昴くんはなにもしない   作:あまも

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閲覧ありがとうございます!

25/06/11:視点が違う人の時、前のぽっちを■ではなくしてみました。読みにくくてすいません



1-2:手を貸す大学院生

 

 

 

 

 とんでもない情報が出てきた。まさか、知っている人がこんな身近に居たなんて。思わず席を立つと、彼は苦笑した。立てていた指を左右に振る。

 

「ああ、喜ばせてすいません。誰が、とかどんな、とか詳しい事は私も知らないんです。ただ、とある情報がありまして。

──黒の組織、或いは組織、とだけ通称される存在があります。

 実際の名前は不明。どれだけの規模かも、構成員も、実状もわかりません。ただ、決して小さくはないその組織は様々な犯罪に関わっている事があり、そのどれもが規模の大きな事件であることが大半であるとか」

 

「黒の、組織……」

 

「私の知らされている情報は、『構成員は、みんな黒ずくめの格好をしており、幹部は酒の名前のコードネームを持つ』こと。

 新一くんを襲った黒ずくめの男達……可能性としては大きいのでは?」

 

 指を、クルクルと動かしながら、またコーヒーを一口啜るスバルさん。

 その情報は、とても大きい。彼に話をしただけで、こんな情報が手に入るなんて……あのボンクラ探偵事務所より、ずっと頼りになる。

 

 頼りになる、んだが。

 

 

「……『知らされてる』って、何?」

「──────…………んんん」

 

 おい視線を逸らすな。なんでアンタはそんなことを知って、いや、『知らされている』んだよ。

 立てていた人差し指を、右に左にウロウロさせて、最終的に己のこめかみへ当てた。

 

「……いやねー? ホラ、私、ちょっとインターネットで楽しくネットサーフィンするのが趣味じゃないですか」

 

「アングラサイトの閲覧とか企業サーバーのハッキングな」

「こらこらこら。人聞きの悪い事言わないでください。個人HPの裏ページリンク探しです。それにそっちはやってないですから」

 

 人差し指で、唇を押えて「静かに」の動きをしてくるが、いやいややってないって、お前。

 

「警察に目をつけられてるからな」

「違いますあれは本当に関係ないです無罪です」

 

 

 コンピューターに詳しいこの人。

 大学でプログラミングを学びながら、友人達とゲーム開発していたり、なにかすごい人工知能を作ろうと意気込んでいるこの人。

 警察の人に友人を持ち、繋がりのあるこの人。

 

 ハッカーの疑いをかけられ、警察に世話になりかけていたことがある。

 

 

 まだ彼も若い頃で、オレもそれほど大きく無かった頃だし、当時の事は詳しくは聞けていないが、あまりにも優秀過ぎるあまり、疑われてしまったことがあるらしい。しかも何度も。

 本人は「私は!悪い事はしてないですから!」と言っているし、一応細かく調べられた末に無罪放免で放されているのだが……

 

(たぶん、証拠が見つかってないだけか、もしくは────協力する事で許されてる人、なんだよなぁ)

 

 

 

「とにかく!……うっかり、ネット上で組織の情報らしきものを見つけたとしても、深追いせずにすぐに報せるように、って言われてるんですよ。だから最低限の事だけ知らされてるし、それを大々的ではなくとも、追っている人達が確かに居る。って事です。ご理解頂けましたか?」

「ああ、わかった、わかったよ」

 

「となると2つめは、その報せとしてトロピカルランドでの件……密売とゆすりと、新一に使われた毒薬の話を、警察の知り合いに伝えるんじゃな?」

「いいえ? しませんよそんな話」

 

 これだ!と指を鳴らした博士の言葉に、キョトンと首を傾げるスバルさん。博士のカップの中にコーヒーが無いのを見て、いそいそと次のコーヒーを注いでいる。

 新たなコーヒーを博士の前に置いたスバルさんが、2本目の、中指の指を立てた。

 

「2つめは……毒薬の話は一旦退けますね。

 確か、新一くんが連れて行かれた交番で、警察は話を聞いてくれなかったと言いましたね。

 では改めて、私から拳銃密輸とゆすりの話を伝えることは構いませんか?もちろん、話を広めないようにも伝え含めます」

 

 あの時は事件の事を交番で話したが、子供の悪戯として流されてしまっている。改めてでも、再調査してもらえるなら助かる。

 

「ああ。でもそれって……組織について調べてる人?」

「拳銃密輸とか組織関係無しに悪いことです。それに、伝えたからといってその答えが返って来るとは期待しないでくださいね。あくまでこちらからの情報提供のみです。

 ︎︎トロピカルランドでの取引があった事は……子供の悪戯与太話を信じた私の情報とはいえ、調べてみる価値はあるはず。

 ……一応、現場で頭を怪我して倒れていた少年が保護されていたのは間違いないですし。怪我した原因が男に殴られた、なら信憑性も出てくるかな。

 園内なら、監視カメラとかありますしね。ジェットコースターでの事件という隠れ蓑もありますし、こっそり調べやすいでしょう。

 怪しい格好の男が入場時には持ってなかったアタッシュケースを持って出ていった、といった、外見だけでも探してもらうことは出来るかな」

 

 そこから更に詳しく調べるかはあちらに任せますが、と続く。少しでも繋がる情報があれば良いが……情報が出ても教えてはもらえない、あくまで情報提供のみ、か……。

 

 ……なんとかスバルさん、情報もらってきてくれないかな。

 

 チラっと顔を見あげると、青っぽいレンズ越しに彼の糸目がこちらを見ていた。立てていた二本指を絡ませ、旋毛を押された。やめろ。

 

「そして今回毒薬の話はできません。むしろしない方がいい」

 

 冷やしていた分のコーヒーをオレのグラスに注ぎ、氷をころんと1つ入れてくれる。そして自分のコーヒーを飲みきった所に、彼は次のコーヒーを注ぐ。今度は角砂糖をポチャポチャと落として、掻き混ぜて。

 

「だってその黒ずくめの男の言う通りなら、毒薬で殺された死体からは毒は検出されない。

これは毒薬で殺された証拠にならない。

 そこに、『飲んだ人間を死に至らせ、死体からは検出されない毒薬』の説明を聞かされながら飲んで、無事生き残った人からの情報…なんて、わけがわからない話です。生き残ってる時点で本当に毒なのかわからない。

『 私は今回、頭を怪我して保護されたが、怖くなって交番から逃げ出した少年から眉唾物の話を聞いただけです。

 彼がその後どこいったかは知りません。逃げられました。』

 でもなーんか怪しいので、一応調べてみてもらう。

 そういうことになります」

 

 情報に設定を細かくつけているスバルさん。その意図は、恐らく。

 

「………あちらも無条件に私を信じてくれるわけではありませんし……疑われるのは困ります。………完全に信じきってはいけないのでしょう?」

 

 『アイツは悪いことしてないと思うんですけどねぇ…』なんて、角砂糖を五、六個入れてた甘そうなコーヒーを飲む彼はきっと、得た情報は流さなきゃいけないのに、重要な情報である“生きている事にしてしまった工藤新一”の事を、隠そうとしてくれている。

 彼の警察の知り合いのことを、疑っている訳ではない。でも、どこから情報がもれるかわからないから、話せない。

 オレや、工藤新一の周りの人達の……彼が大事にしている、阿笠博士やオレの両親のために。

 彼が信頼できるハズの人を、疑うことにさせてしまった。

 

「ま、毒薬で殺された人の人名リストかなんかあったら話は変わってきます。あなたが使われたのは試作品らしいですが、本格的に使われるのを待つのは……気が引けますね。試作品、いっぱい使われてるんでしょうか?それはそれで怖いなぁ。一応探してみましょう」

「無理はしなくていいからな!」

「今は焦らず、じゃぞ」

「はいはい。わかってます。深入りしないので」

 

 そんなに沢山の被害者が出る前に、なんとか手がかりを見つけたい。

 

 

 

 

「あ、3つめですが、工藤先生に新一くんの事伝えますからね」

「なっ」「おお!」

 

 またぶっ込んで来やがった。この人は父さんに直通の連絡先を知ってる。

 

「何不満気な声出してるんですか新一くん。あと何故伝えてないんですか阿笠さん。

 いくら放任主義な工藤先生達でも、新一くんがこんなことになってるなら心配でしょう。キミが不満でも、ここは連絡しますからね。話をしないなんて許しませんよ。

 あの2人に協力を頼むなり、断るなり手出しを禁ずるなり…説得は新一くんが直接やり取りしてください」

 

 はっきりと言い切る以上、もうこの人は何言っても意見は変えないだろう。

 

 

 

「…………言ったところであの人達、帰ってくるかな……」

 

 

 

 

 ■

 

 

 電話のスピーカーから、爆笑が聞こえてくるのでつい耳から離した。ウワハハドタバタガサゴソヒーヒーと、ひと通り笑い転げ、腹痛い、腹痛いと息も絶え絶えに、収まってきた所で耳に戻す。今の間に三枚呑まれた。まだぶり返した笑い声を挟みながら、電話の向こうでひと息大きなため息をついて。

 

 

『あいつらが遊園地でジェットコースターに乗ってた?冗談だろ』

 

「笑わないであげてください。そこで事件まで起きてるんですから。絵面想像したら悪夢に出そうですけど」

 

 また込み上げてきた笑いを押し殺した呼吸。チャリンと一枚。

 

『悪い悪い。うん、どこにいても血の匂いと一緒なのな。……クックッ……ああ、クソ、笑っちゃダメなのに……待って、しかも何、あのいつもの格好のまま遊園地?行ったの?これお前お得意の合成画像じゃなくて?』

「正真正銘、引っこ抜いたやつです。笑っちゃダメですよ。……こら。可哀想な事件だったんですからね」

『わかってる、わかってる。……監視カメラに映るアイツらってだけで、なんかもう……スゥ…ハァーー、ヨシ』

 

 大きな深呼吸。切り替えて、笑いを含まない声になった。ゲーセンでコイン落としゲームやっている時の持ち方は、手袋越しだと少し難しい。

 

『OK、了解した。流石に正面からの映像は無かったんだな?』

「はい。あるにはあるんですが、彼らいつも俯いてるので。……社長さんは?」

『うん。3日前から会社には戻ってないらしい。元々あっちが内密に追ってたけど、恐らくバレたな。最後に搾れるだけ搾ったんだろう』

「アー…搾りカスは処分ですか」

『さて、どうかな。追ってた奴が拾えてたら良いんだが……』

「無事だと良いですね。では、そちらは一応追ってる、ということで。……あと、うーん、したい話はあるんですけど、これ今まだきまってなくて。欲しいですか?」

『不確定?』

「私視点ではきまりなんですけど。でもあなたに渡せるものが無い」

『なら証拠が手に入るまではそのままお前のところで止めといてくれ。いつか手に入る?』

「さて。もっと潜ればあるんでしょうが……許可さえ出れば、ですかね」

『ハッハッハ。出ないぞ』

「ですよね〜」

 

 ケラケラと、電話越しに笑い合う。もう手持ちに無い。次で終わりだ。

 

『────そちらの調子はどうだ?』

「ええ、悪くないですよ。そちらの調子はどうですか?」

『────ああ、こちらも悪くないよ。じゃあ、また』

「ええ、また」

 

 ブチリと、音声が切れ、通知音だけの受話器を置き場にガシャりと戻す。手袋からツンと金属の匂いがする。洗わないとなぁ、と思いながら、駅の公衆電話を離れた。

 

 

 固有名詞言えない会話って難しいよね。

 

 

 ■

 

 

「『あー、あー。』えー、ゴホン。『オレは高校生探偵の工藤新一。幼なじみの毛利蘭と遊園地に遊びに行って、黒ずくめの怪しげな取引現場を目撃した。

 取引を見るのに夢中になっていたオレは、背後から忍び寄るもう1人の仲間に気付かなかった…。オレはその男に…殴られ…毒薬を飲まされ……目が覚めたら……』えーと、(カチカチ)『からだgあっ違う』えーと、(カチ)ゴホン。

『…体がちぢんでしまっていた!

 工藤新一が生きてる事がバレたら、また命を狙われ、周りの人にも危害が及ぶ。阿笠博士の助言で正体を隠すことにしたオレは、蘭に名前を聞かれ、とっさに…江戸川コナンと名乗り。黒ずくめの男の情報をつかむべく、父親が探偵をやっている蘭の家に転がり込んだ…』

 こんな感じでしたっけ?」

 

 おなじみの“いつもの”を変声機のお試しにやってみせる。あの頃、友人は暗唱でコレを言えていたが、私は延々と聞かされたおかげで大体の流れと特徴的なところだけは覚えた。覚えてしまった。あらすじってのはまとめるのに良いからね。ぱちぱちと拍手する阿笠さん。その横で、何故かむっすりとした、江戸川コナンくん。たまたま変声機を手にする機会があったので、ちょっと借りて遊んでいた次第。

 新一くんはプンプンしながら立ち上がり、

 

「なんッッッッッッか、スバルさんの喋り方、腹立つんだけど!」

 

 と人のことを指差してきたので、やんわりとその指を押さえてあげる。うーん、手も小さいなぁ。懐かしい。かわいい。反対の手でべちんと手を叩かれてしまったが。

 

「なるべく真似たんですよ。新一くんはキザで、コナンくんはあざとい」

「過剰なんだよ!!クッソ、返せよ変声機!」

 

 手を押さえる為にしゃがんでいたら、こちらの手に持っていた変声機に飛び付いてきたので立ち上がって届かない高さに持ち上げる。

 

 ふふふ、ぴょんぴょんしてかわいい。

 

 イタズラして小さな名探偵を微笑ましく見ていたら、靴を光らせた新一くんがいきなりとんでもない跳躍力で私の腹目掛けて飛んできて、鳩尾に頭突き。つい腹を抱えて蹲ることになって、あえなく変声機は奪われてしまった。

 お前それ阿笠さんの作った凶器じゃん。

 

 

 蘭ちゃんに正体を疑われたコナンくんの代わりに、変声機を使ってコナンくんと一緒にいる蘭ちゃんへ電話をかける大仕事……をする阿笠さんの口調が怪しくなってきたので、途中で交代してあげたのに。恩を仇で返すとはまさにこのこと。

 

「今のは昴くんが悪いのぉ」

 

 阿笠さんに首を振られてしまった。

 

「阿笠さん阿笠さん。あの靴、同じものを私が履いたらどうなります?」

「そうじゃのう。あれはキック力増強シューズじゃから……サッカーでキックし慣れてる新一なら使いこなせるが、昴くんでは…………昴くんにキック力なんてあったのかのぅ?」

 

 はて?の顔をして、そんな事言う。キック力くらいありますとも。こちとら毎日体力作りの走り込みと筋トレ欠かさぬ成人男性だぞ、失礼な。

 

 …素のキック力、今の小さい新一くんに負けてるなんてこと…ないよね…?

 

 

 





"いつもの"は作者の劇場版だけ観てる友人に覚えてるの言わせたら出てきたヤツですが、結構覚えてるもんなんですね。細かいところ違うけど、気合い入ってるところは覚えるもんなのかと感心しました。

読んでいただいてありがとうございます。
評価や感想いただけたら嬉しいです。
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