうなろうとは一切思わないんだけどね。

 

 どう考えても手を出したら絶対危ない人だもん。

 考えてみな……元シャロンさんだぞお前。

 怖いだろ。ホラーだぞ。

 

 2つ。

 その美人に押し切られたから。

 

 ヘタレと言うなよ、美人の圧は怖いんだ。

 

 で、3つ。一番大事。

 

 

 

 工藤新一くんの事を黙っててもらっている。

 

 

 

「それじゃあ、いつもの口座に振り込んどくわね」

「毎度お世話になっております……」

「良いのよ。それより、小さな王子様とエンジェルの事、頼んだわよ」

 

 はい。

 

 コナンくんの存在の事は伝えてあります。

 

 というか、工藤新一が小さくなった事を私が本人からおはなししてもらった翌日に、彼女から国際電話がかかってきて……ものすんごい勢いで英語で罵られまくってね。

 

 やれこの木偶の坊だの、シングルファーザーだの、使えないウィッカーマンだの、おしゃべりメガネだの散々だった。

 シングルファーザーは違うだろとそこだけは否定した。世の全てのシングルファーザーに失礼だ。

 

 とりあえず工藤新一は生きていることを、コナンくんの写真を見せることで伝え、落ち着いてもらえたのだ。

 

『 好奇心旺盛な彼がヤバい組織に手を出してしまって、身を隠すべく、阿笠博士の発明品でどうにかしてるらしい、と

 

 そう聞いている』と伝えたら、ここ一番の大爆笑をいただいた。

 

「アナタ、本当に見た目以上にかわいいわね。ことりさん」

 

 と、呆れたような、安心したような口調の言葉と共に大きなため息をひとついただいた。

 

 とまぁそんな感じで、従来通りの工藤家の情報共有と私の小遣い稼ぎのお仕事にプラスして。

 工藤新一が生きていることを広めない事と、組織について調べてみたことの情報交換の場として、こうして工藤家見守りの会は存続しているのである。

 

 

 

 ■

 

「それじゃあね、私のbirdie」

 

 ホテルまで送ってもらって、それでは、なんて降りた所を突然襟掴まれてチークキスかまされて、目を白黒させるしか無かった私は……

 

 おかしいな……私、昔海外住んでたらしいんだけど、なんも耐性無いぞ……

 

 と、呆然としていたらポケットのスマホがブルブルと震える。

 渡されたバラの花束をどうしような。しょうがない、持ってくか。

 さっさと人目につかないところに引っ込んで取り出すと、『お話しようよお兄ちゃん』とのことで。

 

 ワイヤレスイヤホンマイクを着けて、近くの公園までの道程をナビしてもらいながら歩き出す。

 

「どうでしたかね、私」

『すごい取り乱していたね。お兄ちゃん、そんなにあの人のこと好きなのかい?』

「大好きな女優さんですよ。演技が上手くて、綺麗で……」

 

 ここは海外。日本人が日本語を呟きながら、周りをキョロキョロして歩いていても、観光と思ってもらえるからいい。内容なんてわからない。

 

『でも怪しい人なんでしょう? ボクのこと、話さなかったじゃない』

「ええ、まぁ……ね」

 

 進めているプロジェクトは、全てノアズ・アークのため、のひとつに集約される。最大規模の統合型人工知能に仕上げようとしてるのだ。その雛形である彼はもうこの通り完成している。

 完成はまだである、という事にしておくべきだと、3人で決めた。

 

 でも今日でようやく確信したけどさ。

 前々から薄々思ってたけどさ。

 

 

 クリスさん、組織の人だよね?

 

 

 





クリス「あの花束?ユキコへの花束よ。当たり前じゃない」


ベルモットって名前言われたら気付いてた


読んでいただいてありがとうございます!
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