昴くんはなにもしない 作:あまも
……軍師と武将が揃ってるなら、根のものもいてもいいじゃないかと……
閲覧ありがとうございます!
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はーーーあ。
張り切って灰原さん見に行って、盛大にやらかしましたよっと。
今から灰原さんの大きい版の人について調べてみれば、色々わかることあるかも!なんて意気込んではみたけど、ご本人からは却下されたし……結局ひとりで盛り上がって、ひとりで落ち込んで、最底辺イマココ!な、わけである。
イヤー……恥ずかしい。
初対面の人との距離感がいつまで経っても掴めなくて困る。
特に、こっちが一方的に知っていて、これが色々火種になるのはわかってる状態で、絶対に厄介事の原因になるのが確定しているのにどうして受け入れてしまったのかとか思ってる内心は隠しきれない。
阿笠さんのことを考えるとどうしてもネガティブな考えが……
いやぁ、ダメだなホント。
彼女に会えたのは嬉しいが、ついつい不満混じりにペラペラと余計な事を言ってしまった。本当に、余計なことを。
あれは私が言うことではないし、言われなくても彼らはちゃんとわかってるだろう。……うん、私が言うことじゃない。受け入れてもらった立場の人間だからね。
いい人たち過ぎるよ。なんで厄介事を見捨てられないんだ。……そうでもなければ、人に信じてもらうなんて到底無理なのだろうさ。
ああ、つくづく自分が嫌になる。
新一くんは、リビングのソファー。灰原さんは地下。博士はいつものベッド。
そして私は庭の愛車の中。
追い出されたわけじゃない。2階ギャラリーだってあるし。
灰原さんを警戒して、と新一くんには見られたが、やることあって騒がしくなるから、皆の安眠の為である。
てか
夜分遅くに失礼するゾ〜して、お子様とご老体を起こしたのは私だし。明日の朝ご飯位は作りますとも。
灰原さんとももう少しちゃんと話をしたいし。
たとえ茶色飯でも文句言うなよ!
連絡貰ってから、集まりの飲み会断ってすぐ飛ばしてきたもんで、ここまで寝てるヒマが無く……眠いけど、まだやらなきゃいけないことはある。
まず最初にやるべきは……
『【速報】妹が出来ました/^o^\』
白いとりのアイコンと共にメッセージに投げると、即座に返事が2件、立て続けに返ってきた。
『そうなのか? おめでとう!』
『どこから攫ってきたんだ』
それぞれ三毛猫のアイコンと、立ち耳の日本犬のアイコンがコメントを返してくれている。フジサンであることには気付かなかったか……
言わずもがな、景光くんと零くんである。
返事の温度差キッツ。
『攫っただなんて、ヒドイッ⁝( ;ᾥ; )⁝ もう知らない!みっちゃんにだけ教えるんだから!』
『ゴメンゴメン、ほら、ゼロ、謝って』
『なんでだ。というか、こんな時間にお前何やってるんだ』
そこはごもっとも。早朝……早朝かこれ。日課ついでに走り出しても良かったな。
話を早めるなら電話なんだけど、でもここで電話するの、良くない気がする。……いくら対策積んでいても、ここの周りは色々飛ばしてるので……変に混線しても困るし……うん、やっぱり止めておこう。
『れーくんの探し物、当ててみましょうか。ズバリ、人間……しかも女性……ですね』
『そうなのか?……お前がその人を保護したってことか?』
……さっきから景光くんの返事が爆速なんだけど、これもしかしなくても音声入力してない?
…………彼に渡したノアズ・アーク、なんか変な成長してないかこれ。あの携帯で出来ることじゃないと思うんだが。
爆速お返事景光くんからややあって、零くんからのお返事。
『彼女はこちらで預かる』
即座に次のコメント。
『……と言っても聞かないんだろうな。いい。わかった。そのままそちらで保護しておけ』
『会いに行ってみてもいいか?』
なんだかのんきな返事の景光くん、ちゃんとわかってる?……って思ったけど、そうか、彼は組織から足抜けした女の子の情報持ってないか。しかもここで話してるから、これ公安情報か何かだと思ってる?
ええと、
『それじゃあ、このシェリー酒は大事にしまっておきますね。できればまだ寝かせておきたいです。
みっちゃんは自分で見つけてください』
『んあ』
『ああ?』
『えっ、そういうこと?』
三毛猫が三連投。お酒を出されるとわかるらしい。ウイスキーって蒸留酒だっけ。
『……俺、彼らに接触するの大丈夫か?あの警戒を払拭出来る気がしないんだが』
『がんばれ』
『やれば、できる!(๑•̀ㅂ•́)و✧』
『(;ω;)』
零くんも私も、景光くんなら大丈夫だと思っているのに、本人はなんだか不安げだ。
彼のド天然ヒーロームーブなら、怪盗キッドくらい清々しい悪人でも、まぁ悪い奴ではないか…って判定になると思うんだけどなぁ。
当時山奥に潜伏中の景光くんは、私でもわかるほど気迫たっぷりにいつでもバトル漫画に行けるような顔していたけれど、最近の彼は大衆に溶け込む生活しているからか、逆に気配がとことん薄くなっていて、あの“珍しい赤いスバル360に乗って、スポーツサングラスをかけた姿の小林”の、ふと目につく存在感も上手いこと使って、素顔が人の印象に残らない生活をしているらしく。
聞いてみたらなんでもないように普通に答えてくれたけれど、どうやら彼はアングラ路線で何やら呼び名が付き始めているらしい。
それは目立ってるのかと思えば、なんか特定の個人扱いされてないそうで。
……それってアサシン教団かシノビ的な集団の扱いされてるってこと……?
確かに、彼用の名義や経歴、工藤氏の協力もあってかなりの数用意したけど……なんだか詐欺師じみてきたな。
なにはともあれ、本気で彼、隠密スキルがとんでもない伸び方してそうなのである。
よほど、組織への潜入捜査の失敗が痛かったんだろう。
変装じゃなくて雰囲気だけで庶民に紛れて姿を隠す技能か……塩顔イケメンにしか許されないかもしれない。
私や零くんはね、ほら、色が目立つからそこを隠さないと話が始まらない。
…………ん?
『みっちゃん、江戸川くんとあの後一緒に行動したことありました?』
『うん、あったよ。俳優の土方幸三郎のやつ』
『お前あれに関わってたのか?』
『関わってたというか、マスコミに紛れてたら見つかったというか?』
なんでマスコミに紛れてるの???
なんでも、ライターの方のバイトで、不仲説を激写するべくパパラッチのカメラ係に駆り出されたそうな。
しかもそこで事件の決定的撮影してしまったって?
近付く予定は無かったから、わりと普段の小林唯景像を見せることができて、新一くんにもその時点では本当にバイト戦士なんだなと印象を与えられたらしいのだけど……
そういえば景光くんも大概の事件ホイホイだというタレコミが零くんと成ちゃんから流されてるな……
『それで、それがどうかした?』
『いえ……みっちゃんがあまりにも一般人に溶け込みすぎているのも疑われる原因なのでは?と思いまして。
音もなく背後に立ったり、突然姿を消したり、足音が無かったりするのは良くないと思います』
『それは確かに怪しい』
『え』『今更じゃない?』
まだ間に合うような……でも今更なような……あまりにもNINJAし過ぎなのである。
『ヒロがNINJAなのは一旦置いとくとして、教えといた方が良いだろうか。どう思う?』
『俺NINJAなの?!置いとくのか?!』
『まず面識ですよね。おふたりはシェリーさん知ってるんですか?』
『そういうのはここに書いて大丈夫なのか?』
ああ。ちゃんと律儀に守ってくれてたのか。今の環境なら、そうそう取られる事ないと思うんだが。心配は心配だろ。ノアズ・アークに頼むかぁ……
『秘匿モード付けました。5分後にこのトーク履歴は全消去されます』
『じゃあ無駄話出来ないな。俺は知らない。ヒロは?』
『うん、俺も覚えはないぞ』
『わかりました。でしたら、後ほどおふたりで現状のシェリーに関する情報を共有しておいてください。私は明日、新一くんたちをどう誤魔化すか考えます』
『了解』
『了解(((o(*゚▽゚*)o)))』
何その顔文字。
古いメッセージから徐々に消えてゆく履歴を眺めながら考える。2人と灰原さんに面識は無い、なら、景光くんと会っても大丈夫なはず……
私にあそこまで話したのだから、新一くんが私を疑っていることはないだろう。
……ある日突然阿笠さんの横にいる女の子、なんて人物が突然現れたとなったら、当たり前に勝手にでも調べる自信はある。
ならば問題は……
景光くん、かなぁ……
景光くんの何が疑われてるんだろうか。ぶっちゃけ、彼の来歴だけなら私よりまともだし、私より怪しくないと思うんだ。
確かに組織にはいたけれど、それは潜入捜査であって、本当は警察官で、組織から命からがら抜け出した人で、組織壊滅を狙ってて…………あれ? 灰原さんと一緒じゃない?
これ別に隠す必要、無くない?
もう一度メッセージに2人を呼び出す。
『みっちゃんのこと隠す必要無くないですか?』
『終わったかと思った。え、何?』
『だって、経緯的にはみっちゃんも彼女も同じようなものなんですよ?上に良いように使われて、裏切られて、死ぬ思いして抜けた人じゃないですか』
『詳細を話したとして、彼らがそれを信じられるほどの担保がお前に用意できるのか?』
……白い犬のアイコンのコメントは、ちょっとグサッと来たかもしれない。
新一くんたちが灰原哀を信用することにしたのは、どう考えたってその外見と、姉を喪ったことを悲痛そうに語る姿と、悪気は無かった、ずっとやらされていたという言い分だけだ。
他に理由なんて、私には彼らがいい人すぎるから、しか思いつかない。なんと言おうが、絆されたのは間違いない。
薬で小さくなった、なんて眉唾な話は大抵の人は信じないのだから、そこは私のように記憶が無いです!とゴリ押せばいいし。……いや、そうすると調べられてしまうのか?
でも存在しない子供になるわけだし……調べたところでなんの情報も出ないならいいじゃない。
それに、その彼らに例え話で言った通り、私のような成人男性の外見で同じことをやっても、彼らは怪しむだろう。
︎︎…………でも隠すよりはマシじゃないか。
『隠すよりは、彼らに信用されやすいのでは?』
『信用されず、彼らに逃げられてしまえば守れなくなるぞ。教えるとしても、もっと土台を作ってからにするべきだ。
それに、ヒロがバレた理由を考えろ。教えるならそこまで教えることになる。今の彼らに警察は信用ならないなんて伝えたなら、誰も信用できなくなるだろ』
ぐぬぅ……白い犬の言うことがいちいちグサグサ刺さる。
誰も信用ならなくて、私のわざと立てた足音に隠れて、私が来た事を確認してからようやく、安心してそっと木の上から顔を出してきていた、あの頃の景光くんの憔悴した顔を思い出す。無理して笑っていたが、間違いなく疲れ切っていた。
あんな顔を、新一くんにさせるのは嫌である。
『あ』
三毛猫のアイコンがぽこんと流れた。
『いい事思いついたぞ!』
しばらく、その返事の下にコメントは流れない。私も、零くんも、たぶん同じことを考えた。
……景光くんの思いつく“いい事”、3割くらいの確率でおかしいけど今回大丈夫か?何言い出すんだ?
『仮面ヤイバー作戦とかどうかな!』
『寝るか』『寝ましょうか』
あっ、今日もうダメそうですね。みんな寝ようか。寝不足できっと頭が回ってないんだね。
景光くんてば普段、私たちの中で一番計画立てるの得意なのにどうしてこう……トンチキになる時があるのか…………天然って罪だわぁ。
♤
「さて、私に何か聞きたいことはありませんか?」
オレたちに朝の身支度をさせている間、スバルさんはキッチンで手早くフレンチトーストを焼いていた。
そして朝食のテーブルで彼の第一声。
「……聞きたいこと?」
「昨日……今朝?はすいません。不快な思いをさせてしまいました。阿笠さんから私が離れることはないので、しばらくの付き合いになる相手を不安にさせてしまったお詫びになるかわかりませんが……なんでも答えられるよう努力しますよ!」
淹れたてのコーヒーを配りながらのその言葉。しかし灰原はこれを無視。途端に目に見えて肩を落として見せるスバルさん。
「いくらやかましいと思っても、いないものとして扱うのだけはやめてください、いじめですよ」
「あら、やかましい自覚はあるのね」
「そりゃやかましくしてますからね。朝食は楽しく食べるものです。1日の始まりは気分良くいきたいじゃないですか」
その言葉。昨晩の事は置いておいて、何か明るい話題での会話で……灰原に自分の事を知ってもらいたい、と意思が含まれているのを感じた。
「……じゃあ、なんで私が彼と同年代だと思ったの?ホントはおばあちゃんかもしれないのに」
灰原の言葉は、眠気の飛んだオレにも浮かんでいた疑問だった。昨日、彼は外見でしかわからないと言いながら、灰原を、宮野志保の年齢が若い女性だと判断していたのは何故か。
その質問に、彼は糸目をそのまま、眉根を寄せ、徐々に首を傾げ……
「……あれ? 違うんですか?未成年だと思ってたんですが……」
心底不思議そうな様子は、なんの裏も感じない。純粋にそう思っていた人のそれだった。
「どうしてそう思ったの?」
「だって、その小生意気な態度は大人をバカにしたガキ共の……ゴホン
新一くんと同じものでそうなったんですよね?今の年齢がだいたい同じということは、元の年齢もだいたい同じなのでは?と考えました」
今、先に言った方が本心だろ。
確かに灰原のこのスカした態度は、子供がやっているから大人っぽいと見えるが、彼から見たら思春期のそれに見えたんだろう。
相変わらずふとした時の口が悪い。
「……薬の副作用が一定とは限らないわ」
「でもその反応の大小の差はそう大きいものでも無いはずです。稀な現象である以上、発生の条件は必ず共通する何かはある。何より、一定とは限らないならば、一定である可能性も間違いなく存在しますよね?
………………なんて、私の思い込みで決めつけてしまった言葉でした。決めつけは良くないですよね。すいません。
灰原さんが実はオトナの女性であったなら、随分と“可憐”で“愛らしい”方だったんですね」
「………………」
「オイ」
先の発言の後のそれは、要するに『お前大人ぶってるがまだまだガキだろ』の意味だろう。
なんで嫌味を混ぜるかな。
「……アナタ、食事中も手袋外さないのね」
「あ、ちゃんとご飯時用と外出用と、色々分けてますからね。清潔には心がけてますので、ご了承下さい」
「潔癖症かしら」
「いえ?ネズミ退治もドブさらいもできますよ。もちろん手袋はべつにしてますからね?
そうですね……食事時にお見せするものでも無いんですが、ここは隠すものでもないですからね」
そう言って、外出用より薄手の黒い手袋を躊躇いなく脱ぎ、手のひらを灰原に向けて拡げて見せる。この人の手、久しぶりに見たな。
男性らしい、指の長い骨ばった大きな手は、斑模様だった。
色白な皮膚と、それよりも白い、真っ白や、ピンク、茶色、シワのない部分、奇妙な引き攣れ、罅割れた皮膚から血が滲み、そこに塗られた軟膏がツヤツヤ光っている。
ひっくり返して、歪んで黒や黄色くなった、分厚く…異様に短い爪。毛穴のないつるりとした部分。
「……火傷の、跡?」
「はい。火傷ですね。これでもだいぶ綺麗にしてくれたんですが、今でも皮膚が薄くて荒れやすく、怪我もしょっちゅうなんです。
それに、見苦しいでしょう?こんな汚い手」
灰原がバツが悪そうに「もういいわ」と目を逸らし、何故か満足そうなスバルさんは手袋をはめ直した。
どうしようもない弱味を見せて、同情を誘うこの人の常套手段だ。
同情に値する苦労がその手に実際にあるだけ、とやかく言えないのが本当にタチが悪い。自然に、下手したら普通の人より器用に動くその手が、どれだけの努力で成り立ってるか計り知れないのに、それをこんな使い方するのが、ホント……
悪い人じゃないのに、なんでこうも胡散臭いんだろうか。
灰原が顔を背けてるからって、こっそり両手でアロハマーク作ってぷるぷると震わせてこちらにドヤ顔してくるこの人は、真面目に場を明るくさせようとしているのか、純粋にふざけてるだけなのか……いやふざけてるだろ。博士の顔を見ろよ、困らせるなって。
アイコンの写真は景光くんは米花町の道端で見つけた三毛猫で、零くんは適当に拾ってきたフリー素材の犬らしいです。キリッとした顔が日本らしくていいらしい。
景光さんのことを真性の天然だと思ってるんですが解釈違いの方はお気をつけ下さい
読んでいただきありがとうございました!