昴くんはなにもしない   作:あまも

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ぼでーすぺっくはつよいらしい。

閲覧ありがとうございます!


18-1:ゲーマーな英語教師

 

 

 

 灰原さんの薬の研究データの入ったフロッピーが返ってきたらしい。

 

 

 

 で、 中身が消えたらしい。

 

 

 

 

 ん?

 

 

 

 

「いち早く中身を確認しようとして?」

「ああ……」

 

 頷く新一くん。

 

「『闇の男爵(ナイトバロン)』に?」

「ええ……」

 

 目を逸らす灰原さん。

 

「全部消されたって?」

「そうじゃのう……」

 

 頭を搔く阿笠さん。

 

 

 カーッ!

 

 私に見せてくれたっていいじゃないか!どうして先に見ちゃったんですか!

 やっぱり私なんて信用ならないって言うことですか!

 

ヒン!

 

「それで、スバルさんならデータを復旧出来るんじゃないかって……」

「は?無理です。相手が『闇の男爵』だったなら尚更無理です。そんなんできたら私留年してません」

 

 上目遣いでおねだりしてくる新一くんがかわいいのは揺るぎない事実ながら、『闇の男爵』に消されたデータの復旧は誰がやっても無理なものは無理だ。簡単に言えば、全消去して上書き保存。仕組みはそれだけ。全部まとめて全消去上書き保存。あぁなんてシンプル。バックアップもなんも無くなる。

 

 あれの被害に遭わない方法は、予防しかない。あれ自体は攻撃を仕掛けるものではないから……

 それこそ、トラバサミを踏まないように気を付けて歩くしかない。でもそのファイル自体がトラップだったならどうしようもない。

 

「消える前ならまだやりようあったかもしれませんが、そもそも『闇の男爵』が仕込まれていることを予測できなければ、対処も何も出来ません」

「ええ、そうね……迂闊だったわ」

 

 灰原さんが肩を落としている。

 そりゃ、手がかりつかんだのだから早く見たいと焦る気持ちもわかる。だから強くは言えない。こんなにも反省していることだし。

 当事者たちが……普段ならかしこい彼らがこんな迂闊な事をしてしまう程度には、勝利は目前、勝ち確BGM流れてたのだろうからね。

 

 とはいえ、たとえ新一くんの頼みだろうと、叶えてあげたいのは山々だけども……出来ないものは出来ない。

 

「残念ですが諦めてください。私も『闇の男爵』は見たかったし欲しかったところですが諦めます」

 

 サラッと、消されてしまったフロッピーディスクの中身を確認したが、ものの見事に何も残されちゃいなかった。

 悲しいね!思い出しちゃうこの焦土。

 

 ふと、灰原さんがこちらを見上げているのでしゃがんで視線を合わせてあげると、何故だか離れていってしまった。自分で冷蔵庫から飲み物を取っている。言えば用意してあげるのに……

 

「あなた、闇の男爵についてやけに詳しいわね…」

「ええ、私の作成したプログラムが消されたことありますからね。原因を調べたことがあります。

 ほとんどわかりませんでしたが、『闇の男爵』がデータを全部消してしまう代物で、一時期界隈で大暴れしていたもので……どうやらそちらの組織のものらしい、ということはわかっていますよ」

「組織が、あなたの作ったプログラムを消した……?」

「あれは私の管理ミスから来るものです。私が狙われて『闇の男爵』が使用されたものではありません。私がうっかり、……そう、迂闊にも(・・・・)、罠を踏んでしまっただけです。痛い反撃を食らいました」

 

 私の知らないところで色々勝手に起きてたらしいが、結局はいらんことして自滅しただけだからね。

 

「あなた、それで無事なの?」

「見ての通りです。特に身を隠す事なく元気に生活してますよ。足跡は消すのが基本ですからね」

「そう……」

 

 お。

 あなた意外とやるじゃない、と言いかけて止めたみたいな、見直した……感心した頷きと視線だ。えっへん。

 

 でも一方で新一くんがものすごい脳みそ回転させてる顔してる。なんだよ、言えよ……

 

「スバルさん、それって本当に無事なのか?怪しまれてたりしてないのか?」

「ええ、大丈夫ですよ。……その組織の中身は、私はよく知りませんが、そんな怪しいと疑うような相手を2年も放置しておくような、悠長な所なんですか?組織って」

 

 元組織の女の子に聞いてみればわかるよね。

 

「いいえ…『疑わしきは罰せよ』は、良く聞く言葉だったわ…。彼が無事で、普通に街中を歩き、一般人と同じく生活していると言うなら、まず疑われてはいないでしょうね」

「ほら。灰原さんもこう言ってますし」

「……」

 

 それでも新一くんは渋い顔。なんだよ、何が不安だってのさ。

 

 コソコソと、灰原さんと一緒にちょっと離れて内緒話か?

 外部ツール(ノアズ・アーク)に頼んで盗み聞きだって出来るんだからな?

 

 

 まぁ、やらないけど。

 

 聞いて欲しくないなら、聞いてもいい話で合わせてやろう。変に情報握るのも良くないし。

 

 ……けれど案外、聞こえるもんで。

 今、聞こえたワードでなんか察せる内容だ。

 

 キーワードは、プログラマー、利用、監視。

 

 

 そういうこと?

 

 

 ■

 

 

 

 服部くんに誘われて、新一くんたち毛利御一行は大阪旅行。

 服部くんが『あの怪我した胡散臭い兄ちゃんも〜』なんて誘ってくれたらしいが、ご遠慮しておいた。

 

 

 

 その旅行の日、予約入ってるのでね。

 

 

 

 いざ決戦。乗り込むはいつも行くゲーセン。

 

 センスも無いのに音ゲーを無駄に頑張って微妙な段位をキープしたり、メダルゲームの預けたメダルがちまちま増えていくのを楽しみにしている。

 クレーンゲームや落ち物系は、景品にあまり興味がないけどやるのは好きだ。だから狙っていたものを取れなかった女の子たちや小さな子たちにあげたりなんかしちゃったりして。おじさんは自分で取りなさい。

 

 

 今日のところは、何やらアーケードゲームのランキング記録に挑む連中がいるらしく、その人達に呼び出されてしまったのだ。

 記録を塗り替える瞬間を見てろと、そういうことらしい。

 

 私のホームのゲーセンなもんで、昔から通ってる古参顔してたから、そういう派閥争い的なものに審判役でたまに呼び出されるんだよなぁ。好きにやればいいのにね。

 

 わざわざ人を呼び出すのだから、きっと自信があるんだろう。

 出来なかったら何してくれるのか楽しみだ。

 

 記録が抜かされたら抜かされたで、粘着して抜かし返すまでまた頑張るだけなのに。終わらない戦いである。切磋琢磨ともいう?

 

 

 筐体の方に行くと、噂を聞きつけたのか、既にギャラリーが多い。

 

 私を呼び出した相手はまだいないらしい。

 そこでは、1人の女性がプレイ中。

 派手にコントローラーを回したり、体を動かして画面の中のプレイヤーキャラクターとシンクロしているかのよう。

 

 

 こちらはいわゆるガンシューティングゲーム。

 

 特にこれは、ホラーゲームを題材にしたゾンビや化け物がわらわら出てきて、プレイヤーが銃型のコントローラーでそれらを倒し、スコアを稼ぐ古い型のゲーム。

 

 最近は店側としても全然金も稼げないし人気もないこのタイプのゲームを、そもそも置かないゲーセンも増えてきて……あっても古い筐体ばかりになった。

 ここはその数少ない筐体の設置店舗で、しかもちゃんとメンテされてるので反応が良いのである。

 

 どんどん絶滅危惧種となっているこのガンシューティングゲー厶も、一部のコアなファンはいるもので、こうして数少ない筐体に妙な熱狂プレイヤーが時折出張してくる。

 今回の殴り込みに来た連中も、はるばる西から遠征だそうで。ご苦労なこと。

 

 今プレイ中の女性は動きが派手なだけじゃなくて、しっかりとターゲットを捉えて的確に撃ち抜いている。女性でこのゲームやる人、珍しいな……と顔を見て驚いた。

 

 キャラクターのセリフを真似するのは聞き覚えのある声。上手な日本語。

 

 

 いつぞやのアメリカで出会った、親切で美人な、日本語の上手な女性だった。

 

 

 美人さんは無事、しっかりパーフェクトでノーコンテニュークリアできて、ご満悦な様子。

 でもパフォーマンスとはいえ銃回す意味がどこに……接続ケーブルが切れる原因になるからあんまりやらないでほしい。

 お立ち台のようなギャラリーの真ん前から降りた美人さんと私、目と目が合う。

 ちょっぴり太眉、タレ目なのにクールな印象……零くんやクリスさん系統の美人。体型は……うん。まぁ、うん。なんも言うことはない。

 

「……あら、アナタ……」

「どうも、その節はお世話になりました」

 

 お互い気付いたけれど、何故かちょっと気まずい。私の方だけかもしれない。美人さんは荷物を持って寄ってきてくれた。

 

「アナタ、アメリカでお会いしましたね!」

「そうですね。あの後、ちゃんと待ち合わせにも間に合いました。ありがとうございました」

 

 深々と頭を下げると、ノンノン!と美人さん。

 

「あの駅は観光の人、よく迷います!タクシー乗る人多いから、荷物持ってない貴方もそうだと思いました!」

「ホー……それはそれは。素晴らしい観察眼ですね。…………ところで、アメリカでは日本語の文法とイントネーションおかしくなかったのに、なんで日本に来たらそんなことに?」

「oh......」

 

  痛い所を突いたらしい。ペラペラ喋ってた日本語が、なんか下手になってたら誰だって気になる。すると美人さん、困り顔。キリッとした眉を下げると、オーバーなほど顔文字の困り顔みたいになる。

 

「普段の口調で日本語使うと、ワタシ少し、語調が強くなります。先生やる時、生徒怖がらせるの良くないですね」

「なるほど? そっか、無事先生になられたんですね」

 

 そういえばそうだったかな?命令口調は零くんに良くされていたもので、美人は女王気質な人もいるしそういうもんだと。妃さんや朋子さんとかもめっちゃ口調強いよね。

 

「かわいらしくてとても良いと思います。でも、先生がゲーセンなんて大丈夫なんですか?」

「……ここは職場から離れてます。だから、良くここに来てますが、生徒にも教師にもあってません。穴場スポットです」

「なるほど」

 

 そりゃ良いこった。

 

 そんな雑談をしていると、周りの声がざわつきはじめた。見れば、店の入口に待ち人来たれり、である。

 

 格好から入るタイプなのか、ミリタリーな服で身を包んだ小太りな男性と、後ろに2人、これもまた味のある、何かに熱中していそうな趣味一辺倒そうな男性達。見るからに、ヲタク。

 

 ニヤニヤと笑いながら、筐体の前に陣取り、高らかに宣言し始め、それに周りのギャラリーが盛り上がっていくのを美人が目を白黒させて戸惑っている。

 

「これから道場破りが始まるんですよ。彼らは、ここの筐体のランキングデータを塗り替えに来たんです」

「oh!それは大変ですね、ワタシの記録、塗り替えられちゃいます」

 

 さっきの腕からして、この人結構上位にいるのか。

 見れば待機画面に流れる、今月のランキング上位にズラっと同じ名前。あんだけ並ぶのはちょっと引く。……JSO。なんて読むんだろうか。じぇ……じゅ…呪詛?えっ怖っ。

 

「あのJSOがワタシです!今月ようやく1位取れました!」

「あー……」

 

 素直にジェイ、エス、オーで良いらしい。

 頑張ったようだけれど、あれは塗り替えられてしまうかも。

 

 切り替わり、次のランキング。こちらもズラっと同じ名前が疎らに入り、一番上は……うん、良かった。まだ変わってない。

 

「“M45”……スコア、スゴいです。アレがこの店最高の人ですか?」

「そうなりますね。彼らはアレに挑みに来たんですが……」

 

 ハハハ、新しいスコア見て驚いてら。

 偵察に来てた先週より、上げときましたよっと。

 

 

 ■

 

 “M45”はすばる……ことプレアデス星団の別の呼名だ。

 そんなわけで、ゲームのアカウント名として、私がよく使っている。

 78じゃないよ。光の国でも良かったけども。

 

 で。

 

 アメリカで出会ったこの美人、ジョディさん。わざわざこういうゲーセンのアーケードゲームをやる為に、職場に日本を選んで、日本に来ているとまで言ってのけた。

 人は見た目に寄らないな。こんなにくーるびゅーてぃー()な見た目なのに、明るくて茶目っ気がある。

 ……にしても、ちょっと露出多くないですか?高校教師がこれで勤まるの?いたいけなエロガキ共を惑わせてない?

 

 今、目の前ではおじさんが銃型コントローラーをクルクルとかっこよく動かして、画面の中の敵を次々に撃ち抜いている。

 その派手なパフォーマンスにギャラリーは盛り上がっているし、横のジョディさんもキャッキャと手を叩いて喜んでいる様子。

 でも扱いは乱暴だし足元は必要無いのにドタバタと踏み締めてるし、素直に言うなら道場破りというか、これは筐体壊しに来たんか?ってくらいの八つ当たりだ。

 私はそんなに上げてないぞ、スコア。ギリギリ勝負狙うくらいなら、大幅更新狙えよな。

 そんな冷静さを欠いてはあたるものもあたらんだろうに。

 あーあー、ダメージ受けて弾取り損ねた。ラスト前のラッシュで倒せる敵の数が減るって意味だ。

 ジョディさんは楽しそうではあるけれど、この調子だと自分の記録も抜かされなさそうで喜んでいるのか、こんなもんかとやや嘲笑混じりな気もする。アメリカ人そういうとこ良くない。

 ……ごめん、人種関係ないわ。普通にゲーマーの人達そういう連中多いわ。マジでごめん。なんなら私もそう。現にあのおじさんの努力をあざ笑ってしまった。

 

 …………呼び出しメールの文面思い出したら別に笑っても良い気がしてきたな。

 はは、愉快愉快。

 

「あの人、どうしてあんなに焦ってるのですか?」

「あれは大口叩いた挙句あの体たらくなもんで、周りから指さして笑われるのが怖くて躍起になっているんです」

 

 新一くんも良く言ってるし、零くんも良く言ってる。冷静、慎重、焦りは最大のトラップ。

 さては煽り耐性無いな、おじさんってば。

 ああ、周りからのヒソヒソ声まで耳に聞こえてしまったのか、また些細なミスを。

 

「この調子なら、きっとジョディさんの記録も大丈夫でしょうね」

 

 

 

 結果的には、まぁまぁスコアは稼いだものの、道場破りには程遠く。ギャラリー集めてこれなんて、なんで遠征しに来たんだ?そんなに東都の米花市は甘くないぞ。

 巻き込まれるか死ぬ前に早く帰るがいい。

 

 

 3人のおじさん達が肩を落としてお立ち台を降りた。ここをホームにしているギャラリーやプレイヤー達はみんなで野次を飛ばしている。ゲーマーこういうのよくないと思う。文化……文化とはいえ……仕方ないけど…………煽りはやっぱり、マナーが悪いって。……………………テンション上がるとやっちゃうのもわかる………………ぐぅ……良くないってぇ…………

 

 しかも、私がおじさん達慰めるべく一声かけたらそれでも周りが盛り上がって、おじさん達は顔真っ赤にする。私は慰めただけなのに。

 今のは煽りじゃないよ!!

 

 案の定、「だったらテメェの腕を見せてみろ!」と言われるに至る。

 

 やぶさかでもないけれど、こうも盛り上がっているところで私のプレイング、似つかわしくないんだが。

 

 でもジョディさんもキラキラした目で見てくる。

 

 美人に期待されちゃぁね、やるしかないわけですよ。

 

 

 とはいえ今月まだ一度もやってないので、肩慣らししておきたい。

 周囲のギャラリーに、一回だけお試しさせてもらって良いかと了承を取る。

 お願いしますだぁよ。文句あっか?ねぇよな?いないね。よし。

 

 でまぁ、別になんのパフォーマンスもしないで出てきた敵をパカパカ撃つだけの簡単な作業。

 何にも危なげなく、ノーダメパーフェクトでフィニッシュ。今日もちゃんと調子は良いらしい。

 なんのパフォーマンスもしないから、ギャラリーも特に盛り上がってはいない。せいぜい右手、左手、両手撃ちでそれぞれ試し撃ちしてたくらい?

 つまらんくてすまんね。

 

 ここは2回まで連続プレイ可能なので、難易度をひとつ上げて次を始める。

 敵の眉間にセンサーを向けて、引き金を引く。Excellentの文字が光る。繰り返す。それだけだ。

 

 こういう時、“沖矢 昴(わたしのからだ)”すげえなぁって思う。

 

 そりゃもちろんかなり集中するし疲れるけれど、大体はちゃんとあたる(・・・)予感がする。ハワイで工藤氏に連れられてパカパカ撃った時には、思ってた所と違う所に当たってしまっていた。筋力が圧倒的に足りなかった。

 

 でもこれはゲーム。

 

 センサーを合わせて引き金を引けば、それだけでターゲットは撃ち抜ける。

 “私”はゲームは好きで得意ではあったけれど、ここまで楽にクリアできた覚えはない。

 

 なら、これがこの体のスペックなんだろう。

 

 最近は体力も充分付いたし、筋トレした方がいいかしら。零くんに言ったら付き合ってくれるだろうか。

 

 

 2ゲーム目も無事パーフェクト。後ろに人の気配はあるのに静かだ。

 つまらんくてごめんね!会場ひえひえ!

 

 このゲームやる人、みんな各々好き勝手に動き付けてるから見栄えするのに、私がそれをしないもんでおもんなくなっちゃったか。

 そりゃ見てて面白いもののほうが楽しいよな。

 動き…付けてもいいけど、無駄に疲れるじゃん。

 あと素直に恥ずかしい。

 

 今回はランダム出現の乱数が良い感じで、当たりが良かった。今月の記録は抜かせる気がする。

 

 ドヤ顔で振り返ったら、ジョディさんてばすごい驚いた顔で。おじさん達は青ざめておられて。

 

 なんやねん、やって見せろと言ったのはそっちだろうに。

 

 




でも中身がだめらしい。


読んでいただきありがとうございました!
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