昴くんはなにもしない   作:あまも

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13-3:青い鳥と白いヤツ

 

 

 

 

 POOL BAR ブルーパロットにて、バーテンダーのお姉さん、福井柚嬉さんとご挨拶させていただきまして。

 これはこれは……キレイかわいい系な美人で。

 ズラっとカウンターの棚に並んだ酒のボトルが壮観だ。

 店主の寺井さんは、今日は予定があって夜しかいないらしい。会えずじまいか。

 

 さて、何か飲むかと言われましても。おやつ時をちょっと過ぎたくらいでまだまだお天道様がみておられる。

 

「では……とりあえずミルクでももらおうか」

「……子どもみたいなこと言うのね?」

 

 バーに来て酒を飲まないならミルクをもらうもんだろ。どこかのバイク乗りがやってたぞ。

 

 ︎︎でも、それっぽいこと答えてくれたし、そのまま出す物ではないだろうに牛乳をコップ1杯くれるあたり優しいしノリがいい人だ。冷たい牛乳も美味しい。

 

「今日は俺が運転するし、1杯くらいなら飲んでも良いんだぞ?」

 

 景光くんは景光くんで、ちなみにオススメはあれ!と、棚のウイスキーのボトル三本を推してくる。

 ラベルを見ると、ライ、バーボン、スコッチ。

 

 お前ら本当に自分の名前好きだな。

 

 

「ええ……なんでウイスキー縛りなんです?」

「ハイボールとか飲みやすくなるぞ?俺のおすすめは……もちろんスコッチだな!」

「それは……なんか、よくそんなことを」

 

 自分が命からがら抜け出した組織で、自分につけられて呼ばれてた名前の酒を推めてくる感情 何? 根性あるじゃん。

 

「小林さん、お酒苦手な人に無理に飲ませるのは良くないですよ」

 

 グラスを拭きながら福井さんが止めてくれるが、苦手……まぁ、苦手……うん。牛乳のクリーミーさが甘くて美味しい。こういうので良いんだよなぁ。

 

「でも沖矢、お前普通に飲めるじゃないか」

「飲めるから飲むのと飲みたくて飲むのはちがいますからね。それに……体に悪いですし」

 

 帽子をかぶった頭を指差すと、ああ、と景光くんが頷いた。

 

「そういえばそうか。じゃあ怪我が治ったら祝いに飲みに来いよ」

 

 昔は付き合いで飲むこともあったけれど、自分で車を運転するうちに飲酒運転に引っかかりたくもないので、飲むことも無くなったし。

 

「そもそも車の運転の予定がない時にしか飲まないですよ、私」

「車ならいつでも出してやるって。タクシーとかあるしさ。飲みたい酒とか無いのか?」

 

 そう言われましても。色々あるぞ、と、カウンター棚を指差してひとつひとつ挙げて行く景光くんと、裏から何かリキュールのような、洒落た色のボトルを持ってくる福井さん。

 

 飲みたい酒、ねぇ。

 ……酒飲めるようになった頃……本当に昔、20歳になりたての頃に、まだクリスさんになる前のシャロンさん……シャロンさんじゃなくて結局クリスさん?わかんねぇな。

 とりあえずシャロンさんに、酒の席に誘われて、パカパカ飲んで様々な酒を試してみたことがある。

 先程薦められたウイスキーの他にも、ワイン、日本酒、蒸留酒、リキュール、カクテル……とにかく色々飲まされた。

 正直、美味しくなかった。

 どうにもアルコールの匂いが、こう、発酵した果実やたべものを食べている気分になってしまって、素直に味が楽しめず……好みの酒、というものが見つからなかったもので……

 ︎︎以来、酒を飲むことに興味があまり湧かないのである。

 

 酒を試す度に顰め面する私をシャロンさんはクスクス笑って、アナタにはまだ早かったかしらとか言われて……いやいやもうちゃんと立派な大人だし、と無理して、それはもう色々と試したから、私が本当に好きな酒といえるものは、たぶんこの世に無いと思う。

 

 あの店、シャロンさんが注文してからグラスに入った状態でバーテンさん?が持ってきてくれて、瓶とかボトルをちゃんと見てなかったけど……高そうなボトルの時だけシャロンさんに見せに来てたから……あの時、何度も持って来てたの考えるに、相当高級なお酒、奢って貰ってたのではないかと思うんだよなぁ。

 

 ありがたいと言うべきか、それなのに好みの酒が見つからなかったことを申し訳ないと言うべきか。

 本当に色々な酒があったし、色んな酒を試させてくれた。

 

「あ、そういえば」

「なんかあったか?」

 

 私が考え事をしている間、目の前で並べたボトルの確認や、手持ち無沙汰にダーツの矢を弄んでいた景光くんが聞いてくれる。

 思い出したといえばそう。あの時、酒そのものを美味いとは感じなかったけれど、一種類、面白いと興味を持ったお酒があったなぁと。

 

「薬用酒は飲みますね」

「……それ飲みたいのじゃなくって……薬じゃん!」

「えー……薬用酒って、それ楽しんで飲んでるっていうか、健康のためじゃないんですか?」

 

 景光くんが悲鳴みたいなツッコミ。福井さんは不思議そうに言う。

 

 うん、うちの冷蔵庫にも、阿笠さんちの冷蔵庫にも入ってる養命酒。あれは飲む。翌日の午前中に動かない前提で、夜とかに。

 龍角散溶かした薄いみりんみたいで、まぁ美味いとは思わないけれど、確かに飲むとちょっと寝覚めが良い。

 美味しさを求めたものではないし、開き直って薬と思うと案外飲めてしまうもので。

 

 本気で翌朝動かないと決めた時だけ、だけども。

 そう、そんな薬用酒。

 

「前に一度、珍しい、薬みたいな酒だと、変な酒をいただきまして。その時飲んだお酒が――不思議な事に――どうにも忘れられないんですよ。全然、全く、これっぽっちも美味しくなかったんですが。……それで、そのお酒は色々なハーブを漬け込んだものだと聞いたので、似たようなお酒を探してみたりはしてるんですけど」

 

 見つからないんだよなぁ。

 あれはなんだったのか、クリスさんに聞いてもニコニコ笑うだけで答えてくれないし。私お酒詳しくないし。

 

「なるほど、探してる酒か。なら丁度いいじゃないか。柚嬉さんはお酒に詳しいぞ」

「ちょっと、小林さんの方が詳しいと思いますよ!薬用酒とか、私あんまり飲みませんし……」

 

 なんなら店にあるかも、なんて、ダーツの矢を棚に向けていくつか示しているが、その福井さんは薬用酒なんてうちにあったかしら、と首を傾げている。

 

「あの時、私が酔ってたのと舞い上がってたのもあって、あまり覚えてないもので……妙な味だけは覚えているんですが……説明しにくくて」

 

 こう……変にスっとして、妙に甘くて、全力で『ハーブです』って顔で鼻に抜けてくる……他の酒で喩えられるほど、酒に覚えがない。

 

「あ、なんかマジックみたいなの見せられた気もします」

「……なんだそれ」

「マジック……?」

 

 あの時飲む前、拍手した覚えが……あるようなないような……

 うーん、思い出せそうで思い出せない。翌日の二日酔い含めて、他のインパクトが強くて。主に隣の美人。……あれ?あの時シャロンさんだったような……んん?クリスさんか?私、誰と飲んでたんだ?なんせ何年も前の事で……

 

「…………本当にあの時酔ってたんですねぇ、困ったことに、思い出せません。なんせ不味かった事しか覚えがなく……」

「やっぱり、もう1回医者に診てもらった方が良くないか?」

「さっきも怪我が治ったら、なんて言ってましたよね。どこかお怪我を?」

「コイツ一昨日頭打って怪我してるんですよ。だから今日休みで」

「えーっ! 精密検査してもらった方が良くないですか!」

 

 いや、あれはあの時酔っててろくに覚えてないだけで……なんか二人とも、わざとというかちょっと笑いながらだから、からかい混じりの話らしい。

 

「とにかく!今日は酒は飲みません!」

「ははは。そうか。じゃあビリヤードでもするか?」

 

 やった事ない〜!

 

 

 

 結局、私の手袋の滑りが悪くて上手く撞けなかったり、ならと手袋を借りても上手く撞けなかったり、お手本として景光くんがぽかぽかとナインボール?とやらキメたりしてるのを福井さんと拍手してたりと、まぁ、意外と楽しく過ごせたので、また行ってみるのも良いかもしれない。

 というかビリヤードしてる時の格好、真面目にやったら格好良かったので、下手っぴだった私がシレッと出来るようになってたら、ほら、私も格好いいじゃん。

 福井さんが応援してくれたし。

 

 まずルールを覚えることからだけども。

 

 

 

 ■

 

 

 そんなこんなで日付は3月の31日。明日はピッカピカの新年度なのに何も変わったことが無い。

 大学は新入生が来るらしいのに、その新入生が誰だかわからない。

 怖すぎ。

 あんまりにも怖いので、いやー怖いわだるいわぁと用事をサボり、阿笠さんの家でのんびりゴロゴロ春の陽射しを満喫しながらほとんど治ってちょぴちょぴの毛もややサクサク生えてきたハゲも痛痒いので療養していたのだけど……その日の夜。

 真夜中と言っていい頃。

 帰るのも億劫で、泊まるつもりでぐだぐだしていた。

 

 阿笠さんの家の電話が鳴った。

 

 うーん……立ちたくない。いや、阿笠さんが取ってくれてる。じゃあいいか。

 

「なに?怪盗1412号の事を調べてほしいじゃと?」

 

 そんな声で、つい顔が向いてしまった。

 怪盗1412号って、怪盗キッドの事だよね?

 

「……そんなもんどーするんじゃ?…………会いにって…彼の居場所を知ってるのか?」

 

 どうせ電話相手は新一くんだろう。その後、いくつか言葉を交わして、電話は切られてしまったらしく、阿笠さんが困った顔をしている。

 

「怪盗1412号の事を調べるんですか?」

「うむ……工藤君の事件ファイルにあるだろうと言うておった。……仕方ない、行ってきてやるかの」

「……いえ、そちらは私が行きますよ。阿笠さんは、最近の新聞の中からその怪盗の記事を探して貰えますか?確か話題になってたような気がします」

「良いかのぉ?頼むぞ」

 

 夜道だし、暗い所を徘徊させる訳にはいかないのでね。転びそう。

 おっと。

 

「ところで、電話の相手は新一くんで合ってますね?」

「おお、そうじゃよ」

 

 うんうん。

 

 玄関から出ながら、ノアズ・アークに小声で指令。

 電話を繋いで貰ったのは……景光くんだ。

 

『どうした?こんな夜中に』

「今って忙しいですか?」

『いや? ホテルの警備のバイト入れてたのに、急遽休みになってな。何かあったか?』

「新一くんの様子って、見に行けます?」

『…………夜中だぞ?』

「ええ、毛利探偵事務所の明かりを見てきて貰えればそれで――『いや……』」

 

 いや?

 

『もう見つけた。夜中だよな?もうじき0時だよな?……子供が一人で街中走ってるぞ』

 

 とりあえず追う。景光くんがそう言って、通話の向こうから車の走る音が聞こえ始めた。運転中に通話は良くないな。

 

「わかりました、お願いします。こちらも調べ事があります。目的地らしき所がわかったら、追跡を止めて大丈夫です。車を停めてから、ご連絡ください」

『了解』

 

 やや遠い声と、ぼぼすんと、くぐもった何かの音。隣の席に投げたんだろう。電話を切る。

 

 

 まったく、あの探偵ボウヤと来たら!

 

 

 工藤氏の家の蔵書の壁の前まで来たが……さて、別に私、怪盗1412号……怪盗KID(キッド)のこと、調べなくても知ってるんだ。

 

 なんてったって、私、ファンなもので。

 

 どうするかな……どこまで伝えるのが良いんだろうか。

 

 適当に、手に取りやすい位置に置いておいた事件ファイル、怪盗1412号のバインダーを手に取る。

 

 記憶では、怪盗キッドについて知ってることはそれほど多くはない。

 素顔が新一くんと似ていて、新一くんが素がキザならあっちは振る舞いとしてのキザな……ホントはお茶目?と見せ掛けて実は?と、道化を演じているのかどうか、不思議な感じのキャラクターだったように思う。

 

 ただ、この世界で過ごすうちに、なんとなく……怪盗1412号が人気な理由が分かってきた。

 

 良い意味で愉快犯なのだ。

 

 彼の起こす事件は、当事者にとっては酷い目だろうけれど……傍から見ていると、鮮やかな手腕で、見事な逃げっぷりで……見て聞いて楽しい。ショーとはよく言ったものである。

 

 月夜に現れる白い服のキザな怪盗さんって、もう存在が格好良いよね。

 ターゲットも、度々悪いことをしている人だったり、アングラな組織壊してたり……義賊的な振る舞いが多いし。

 

 顔が新一くんな辺りも良い。

 

 あと人が死なないのも最高に良い。

 

 

 ファンにならない理由が『犯罪者だから』以外の理由が一般人には無いのである。

 

 

 …………まぁ、いつだったかの劇場版で変電所爆破とかテロ行為してたような気もするけれども。

 

 

 どれ、このファイルを持っていって、阿笠さんに読み上げてもらうか。きっと私から伝えるより、書いてある範囲の情報だけのほうがいいような気がする。

 たぶん、新一くんは今日、私がこっちにいると思ってないのじゃなかろうか。

 調べ物なら私に言えばいいものを、わざわざ阿笠さんに頼むあたり、……ひとつはこのファイルの存在。ふたつに、「会いに行く」と言っていたようなので、その出現ポイントでも見つけたのかな。

 そして、みっつ。夜中に出歩くことを、阿笠さんは見逃すが、私は見逃してくれないとでも思ったんだろう。うしろめたかったか?

 

 うーん、わかる。別にいいじゃんと開き直りつつ、でもちょっと悪い気はするから、なんとなくコソコソしたくなる気持ち。最近なったわ。

 

 とはいえ、ね。

 

 阿笠さんにバインダーを渡して、連絡を頼み、私は屋上に上がる。丁度よく、景光くんから電話がかかってきた。

 

「もしもし?」

 

 

 新一くんが辿り着いた、怪盗キッドの出現場所の報告だろうと思って出たのだ。

 

 

『えっと、今日俺、杯戸シティホテルの警備のバイトで……ほら、これ、この予定が……あっ!す、すいません……メール来てましたね……今日はキャンセル…………すいません、確認してなくて……えっ、今日、ここで何かあるんですか?え?顔?あの、ちょっ、い、いててててて!!にゃ、にゃにひゅゆんへひゅか!!』

 

 

 ……なんだこれ。

 

 

 景光くんの声の合間に、ザワザワと高圧的な声や、トランシーバーのノイズ音が遠くから聞こえてくる。

 

 …………察するに、杯戸シティホテルに新一くんが辿り着いたから私に連絡してくれた……のはいいけれど、そこを張っていた警察の方々に不審がられて、職質されてしまっている、と。

 

 

 

 これはマズ味!!

 

 

 

 景光くんなりに機転を利かせて、なのか丁度良かったのかはわからないけれど、バイトの予定通り出勤してしまった夜勤の男を装っている様子。時間は0:40前。何やら、電話の向こうが更に騒がしくなり、ガチャガチャドカドカと大勢の去る音。

 ︎︎そして、ハザードをたいて停車していたのか、カチカチというランプの点滅音だけになった。

 

 

 『……ふぅ。いやー、焦った。……なんか警察がいっぱいいたから、前を通過するだけにしたんだが、信号待ちしてたらノックされてさ。たまたまバイトの予定のホテルだったのは、良かったんだか悪いんだかわからんが』

「すいません、変なこと頼んでしまって……」

『いや。今の警察の頑張ってるとこ見れて嬉しいよ。凄い熱意の警部さんだった。……でも、惜しいな。怪しいヤツ見つけたなら、あれだけいるんだし1人くらい、残しておけばいいのに』

 

 そんなんだと怪しいヤツ、帰っちゃいますよ〜、なんて言いながら、プルプルと走り出したのかエンジンの音。だから通話しながら運転するなと。

 

『残念、ハンズフリーでーす』

『ハンズフリーならば問題ありません。そう提案致しました』

 

 どこか得意げな、景光くんとあちらの軽量型ノアズ・アークの声。軽量型のくせに数日でそんな小細工覚えよってからに。

 

『お前もやってるじゃん、ハンズフリー通話』

「それは……そうですけど」

『彼、結局ホテル入って行ったが……どうなったんだろうな。追わなくて良かったのか?』

「そちらは警察の方が保護してくれるでしょうから、大丈夫でしょう」

『それにしても……あの警部、めちゃくちゃ張り切ってたな。応援したくなる』

 

 ずいぶんと熱い人だったようで。でもなんか痛めつけられてなかった?

 

『なんか頬をものすごく抓られた。めっちゃ痛い』

「ああ、キッド対策ですね。彼、よく変装しているらしいので」

『変装?』

 

 以前、新一くんが杯戸町の時計塔の事件でやり合った際の話を聞かせると、なるほどなぁ、と感心した感想が返ってきた。

 

『なんというか……悪い奴じゃ無さそうだな。悪い奴だが』

「そうですね、悪い奴ではないんです。悪い奴なんですけど」

 

 ……………………

 

『……ところで今、新一くんが銃撃ったって言ったか?』

 

「――……そちらの調子はどうですか?」

『おい。それもう無くて良いかって話になっただろ』

「そちらの!調子は!どうですか!」

『ごり押すなよ。……ったく……悪くないよ。そっちの調子はどうだ?』

「ええ、うん。こちらも悪くないです。……お疲れ様でした。じゃあ、また」

『ああ。いつでもまた呼んでくれ。じゃあまた』

 

 よし、話を自然に終わらせることに成功したな。

 元々定期連絡の時、誰かに呼ばれたり、人が来たり、電話を切る合図としての文言だったけれど……頻繁に連絡が取れるようになって、調子を確かめる機会が増えたので他の言葉を探そうかとなっている。

 さて、何がいいだろう。

 

 とりあえず、1階に降りて新一くんの迎えに行こうか。

 

 






ビリヤードのチョークで昔、痛い目にあった事がありビリヤード場に苦手意識があります。

お読みいただきありがとうございました!
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