昴くんはなにもしない 作:あまも
今回は息抜き回です。ほぼ原作なぞってるのであまり文字数のわりには話は進みません。
感想ありがとうございます!
閲覧ありがとうございます!
景光くんのトンチキ曰く、仮面ヤイバーのように、中の人はわからない状態で暗躍するヒーローの、中の人ってことでどうだろうとのこと。
何言ってんのかな。ちょっとよくわからないな。改造でもされんのか。
幼い少年探偵団に感化されて仮面ヤイバー観て脳焼かれちゃった?カッコイイもんね、あのヒーローショー。
面白いこと言ってないで、少年探偵団経由でもなんでもいいからその無害性アッピルがんばってしてきてもろて。
こちとら聞かれたから答えただけなのに、灰原さんからは複雑そうな目で見られるし。
あれ、疑惑もあるけど憐憫が混じってるのにはまいったね。
新一くんや阿笠さんに私の話聞いたんだろうな。私も彼女の事を聞いてしまったわけだし、私のことも何も隠すことなく言ってもらって構わないとは伝えたけれど、どう話したのやら。
可哀想なのは私じゃなくて沖矢さんだっての。
さてさて。
調べないとは言ったけど、彼女経由で新一くんに辿り着かれては困る。彼女の逃走経路と思われるルートのカメラ映像を確認、学校に提出した書類の裏付けの用意……
折を見て、零くんに安全な戸籍の用意頼むべきなんだろうか……工藤氏の方が良いかな……
零くんの直接の上が安全なのを確認してから零くんかな。
あ、携帯あげよう。使ってない名義のやつ。
そんなこんなを、ヒロキくんの部屋でポチポチと。
いや、この部屋前来た時も思ったけれど、窓が大きくて空調も効いてて、日光はあるけどちゃんと調光シェードも掛けられて適度な陽当たりで、気温とが快適なもんでさ……阿笠さんの家に居づらくて、逃げてきた先がここでしたと。
阿笠さんところから持ってきたクッションソファーに埋もれながら、窓際の1番いい所を占拠していた。
もうここの子になりたい。嘘です。阿笠さんとこには帰るけど。いやでも今はちょっと居づらい。悪くないけど。気まずい。
用事が無いのに来たわけではなく、ちゃんと用事はあったから。今後の大学での研究室の話をしに来たのだ。
研究室の存続は無事、現在の研究がある程度形になるか、私の卒業か、私たちが別の研究室に移るかするまでの存続が決定した。
ヒロキくんの開発力と自由にさせて欲しい旨の言葉が効いたらしい。
持つべきものは友……天才の友だよ。たまに言葉通じないけど。
現在は事務の人が諸々手続きしてくれて、手の空いていた教授が様子を見に来てくれるが、そのうち人がいれば教授になってくれるそうで。できればこのまま保健室登校みたいな状態が続いて欲しいね。
ヒロキくんがのびのびできて良いよね。
ついでに私ものびのびできてすごくいい。
さて、灰原さんの周りを固めて、ひと通りの作業は終了。ようやくひと息。
「終わった?」
ノートPCから顔を上げたのをみて、部屋の主が声をかけてきた。ヒロキくんは、作業を快く許してくれた後、部屋の中央で何やら読み物をしておられたらしい。テーブルには雑誌が数冊積まれている。
珍しいな、彼が読書とは。
「場所貸してくれてありがとうございます。お陰で終わりましたよ。ところで、何読んでいたんですか?」
「文芸時代の連載小説だよ。探偵左文字の新シリーズが始まったんだ」
「探偵左文字!ドラマよく見てますよ。へぇ、あれ随分前に終わったものと聞いてましたが、再開したんですね」
「うん。10年間も新作は無かったらしいね」
しかし、話題性はあるがそれをヒロキくんが読んでいるのは疑問だ。好きだったの?
「へへ…こないだ、お兄さんが探偵の助手やるって言ってたでしょう?探偵ってどんなものかなと思って……最近は古今東西、色んな推理小説読んでたんだ」
「ホー……」
えへへとはにかむ姿も、私由来で興味を持ったと語る内容もかわいらしいこと。
うん、これは弟。間違いない。
「それで、探偵左文字ですか」
「最初はやっぱりホームズとかオリエント急行、金田一、十角館あたり読もうかなと思ったんだけど、丁度再開したっていうから。前シリーズ読み進めながら、新作も毎週楽しみにしてたんだ」
あるあるだな。何かはじめようと思ったタイミングで、新作情報が流れてくるやつ。ゲームでまれによくあって、私はまんまとその罠に引っかかることが多かった。
「そんなに面白かったんですか?」
「うん。とっても。ちょっと文章に気になるところはあるけど、連載小説ってこういうものなのかなって」
ふむ? そういう“気になる”は、結構大事なところ。
「何かありました?」
「うん。とりあえずお兄さんも1話読んでみてよ」
にこにこしながら、連載開始と書かれた雑誌を、山の上の1冊目から取って私に差し出してくる。
待ってる間、私にこの話がしたくてわざわざ、ここまでこの雑誌7冊持ってきていたらしい。
そりゃ読んであげるしかないかぁ!!
■
つまり、この新名任太朗の献辞、
『全国の名探偵諸君に告ぐ!私の頭脳を凌駕したくば この事件の真の謎を解明してみたまえ』
を見て、自分こそが解き明かしてやろうとヒロキくんが躍起になったってことでOK?
「そんな躍起にはなってないよ…でも、何か謎があるんだって聞いたら、気になるじゃない?」
「まぁそれはそう」
こういう遊び心のある作品は好きだ。内容も、少しだけコミカル寄りで、どちらかといえばドタバタ喜劇系。事件を重くし過ぎないので、サクサク読めてしまった。
「それで、“気になるところ”というのはこの登場人物の新名先生のセリフですか」
「うん。漢数字と数字の混在があるのに、後書きの編集の一言では『先生の意向により、原文ママで掲載しております』って。つまりここに何かあるんでしょう?」
そうかな?こういう誤植は良くある事じゃない?
「ノアズ・アークにこれまでの彼の小説を全て確認させたけれど、そういった誤植は1件のみで、それも後に訂正されてる。間違いなくわざとだよ」
それは……そうかもしれない。
「ということは、このセリフに何かある、という事ですね」
「うん。それで、何かわかった?」
何か、ねぇ。
大抵こういうのは、縦読みとかそんな話だろと上だけ繋いでみても何もなく。
タイトルが1/2の頂点と言うからには、列の最初の1文字目、頂点が大事なのだろうけど……1/2?飛ばしても意味ないな。
そもそも私はこういう謎解きは向いてないんだってば。
「にぶんのいちの頂点……1/2の頂点……頂点……1\2……頂点の1/2……頂点のにぶんのいち?」
「あっ」
つらつらと、タブレットPCのメモページに各台詞の列の始めを並べて書いていった私の手元を見ていたヒロキくんが声を上げた。
「お兄さん、文字を縦じゃなくて横に並べて書いてみてくれる?左から右に順に……2文字ずつ」
「2文字ずつ?」
ふむ。…………ああ、なるほど。
「2分の1、そういうことですか」
「つまり、2文字で1つの文字って事だったんだね。少し文字は違うけれど、……これだと……」
ヒロキくんは首を捻っているが、これ早い話がギャル文字じゃん。
目力、レ十、……1とC?これ縦か。て?、と……他、く、ノ、1??
「助けて……の後は?」
「? 助けて、でいいんじゃないの?」
「それは……キレイじゃないでしょう。スッキリさせないと読者は喜ばない。レでいいのかな……他ってなんでしょう」
『それより、助けて、って言葉の方に意味があるんじゃないの?』
ノアズ・アークが口を挟む。確かに? でもこんなの、謎に添えるための事件性ってだけで、意味は特にない……フレーバーテキストみたいなもんでしょ。
ふむ……何となく読める気はする。でも、読めてもそれは読めただけで、解けたではない。
そして私はこれ、読めるだけだな。
…………このままだと解けないか?
「よし、助っ人の所に遊び行きましょうか」
「え?助っ人?」
ここに賢いひとが1人とかしこい人工知能がひとつと、ポンが1匹居る訳だが、この敷地にはもう1人天才がいる。
今日は対局無いしね。息抜きと遊び行くついでに巻き込もう。
だってこれ、私の予想通りなら事件じゃない。
マダミスとか、体験型の推理ゲームに近いものだと思う。宝探しみたいなもんだ。
ノアズ・アークの入ったノートPCと、先程のメモを書いたタブレット、文芸時代7冊抱えてヒロキくんも連れ出して……向かうは下のエレベーター、押すは18階のボタン。
そのままノアズ・アークに頼んで電話をかける。数回のコール音の後、元気よく聞こえる秀吉の声。
「もしもし?今家ですか?」
『え?うん。どうし』
チン、とエレベーターの到着した音が、こちらと、電話とで聞こえる。さっさとフロアに出て、扉に張り付くみたいにして声を、電話のマイクと一緒に扉の向こうへ。
「閣下ー、手が塞がっててー、開けられないんですよ〜。開けてくださーい」
『「ちょ、ちょ、ちょっとちょっと!
来るなら来るって先に言ってよスバル!」』
慌てて、いつも以上にボサついただらしない様子の秀吉が、眼鏡と受話器を握りしめたまま出てきてくれた。
いわゆる「えへへ、来ちゃった☆」である。
やってるのはアラサーのオッサンだけどね。見た目は若いから許して。
「お兄さん、ヤンキー漫画の悪い人みたいだね」
「?なにそれ、取り立て屋ってことですか?」
あらやだ、ヒロキくんたらヤンキー漫画なんて読んでるの?影響を受けるからやめろなんてことは言わないけどさ。私あまりそういう柄の悪いのは見てないからわからないな……如くはやったけど。
私の後ろからの声に、秀吉が覗き込むようにしてそちらを見る。
「あれ、君誰?どこの子?」
「私の弟です!」
うちの自慢の共同研究者のかわいくて素直なヒロキくんを見ろ!かわいかろう!
「嘘つくなって、スバルの弟は新一くんだけでしょ。……荷物多いね、まぁ、入って入って」
私の手から、抱えていた雑誌をもぎ取って中へと入っていく。戸惑った様子のヒロキくんを促して、いざ太閤閣下のお膝元。
……待って、新一くんは私の弟じゃないよ?私の冗談真に受けないでくれる?
■
「ええ?謎解き??ボクに???」
「閣下ならいけますって。その知恵お貸しくださいよ」
「でもこれ……何?推理小説?」
ヒロキくんが自己紹介と私が連れ込んだ事の謝罪を兼ねて、この小説の謎について説明してる間に私はざっくりと、作中の新名先生のセリフを書き出して行く。
なんか昔、合体漢字!みたいなのあったっけな。いは濁点で、が?レとノはわかりやすい。ルだろ。
出来上がった文字列から、破綻しない、文章になるよう読むなら……
………私が今いルのわ……かな。
なんでたぬきとかことり、みたいなヒントもなしに文字が抜き取られるかわからないが、どうも
なら先のものも、他を抜いて、
……居場所?
不、木、火、戸、し、本、ハ、て、ひ、い、十、八、判、て、O、ろ……
︎︎ここから は行 抜いて、木、戸、し、て、い、十、八、て、O、ろ……木戸なんてないけど杯戸町はある。この
………………どうしても
…………杯戸していホてル、音に出せばわかる。杯戸シティホテルだ。
ちょっと前に新一くんが怪盗キッドと出会った場所だろ。聞き馴染みがある。まだ覚えてる。
うんうん、おそらく答えはこれで、それっぽく読めるけれど、やっぱりなんでそうなるかさっぱりわからんな。
︎︎ヒントは文章の中にあるんだろうけど……4番目に至っては、は行も多いし抜き取る文字も少ないくせに、どう考えても
そして残った文字は二、口、八、令、雨、し、一、ロ、5、ウ、至。
こういうときはわかるところから。逆さからいけば、
︎︎……………………あ、
︎︎となると、2つずつ合わせていくと1文字目の二が余る。そのままでいいなら、
……………………これは……二・四・零・七、号室、かな。
「というのが答えみたいです」
「……解けてるじゃないか!」
「なんでこうなるかわからないんですよ私は!そのヒント探し手伝ってください!」
出来上がった文章をみせたら、秀吉が憮然として腕を組んで怒りのポーズ。いつの間に持ってきたのか、扇子をペシペシと自身の二の腕に、兎の足ダンみたいにしておられて。
当てずっぽうで意味のある文章になったとて、実際そうだと思って行って、ではどうしてそうなるんですか?と言われても、そうなるよう読めるから、は……推理したとは言えないだろ。
「こう読める理由のヒントがどこかに書かれているはずなんです。私はそれがわからない。
ひとつ、は行が必要無いこと。ふたつ、2文字でひとつだが余れば余ったまま読んでいいこと。みっつ、は行なのにフは読んでいいこと。この理由がわからないことには、解けたとは言えません」
「読めたなら良いんじゃないのか……?」
「ゲーム性の話?」
そうそう。よくわかってるじゃないかヒロキくん。頭をもしゃもしゃと撫でてやると、こちらもやや憮然とした顔。なんでや。もっと撫で回してやろう。
「ひとりで全部解いてしまったの?」
「だから、解けてないですって。は行抜くってなんなんですか。『たぬき』とか『さぬき』、『ことり』、みたいなよくある暗号のアレなんですよたぶん。なら文章の中にヒントはあるはずなんです」
「…………なら、フランス関連かもね」
秀吉が扇子をパタパタと扇ぎながら、そんなことを言う。おフランスですの?
「その人、実際は日本にいるのに作中ではフランスにいる設定なんでしょ? なら、フランスの言葉の読み方で発言してる、と考えろという意味なんじゃない?」
秀吉の扇ぐ先は、私に抱え込まれて撫で回されているヒロキくんだ。暑苦しいから離してやれってこと?
「……で、なんで は行 がなくなるんです?」
「……無音の
ヒロキくんの言葉に、秀吉がニッコリと微笑んで頷き、扇子を閉じた。こいつらなんでおフランス語の知識あんの?
「じゃあ
「hではなく、fの表記だと考えると読むことになるよ」
「2文字でひとつの法則から外れたものは?」
ここで皆詰まり、むむと3人唸りを上げる。
扇子をくるりと回した秀吉が、自分の頭をコツンと指して、首を傾げた。
「………………それは抜いた文字とのセットだったから、ひとつ残ったってことじゃない?」
「うん、2、2、2……そうだね、そういう組み合わせみたいだ」
そういうものかぁ?そういうものかぁ。そうかな?そうかも。私以外納得している。そこだけ不満があるのは私だけらしい。ええ?
「てか解けたなら行ってみないの?杯戸シティホテル2407号室」
「助けて、なんて言われてるなら、助けに来いって意味でしょ?警察呼んだほうが良いのかな……」
「いえ、これはあくまで作者、新名先生の用意した推理ゲームです。献辞からも自信満々に読者を煽ってますから。
そしてこうして連載しているのが無事であることの何よりの証拠。きっとご褒美が貰えるに違いありません。
…………そうですね、2人ともこの後お時間ありますか?新名先生を助けに行くついでに、夕飯でも食べに行きませんか。あなたたちの親睦を深めるって意味も込めて、ね」
私が勝手に考えてる間に、2人は仲良くなっていたらしい。2人ともノリノリで、元気よく頷いてくれた。
よぉーし、ご褒美貰いに行くぞ〜!
■
なんて。
楽しく食べるつもりの夕飯が、神妙な顔でパスタ食べることになるとはね……
コロンボのパスタ美味しいでしょ?これ阿笠さんのお気に入り。
「……末期ガンって、もう治らないんだよね」
「そうですね、症状を聞きましたが、全身に転移が見られ、もう手も覚束無く、体力も無いから治療にも耐えられない……あそこから持ち直すことは無いです」
「そっかぁ……」
降りる沈黙。ミートソースを頬につけた秀吉。おい、なんでお前なんだよ。そこはヒロキくんだろうが。
ええい!お通夜か!!いつも明るい秀吉まで遠い目をしている。
逆でしょうが!
「でも、大層喜んでおられたでしょう」
紙ナプキンを秀吉に投げつけながらの私の言葉に、2人とも顔をあげてくれた。
我々が意気揚々と向かった2407号室で、ベッドの上から、私たち3人の驚いた顔を見た新名任三朗先生は……目を見開き、それはもう嬉しそうに、安心したように、ひとつ笑った。
そして心底から悔しそうに、「ああ、解かれてしまったか」と眉根を下げて歯を震わせていた。
部屋に入った瞬間の、私たちの『何があるかな』、というワクワクした感情を見たかったのだろうかと思ったら、ノアズ・アークが右耳から補足してくれた。
「……先生はどうやら、常々、彼が答えを書く前に『先生!解けました!』と得意満面な顔で読者がやって来るのを楽しみにしていたらしいですよ。我々はその願いを叶えられたんです」
「……そっか」
「なら、間に合って良かったってボクらは思えば良いのかな」
そうそう。どうしようもないなら、せめて良いことをした記憶にして残すのがいい。
秀吉、逆だ。ミートソース逆だよ。ヒロキくんが見かねてほらここ、だなんて拭き取ってあげている。お前、年下に介抱されて……
「ご褒美貰いましたけど、どうしましょうね」
「3人で分ける?昴お兄さんと秀吉お兄さんのおかげで解けたんだし」
……秀吉がお兄さん認定されてる!?
な、仲良くなって何よりなんだけど……私の特権が!
「え〜じゃあボク1話と2話貰おうかな、残りはふたりで分けなよ。何慄いてるのさ、スバル」
「昴お兄さんは後半で良い?僕、この4話目好きなんだ」
あっ、私もそこ好き。良いけど。
でも残り書けたら送るって……あの症状ならどれだけ保つか……むしろ、文章なんか書けるのやら……
それより、お兄さんって呼んでよ!!これまで通りの!!
感想ありがとうございます!
読んでいただきありがとうございました!