昴くんはなにもしない 作:あまも
中学時代のバカのお話。
モブのオリキャラはテンプレヤンチーだと認識してもらえれば顔は想像しなくても大丈夫です。
他者視点は苦手なのでキャラブレはお許しください。
※昔話です。0章と同じく、ただ主人公の設定固めに使っていたものなのでまとまりはないです。
❀
友人のハルという奴は、一言で言うなら変わった奴だ。
この外見で馬鹿にされてきた経験から、馬鹿にされないだけの知識と体力を付けることは努力してきた。見た目で判断する奴らは、自分よりも優れてる事を知ると、大抵は何も言えなくなる。
それでもまだ言うような連中の言い分は、全部負け惜しみ。勝手に言ってろというだけ。そのうち黙る。
そこで手が出るようなら、それはもうただの馬鹿だ。
ただ、馬鹿の中でも更に一際馬鹿な奴らがいる。下らない自尊心から、自分より目立つ人物を認められず、反発した挙句、引っ込みが効かなくなり、振り上げた拳は下ろす先が見つからない。
それでも、その矛先がこちらに向かう分にはいい。昔より背も伸びてきて、やり返す手段も増えてきたし、成績さえ優れていれば大人も少しは目零ししてくれる。
そうでない場合が、ある。
ヒロは、小さな頃から僕と付き合っていた結果、そこら辺の“誤魔化し”が上手い。
──上手くなってしまった。
僕と負けず劣らず勉強も運動もそつなくこなし、人付き合い良く味方を増やし、不良の気配からは人目のつく場所を選び、変にいちゃもんかけられないよう上手く立ち回る。もしもの時にも大人を頼れて、こう言ってはなんだが、とにかく周りを味方に付ける手腕がある。
そして、実は大人しそうな顔して意外と喧嘩は強い。伊達に僕との付き合いは長くない。
だから、ヒロのことはあまり心配していない。昔は泣き虫だったと思ったが、気がついたら、なんだか強かになっていた。
問題は、この変わった奴。
誤魔化さずハッキリ言おう。変人だ。この変人が大問題だ。
コイツがいつまでたっても自衛を覚えない。
ひとつ歳下で、学年別のクラスながら、毎日のように連んでいるその変人は、僕たちの目の届かないところで度々青アザを作っていた。
まず、奴は喧嘩の仕方を知らない。拳の握り方すら知らないんじゃないかとすら思う。
……これは少し皮肉が過ぎた。
いや、そんなことないな。アレに言い過ぎなんてことはない。
事故は仕方ないし、病院での期間が長いことのほほんと惚けて過ごしていたから、奴は喧嘩なんてした事がない。
荒事に向かないのは仕方ない。そこは百歩譲ろう。
生徒間で囁かれている“彼の肌は弱いから、激しい運動とか、重いものを持つとか出来ないんだ”、という情報はガセだ。
火傷の痕の皮膚が薄いのは確かながら、コイツは頻繁に日向ぼっことか暢気な事言って屋外で昼寝してたくらいには紫外線なんか気にしない。
その火傷痕を晒さないための、肌の露出を控えるための理由でしかない。
そして初日に、火傷痕がまだ残っている手のひらを見せて「物を掴むのは苦手なんです…」なんてあの顔で殊勝な態度を取ったばかりに、女子達や教師を味方につけたのである。
確かにアイツは体は弱かった。
体力も無いし、動かし方をしくじるとすぐに出血して大惨事。物を持つのも一苦労していた。これも事実だ。
けれど、入院中のリハビリと退院してからのアイツ自身の努力で、キャッチボールも普通にこなすし鉄棒逆上がりも懸垂だってやってのける程動けるようになったのだ。
握力が無いとか運動出来ないとか、今となったら全部まるっと真っ赤な嘘。
そして臓器は全く異常もない。
家のドレッシングが良く見たら賞味期限一年前だったとか笑って言うような奴だ。
サラダをご馳走になってトイレから出られなかったヒロに、ごめんごめんとか言ってた奴のどこが病弱だと言いたい。
むしろ胃腸はヒロの方が弱いと分かった。
有希子さんに言って、阿笠博士の家の冷蔵庫の定期管理清掃が義務付けられた。
……油断してたんだよぉとか嘆いてた馬鹿は知らん。
リハビリで、毎日走り込みもしていて体力だってある。
決して、病弱ではない。弱くはない。
……弱くは、無いのだ。
だがどうにも危機管理能力に欠ける。
暢気。天然。頓珍漢。
僕たちが、馬鹿な連中にちょっかい出されているのは分かっているのに、よくつるんでいる自分にその矛先が向けられるとわかっているのか、いないのか。
少しは自衛の為に、何か用意すべきだと言っても、『大丈夫、大丈夫』とへらへら笑うだけ。
「…………あの…バカは…っ!」
テスト期間二日目も終わり、『午前授業で給食もないし、ファミレスで勉強会な』と約束していた筈なのだが、奴は昇降口に降りてこない。この時点で嫌な予感がした。
そして奴の代わりに、奴のクラスメイトの男子が真っ青になって階段を駆け下りて来た時点で嫌な予感は当たったと思った。
曰く、昴君が、三年の野木先輩達に、用事があるとかでチャイムと同時に引き摺られるようにして連れてかれた、とか。
あと明日の三教科だけとはいえテスト期間中だぞ。
やや青ざめて、ヒロは僕を見た。
「……ゼロ。野木って奴、覚えはあるか……?」
「三年の野木……一年に弟いた奴だろ。テスト期間の前、ハルの周りを彷徨いてた」
「ああ、三組の。なんか族やってる兄貴がいるって自慢してたっけ。……その兄貴、他校の連中率いてるんじゃなかったっけ?」
「ああ、ゾロゾロとガラと頭の悪い連中を引き連れてれてたな。……警察沙汰にでもするつもりか、あの馬鹿共」
こんな誘拐じみた手口は流石に初めてだ。あの変人は、どうせホイホイと、何も考えずにへらへら笑ってついて行ったんだろう。
そんなだからこんな、くだらない事に巻き込まれるんだ。
*
ハルが連れ去られた。
どこに向かったかまでは、教えてくれたその丸眼鏡の男子は詳しくは知らなかったけど、連中がいつもたまり場にしてるのは、三丁目の車両整備場跡地か二丁目の廃ビルであることはわかっていたらしい。
看板や特徴を教えて貰って、男子が言うには三丁目が有力だと。
「僕は整備場跡地に行ってみるよ」
「なら僕は廃ビルだな」
足の早いゼロが、有力ではないと言われた廃ビルの確認をして、戻ってくると。その間、ボクは様子を見る。逆ならそれは役割が逆になるだけ。二人で頷き合い、校門前で別れる。
ゼロは、ハルの事を友だちだとは思ってくれてる。つっけんどんでわかりにくいけど、ボクもハルも、ゼロの優しさと気遣いには気付いてるから、きっとゼロもイヤイヤ付き合ってくれてるわけじゃないと思う。
元々ハルはボクの友達で、みんなで遊べたらもっと楽しいからって、しかめっ面のゼロを無理矢理ハルと友だちになってもらった。
でも元々外で体を動かすのが得意で好きなゼロと、家の中でゲームしたり、本読んだりしてるのが好きなハル。
性格も正反対で、よくゼロがハルに文句言ってるのを見てる周りからは「なんであの二人は友だちなの?」って言われてる。
“病弱”って話だけで、ゼロがハルのこといじめてるとでも思ってるんだ。
そういう人達は、二人の表面だけしか見てない。一見するとガラの悪い金髪ヤンキーのゼロと、色白メガネの大人しい子って外見だけなら、確かにそうだ。
実際は、ハルはゼロに負けないくらい気が強い。
下手すると、ボクよりクセが悪い。
ボクとゼロとはよく、後から考えたらとってもつまらない事で小競り合いのケンカになるけど、実はゼロとハルもよくケンカになる。
彼らは手が出るケンカじゃなくて、口でやり合う方のケンカだ。
とてもつまらないことだったり、ハルが調子良く冗談を零して始まるものだったりするが、答えが出にくいものや二人の性格からくる拗れそうなケンカだと、長引いて、しかもこれがとても酷い。
つい一昨日も、テスト勉強をするために集まってるってのに、もうテストは終わった社会科の、範囲外の勉強を始めたハルに、残りの教科の勉強をするべきだ、いやいや中一の国語の勉強なんて別に重要じゃないでしょう、お前の苦手な数学あるだろ、今回は良いんです高得点は諦めたんです、だのから始まって、何故か“ハルは自衛の手段を身につけるべき”、だなんて話にまで流れていた。なんでそうなったのかはわからないけど、辿り着いたゼロの言い分はボクにもわかる。
こう言ってはなんだが、ハルは舐められている。
悪ぶってる連中からも、普通の男子生徒からもだ。
ゼロやボクとつるんでるけど、虎の威を借る狐だ、狸だ、いいやレッサーパンダだとからかわれている。
アイツ自身は大した事無いって。
成績が頗るいい訳でもないし、体育もいつも見学だ。
しかも、彼は意図してやってはいない……と思うのだけど、何故か相手をおちょくるみたいな……悪い言い方だけど小馬鹿にしたような態度をとる。ゼロが彼に良く怒り出すのはそういうところなのだけど、なんせ身振りから言動全てが、なんだか『ハイハイ、あなたはそうしますよね』みたいな、そう……人を小馬鹿にした態度なのだ。
そこはボクやゼロにも、阿笠博士にも、誰に対してもそうなので、彼の性格がわかってる人や、好意的に見てる人なら悪ふざけというか、そういう仕方のない性分なんだと。茶目っ気として捉えられる。
でも、彼を嫌ってる人からすると、とても…馬鹿にされてる感じがしてしまうそうで。
そういえば、ゼロにもそういうところあるよね。喧嘩腰の時とか特にそう。
ここは一応マズいと思ってるのか、有希子さんや優作さんに頼んで言葉のチョイスを間違わないよう見てもらってるらしいのだけれど、ニコニコした優作さんは丁度良い見本が居るだろう?なんて、ボクを指差していた。
……最近二人がわざとらしく「えぇ〜?」なんて困った声を出して笑う事が増えたんだけど……?
話を戻して、まだまだ態度の悪いハルでも、その見た目と普段の人当たり自体と有希子さん仕込みの女性の扱いの良さから、女の子達に人気があって、ちょっかい出されると親衛隊みたいな女子が何人も出てきて教師を呼びに行ってしまうので、結果的に面倒くさくて連中は人前では彼に手を出さない。
ただ、一人にしたら直ぐにどこかで小突かれたのか青アザ作ってくる。
で、その舐められてるってのに当の本人はへらへらしてるのが、ゼロはどうにも気に食わないらしい。
それでファミレスで大喧嘩になり、その時のハルの言い分曰く、
『私だって命が危険だと思えば必死で抵抗くらいはしますよ。でも、そこまでする度胸のある連中なんて学生にはいません。そもそも思春期なんて他人との違いに敏感になって仕方ないんですから、一々反応してやるのも面倒じゃないですか。第一、私たちは今子供なんです。困ったら、大人を頼る。それでいいじゃありませんか』
だそうで、そんな子供目線じゃないくせに子供ぶってる態度にゼロが『殴られただけでも当たりどころが悪けりゃ死ぬだろう!軽率に一人になったり、どこぞに連れ込まれたりするお前の暢気さを僕は言ってるんだ!そもそもやれば出来るのになんでやらないんだ!わざとだろう!』とまた怒り心頭。
いつもどこでも仲良しこよしで一緒には居られないし、かといって殴る蹴る等の暴力を正当防衛と言い訳して使っているのはボクたちだって同じ。
とはいえ、目をつけられる、弱く見られるってのは自分は弱者です、守って下さいと言って回って、そんなプライドかなぐり捨てたそぶりをゼロは怒ってるらしいのだけれど、ここはなんとも言えない。
そもそも、ハルは決してボクたちより劣ってるってことは無い。間違いなく、機械や専門的な知識はハルの方が上なのだ。コンピュータやテレビゲームで彼に勝ったことは無いし、阿笠博士の研究所が自宅な事もあってか、壊れた物を預けるとどうにか直して持ってくる。
決して、頭が悪いわけじゃない。わざとやらないだけって、ゼロの見解はその通り。
結果、このテスト期間中この二人の空気が悪く、ボクは挟まれて居心地が悪かった。
今朝ようやく、喧嘩の仕方の分からないハルなりの処世術だとなんとか納得してもらって、あとはハルの方にも、目立ちたくないのはわかるけど少しは自分の得意分野では結構凄いってのを見せつけてやってもらえばちょっとは見る目が変わるはずだから、上手いこと周りとの関係も変わっていけると説得して、またみんなで仲良く……
という、予定だった。
それをこんな、ろくでもない奴に邪魔されるとは。
三丁目までは少し距離がある。二丁目に向かったゼロからケータイに電話が入った。
『ヒロか? 例の廃ビルに着いたんだが、人の気配は無さそうだ』
「そっか。わかったよ、ゼロ。こっちはまだ着いてない」
『一応中も見てみるが、そっちが本命だと思う。着いても中には入るなよ。僕も直ぐに向かう』
「分かった。確認してみる」
先に到着したらしい。こちらも塗装の剥げて錆びた看板が見えてきた所だ。もう仲間がいるかもしれない。慎重に、足を進める。
野木と、その手下で最低でも四、五人はいるだろう。そう思って来てみたが、整備場跡地は予想外に静かだった。立ち入り禁止の文字の上にでかでかと落書きされた車止めをすり抜けて、警戒しながらも、トタンで囲われた廃屋の中を覗ける位置まで移動する。見張りもいない。ここもハズレ?
錆びて欠けたトタンの隙間から中を覗くと、赤っぽい茶髪が居た。場所は合っていたか。
どうやら気絶していないし、縛られている様子もない。拘束なしで蔦に覆われた作業台らしきものに腰掛けている、ハルの少しぶかぶかな学ランの背中。薄暗いけれど、砂埃で黒い生地が汚れてるのはわかる。
自由そうなのに、何故逃げていない?野木達に逃げ道を塞がれているのか? 視点をずらすと、二週間前にゼロが殴って吹っ飛ばしていた顔と、良く似た男が見えた。
しかし、青ざめている。
「────良いんですよ、そのまま突っ込んで来てもらって」
静かなボーイソプラノ。ハルの声だ。野木に向けての言葉らしい。
「おや、何故後退りしてしまうんですか?大丈夫。それくらいなら、余程当たりどころが悪くなければ死にはしません」
野木が退ったことにより、その手元が見えた。小さな光る…バタフライナイフ。あの馬鹿!!!武器まで持ち出しやがったのか!
「ああ、もちろんこの場所を指定したあなたなら、悲鳴や物音を聞いたご近所の皆様、なんて心配もしてはいないでしょう?」
静かなハルの声だけがトタン越しに聞こえる。どういうわけか、ハルの方が優位に聞こえるし、見てもそう思える。背中しか見えないから顔がわからないけど、……相対してるのは、いっそ病気かと思えるような、青ざめた野木。対して、その手の黒い携帯を軽く持ち上げて振っているハルの仕草は、リラックスしていつも通り落ち着いている。ナイフを持った男を前にして。
暢気、とかとも違う。これは…
「何も無いなら話を進めて良いですか?私、みんなに何の連絡もしてないんできっと探させてしまってるんです。早く戻りたいんですよね。
さて。
野木センパイ。三年生にもなって、どうして馬鹿な事を止められなかったんですか?
弟に頼まれて?そんなにも私たちは目立ちましたか。そうですね、子分にも頼まれて、否やは言えなかったんでしょうね。親分気取りも大変だ。
でもこの間の件、お父さまは酷く落胆されていましたね。優しいお母さまも、お受験に集中して欲しいそうですし。そうやって野木センパイが意地を張るから、みんなが困ってる。私たちも、あなたのお父さまも。
だから、ね?良い機会ですし、ここで一つ、みんなに『自分はもう悪いことはしません』って言いましょう? 大丈夫です。子分想いの親分の、最後の頼み。皆さんもきっと、分かってくれます。中学生如きでそんなデカい落とし前、誰も望んじゃいませんよ」
ペラペラと良く回る口で、優しく諭す様な語り口調で。けどどこを聞いても『あなたは馬鹿ですね』の副音声が聴こえる。黒い携帯をパタパタと、ずっと同じペースで開けたり閉じたり。動かなかった頃の手を見ているから、あんなに自由が利くようになったんだ、なんて、関係ないだろう事を考えてしまう。
「わかりますよ。こんな馬鹿やってるってこと、ホントはみんなわかってます。止めるに止めれなくなってしまっているんでしょう。大丈夫です。そろそろいい加減将来のこと考えて、多少は落ち着いてくれるだろって思ってるだけなんです。ええ、ええ。見捨ててなんていませんよ。お父さまは口だけです。現に手は出なかったでしょう。お母さまも、ちゃんと謝れば抱きしめて許してくれるでしょう。見放したりなんて、親がそんな、子供のことを見捨てるなんて有り得ません。そんな親、そうそういません。
きっと、親御さんは心配してくれてますよ。
その馬鹿な行動が、人ひとりの人生を潰してしまったとなるとこればっかりは大変で、大事ですから。
でもね、例えナイフでチクリと刺したところで、当たり所さえ良ければ、その人の一生はどうにかなったりはしないんです。そうそうはね、なったりしません。滅多にはね。
そうです。ちょっと痛いだけですよ。
先程も言いましたが、そう、とある事件。オチは先程伝えましたもんね。他の事件も。やっぱり正当防衛って大変ですよね。丁度いい所がわかりませんし。やっぱり、襲われたらね。
怖いですから。やり過ぎてしまうんでしょうね。
──ああ、すいません。大丈夫、大丈夫です。私は反撃したりしませんよ。見ての通り、弱っちくて、すぐ死んでしまいそうな程のひょろひょろもやしです。
弟さんもね。大嫌いな私に、怪我させといてあげたぞって言えばね。多少溜飲も下がるでしょうから。ええ、ええ。自分では手を出せなくて、頼りになるお兄ちゃんにお願いしたんですもんね。そんな立派なお兄ちゃんの最後の面子は守りましょう。大丈夫です。
でも実は私、怪我は上手なんです。さぁ、ほら、チクリと刺してみましょうよ。
ほら、さっきみたいに笑って笑って。大丈夫です。ビデオの編集も私、得意なんです。
ほら、カメラはここですからね。ちゃんと、お顔の撮れる画質の良いやつですから。私、演技は下手ですけど、あなたの殺す気があれば大丈夫です。ナイフを出したんですから、殺す気はあったんですもんね。じゃあ使ってみましょうよ。
ほら、やってみなけりゃわかりませんよ。どうなるか、試してみましょうよ。
ほら。立ってくださいよ。その画角じゃカメラに写りませんよ。綺麗に撮ってあげますから。
ほら、ねぇ。
やる気見せてくれたじゃないですか。やりきってみましょうよ。
ほら。やるならさっさとしてください。
ねぇ、
私と友だちの時間を無駄にしないで?」
❀
僕は一人で現場に向かう。突入するためじゃない。本当にアイツが攫われて、本当にまだ無事なのかを確かめるだけだ。馬鹿正直にあの馬鹿共の言葉を信じる訳にはいかない。
あの変人は、僕とヒロの喧嘩には割って入ってでも止めに来るくせに、他人と自分が狙われると事勿れ主義のようにへらへらと笑って、へこへこと軽い頭を下げて、そうして好き勝手に殴られて、それでボロボロになってもへらりと笑うような奴だ。そうして、「死ぬ程の怪我はさせないでしょう。そこまでの度胸無いでしょうし」なんて知ったふうな、偉そうな口を叩く。昔に死にかけるような大怪我を経験したからなのか、死にさえしなけりゃいずれ治るという頭なのか。
とにかく、怪我しかねない事象に対して軽過ぎる。
どうせ今回も、例え大勢に囲まれたとしてもへらへら笑って、不快だとか言われているに違いない。
死ぬ前にとっとと拾ってきて、病院に放り込んでやらないと。
そう意気込んで駆け付けたら、そこには自分の手で前面の埃を払い、ヒロに背中をパタパタと払われている奴の、元気な二本足で立つ姿。
一応、いつものにこにこした顔の右頬が痛々しく赤く腫れていて、ひと目で殴られたのはわかる状態だが……周囲は二人以外に居ない。
「ヒロ、ハル。無事か?連中は?」
「無事ではあるみたい。……野木たちは……」
「なんだか連絡を受けて、突然行ってしまわれたんです。不良同士の抗争でもあったんですかね? あいててて」
複雑そうな顔で言葉を濁したヒロと、いつもの飄々とした態度で笑おうとして、口の端でも切っていたのか右の頬を押さえて眉を顰めるハル。
……ハルが何か仕掛けて、何かしらの方法で連中を退け、ヒロはそれを見ていたな。
「吐け」
「ワ…ァ」
「ハルがなんか……あれ何したの?脅しでも説得でも無かったけど……」
「いやいやいや大した事はしてないんですよホントに。ただちょっと──カメラを仕込んだだけで」
「カメラ」
ハルが自分の胸ポケットをちょいちょいと示す。名札の丸い穴から胸ポケットへ、黒に黒でわかりにくいが、何か線が伸びているのが見える。
「阿笠博士製作、名札型録画ビデオカメラ〜です。レンズをこのサイズするために本体と分離する選択をしたので、この線が切れたら終わりなんですけどね。まだ無線で映像を飛ばすのは難しいらしくって。でもデータは全部こっちに入ってるんですよ」
黒い携帯をヒロに預け、学ランの上着をバサッと拡げると、ハルの肩から背負う形のショルダーバッグ。名札からの線はそこに繋がっているらしい。
「これで撮った彼らの迷惑行為、とりあえずご家族の方と学校と、警察の方に送ったんですよ。そしたら呼び出されまして」
「……えっ、警察に送ったの?」
「私だけの被害なら別に良かったんですけど、阿笠さんや工藤さん達に貰った物や、二人の物に手を出し始めて……流石にそれはちょっと困るなぁって。それに、万引きとか、カツアゲとか、悪い事ですもんね。
大丈夫、小林刑事に全部預けましたからね。良い感じにしてくれる筈です」
にこにこしているが、それは、相手側としては相当……
「呼び出されて、どうされたんだ。その頬、大丈夫か」
「大丈夫です。一発もらいましたけど、ちゃんとそこまで音声含めて撮ってあります。
そこからは一応撮ってありますけど、こっちは提出出来ないので……」
「後から報復とか、されるんじゃないのか」
「それをケアするのが大変だったんですよ!危うく変な所まで行ってしまいそうで……いや、あの人、悪いおじさん達とも繋がっていたのはまずいことですし、悪いことするの良くないよって説明してあげたかったんですけど、話聞いてくれないから……
仕方ないので、このような手を取るしかなくって」
ああ、本当に変なやつだ。
いつか、何か事件を起こしそうな。
胡散臭いのはガキの頃からです。
テンション上げたい時に言い過ぎてしまうのも性分です。
でもナイフ持ってる相手なんて怖いので、開き直るしかないじゃないですかと。
やっぱり他者視点は苦手ですね。
閲覧ありがとうございます。