昴くんはなにもしない   作:あまも

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バーボンさん視点ですすいません



閲覧ありがとうございます!



7-2:気になるあの子

 

 

 

 

 ホテル前から移動した先でタクシーを乗り換える、黒いパンツスーツの女。指先ひとつで「出せ」の指示をこちらにして、携帯を取り出すと徐に電話をかけ始める

 

 運転に集中しながら聞き耳を立てるが、その必要もないほど電話の向こうの声は大きく、彼女も眉をしかめて耳に当てるのを止めて少し離しているため、内容がこちらまで聞こえてくる。

 日本語……しかもゴリゴリの関西弁。

 

「Hello,……テキーラ。必要なデータは手に入ったわよ」

『流石やなベルモット……。ジブンの子飼いのソイツ、ええ加減……オレにも紹介してくれへんか』

「イヤよ。あの子はワタシが可愛がってる小鳥なんだから」

『カァッ 燕ってワケかよ! ……へっ、最近囲っとるバーボンといい……、ジブンもピスコみたいに派閥作るつもりやないやろな……?』

 

 出てきた自分を示す名前に、つい頭が僅かに揺れてしまう。ずっと聞き耳を立てていることはわかっていて、聞かせるつもりでもあるんだろう。ベルモットは愉快そうに口を歪ませた。

 

「あら。うちの子は2人とも荒事は得意じゃないもの。野蛮な争い事なんて、させられない。ワタシのところで後ろから仲良く鑑賞してるに限るわ」

『オレだってそうしたい所や!……ったく…………まぁええわ。そのデータ、いつ持ってこれる?なんならバーボンが来てもええで』

「すぐにでも。……と、言いたいところだけど……アタシは仕事があるわ。バーボンに持たせる事も考えてみるけれど……おつかい、できるかしら。

 ︎︎そうね、長くても、ピスコのパーティー前に日本に行くつもりだから、その近辺で予定を合わせて頂戴」

『リョーカイ。おれも他のデータの回収があるもんで、すぐには行けへんからな。追って連絡する。…………なぁ、ホンマにソイツ、紹介してくれへん?』

「断るわ」

『か』

 

 相手が何か言いかけていた電話を、問答無用でぶちりと切ったベルモットは、何故か自慢げな顔で窓枠に肘をついた。

 

「今日のランチのお相手ですか」

「あら、早速ね、探り屋さん。残念だけどあなたにもあの子のことは明かさないわよ」

「貴女の秘密を知っている僕にも?」

「……嫌な人ね、ホント。みんなワタシの小鳥を捕まえたいのかしら。食べるところなんか無いわよ?」

「僕は羽の色を見てみたいだけですよ。貴方が囲うその小鳥の。

 てっきり渡り鳥かと思いましたが……日本の雀ですか?」

 

 自分の言葉に、パチクリと目を開いて、声を高らかに笑いだす。どうやら、今の発言は何か琴線に触れた様だ。

 

「……どうしてかしら?」

「一昨日頂いた電話の時より、貴女の日本語が滑らかに、ネイティブに近くなってますね。私や、先ほどのテキーラと密に連絡をとっていたから、ではないでしょう」

 

 むしろ優しさすら混じっている。

 この女から、その優しさの感じられるようなトーンの日本語が出ている事実に、腕が鳥肌が立つ感じがあり、それだけ俺にも忌避感があったんだろう。

 信号待ちの身動ぎついでに、腕を少しさする。

 

「それと、一番の理由は……『シートベルトは着用しましょう』とでも言われましたか?」

 

「ふっ……あっはっはっ!」

 

 もう一つの理由は、席に座り込んで早々に、指に引っかかったそれを面倒そうに締めたところ。

 シートベルトをしないわけではない。警察車両が見えたら着ける。

 ただ、この女が自分の手配したタクシーで、真っ先にシートベルトを着用するのは初めて見た。

 

「そうね……シートベルトしないだけであの子、珍しく人のこと睨むんだもの。日本ってそういうの、とっても厳しいのね」

「運転する側としては、同乗者には締めて欲しいと思いますね。……アメリカだって着用義務はありますよ」

「あらそう?」

 

 知ってるだろうが。

 このすっとぼけた女が、他人に言われただけで、やってやろうと考えたのか。いよいよ、その“小鳥”というのは何者なんだ。

 

 ベルモットはどうやら、ひと笑いして機嫌が良くなったらしい。窓の外の景色を、組んだ足を揺らしながら眺めている。鼻歌でも歌い出しそうな程、上機嫌だ。“小鳥”のことでも思い出しているのだろうか。

 しかし、タクシーに乗るのに、シートベルトを指摘する……車を運転する者か、そういったルール違反に厳しい者。そう教えられたから、と、他人に指摘したがる者。

 この女が“あの子”と呼ぶからには……

 

「聞いていると、どうやら若い方のようですね。学生……でしょうか」

「そうね……そうかもしれないわね」

 

 秘密の件と機嫌の上昇により、探ることは許されたらしい。はぐらかされているが、話のタネついでに聞いてみる。

 

「若いのに、あなたが認める程コンピューターを扱えるなんて、すごいですね。高校生ですか?」

「……大学には出入りしてるみたいよ」

 

 若い学生、大学に出入りしている、コンピューターの扱いに長けた若い人物……

 

「まさか」

「サワダ・ヒロキじゃないわ」

 

 数年前に世界中で話題になった天才少年かと考えたが、食い気味に否定された。流石に無いか。

 

「あの子のことも監視してはいるけど。……余計な保護者が多いのよね」

「彼の協力を得ることは、IT界の頂点への特急券ですからね。日本警察も、彼へ接触する人物はかなり厳しく見ているようです」

 

 とはいえ彼がアメリカから日本に渡って来た理由が理由だ。四六時中の監視生活から解放された彼は、と……そうだ。

 研究室に遊びに来てくれるのだと、楽しそうに言っていた男がいた。

 

「確か……彼は今、日本の中学校に通いながら、大学の研究室で、年の離れた友人の手伝いをしているのでしたっけ」

 

 年の離れた、と自分で言って、脳裏にへらへらとした暢気な顔が浮かんだ。

 

 そのサワダヒロキ少年の友人である、見た目だけなら立派な大学院生。

 

 そして俺の友人でもある、沖矢 昴の気の抜けた顔。

 

 ……若干苛立ってきたな。どうせまた暢気にグダグダしているんだろう。こっちはこんな女と腹の探り合いしてるというのに。

 

 

 確かにアイツは、中学生の少年とゲームやコンピューターの話をして、同レベルで盛り上がっていそうだと考え……

 

 そして呼吸が止まりそうになった。

 

 努めて、表情を変えないように気合いを入れる。

 思いついたけれど、そんなまさか、の驚愕の意を、表に積極的に出す。

 

 内心の、違っていて欲しいという願いを悟らせるな。

 

 

「………………ベルモット、……まさか、

 その天才少年の――友人のほうですか?」

 

 ふ、と息を抜くような、微かに鼻を鳴らす音。

 

「細かい所まで調べてるのねぇ、バーボン。組織は優秀なプログラマーを探してる。ウワサの天才少年と繋がりのある人物に、目をつけないワケ無いでしょう?」

 

 女の言葉は、辿り着いた答えを認めるものだった。

 

 ああ、おい、嘘だろう。

 

 なんでお前まで。────スバル(ハル)

 

 

――――――

 

 

 丁度いいわ、と女は言った。

 

「正解に辿り着いたご褒美をあげなきゃよね。……あなたにあの子の管理を任せるわ」

 

 なるべくこんな事に関わらせないよう、関わらないよう言い含めてきたはずの友人が、こんな女にペットか物のように使われている。

 

 俺の知らない間に、スバルの周りでこいつらが動いていたなんて。……一体いつの間に。

 

「ただし、他の連中には悟られてはダメよ。ようやく捕まえた小鳥が鳥籠ごと盗まれたり、逃げられたら面倒だから」

 

 テキーラにも隠していたあたり、よほどこの女はスバルを気に入っているらしい。

 ︎︎元よりベルモットの情報収集能力には目を見張るものがあるが、秘密主義のこの女に子飼いの部下がいることは、この日まで噂止まりだった話。相当、丁寧に隠している。

 

 だが、何故だ?

 

「……彼、確かプログラマーとしても一級品の腕があるでしょう。件のプログラムの作成はさせないんですか?」

「無理ね。あの子、子育てに向いてないもの」

 

 ……?

 文脈に繋がりがない。ただでさえ、コイツらは胡乱な表現を使うが、突飛が過ぎる。どういう意味だ?

 

「……自分が何を作ってるか、分かってないってこと。今作ってるのもそうだけど、以前の彼の作品なんて最たるものね」

「……」

 

 そちらの心当たりはある。……あるのだが、顔には出さないで首を傾げるに留め、話の続きを促す。

 ︎︎伝聞でしか聞いた事がない出来事の、詳細な話だろうか。

 

 

 

 数年前、アイツが突然、全てをかなぐり捨てて行方を晦ました時期がある。

 

 丁度同じ頃に、いなくなってしまったもう一人の友人の件もあり、まさかこちらまでと……必死で探したのだが…………なんてことはない、進めていた研究が全て消去されたショックでの傷心旅行だったらしい。

 完膚なきまでに無くなってしまい、結果的に大学の進級に失敗した奴が、自暴自棄になっていただけだった。

 

 本人にしてみれば一大事ではあろうが、こちとら二人とも一度になくしてしまうのかと大いに焦ったもので……今でも記憶に新しい。

 

 確か、その時進めていた研究が、人工知能を利用した情報検索補助プログラムの開発。

 名前は…“Nebula(ネブラ)”だったかな。

 

 どこかの馬鹿が作ったプログラムが、また『闇の男爵』の餌食になったのだと、噂だけは組織で聞いたことがある。

 

「何かあったのですか?」

「何かしてきた(・・・・)のよ。

 

 彼本人じゃなくて、そのプログラムの方が」

 

「…………勝手に?」

「本人に聞いたし裏取りもしたわ。信じられないことに、完全に彼自身は何もしてない。それどころか、『闇の男爵』の方が攻撃してきた、なんて認識を本気でしてて、憤慨してたくらいよ。

 プログラムが、その性質上延々と関連データを探して拾い続ける代物だったのが問題なの。どのルートかはわからないけれど、組織のコンピューターに潜り込んでデータを漁っていたのよ」

 

 ……何を危険な物を作っているのかと焦ると同時に、何故そこで殺されなかったのかと、安心と疑問が浮かんだ。降谷零と、バーボンとで脳内の視点がおかしくなりそうだ。

 

「彼が言うには、あの時はプログラムに行方不明者や未解決事件の情報を探るような動きがあったそうだけれど、だとすれば組織に消された者を辿って来たのが一番有力よね。

……結局、過剰に追い続けて帰れなくなっちゃう暴走プログラムだった、って、落ち込んでたわ、あの子」

 

 そんなものを作れる腕を見込まれたのならば、利用価値があると生かされて、組織でも上位の幹部のベルモットが見張るのも……頷けるか。

 

 つまり、スバルが『誰かに消された』と考えていたプログラムは、自分から危険に飛び込み、消されたわけで。翻っては、そのように作ってしまったスバル自身の失敗だ。

 

 自業自得じゃないか。

 これだからあの昼行灯の暢気阿呆は。

 

 こちとら忙しいというのに、多大な心配をかけて人に散々探させた、あの留年確定後放浪事件を機に、サワダヒロキ少年の監視と護衛のためにつけた部下に、ついでにその少年に最も影響のある人物の一人としてスバルにも目をつけて、定期連絡で何をしているのか何をしたのか、報告させていたのだが……

 

 こんな女に使われているなんて聞いていないぞ俺は。何やってるんだアイツらは。務まってないぞ。

 

 

「……そうですか……僕は彼が……そういった組織に不都合なものを作っていないかの確認を含めた、監視役、ということですか?」

「そうね。……最近の小鳥ちゃんってば、仲良しの子リスと一緒に巣穴に隠した木の実があるみたいなの。変な虫が湧いたら困るでしょう?」

 

 その彼らが今作っているプログラムを探れ、ということか。探り屋向きの仕事だが、この女が俺に言ってくる点も不信感はある。

 俺と、アイツの繋がりに気付いているのか?

 

「……はは。歌を思い出しました。気になる木ですか」

「名前も知らない実のなる木かしら?まだ芽も出てはいないみたいだけれど、花が咲くまでには、その木がどんな実を付けるか確認しなきゃいけないのよ。

 私たちが食べられる木の実なら良いけど、あの子たちったら、平気で無邪気に毒の種を混ぜるものだから……」

「はは……」

 

 

 『ちょっと思い付いて……こんなの作りました!』

 などと言って、出すところに出せば即逮捕の代物をある日突然見せてくる大馬鹿者である。

 似た者同士な阿笠博士の所に行ったせいであんな事になったのか、元からあんなんだったのかはわからない。

 作る前に、使う前に、世に出す前に、工藤氏か俺に見せろと再三言っているんだが……

 

「あなたなら歳も近いでしょうし、顔も良いから警戒されないでしょ」

 

 …………アイツは未だに顔の良い人間に弱いのか……。

 

――――――

 

 

 空港にベルモットを送り届け、彼女から教えられた情報の元、現在スバルが参加しているというパーティー会場の見えるビルの上に侵入。

 

 

 大きな窓から見える会場の、きらめくシャンデリアの下、彼女は煌びやかに咲いていた。高校生の子供がいるとは思えない、いまだに若々しい女性。柔らかなロイヤルブルーのロングドレスが、彼女の肢体に寄り添い、動くたびにふわりと揺れる。透き通るような白い肌に、わずかに朱を帯びた唇が微笑みを象徴し、周囲の人々と楽しそうに言葉を交わしていた。

 彼女の周りには一際明るい光が満ちているようだった。

 その傍らで、若い青年はにこやかな表情を崩さずに立っている。彼は彼女の華やかな存在感とは対照的に、控えめでありながらも、決して目立たないわけではなかった。洗練された黒の燕尾服は彼の若々しさに落ち着きを与え、静かに微笑みながら決して言葉を挟むことなく、ただひたすらに彼女の楽しげな様子を追っている様は執事のよう。

 ふいに女性が青年に視線を向け、軽く微笑みかける。そのまま何事か話しかけると、彼の顔には少しの驚きの後困ったように笑い、会話に加わった。女性は楽しそうに笑い、……その喜びがそのまま彼の喜びであるかのように、青年も一層笑顔を深くする。

 その姿は、パーティー会場の中でも一際目を引いていた。

 

 ……なんだあれ。

 

 工藤有希子夫人の横でシャンと立つ青年ことスバルは、黒い燕尾服に白タイを着け、髪を上げてキッチリとした格好。

 さも、まるで自分は出来の良い執事ですよとでも言いたげな様相だが、実際の性格を知っていると『かなり頑張っている』んだろうとわかる。

 表面を取り繕うことだけは得意だからな、アイツ。内心はどうせガッタガタだろうが。

 

 

 助け舟ついでに文句を言うべく、電話をかける。コール音。気付いた様子で奴は有希子さんに断りを入れ、そそくさと会場を離れ、外の……バルコニーへと出てくる。

 会場の光の届かない薄闇の中で、奴は薄い板を見て、板のライトで照らされた顔が眉を顰めたのがよく分かった。

 

『――はい、どうされました?』

「馬子にも衣装、というやつだな」

『……』

 

 動きを止めて数秒、後に、スバルはガバッと顔をこちら、向かいのビルの上に向けた。驚いた顔で僅かにこちらの溜飲が下がる。

 

「よくわかったな。見てたぞ、お前が困ってるの」

『なんであなた、こんな所に……いや、なんで見てるんですか!』

「騒ぐなよ、他にも人がいるんだぞ」

 

 大声を咎めると、律儀にもにょもにょと小声で文句を言い直す。

 

「文句を言いたいのはこっちだ。お前、日本帰ったら覚えてろよ」

『ちょっ、いきなりなんでキレてるんですか?!』

「うるさいな。帰国の予定を報告しろ」

『横暴! …………明後日の午後便で帰りますけど……え、ホントにあなたなんでそんなに怒って』

「帰ったら連絡しろ。この番号でいい」

『いや帰ってからって私にも用事g』

 

 まだ何か言っているが、これ以上話すと余計に苛立ちが募ってくる。

 

 燕尾服の落ち着き払った青年はいなくなった。

 やはりあの、苦々しげにこちらを睨んでみたり、思い付く悪事をさらってどれが俺にバレたのかとひとりで焦っている様のほうが、よほど彼らしい。指折り数えてるあたり、それだけ何かしでかしているんだろう。

 

 いずれなんかやりそうだとは常々思っていたが……ちゃんと首輪をつけておくんだったか。

 

 まとめて全部、聞き出す必要があるな。

 

 

 






コードネーム考えちゃろ思いましたがコイツは組織の人じゃないのでコードネームつかない事に先に気づけてよかった。

暑い日が続いておりますがお気をつけ下さい。

閲覧ありがとうございました!
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