昴くんはなにもしない 作:あまも
すいません、やや萎えぽよして更新する気分がメタメタになっておりましたが開き直りました。
馬鹿ですよろしくお願いします。
よろしくお願いします。
閲覧ありがとうございます!
教授が亡くなったらしい。
教授の訃報は、あまりに突然で、現実感がない。
正直なところ、今も頭が真っ白になったままだ。何が起きたのか、すぐには理解できなかったし、まさか、あの教授がこんな形でいなくなってしまうなんて。
……あの人、殺される方の人だったんだ。顔だけ見たら殺す側の顔してたのに……よく考えたら見た目ヤの付く人でも中身は気さくな関西人だったから、そういうタイプだったのかもしれない。
ゲーム会社の集まりに行っていた教授。
なんと、その会場の一角で爆発が起きたのだそうだ。
会場を聞いて納得した。
我らが地元、東都は米花市、米花町。銃火器も爆発物も日本とは思えない量そこらに溢れているこの犯罪都市。
何が起きたかはわからない。誰かからの恨みかもわからない。
間違いないのは、教授は確実に爆発の瞬間にその爆弾の目の前に居たために巻き込まれ、帰らぬ人となった事だけだった。
……いや野生の爆弾犯、怖過ぎんだろ……
困ったのは研究室。あそこは、ヒロキくんと私が共同で活動するに丁度良い拠点にしていたので……さて、どうしたものか。
大学からの公式な通知には、教授への深い追悼の言葉が並んでいた。それと同時に、今後の研究室の扱いについては「順次調整します」と、やや曖昧な表現が使われていた。
あの人も、私も、あとヒロキくんの扱い辺り難しいだろうからね。時間はいくらでもかかっていいから、吟味してほしい。
零くん経由で警察……公安の手が入るかもしれない?……それはあんまり好ましくない。
一応今後の大学からの連絡次第だけれど、私の修了までは研究室を続けてもらえるよう頼むか……
この世界でいつ修了出来るのかはさておき。
…………新一くんが、まさかのその現場に居合わせたらしいんだけれど、お前のせいだとは言わないが……言わないが、お前、お前な。
この死神っぷりの見事さに、ちょっとだけ、真剣に怖くなった。
マジで景光くん、新一くんのことは見守るだけの方がいいんじゃないかな。いつなんどき、よくわからない野生の犯人に出会うかわからない。
一応、なるべく東都で動くようにしておく、とは言っていたけど……新一くん、旅行先でも死神してるからなぁ。
そのうち、彼から「何かおかしくないか?」って電話がかかってこないか心配だ。世界の真理……
てか私も大概半ばモブだし、いつなんどき野生の犯人に出会うかわからないから、ちゃんと用心しないとな。モヤシなんてすぐへし折れるんだから。
■
見上げる高層マンションは、金持ちばかりが住まう物件で、見上げる首が痛い。住んでいる人は地震とか怖くないんだろうか。
……そういえば、この町で暮らしていてでっかい揺れにあった覚えがない。
爆発とかで地面が揺れたことは沢山あるのに。
放火とかで火をつけられたら、逃げるの大変だろうし、上下左右や同フロアの部屋で何か起きる確率も高い。
やっぱり高層マンションなんて住むところじゃないな。うん。
さて、此度私が会いに来た奴が大概なので、こちらも何一つ気を使ってないのだけれど、エントランスで管理人の人に「ああ、いらっしゃいませ沖矢様」とにこやかに丁寧に対応されると、やや気後れしてしまう。
ジャージにカーディガン羽織って、サンダル引っかけてコンビニ袋引っ提げてやって来たダッサい男を、住人らしきマダムが顔を顰めて通って行ったが、いやいやいや、これと同じのがここの住人で居るんですって。なんなら不精ひげまで生やしてるだろあいつ。
シャトー米花マンションは18階。事前に到着した事は伝えていたためか、羽田の表札の出た部屋のインターホンを押した瞬間、その部屋の扉が勢い良く開いた。
「スバル〜!いらっしゃい!よく来たねぇ!」
飛び出してきたのは、丸メガネに不精ひげ、私と似たり寄ったりな、ジャージに羽織りのムサい男。
タイトルをいくつも持つ、今をときめく将棋の天才。
羽田秀吉その人である。
「こんにちは、閣下。今日はお誘いありがとうございます」
「今日はみんな忙しいらしくてさ。スバルも大学、忙しかったんじゃなかったの?」
「いえいえ、忙しくはないんですよ」
何かやってた方が気が紛れるし。渡りに船、というやつだ。
「閣下も別れた彼女と連絡はつきましたか?」
「別れてないよ!失礼なことを言うなよー」
やんややんや、小突き合いながら部屋にお邪魔する。
もっさいおっさん共が何をしてるのかと自分でも思うが、彼は景光くんや零くん達とも違う、完全に同い年の友人で、彼らとはまたひと味違うお付き合い方なもので。
「あ、これオヤツです。甘いのと甘いのとしょっぱいのといつもの」
「ありがとう!……新商品だ!」
台所に引っ込んだ彼は、私が紙パック飲料を持っていたからグラスでも取りに行ったと見える。
何も言わないので、そのままリビングに行けと言うことだろう。
勝手知ったる
リビングに入り込むと、立派な四つ足の将棋盤と、そこに並んだ駒と、床やテーブルに大量の棋譜やファイルが散らばっていた。研究中だったらしい。
変に弄るのも悪いので、床の隙間を跳んで、ソファーに跳び乗る。私が来ると知っていてコレだから、片してしまっても良いんだろうけど。
一枚拾って眺めるに、次の対戦相手の研究…………だと、思ったんだが。
「スバル、氷欲しかった?」
「いえ、いりませんよ。……閣下、これ途中で脱線してません?」
「あ、わかった?そうなんだよ、普通に居飛車の攻略してたはずが、居飛車穴熊の対策に途中から転がっちゃって……」
「攻略出来たんですか?」
「結局急戦で攻めるのが一番手っ取り早いんだけど、もっと安全かつ効率的な動かし方が無いかなって……」
研究熱心で何より。けど、次の相手は居飛車穴熊はしてこない人だったと思う。
しかし、机の上や辺りがこうも散らかっているとなると……
「閣下、お昼ごはんは食べましたか?」
「うん?ああ、大丈夫、食べた……昼?あれ、もうそんな時間だったんだっけ」
「昼ですよ。なんなら13時です」
「……食べてません!!」
よーし、まずはお昼だな。
適当に出前を頼み、辺りの棋譜を片付けて、買ってきた羊羹を秀吉に食わせる。
今日は、秀吉の明日の相手の対策と、いくつかの新戦法の確認、そして私が友人と開発した、新しいボドゲAI……という名のノアズ・アークのお勉強会で、この将棋星人と闘いに来た。
ノアズ・アーク曰く、私の趣味で開発していたチェス対戦AIやボドゲAIも学んでいたらしく、将棋も中々出来るというので。
せっかくだからこの、私と同じくムッサい外見と性格なのに中身はトンデモない天才の伸びてもいない鼻っ柱で稽古させに来たってわけ。
私自身は、彼との付き合いで多少将棋も覚えはしたが、なにぶん駒が成ったり持ち駒制度だったり、私の性にあわない要素が多く、苦手な方。チェスの方が白黒ハッキリしててわかりやすくていいと思っている。
なんで昇格したり寝返ったりするんだか。人間じゃあるまいし。
「最初3回はお試しで、4回目を本戦形式。検討後、希望の戦法で何戦かやってもらう……で大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。画面は見ますか?」
「基本は見なくてもいいや。けど検討の時には見たいかも」
「わかりました。こちらのおかしな動きをしている所などありましたら指摘してもらいたいので、是非見てやってください」
持ってきたノートパソコンを開き、画面でノアズ・アークに呼びかけると、イヤホンから
『いつでも大丈夫だよ』と自信満々な声。
最初と数戦のオーダーは、明日の対戦相手の模倣だ。居飛車党、短気、長期戦に弱い……
内容はノアズ・アークが全部やってくれるので、私はその彼の対戦中の振る舞いを真似すればいい。
届いたピザを秀吉に食べさせている間に、ノアズ・アークに今回の予定のこちらの目標を打ち込みで伝えていると、なにやら秀吉が嬉しそうにしておられる。
「何かありました?」
「スバルさ、前に作ってたやつ、消えちゃったって言ってたろ?あの時、君はすごい落ち込んでたけどさ、また作り直せたんだなぁって」
「ああ……」
前の、と言っていたのは、Nebulaの中の1つ、『かっか』のこと。元々作っていたボドゲAIの『殿下』を、将棋用に特化させた時に秀吉こと『閣下』をモデルにしたのが始まりで、せっかくだからと予測のお勉強にNebulaに流用したのである。
もちろん消えた。関連データとして全消しされた。
「あの頃のとはひと味違う仕上がりですよ。あの子は私と閣下の学生時代の棋譜全部逐一教えてたので、ほぼ閣下の棋風をベースにしてましたが、今回の子は手当り次第勉強してるみたいなので」
学生時代に良く、彼とは将棋だチェスだと対戦していた。その頃の、私の拙い打ち手と、あの頃から既に馬鹿程強かった秀吉の打ち手の、成長していく様を含めて覚えさせていったおかげでかなり独特な打ち方していた『かっか』には、結構私も、秀吉も愛着を持ってくれていたらしく。
あれが消えてしまった時には、同じく残念がってくれたものだ。
彼もピザを食べ終わり、準備が出来たので早速初めていく。こっちは居飛車党とのオーダー。
先手は秀吉の5六歩。
「は、先手番中飛車……?」
「えへへ、ゴキゲンにいこうかと」
えへへじゃないが。
︎︎相手がゴリゴリの居飛車党とわかってるなら、それで始めるのもわかるけども。
先手から来るそれに対応できなくて何が居飛車党かって、普通に対応されると思うんだが。
今回はお試しだそうだから、付き合ってやってね、ノアズ・アーク。
ノアズ・アークの代わりに盤の駒を進めながら、会話も進める。中身は先程の続き。
「だから昔の君の手を思い出したんだ。あれと同じでは無いんだね?」
「真似してって言えば真似してくれるでしょうが、あの時の棋譜も残ってないですし……同じ子ではないですね」
所詮休み時間のお遊び将棋。やった当時は覚えているけれど、保存もしていないその棋譜はもう無いし。あの頃のデータなんてそもそも無いし。
「棋譜があれば良いの?僕、書き起こそうか?」
「…………ああ……閣下……」
そういえば、この天才は全てを記憶して、その気になればいつでも持ってこれるのだっけ。
シンプルに天才め……
あれ、おかしいな……私の身の回り、天才多くないか?
「書き起こすって、そりゃあ閣下なら出来るでしょうけど。あんなの貴方にとってロクな研究の足しにもならないじゃないですか」
「そうでもないよ。昔の僕の手と、今ならどう打つか、今の君ならどの手で来るのか、改めて違いを考えるのも楽しいし。またあの君と打てるなら僕のためにもなる」
「……そりゃ、助かりますけど……他の研究していた方が、余程貴方のためになると思いますけどね」
棋譜を書くなんて、時間がかかる作業をそれほど必要ないのに……この名人殿にそんな事頼めない。
「……じゃあ今日、私がひと試合勝つ毎に1枚書いてください」
「アハハハ!……良いね、良いよそれで」
なので報酬という形にしてしまおう。ご褒美貰ってるってことで、ひとつ。
秀吉が書きたいなら、私が勝つだろう。
……ノアズ・アークが自力で勝ったら?
今回、居飛車党縛りが恐らくは、ノアズ・アーク的にはまだ難しいと思われる。彼は将棋を集中して集めたわけじゃない。記憶力と処理速度、そして予測能力に優れているのは確かながら、絶対的な勉強不足が根底にある。
その点、この秀吉という天才はそこを特化して勉強させたようなものだから……
私?
多分今、私が最善だと思う手を打ったらそれが敗着の原因の悪手になるだろうことは見えてるので、今日の私はロボットアームと化すのである。
50手時点でノアズ・アークが『そろそろこの試合、怪しいかも』と言い出してきたけど、私ってばよくわかってないからね。
■
結局、居飛車縛り中は勝てず。悪ふざけか手を抜いてるのかとか言いたくなるような手を打ってきたお試しの対局で、ようやく一勝できた程度だった。
秀吉に一番お気に入りの棋譜を書けと発注。何を思ったか、私でも見たら思い出せる棋譜を出してきた。
「これ、私が持ち駒の存在忘れてて負けたやつじゃないですか」
「そうそう、最初の頃のやつだよ。せっかく取ってたのに使わない、使わないのに駒握り締めてたやつ。面白かったから僕、好きなんだよね」
「皮肉か!」
取ったまま、手持ち無沙汰に駒を手の中で転がすのが良くないことだとも知らずに、しかもその遊んでた駒を使えば、ワンチャンあったやもしれないらしい棋譜。
今見ても、小っ恥ずかしいこれを、ノアズ・アークに教えるのか……いやいや事情は教えなくても良いからね。
「次の勉強会、その棋譜の試合のどこで妙手があったか、宿題!」
ノアズ・アークに教えるしかないじゃない!ちくせう!
感想ありがとうございます!
読んでいただいてありがとうございます!
このお話における中身オリ主な主人公の昴くんですが、
頭が赤井さん版よりボサボサしていたり、表情が胡散臭くてヘラヘラしていたり、背格好が頼りなかったりと外見は並べると結構違います
シャンとしたら赤井さん版にやや近寄ると思ってください