昴くんはなにもしない 作:あまも
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連れて行く送迎だけかと思いきや、そのまま盗聴作業に誘われた。
︎︎悪いことに誘ってくるオジサンだ!
帽子にサングラス、襟を立てたコートと、三拍子揃って怪しい見た目の工藤氏。
︎︎それを隣に乗せて車を走らせる公務員然としたツラでカツラ被って髪型変えてメガネだけした小林(私)。
不審者連れた詐欺師かな。
「小林君か」
「小林君です。なかなか上手いと思っていたんですが、どうですか?」
「60点かな。確かにその姿なら普段の昴とは直結しないだろう。昴の印象はその髪と目が大半なのは確かだから。だが……厚着と手袋も重要だ」
「あー……なるほど、なるほど」
ダメ出しいただきました。姿勢とか、表情とかに気を付けてるあたりはほめてもらったのでやったぜ。でも服装自体が普段から怪しいのはどうしようもない。
とはいえ上から下まで不審者よりはマシじゃないですかねぇ?
車は目立つので、籔内邸の裏の林に停めてある。籔内さんちの薮のうちだ。…………はい。
でも地元民は不審がるだろうから、キャンプ用品から引っ張り出したビニールシートで覆った上に下草を刈った物を被せる。赤い車体よりはマシだろう。
さて、どうしたもんか。
田舎の人間、どこの誰ってのがわかるとすぐに受け入れてくれるんだが、不審者に厳しい。人目につかないよう気をつけないと。
と思って振り返ると、すでに工藤氏がいなかった。私が車を隠している間に行動開始したらしい。
まったく、心配なのか、それとも興味か……わからんね!
籔内邸内を裏木戸から覗いてきた工藤氏曰く、人物は7名。老人が一人。彼が義房さん(仮)だろうとアタリをつける。
車内で、新一くんの蝶ネクタイから入る音を2人して聴く。あのネクタイのマイク部分と連携させた集音機だそうです。
……博士がまたしれっととんでもないものを作っておられる……しかし自作の発明の穴を自ら見つけるあたりは流石のひと言。マイクから音が取られる可能性。…………無いでしょうよ。
しかしこれ、使いようによってはヘタな盗聴器よりタチが悪い。
この件が終わったら博士に新一くんの変声器の方を強化してもらわないと。
籔内義房……を名乗る者の声が聞こえる。
工藤氏から話を聞いた時点で調査を開始、ブラジルの半年前の記事でヒット。邦人の訃報に、その名前があった。
本人が亡くなっていることは、工藤氏には伝えてある。
もう少し調べればあの2人のこともわかりそうだけれど、工藤氏に止められてしまったのでここまで。
なぜ止めたのかと問えば、必要ないだろうからとの返答。
私が調査中話半分にしていた、盗み聞きした分の情報ですでに大体わかってしまっているらしい。
だそうだよ、ノアズ・アーク。
ほら、船出の準備やめなさい。
これがヒロキくんと違うタイプの天才だ。しっかり学ぶといい。
しかし……すっかり遅くなってしまったな。陽も落ちた。このままだと一日潰れそうだ。
昭夫くんに、大学の方で進展があったから急ぎで帰る必要が出来てしまって……、と伝えておいて良かった。まだまだ手は必要だった所だろうに申し訳ない。
ちゃんと後々、埋め合わせしないと。
改めて盗聴を続ける。
時折私が食糧の買い出しで離れた隙に、工藤氏は屋敷に侵入していたらしく、戻ってくる度に何やら持ち出して来ていた。これを読んでご覧じゃないんだよ。
ちょいちょい家人に姿見られて怪しまれてるじゃないかあなた。
というか。
もうこの人、大体全部わかってるだろ。また新一くんの試験かこれ。
■
名探偵の旅行。しかも連れは探偵役と超名探偵。そんな面子で、何も起きないはずもなく……
そりゃあ何かは起こるだろうよ。
というのも、時刻は9時を回った頃……籔内さんちの薮のうちで、「蔵を見てくる」と潜入していった工藤氏にヒヤヒヤしながら、屋敷の人々が風呂の話をしているのを聞いていた時のこと。
車が一台やってきて、私が車を停めたより林の浅い所に止まった。
………………この間もこんな事したな。そっと自分の車を降りて、なるべく音を立てない様に、その新しくやって来た車へと忍び寄る。急がなくてもいい、景光くんたちのように無音である必要もない。
暗い林の中、灯のついた車内はよく見える。逆はその逆。だから、大きな音にだけ気をつける。
「(……ノアくん、録画開始。それと工藤氏に着信だけ入れておいて)」
囁き声でノアズ・アークに指示。スマホ経由で、私のメガネのカメラへアクセスしてくれた彼は、光度調整とかもしてくれているはず。
あわせて工藤氏がどこに潜伏しているかわからないので、こちらで何かが起きた事だけ報せてもらう。
車の右、後部座席側の扉に張り付く。車内、カーステレオから、やけに賑やかで雑多な音声。携帯電話で通話している彼女の、帰宅時間として告げたのは今から一時間先の予定。
なるほどね。
アリバイ工作と見えるが。
女性は背もたれへと身体を預けて、顔を両手で覆い、そして一つ、大きく肩を揺らして深呼吸。そして、雨も降っていないのに雨ガッパを着込み始める。やる気満々ですね。
どうしたもんかな。
これはどこで止めるべきだろう。現時点では未遂。状況的に、義房さんの入浴時間を狙っての犯行。
どうも怪しい不審者(工藤氏)を第一容疑者と見せかけるつもりで、自分の確実なアリバイとしてこの“自分は一時間掛かる道のりを移動する必要があった”としたいらしいのは、わかる。
一方の私は不法侵入に女性への声掛けのリスクがあるから、できれば事が起こる直前の、被害者の目もあって確実に現行犯がベストなんだけど……
……ゲェ、包丁持ってる。やる気はやる気でも、
車のエンジンを停止。出てくる様子なので、車の後ろに回り込み、同時に自身の失敗を悟る。
ああクソ、考えてる間に前に行って、待ち伏せしておけば良かった。追跡なんて面倒で難しい方になってしまった。
車の鍵も閉めずに、キョロキョロと周囲を見渡しながら出てくる女性。
荷物は包丁と、カセットテープ。先程のアリバイ作りで使ったものだろう。たったそれだけ持って、堂々と、気合いの入った足取りで、林を籔内邸へと進む。
うーん、本当にどうしよう。
一番の問題は、義房さん(仮)曰く、犯人1人じゃないらしい事なんだよ。脅迫状が複数あったのだとは思うんだけれど………実行犯が彼女で、その共犯者がいるのか、それとも全く別の単独犯なのか……そこまで私はわからないからなぁ。
まぁでも、犯行が起こらないからってこちらの様子を見に来るか?って言ったら、わざわざ実行犯と分ける意味が無くなるし……屋敷内で何かがあるなら、新一くんや有希子さん、万が一には工藤氏が動くだろうし………………新一くん呼べば手っ取り早いけど、有希子さんと工藤氏の企みを邪魔したくはない。
ちょっと工藤氏〜早く連絡なり来るなりなんなりしてくだちい〜!
動くにしても、現行犯でないと私が変に疑われて……
………………待って。
あまりにも普通に犯人だと思って見てたから気付かなかった。
今の彼女の格好。
雨でもないのに雨合羽、包丁装備。蘭々と、キマってる目つき。緊張と同じくらい、殺人にかけて漲る気合い。
普通に考えて……今の彼女、私や工藤氏よりよっぽど不審者じゃない?!
……じゃあいいか。
「(ノアくん、工藤氏へ再度連絡を。着信だけでいい)」
一旦彼女を捕まえてしまおう。
■
暴力は向いてない私なりに頑張った方だと思う。
携帯とスマホのフラッシュライトを最大にして彼女の目を眩ませて、その隙になんとか気絶させることが出来た。遮二無二に振られた腕でちょっと殴られたけれど……
まぁ、無事捕獲出来たからヨシ!
…………しっかし、普通にボカスカ殴ってきたな。爪で引っ掻かれもした。厚着はこういう時に便利。
いやはや、包丁持ってる手を最初に掴めて本当に良かった。最悪刺されてたやもしれん。
気絶している隙に武器を奪って、伸縮サスペンダーで巻いていると、工藤氏が駆けつけてくれた。
「真知子さんか……」
「籔内家の方ですか」
「ああ。…………彼女は他に何か持っているか?」
「ええと……あまり女性の体をまさぐるのは……」
既に無体してる?……言わんといてください。
少なくとも、手には包丁とカセットテープだけだった。
工藤氏が苦笑している。
「あとは脅迫状の送り主の動き次第ですか」
「そうだな。それも、明日の遺言の確認で明らかになるだろう」
「真相はわかりましたか?」
「ああ」
「……有希子さんと仲直りできそうですか?」
「………………」
こらっ!無言やめなさい!照れてるんでしょう!
つまりは明日には解決か。とりあえず、彼女を警察に連れて行こう。……え、籔内家に報せるの?縄を解いて、裏木戸に?
だんまりを決め込むなり、不審者に襲われたと証言するなりなんなり、好きに泳がせるらしい。
被害者出るじゃん!
「いいや、彼女はもう、何も出来ない。ここまで用意したものは使えなくなってしまったからな」
アリバイをここまで用意して、タイミングを合わせて犯行に及んだのに阻止されてしまった上、彼女はこんな格好で、申告した時間と合わない状態で家に着いた事になる。
なるほど、新一くんなら“妙だな……”してくれるか。
「後は、籔内家の方に警察を呼んでもらうためだ」
ははぁ、なるほど。この後の誰かの犯行に向けて、監視の目を増やすと。
御家騒動って、怖いなぁ。
■
あの後、やって来た群馬県警の刑事さんがちょっと……ポンの気配であったり、翌朝やって来た弁護士さんの遺書公開で仕掛けボウガンが発動していたり、色々と大変だったらしい。
最終的に、手紙の情報を掴んでいた工藤氏が新一くんの一枚上手を取り、義房さん(仮)の正体まで説明してくれた。
ブラジリアン柔術によって、義房さんに扮したボディーガードさんが真知子さんやボウガンの犯人を返り討ちにしていたかもしれない。
何はともあれ、人死にが出なくて良かった、良かった。
3人でバイク一台で帰ろうとしていたので慌てて新一くんを回収。
座れないガキを乗せるんじゃないよ。
2人を夫婦水入らずで帰路につかせ、仲直り……は既にほとんど済んでそうだが、私は新一くんの、両親……特に優作さんへの愚痴を聴きながら帰ることとなったのである。
負けて悔しいと思う気持ちが大事。存分に愚痴るが良いよ新一くん。
*
改めて、電話で近況報告を行えることが少し嬉しいと感じてしまう。
本当は、良くないことなんだと思う。それでも、彼と……ゼロとまた、協力して困難に立ち向かえることが……嬉しい。本当に。
今回の報告は、ゼロからの今度から米花町で行動を始める、という話題がメイン。
探偵、安室 透としての身分でもって、表側からも、もう1人の友人であるハルの動きを監視しようとしている。
俺はどうしようかと2人で悩んだ末、やはり工藤新一くんの無事が優先事項であろう、と意見は一致した。
月影島で既に俺が新米駐在を名乗って出会ってしまっているので、いっそそれを利用して『昴の友人の、探偵をやっている小林』と名乗ってもいいかもしれない。丁度、俺の潜伏先の1つのバーのオーナーが博士と友人で、付き合いがあるそうだからそこから絡めて、江戸川コナンくんと接触しようかと思う。
そう言うと、ゼロも少し考えた後、
『俺もどこか、表向きの収入源として安室透にバイトさせるか……探偵だけでは食っていけそうにないだろう』
などと呟いていた。
これ以上仕事を増やす気なのか。働きすぎじゃないかと、心配になってしまう。
その話の中、電話の向こうで、ゼロが不思議そうに首でも傾げてるんじゃないかと思えるトーンだった。
『スタンガン?』
「そう。博士の発明だ」
それは、ハルがいつも愛用している彼の黒い革手袋の説明。
実はあれは、手袋型スタンガンだったりする。
手の甲部分に内蔵された機器は、太陽光で発電し、貯めた電気を特定の操作後に対象に強い衝撃と共に当てると起動する。
「早い話が、裏拳を相手の素肌に当てれば行動不能に出来るんだってさ」
『それが、アイツが自発的に、物理的にできる唯一の……自衛手段か』
あまり暴力を好まない友人……ハルに、自衛はなんとかならんか。それがゼロから出された問題。
彼は別に、自衛自体はしている。してはいる。
しようと心掛けては、いる。
警察学校の頃、試しに、と逮捕術の特訓相手をしてもらってみた時は、ものの数秒でくるりと宙を転がされ。
子供の頃からずっと続けている走り込みのおかげで体力だけはあるが暑さ寒さにめっぽう弱く。
様子のおかしい相手には、無理無茶無謀は基本しない。彼なりの理由を用意している。
けれど、彼は自分から直接手を出すことはとても苦手としていたので……
俺が博士に、ハルが気軽に身に着けられて、もしもの時には彼の身を守れる発明は無いかと頼んだ。
結果出来上がったそれを、ハルは殊更気に入ったのか、四六時中着けるようになってしまったのは少し誤算だったが。
「俺からのプレゼントだと、博士が伝えたらしいんだ」
『…………アイツ、俺のくれてやった腕時計はしてないんだろ』
「あぁ……俺の見てる限りでは、してた事ないなぁ」
きっと勿体ない、とか壊しそう、といった理由だろう。それはゼロもわかっている。…はず。
それでも、片や常に身につけていて、片や箪笥の肥やしというのは、ゼロ的には不満があったらしい。
『博士の発明にしてしまうのは卑怯だろ。……俺も何か頼むか……』
何の対抗意識なのかと。
彼が普段から身に着けるような物……
「そういえば、最近ハル、耳に何かずっとつけてるな」
『何だと?』
「イヤリング……イヤーカフ……とかでもない、補聴器か、イヤホン……うん、たぶんイヤホンだと思う」
街中で見かける時、よく右耳に手を当てていた。その右耳に、最近付け始めたもの。
通話か、何かに使っていた。線も繋がっていないのに。中継器か何かだと思っていたけれど。
『そうか……わかった』
彼には、まだまだ隠し事はあるらしい。
小さなお子さんをバイクに乗せるのは危なくて怖いらしい。
極論は殴られたら殴り返してもいいと思ってるから、殴られないと殴り返せない、らしい
読んでいただいてありがとうございます!