昴くんはなにもしない 作:あまも
この話を書き始めた初期に書いてた部分のひとつです
うろ覚えで書いてたので、話読み返すと全部一日の話なのかと驚いたりします。
読んでいただきありがとうございます!
入れてもらった玄関で、小さな靴を見つけた。足だけでも小さな人物だと分かる。
無事……無事?小さくもなっているらしい。
そもそもなんで今日はコナンくんが阿笠さんちに泊まってたのかと聞けば、灰原さんが例の薬の手がかりを思い出して、それを取りに行き……いつものごとく殺人事件に巻き込まれたそうで。
なぁに、また?いつもじゃん。
そんでまぁ、帰りも遅いからって事で、たまたま泊まっていたらしい。
そこは『私が来るだろうから泊まっていた』って誤魔化さないところは評価してやるけど、死神特性でまた名も無きモブの一人の命が消えてるんだよなぁ。
名はあった?ああ、さいで。ヒロタマサミ教授?それは聞いた覚えが……10億円強奪事件の、あの娘さん(偽)の名前じゃなかったっけ?
ああ、漢字が違う。……なんでそんな顔してんのさ。そりゃ覚えてるでしょうよ。人が死んでるんだから。
ヒロタマサミ……チェスの方で聞いたような……気も……しないでも…………ないかな。ないな。
無いです。
そもそも私、あまり他人とチェスの話も対戦もしないし。
ヒロタマサミ、ヒロタマサミ……他の大学生の友人に話聞いたら、知ってる人出てきそうな気もするけど。……お亡くなりになっちゃったそうだし。南洋大に知り合いあまりいないな。
まぁ、あまり関係ない話か。
てか、また大学教授が亡くなったの?連続殺人とかじゃないよね?
阿笠さんも寝てるだろうし、起こさないように……と思ったが、新一くんは普通に明かりもつけて、リビングに歩いて行きながら足音も容赦なく立てている。
ついてこない私に、こてんと新一くんが、小さい体に大きな頭を傾げて……寝ぼけてんのか?かわい。
「博士と灰原も起こしてくるか?」
「え? あー、いや。無理しなくていいですよ。少なくとも即座に問題はない……のでしょう?」
「ああ。オレたちのことは、組織にはまだバレてない。でも、灰原が監禁されていた会社は消されてる。逃げた事はわかってるだろうから、捜索はされてる筈」
へぇ。零くんから入ってた連絡の『少し潜る』はそういう意味か。今頃、組織を抜けた女と、その手引きした者でも探させられてるんだろうか。
…………アッ、もし見つけても黙っといてねって言っておかないと。
でも黙ってたらそれはそれで零くんが危ないのか?
「ホー……ところで、その『灰原』ってのが例の女で?」
「アッ……そうか、そこからか」
うーん、こりゃ完璧に寝ぼけてるな名探偵。彼が言いながら向かおうとした方向と、1階のベッドが空な様子を見るに、阿笠さんも灰原さんも、どうやら地下にいるようで。
……ピンポン連打で起こしたか。そりゃそうじゃ。
新一くんも、いつもなら良い回転してる脳みそがミソミソしてるらしい。
ひとまず仮眠取らせた方がいいかしら。
でも、説明する気満々だ。私が阿笠さんの心配しているとまだ思ってくれてるんだろう。
…………よし、聞いてやろうじゃないか。
私、今安心と疲れでドッと眠気来てるんだけど。
まともに聞けるかな。
♤
阿笠博士の家に、居候が増えた。
名前は灰原哀。本名は宮野志保。
元・黒の組織の幹部で、コードネームはシェリー。
工藤新一の体を小さくした毒薬と同じものを自ら飲み、体を小さくすることで組織の監視の目を盗み、脱走してきた。
唯一、あの毒薬を飲んでも生きていた実例である工藤新一を頼ってここまで来て、薬の影響もあってついに倒れてしまった場所が、阿笠博士の家の前。
そして阿笠博士に保護された。
そこから帝丹小に転校の形で入学し、オレと出会い、贋金作りのための誘拐事件を経て、正体をオレに伝え……毒薬のデータがあると思われるフロッピーディスクを求めて向かった先での広田正巳教授の事件と、その顛末まで。
その説明を聞いて、訝しげにしながらも真剣に聞いていた目の前の男は、俯いて長い長い沈黙の後、腕組みを解いて一つ頷く。
そして受話器を手に取った。
「──で、親御さんの元に返そうにもお家が分からないってワケですね。なるほど完全に理解した。やはり警察に通報しましょう」
「いや理解してねーだろ!何を聞いてんだよ!」
「いや……でも、子供の言い分でしょう?」
「だから、見た目は小学生でも中身は大人なんだって! オメー、オレのことも信じてねーのか!?」
受話器をスバルさんの手から奪う。その片眉と、肩と手のひらを空に向けてやや上げるアメリカンな“ヤレヤレ”ポーズやめろ。アンタに混じってるのイギリス人だろうが。
「だって……前も思いましたけど、人が若返るなんて、脳を入れ替えるか、死んで生まれ変わりでもしない限りありえない事だと思ってましたから。今でも、ほんのちょっと……二厘くらいは、その、例の黒くてわる〜い方々に捕まって、妙な薬で記憶改竄されて、自分の事を工藤新一だと思い込んでる小学生って可能性を捨てきれてないんですよ、私。他の人まで巻き込んで……なんて酷いことを…」
「なら今までのことはなんだったんだよ。いい加減捨ててくれよその怖ぇ可能性……」
口元に手を当て、わざとらしく1歩引いてみせるスバルさん。微妙に真実混ぜるなよ。
当の本人であるオレだって、実際にその身で体験しなければ信じられない事だった。
だが現に小さくなり、一時的にとはいえ元に戻った事もある。目撃者だっている以上、その可能性はゼロの筈だ。……筈だよな?
「ホントに?」
「……」
彼がにしゃりと口を歪め、覗き込んでくる。可能性は、無い。その筈。
「試しに蘭ちゃんとの馴れ初めを言ってみましょうか。ほら、初めて蘭ちゃん見てどう思ったんですか?ん?一目惚れですか?」
「…………って、確認も何もオメーにその時の事言ってねーだろうが!わかってて言ってんだろ?!」
「いやー、バレましたか。いやでも当時の様子はそれはもう……わかりましたわかりました。この話はやめましょうね。
なんと言おうが、君自身も、阿笠さんや優作先生や有希子さんすらも認めてるんだから、私が信じないわけにはいきませんからね」
オレの目の前にコーヒーを注いだカップを置いて、入れ替わりにカウンター裏からテレビの前のソファーへと離れていく彼。
またからかわれたらしい。
この人はいつだってそうだ。
阿笠博士の家のソファーに、我が物顔で横になるスバルさん。
相変わらず、一癖も二癖もあるひねくれた怪しいヤツ、という評価がぴったりな人だ。
服部が終始疑わしげに見ていたのも仕方ない。
それでも、このひとが怪我をして倒れていた時には流石に心配していたようだが。
「新一くんの言うことは信じます。そう決めましたからね。そして、その彼女のことも…信じてはいるんです。
ですが、阿笠さんの元に身を寄せることが決まったならば、彼女の周囲はやはり少しでも調べておきたい。“おうちの方”がいる、いないはともかくね」
「調べられるのか?」
「さて、どうでしょう。組織について多少なりとも触れる事になる。お許しが貰えないことには動けませんからね、私」
彼がひとたび情報を探し始めたなら。
必ずなにかしらは拾ってきてくれる。
情報屋でもないのに、様々な手法で集めてきてくれるのは、本当に凄い。
その腕前には父さんも一目置いており、警察からも時折声がかかることもある。
そう、彼がやる気を出して調べようと思ったなら、大概の情報は手に入れてきてしまう。
だから、彼には灰原の事は伝えなければならない。先に伝えておかないと、彼は時折、どこまでも調べてしまうから。
……とはいえ、阿笠博士の家に不審な居候が増えたとオレからの連絡を聞いて、電波も入らないような出先だった山奥から大急ぎで帰ってきたばかりの彼には悪いが、この件についてはあまり深く触れてほしくない。
理由は、最近の彼が……いや。彼自身は、昔から何も変わらない。
オレが不安なのは、彼の周り。警戒すべきは……スバルさんが『友人だ』と言っていた……
そこで、ソファから手袋に覆われた手が伸びて、ゆるゆると左右に揺れる。
「なにはともあれ。私が急いで帰ってきたというのに阿笠さんも君も、その『灰原さん』に絆されている様子ですし……なんか心配して損しました。先に仮眠させて下さい」
「…絆されてるっつーか…」
──どうして…?
姉を思って泣いてる姿は、確かにアイツの本心だった。口ごもるオレに、くつくつと、ソファーの方から喉で笑う声がする。
「ほ、絆されてねーし!」
「ふふ。調べる調べないも、本人から先に許可をいただけるならそれに越したことはありません。とはいえ、その本人にそのつもりはなさそうですが」
手袋が指を立てて、オレの後ろ、地下室への扉を指差した。その先に、灰原と博士の姿。
これまで来客の様子を見ていたのか、地下から出てこなかった灰原が、鼻を鳴らしてソファーの手袋を睨み付けていた。
「誰だか知らないけど、宮野志保について調べるのはやめておきなさい。調べていることがバレた途端に、逆にこちらが組織に見つかるでしょうから」
「それはそう。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ……なんて有名な話ですね」
ソファーに体を沈ませていたスバルさんが、頭からメガネまでだけを覗かせて、人好きの良い笑顔を作る。
「やあ、こんばんは小さなお嬢さん。何か飲みますか?」
「……遠慮するわ」
「それは残念」
ストンと頭がソファーに隠れる。続いて振り上げた長い足を下ろした反動で寝ていた体を起こして、数歩で素早く灰原の元にまでたどり着いた男の動きとその距離の近さで、灰原が驚いて固まってしまっている。
ニコニコといつも以上に目を弧に歪ませ、しゃがんで目線を合わせるが、なんせ距離が近い。
「はじめまして、『灰原哀』さん。私はスバル。阿笠博士の養子です。このお家には良く来る事になりますので、どうぞ、コンゴトモヨロシク」
「……ええ、はじめまして。『スバル』さん?……近いわよ」
「すいません。私、目が悪くって」
「眼鏡の度が合ってないんじゃないかしら」
「可愛らしい灰原さんの、お顔を良く見ようと思ったんですが」
「……」
灰原が無言で博士の後ろに隠れてしまった。アンタ、視力悪くないだろ。
「オメー……いつか通報されんぞ」
「いやねー?ほら、子供と仲良くなるには目を合わせて笑いかけましょうって、言われまして」
それを初対面の歩美達に実践して、逃げられていた男がなんか言っている。
アイツらはその後の表面上の優しさで流されてしまっていたが、それでもスバルさんのことを“なんか怪しい変なお兄さん”という認識はしていて、隙あらば少年探偵団として追跡調査だ、などと目論んでいるらしい。
この人、普段の行動範囲が車での移動だから毎度撒かれているようだが。
それでも最近、ようやく悪い人じゃないのはわかったらしい。
時々思い付きで妙なことをしたり、突然変な事を言い出したり、子供相手に容赦は一切ないが、基本的には遊び好きで子供好きな人だから……
良くも悪くも、性格がガキっぽいのだ。
「だいたい、灰原は子供じゃねーって言ってんだろーが!」
「聞いてたのと実際目にするのとでは、気持ちが違いますよね。いやー、信じられません」
「さっき信じるって」
「信じてはいたんですよ。信じていても、裏切られるものです」
ああ言えばこう言う…!
「昴くん。哀くんは確かに来歴は怪しいがの、悪い子ではないぞ」
「わかってますよ阿笠さん。子供に悪い子はいないんです。悪いのは全て親ですからね。
でもね、例えば私が同じように倒れていたとして、阿笠さんは同じように助けてしまうでしょう。ではその私が彼女と同じことを言ったとして、その私を信頼できるかって事です。
今の私は見た目だけしか彼女を知りませんから、子供の言葉としか見えません」
想像してみた。
スバルさんのような若い男性が倒れていて、助けたら「自分は悪い組織の一員だったのですが、先日抜けまして、命を狙われたので、逃げて来たのです」と言い出したとする。
想像しただけで怪しさしかない。
そもそもどこか胡散臭いこの人だからという話もある。
灰原が、俯いたままぽつりと呟いた。
「……別に、私は」
「『信じてもらえなくとも構わない』?」
にんまりとした笑顔のまま、スバルさんが灰原の言葉を重ねた。その通りだったのか、灰原が顔を上げる。
「……本当にそうですか? 自分の作った薬の、ごく稀に現れていた希少な症状。一縷の望みを自分の命に賭けて挑んだ大博打。見事に勝って、自身と同じ症状が出ていると目算された『彼』の家を目指して来て、心優しいハカセに保護されて……そのハカセも『彼』も、どうやら同じ目的に向かってくれそうだ。……いやぁ、トントン拍子。頼り甲斐がありますね。
組織から逃げて来たんですもんね?唯一の手がかりだけを頼りに。ではここ以外であなたの行く先……あるんですか?
そうですね、やはり警察でしょうね。本当にあなたに身寄りがないかは、調べさせてもらえない私は知りませんが。警察は怖い?警察に組織の連中がいるかもしれない?ええ、ええ、ああ、確かに。良くありそうな話です。
ええ……、何から何まで出来すぎている。あなたはとても運がいい。組織を無事に抜け出せた事からもそれは良く分かりますね。組織を抜けるのに、何人も、失敗して、命を落としている中で、あなたは無事でここまで来れたのですから」
「オイ!」
灰原だって、死ぬかもしれない毒薬を自ら飲んで、命懸けで脱出している。そして、彼女の姉は組織を無事に抜ける事はできなかった。……俺は、広田雅美を……宮野明美を助けることはできなかった。どうしてと、泣いた灰原の声はまだ耳が覚えている。
的確に地雷を踏み抜いていく言葉を止めると、スバルさんは鼻で笑うようなため息をついた。
「……ほぉら、やっぱり絆されている。私に連絡入れてくれた時は随分と警戒していたでしょう、新一くん。さては泣かれでもしましたか?」
「昴!」
「…………すいません」
灰原が俯いてしまった。オレが止めて、いつに無く強い語調で阿笠博士がたしなめて、そうしてようやく止まったが……
この人の、一番悪い所が出てしまった。
何が悪いって、この人はタチの悪いことに、テンパって動揺すると全方位に喧嘩の大安売りをし始めるのだ。人の突かれたら嫌な所を的確に。
しかも後々言ってる自身にもブーメランで跳ね返ってくる様なことを口から零して、後で全部引っ括めて自責の念に駆られるまでワンセット。
しゃがんだまま、灰原へ向けてもう一度「すみません」と呟き、頭を下げると、スバルさんは来た時よりも素早く、キッチンカウンターの裏に引っ込んだ。冷蔵庫から、茶色いボトルの何かを取り出してガブ飲みしている。
「……いやね、ホントにすいません。灰原さんが良い子なのは、よく分かったので。
大丈夫ですよ、私は灰原哀さんを調べません。万が一調査依頼が来ても、断っておきます。……関わって欲しくないのでしょう?」
この人、友人は多いが、実はそれ以上に敵も多い。その理由の大部分はここにある。
最初から、人のことを疑って見ている。信用できない相手を、敵かどうかを判断しようと攻撃してからの反応を見るが、たびたびそれが度を越して、初手で修復不可能にまで持っていってしまう。
…………だからこそ、一度認めたら無条件で信頼してしまう人だから……そこを狙われて……
すっかり萎れて、キッチンカウンターに覆い被さるように凭れたスバルさんは投げやりな様子で続けた。
「二人とも、ちゃんと覚悟は決めたのでしょう。所詮事情を知っているだけの私が、何かを言うのは間違いだ。……ええ、ええ。……そうですよね。新一くんも、阿笠さんも彼女を助けると決めたのだから。ああ、これはとんだお節介をしました」
ゆるゆると起き上がり、一息ついた彼が、すっかり冷めてしまったコーヒーを回収していった。灰原や博士にも聞いて、新しいのを淹れることは無く。カウンターに座る様促され、オレと灰原、博士も座った。
「でもね。阿笠博士は私にとって尊敬する……大事な方です。もし、彼に危険が迫ると言うなら……私も放ってはおけません。
あなたが、あなたたちがこれからどうしようと自己責任。ご自由に。それはあなたたちの進む道。
ですが、これだけはくれぐれも。
あなたたちは、外見は尚更ですが、元々小さくなる前も未成年でしょう?保護される立場である事をゆめゆめお忘れなく」
彼は、未成年に何かあったときに、その責任を問われるのが誰かを考えて欲しかったんだろう。
灰原なら、学校に通う事になった時点で博士が保護者となった。その灰原に何かがあれば、博士が責任をとる事になる。オレだって、父さん達にも、おっちゃんや蘭にも、迷惑をかけることになる…かもしれない。
「──ええ。わかっているわ」
「………………なら、もう何も言うことはありませんよ」
灰原の言葉に、口元をしばらくもにゃもにゃと動かして、最後に手袋を口元で横にスライド。いわゆる、お口チャック。
最後に、へらりと笑って見せた。
「さ。まだ陽も昇っていません。お騒がせ致しました。……朝ごはんは私が作りますから、皆さんは少しでも睡眠を」
下手くそな、いつもの胡散臭い笑顔を見せた。
ジュネリッ……なんだっけな。
彼がいるかいないかはともかく主人公は彼のことは知らないです。適当言っているだけです。
ここまで一日の話なのに、でも闇の男爵フロッピーの確認は1週間後なの解せないです
閲覧ありがとうございました!