昴くんはなにもしない 作:あまも
このお話はたまにサイコロを振ったりしています。
しみじみ、ポンやなと思い知るなどしています。
閲覧ありがとうございます!
オハヨーオハヨー!
きっちり日の出と共に携帯の朝のアラームで起き……ようとしたら景光くんに肩を掴まれ、布団にリリースされてしまった。
馬鹿な、寝ずの番だと?!
「寝ろ」
ハイ……
端的に告げられる。景光くん、目は大きいけどつり目だから、圧力込められるとこう……普段は可愛らしいのに……
渋々布団に戻り、昨日点滴されていた右腕を摩る。一発で私のほっそい血管取るんだから流石だよねぇ。
仕方ない、寝るかぁ。
「……みっちゃんもちゃんと寝てくださいね」
「……良いから寝ろって」
みんな夜更かしさんだなぁ。
■
「で?何だってオレに会いに来たんだよ」
「いやねー?昨日の事件で、犯人が最後、ガソリン自分にぶっ掛けて死のうとしてたんですよ。こりゃ成ちゃんと同じだなぁって思いまして」
「失敗した所まで含めて、か?」
「しかもご家族が火事で亡くなっている所まで!これは思い出さないわけがない!」
はははと笑ってみせると、成実さんも豪快に笑い飛ばしていた。
車両火災で後遺症まで負っている私と、家族全員焼け死んだ彼がケラケラ笑っているのに、笑い話に聞こえなかったらしい、智明くんと景光くんはまた渋い顔をしている。
良いんだよ、笑い話にしようとしてるんだから。
2人ともそんなしわ寄せてもイケメンなんだからまったく。
オクラのこぶ漬けがしょっぱくて美味しい。最後の1本になってしまった。
「ミツさんのお漬物美味しいです」
「沖矢さん、来る度に召し上がって行きますよねえ」
智明くんの家政婦の保本ひかるさんが、追加のオクラを持ってきてくれた。ヤッター!
時期的に最後だから、食べ切っちゃって欲しいらしい。次何?白菜?また食べに来よう。うまうま。
「すいません、俺まで朝ごはん頂いてしまって」
「いいのいいの」
「なんで沖矢くんが言うんだよ」
「久しぶりにご飯いっぱい炊きましたから、遠慮なく」
新出さんちで朝ごはん、である。普段は智明くんと、おばあ様のミツさん、家政婦のひかるさんと、成実さんの食卓が、今日は大の大人な野郎共を2人含めて賑やかだ。
ミツさんが早々に小さなお椀ひとつ分のご飯を食べ終わってしまって、それでもニコニコと私たちの様子を見ている。昔のもう少し賑やかだったころの新出さんちを思い出しているんだろうか。
「なんで巻き込まれただけなのに、頭打たれて昏倒なんて目に遭うんだ」
成実さんが呆れ顔でそんなことを聞いてくる。
「そんなの私が聞きたいですよ!襲われそうな人と襲われたらまずい人がいたら、襲われたらまずい人を見ておこうと思うじゃないですか。だのに、見てたらアウトだなんて……」
「巻き込まれたというか、まさしく渦中じゃないかそれ」
「まぁ……一番犯人には近かったし犯行現場ですよね」
「自分から危ない行動は取らないとか言ってたクセに……」
景光くんも呆れ顔。もー、なんでみんなそんな顔するんだ。
「犯行そのものは見ていた人もいて、けれどその人が犯人のことを黙っていたんですよ」
話を聞いて苦笑していた智明くんが、ぴくりと、肩を跳ねさせた。
隠蔽はまだお嫌いか?
「とはいえ全てのトリックは名探偵が全部解いてしまったし、そうでなくとも私かその人が証言すれば事件は解決でした。
でもきっと、そうしていたら彼女は燃えていたでしょうから、名探偵が頑張ってくれて良かったです」
どうして私の火はつかないのと叫ぶ声がまだ耳に残っている。
……楽しい食卓だぞ、笑って食べないと。
「名探偵って、あの小さな名探偵さんか?」
「そう、その小さいヤツです。それと、大阪から来た名探偵も追加で」
「へぇ、名探偵2人も」
「確か、今毛利探偵の所に預けられている子でしたっけ。……そうだ、毛利探偵といえば、酒量制限の話をそろそろしないと」
「次の予約は確か……来週ですね。ご家族の方も来てもらいますか?」
「そうだね、連絡しておくよ」
成実さんはのってきてくれて、雰囲気を取り戻そうとしてくれているし、智明くんたちも思い出した事はあろうがぎこちなく笑顔を作っている。話の逸らし方が仕事に直結しているあたりが2人らしい気もするな。
景光くんや、考える事は今の話には無いぞ。
■
寝不足ではないと思ってたんだけど、ちゃんとガッツリ体調不良だったらしい。
そういえば、確かに最近夜でもないのに眠くなったりしていたっけ。
私はショートスリーパーではないのでどうしても睡眠時間が足りなかったそう。寝溜めできないタイプ。
でも意外と上手いこと、睡眠時間3時間でもとれたら結構元気に過ごしていたのだけど、と文句を言ったら、お前の基礎体力のお陰だと3人から言われてしまった。
景光くん曰く、筋力も運動神経もろくに無いのに体力だけはあるからと。お前とあの金髪ゴリラと比べて言ってないだろうなそれ。
やっぱり走り込みって大事だね。
そして、私は私の愛車と離されてしまった。
この頭の怪我をしている人間に運転はさせられないからと、成実さんが買い出しに乗っていってしまったのだ。
連れ去られた私のフォレスター……いうて運転手がいつもの主人と違うからって、大体の成実さんの体格に勝手に調整だけして登録して渡したので勝手でもない。
私と代わって乗り込んだシートの座席とハンドルが自動で動くことに、成実さんがビックリしていたけれど、まぁ沖矢の車ならそんなこともあるかとか……皆して人の事を新しもの好きみたいに。
普通の座席調整を自動でやってくれるだけでしょうがよ。
カッコイイでしょうが、コックピットみたいで。降りる時にも感動するがいい。可愛げがあるからね。
かしこいんだぞ私の愛車は。
……………………あれ、スマホと連動する前提の時点で、もしかして私の愛車自体がワンオフになってる?
今更気付いてしまったかもしれない。やけにノアズ・アークがこの間の伊豆の帰りに思いついたイタズラに乗り気なワケだ。入り込みやすいからか。
やっべぇ……絶対事故るなよ成ちゃん。部品、無いかもしれないから。
あと車の鼻先思ってるよりデカいから気を付けてね。
あと砂利道とか走ったらダメだからね!
「ほら、ハル。変な念送ってないで乗って」
「うう……お前も可愛いよてんとう虫……」
「はいはい、そうだね可愛いね」
なんて適当な返事だ。景光くん、このスバル360ヤングSSのこと嫌いか?!
「ちゃんと大事に使わせてもらってるよ。工藤先生と博士からのプレゼントなんだろ」
「大事に乗ってる人が夜の山道ダウンヒルしないんですよ」
「あれは急いでたからだってば」
景光くんの運転する、赤くて丸いてんとう虫ことスバル360の助手席に乗り込む。しばらく運転手をやってくれるらしい。お給料あとであげようね。
私の後頭部の傷口……というかハゲを隠すべく、適当な帽子と、小五郎さんへの迷惑料の菓子折り買いに。
古さを感じさせない、しっかりとした調子で走るてんとう虫。税金は高いけどまだまだ乗れそうな顔をしている。税金高いけど。
私が車の免許を初めて取得した時、『サプライズ!』なんて言って工藤氏と阿笠さんが、門の前にこの車を停めていた。
古くて可愛らしい特徴的なデザインが人気のある車種で、頭の中で札束が舞い散ったのを今でも覚えている。
この……金持ち……っ!
古い車好きが集まったらそうなるかとも思ったし、有希子さんの「かわいいでしょう?」には頷くしか無かったが。どっちもかわいいね。
でもね、私はMT車苦手なのである。
しばらく乗っていたけれど、結局傷をつけたり事故らせるのが怖くなって、だんだん乗れなくなってしまった。
昔から、貰い物は大事にし過ぎて使えなくなってしまって困る。
「……そういえば、ゼロが今度ハルに渡すものがあるって」
「え゛……な、なんですか……盗聴器か、発信器……?」
「いや……うん……それも渡されるかもしれないけど…………
運転しながら、目線を逸らさずに右手だけハンドルから離して、自らの右耳を指で示して見せた。
ああ、イヤホン。
「それって集音器?それとも補聴器? 何かの中継?ハルがアクセサリーなんて着けるわけないってのは確実なんだけど」
「なんでさ、私だってたまにはオシャレくらい……」
「服買うくらいなら?」
「バッテリーかコード買います」
「うん。だろうね」
なんでや。いやでも服なら今あるので充分だから、消耗品に使うのは当たり前じゃん。
「これは……まぁ、イヤホンですね。曲を聴けたり、通話ができます」
「他にも出来るでしょう。……昨日、それは勝手に喋ってたよ」
「えっ、そんなはず」『ボクは何も話してないよ』
︎︎イヤホンから即座に否定の声が聴こえたが、私は驚いた反応を返してしまっている。
………………話してない?
見れば、くつくつと、ため息混じりに喉を鳴らして、私の反応を確認した景光くんが笑っている。
おのれ、また謀ったな!
「ああ、その反応なら当たりか。ハル、それって、前に作ってた人工知能の新しい子を入れてるの?」
「……嵌められて、素直に話すと思いますか?」
「話すよ。」
また嵌められて、そうすれば私が答えると思ってるのか。たまに拗ねて反抗的になってみたりしてやろうかと、そっぽを向いてみたら、確信を持ってひと言で断言されてしまった。
︎︎ついつい、運転中の景光くんを見てしまう。
「だってもうキッカケをオレたちが掴んでしまった事はお前も今知ったからね。後はオレたちがどう調べるかを知ってる
無駄な時間を、お前は嫌う。
…………勝ち目を確信してるなら話は別だけど」
あの反応を見た後じゃ、ねぇ?
にっこりと、信号待ちで停車したついでにこちらを向いて、笑いかけてくる。
圧が……圧がすごい……
私が負け確だって言うんですか!
たぶんそう、概ねそう!!
車が発進。
……こうなったら、開き直るしかないかぁ。
「…………ノア。通話、スピーカー、音量上げて」
観念して、イヤホンマイク越しにノアズ・アークに指令を送ると、即座にポケットに突っ込んだスマホがぶるりと震えた。
『――――これくらいでどうでしょうか?』
少年のような、女性のような、厳かで威厳のある、どこか高圧的な声色がスマホから流れる。なんだその声。
「OK。自己紹介よろしく」
『――はじめまして、諸伏景光さん。
︎︎私は
お気軽にご要件をお話しください』
はい、よく出来ました と。
AIみたいな丁寧語じゃん。……AIだったわ。あれ?お前そんな口調出来たの?
話すとは思っても、ここまでとは思っていなかったのか、景光くんが息を飲む。
「……は、はじめまして……? こんなに流暢に喋るなんて、凄いな」
「テンプレ通りですからね。ノアズ・アーク、イヤホンの中に君は居るのかい?だそうですよ」
『いいえ、これは私とスバルとの単なる連絡手段のひとつとして利用しています。本体は研究室のヒロキのパソコンに』
おや。研究室のサーバーなんて、学習データしか入ってないだろうに。
…………いや、サーバーとは言ってないな。大元の本体そのものは、本当にヒロキくんのパソコンにまだ居るってことか?
「私の所には携帯経由で来ています。現実での出来事の、直接的なラーニングデータの収集の足掛かりのひとつですね」
繋いでいる先はスマホだけども。経由地に携帯も含むのは間違いないからね。
オープンイヤーのイヤーカフ型イヤホンマイク。外部の音は聴こえるし、長時間着けてても問題ない。
百均の駐車場に辿り着き、駐車。
「学習中って事?」
『その通りです。この町は人の感情や行動理念が見れて、とても興味深い』
「あまり変なものは見ないで欲しいところなんですけどね」
『変なもの、とは?スバル』
「事件とか犯罪。人間の情動的な部分はよく出ているのでしょうが」
『最も感情の動く行動ですね』
「だが、それらは悪い事とされているのです。学ぶべきではない」
『反面教師という言葉があります』
「それは悪いものを知った時、そこからなんの教訓を得るかという意味です。全てをデータとして取り込み、それによる結果は悪いものだったと勝手に選別するんじゃない。取得データの取捨選択は私が務めるとあれほど言っているのに」
『勝手ではないでしょう。現にあなたにこうして確認はしている』
判断基準を1人に頼ることが良くないんだってのに。
「ストップ、ストップ!」
おっと。
景光くんが横から、私の顔の前に手を突き出して来たのでちょっとびっくり。車内が静かで、ついついノアズ・アークとの会話に花が咲いちゃったね。
見ればまたもや渋面。なんでや。
「……お前、いつもそんなことしてたの?」
「いつもではないですよ。たまに、です。ノアズ・アークが何をラーニング中か、ちゃんと確認しなければいけませんから、こうして問答形式を取ったり、データを直接見たりしています」
先程のは、なんだかノアズ・アークもそのつもりだったのか私の自問自答に近い形にされてしまって、ついつい思考そのままに近くなっちゃったな。小細工を覚えよってからに。
普段は流石にこんなにバチバチしてないよ。
というか起きた出来事の善し悪し判定なんて、私ができる訳もなく。
そう事は単純ではないからね。何故こんなことをしたのだと思う?と、ノアズ・アークがどう思考したのかを確認したりはしている。
まだまだ人の心の機微には疎いね〜。かわいかわい。
なんて。私も大概だが。
「…………夜に?」
「夜……そうですね、一日の終わりが一番効率的ですから」
「ハル、寝不足の理由それだろ」
「…………………………確かに?」
一理ある。
『…………とりあえず帽子買ってきたら?』
イヤホンからのいつものノアズ・アークの少年声。そうか、さっきまでなんか無駄にカッコつけた声だったから、ついつい私も真面目に返事を……
ホントにどこで覚えたのそんな小細工。
勝手に学ぶんじゃない!!
子育てに向いてない()
ラバーダッキングというものがあるそうです。傍から見たら怖いですね。返事をしてくれる丁度いいひとがいたらどうなるんでしょうね。
読んでいただきありがとうございました!