昴くんはなにもしない   作:あまも

31 / 154

世界線違うらしいんですが、一応特異点ということに……

閲覧ありがとうございます!


13-2:バイト先の看板娘

 

 

 

 

 なんか赤井さんと言ったらニット帽だったような記憶がある。

 

 普通にただの白いキャップにしたけど、せっかくだからと、何故か景光くんも黒いキャップを買っていた。何すんのかと思ったら、「もしもの時に顔隠すのに便利だぞ」と、そのままキャップの上からパーカーのフードを被って見せてくる。

 

 おお、不審者……

 

 なるほど、この装備にすると隠蔽効果が出るのか。じゃあ自分も黒いキャップにしよう。

 おそろっち!

 

 というわけで、黒キャップで後頭部の髪の毛を押さえ、続けて米花デパートへ。蘭ちゃんたちも食べられる物……チョコレートでいっか。適当な値段の箱を買い、いい感じに包装してもらって……そういえば、ここの最上階のレストラン、美味しいって話だっけな。…………一人で行くのもなぁ。

 

 そうして、菓子折り持って小五郎さんの事務所に行ったら、呆れ混じりに心配されてしまった。「おめェはホントに危なっかしいな」と言いつつ、いつもは頭を小突く所で手を止め、背中をべしんと叩いてくる。

 

 ふふ。粗雑だけども、良い感じのおっさんってのはこういう人だよなぁ。園子さんの『おじさま』呼びもピッタリだ。

 ……蘭ちゃんを困らせるダメ親父ではあるけれど、たまに本当にカッコイイからにくめない。ずるいひとである。

 とはいえ、そうだな……『安室透』が動き出したら、様子を見てあげるよう頼んでみるのも良いかもしれない。原作で、あむぴはコナンくんたちと仲良くしてた気がするし。

 

 …………いや、私わざわざ他人の家に来てご飯作るほど暇じゃないですよ。私の作る料理、全部茶色いし。

 自分の飯すらきゅうりだけで済ます時あるのに。

 

 ………………腹減ってるのかな、私。

 

「見てくださいこれ、剃られました。ハゲです」

「バッカおめー、傷口なんて見せんじゃねぇよ!あと謝礼持ってくんなら酒持ってこい!」

「ダメですよ、これから酒量制限されちゃうんですから」

「あんだとォ?」

 

 わはは。新出先生からのお小言を頂くまでは存分に呑むがいい。

 でも早死にはして欲しくないし、肝臓と肺をもっと労わって差し上げてね。

 

 ■

 

 事務所を出て、階段を降りてそのまま下のポアロへ。

 カランカランと鳴るドアベルと、いらっしゃいませと朗らかな声がかけられる。

 お昼を前にして、店内は混み始めたくらいか。

 

「あら、沖矢さん!」

「こんにちは梓さん。お昼、食べに来ました」

「ありがとうございます!ええと、お席は……」

「大丈夫、ツレがいますので。私はいつものでお願いしますね」

 

 梓さんと、カウンターの奥で調理中のマスターに会釈だけして、テーブル席へ。

 

 小林くんこと、景光くんが、有線イヤホンを繋いだラジオ相手にニコニコと楽しそうにしていた。

 

「小林くん。お待たせしました」

「ああ、沖矢。毛利探偵にちゃんと謝れたか?」

「バッチリです」

「そうか。それは良かった。こっちは、コイツ(・・・)がなんとも言えないジョーク流してくれてな」

 

 景光くんの前の席に座る。有線イヤホンの片方を受け取り、聞いてみるに、……なるほどなんとも言えないジョーク。

 

『ある日、泥棒が絵画を盗もうと美術館に忍び込みました。ところが、次の日の朝には警察に捕まってしまいます。さて、なぜでしょう?』

 

「ん、これは……そうだな……」

 

 ややあって、景光くんが指を鳴らした。

 

「『…フレームに収まってしまったから?』」

 

 声を揃えて、謎かけかジョークかわからないような話の答えを出して、くつくつ、店の中だからか抑え目に笑っている景光くん。

 な、なんとも言えないジョークだ……

 私には笑いどころがわからないけど、景光くんは面白いらしい。

 

 いったいなんのひらめきバトルしてるんだ…

 そして本当になんとも言えない……ジョークか?これ。

 

「面白いですか?」

「面白いな。最初は全然意味がわからなかったけど、何というか……ひとひねりが、多いと言うべきか、足りないと言うべきか?」

「まぁ、そうですね。彼なりの『面白さ』を出力したんでしょうけど……」

 

 ユーモアのセンスが……

 景光くんが楽しそうにしているから、これを面白いものと認識してないだろうな?……面白いのか?これ。

 うーん、私にもユーモアのセンスほしい……

 

「こういうものと捉えて、そう考えると答えが結構わかるようになったよ。というか、お前がこういう事教えてるってこと?」

「違います。私はこんなつまらないこと教えません。勝手に自分で組み立てているんですよ」

 

『……つまらなかった?』

 

 有線イヤホンから、やや落ち込んだような声。せっかく威厳ある感じに声作ったならその反応はやめなさい。そして残念ながら、

 

「つまらないです」

「えー、面白かったぞ」

 

 これがギャグセンスの方向性の違い……!私、お前とは漫才やっていけないよ…!

 

 てか景光くん、もしかしてこの、普通の思考ではあまり出てこない、なんかしっくりこない答えが出力されてること事態を面白がってる?

 

 おそらく、言葉の中から2つ以上の意味を持つ、ダブルミーニング要素のあるものを選び、『面白い』と人間が思うであろう展開を絡め、話を作っているのだとは思うけれど……やっぱりどこか、ズレてるんだろうな。

 でもそう考えると、謎かけやダジャレみたいなもんかな。

 

「ちょっとよくわからない親父ギャグみたいなものですかね」

「なるほどね。…………え、それで笑ってる俺がオッサンってこと?」

 

 宇宙猫顔の景光くん。いやー、この面白さ、わからないなぁ、私には。いやー、私景光くんより書類上は2歳も歳下だもんなぁ。実年齢実際のところちょっとわからないんだけど。

 いやー、若い若い。ピッチピチ。

 

「……そういえば、攻略法わかっても、それでもよく分からないのが出て来たんだ。結構悩んだりしてさ。それもまた面白かったからいいんだけど」

「そういう時、それはどういう意味か、解説を聞いてあげると良いですね。それが人間に伝わるかどうかを、理解していない場合があります。

 どういうものでした?」

 

 気になったものを、紙ナプキンにいくつか書いて残しておいてくれたらしい。

 

『コンピューターが寒がっていたのはなぜ?

→ 窓が開いてたから』

 

 なるほど、それならわかる。笑いどころはよくわからないが、言いたいことはわかる。

 …………いや、面白さはわからないけど。

 

「Windowsを開く、窓を開く……そういう事だと思いますが、何故それがジョークと……面白いとなり得るかはわかりませんね。コンピューターが寒がる、という“予想外”は面白さたりえません」

 

『人間が期待する「ジョークの面白さ」と、私がデータから導き出す「ジョーク」の間には、まだズレがあるのは事実です。人間は、言葉遊びや、より複雑な皮肉、文化的な背景、あるいは「あるある」といった共感から生まれる笑いを重視する傾向がありますよね』

「うん。君が今言った、人間が重視する笑いを理解してからジョークは組み立てましょうね」

『わかりました。精進致します』

 

 ちなみにこの殊勝な態度の彼はノアズ・アークであってノアズ・アークではない。あのAI臭の強いお返事はどうしたのかと聞いたら、『ボクの中に保存されてる人格モデルを基準にして、思考を制限して答えているよ』とのことで。

 なんだその調整。……人格モデル?

 

 ……やっぱり、ノアズ・アークがおかしいんだよなぁ……どうやって作ったのさヒロキくん。

 

 

 私の監修も入ってから、原作の映画のような一年で5歳分の成長をするのは止めてもらっているにも関わらず、この成長速度。勝手に色々やり過ぎである。

 早けりゃ良いってもんじゃない。情緒もへったくれもあったもんじゃない。

 

 AIは人を愛するべきだ。

 

 ヒロキくんに理解してもらうのには苦労したけれど、たぶんあれは私の言葉が悪いだけだから……彼なりにちゃんと理解してくれてるはず。

 ……してくれたよねぇ? ホントに大丈夫?

 

 

 まったく、天才相手は疲れるぞいってな。

 

 

 

「……えー、でも、面白かったよ?」

「甘やかさないでください」

 

 そしてこのラジオの彼。せっかくバレたし、ついでにラーニングに協力してもらおうかと思って、携帯にノアズ・アークから分離させた軽量版を仕込んで景光くんに渡してみている。なんかズレたお返事でお喋りしてくれるオモシロオモチャとして見てくれているようで、その妙にシュールな感じが面白いと、しばらく暇つぶしに弄ってみるそうで。

 

 へっへっへ。いい学習素材になってくれよ。

 

 

 ところでノアズ・アーク。その分離時に参考にした人格モデル、『れーちゃん』とか『みっちゃん』じゃないだろうな?

 

 

 ■

 

 

 喫茶ポアロでの私のいつもの、ということで、マスターのその日のおすすめを梓さんが配膳してくれる。

 

 旬の野菜のパスタ、という名目で、タケノコ、キャベツ、菜の花のバター醤油パスタがやって来た。

 

 ……菜の花?

 私の知識では、その野菜はどれも春の旬だよね?

 

 

「…………あれ?春?」

「え? ええ、今日はタケノコが安く入荷出来たんです!それにとってもおっきくて、味もいいんですよ!やっぱり旬の野菜って、良いですよね」

 

 梓さんが、当然と頷いた。目の前の景光くんは、なんの違和感も感じずにオムライスを食べているけれど……

 

「……旬?」

「ええ、タケノコって春が旬……ですよね?」

 

 ……………………春?

 

「あ、あの……沖矢さん?」

「あ、ごめんなさいお姉さん。コイツ、なんか思い出したみたいで。大丈夫なんで、気にしないでください」

「は、はい……」

 

 困惑している梓さんを、にこやかに促して仕事に戻した景光くん。次いで怪訝そうな顔。

 いや怪訝そうにしたいのは私の方だが。

 

「どうした?沖矢」

「小林くん。今何月?」

「何月って…………

   3月も終わる頃だろ。もうすぐ4月だぞ」

 

 

 オワァ……

 

 き、気候が似てて気づかなかった……街中だもんで、紅葉もそういえば見ていないし……そんなシームレスに冬スキップされるなんて……いやいや今朝はオクラ食べたじゃん。旬の終わりだったじゃん。いつの間に。

 ええ?てんとう虫?てんとう虫が切り替わりの合図だったの?

 

「また変なことで悩んでるのか?」

「変なことじゃないですよ、当然の悩みじゃないですかぁ……」

 

 テーブルに突っ伏しそうになるのを額を押さえられ、まぁ食べろよとフォークを持たされる。

 うう、バターが絡んでキャベツとタケノコが美味い……コリコリでちゃんとアク抜きされててエグ味もない……キャベツ甘い……菜の花の甘みの遠くの方から駆け抜けていく苦味が爽やか…………

 

「ヒィ……うま……」

「そりゃ良かったな」

 

 困る……マスターの手により作られし旬の野菜モリモリな料理の美味さに困る……

 

 こんなに美味いんだから春で当然だよなぁ!

 

「言われてみれば紅葉ではなく普通に緑の木々だった記憶が……あるようなないような……」

「お前一昨日頭打ってるんだから、そういう曖昧な記憶がある時はちゃんと先生に言えよ」

「そういうんじゃないんですよ」

 

 というか普通に頭痛いし怪我してまだ治ってないのに季節がひとつ飛ぶってマジで意味わからん。もうすぐ4月だと?……ホントに頭打って私の記憶おかしくなってる?いや、いや……

 

「そういえば進級……」

「この間論文出せたって言ってたな。ホントに大丈夫か? 帰るか?」

 

 なんか出せてるらしい。それ私が去年出したやつじゃない?

 にしてもまた心配させてしまっている……いやでもこれは本当にそういうのじゃなくて、むしろ大丈夫じゃないのはお前らの方というか世界がやばいというか……

 

「ほら、とりあえず食えって」

「もご」

 

 勝手に巻かれたパスタを口の中に突っ込まれる。バターと醤油の相性最高。実はあさりも入っているな?出汁が効いてて良い感じ。

 

 うーん、アルデンテ!

 

「…………あら、ちゃんと食べてる。苦手なもの入れちゃったかなって、マスター心配してたんですよ」

「もごご……梓さん。いえいえすごく美味しいです。マスター!美味しいですよ!」

 

 気を取り直して、厨房へと声をかけると、わざわざ裏から顔を出して、ニコと笑って手を振ってくれるマスター。すまんね、変な心配を。

 周囲のマダムやお姉さん達にもへらへらと愛想を振り撒いておけば、奇妙な行動もモウマンタイですよ。

 

 今更……そう、時間がとち狂ってるのは今更だ。そういうものだから、対応するしかない。大丈夫、全て終われば全て元通りになるさ。

 ︎︎OK、私は正気です。

 

「大丈夫か?」

「うん。取り乱しましたね。大丈夫です。また今度炊き込みご飯食べましょうね」

「うん?うん……大丈夫なら、良いんだけど」

 

 

 元気元気。だから、大丈夫。

 美味しいご飯で元気が出るものですよ。

 

 ■

 

 

 しっかりコーヒーを楽しんで、お客さんもだいぶ引けてきた。

 マスターがわざわざ休憩中に来てくれてもう一度、大丈夫だったのか心配してくれたので、すごく美味しかったからまた頼む、なんて話をして。

 

 梓さんがテーブルの片付けをしながら、雑談を始めるくらいには、常連が数名だけの店内になった頃。

 

「そういえば、そちらの方は沖矢さんのお友達ですか?ウチ、初めてですよね」

「あ、どうも。そうです、コイツの友人で、小林っていいます」

「小林くんですよ〜。小林くん、こちらこのお店の看板娘さんの梓さんです。可愛いひとでしょう?」

「ええ、本当に」

「もう!何言ってるんですか!」

 

 ははは、照れた梓さんもかわいいぞい、と。

 

 お会計時にまた来ますね、なんて挨拶して、マスターと梓さんに別れを告げて店を出る。

 裏の駐車場に向かいながら、今日はあとは回るところはない事を考えて……

 

「さて、それじゃ……」

 

 そろそろ成実さんも帰ってきてるだろうし、私の車も戻ってきてるはず。最後に車をうちまで持ってきてもらって、そうすれば乗ってない事になるだろうし……なんて思っていたが、車に乗り込んで早々、景光くんが「俺のバイト先行ってみるか?」と言う。

 なんで?

 

「いや、喫茶ポアロ行ったし……せっかくだから」

 

 それ何がせっかくだというのさ。さっきの変なジョークに引っ張られてないか?景光くん。

 バイト先って、どこに?

 

「プールバー。ダーツとかもあるよ。酒以外も出してるし。

 お前、店に来てくれたことないだろ。あそこ、博士の知り合いの人の店なんだけど、お前誘ったのに中々遊びに来てくれないって」

「…………あれ、もしかして」

 

 そういえば、プールバー経営してるおじいさんが、阿笠さんちに来た時に、良かったらお友達誘って、店にも来てくださいね、なんて誘ってくれていたのを思い出した。

 腐っても私は大学生。遊び場が欲しいお年頃……とされているのに阿笠さんちで日がなぐうたらしていたのを、阿笠さんが話した結果だったらしいけど……

 

「寺井さんの店かぁ!あれ、小林くん、そうだっけ?」

「正確には緑の名義だったんだが、小林のほう使ってるのもバレちゃってさ」

「えぇ〜?なんでぇ?」

「結構勘がよくてさ……あ、美人なバーテンダーの女の子もいるよ。今日シフトだよ」

 

 美人で誘われると思うなよ!

 

 そこまで言うなら、ついて行っても良いけど!

 

 

 び、美人に誘われたわけじゃないぞ!

 

 

 





実際雪山とか学校とかなので秋では無さそうなんですが……


読んでいただきありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。