昴くんはなにもしない 作:あまも
初期って結構まだ気が抜けてたりうっかりやらかす回数多かったですね。
誤字報告ありがとうございます!
閲覧ありがとうございます!
景光くん怪しくね?問題、一番手っ取り早い解決法が、あるにはあったんだよな。
それすなわち……
「おぉ! みっちゃんくん!久しぶりじゃのお!」
「博士〜!お久しぶりです!博士もお元気そうでなによりです!」
キャッキャキャッキャのえへへのへで、ハグし合うのは太めな中年とアラサーの男性。言葉だけならむさ苦しいが、実物見てると可愛げを感じるのは彼らの人柄のなせる技か。
あれ私がやってもなんか……あんな可愛くならんよな。
それをむすくれた様子で眺める新一くん。ご不満かね。
かわいいだろ。あれ私の養父と友人。
「アンタ……ほんっっっとに…………」
俯いてプルプル震え出した。これは噴火の兆し。防御態勢!(しゃがんで手のひらを前に出す)
「ハカセの知り合いなら最初にそう言えむぐっ」
見事に拳振り上げて飛び込んできたので、そのままキャッチ。腹に抱えて押さえ込んで、立ち上がりグルグル回っていると、じたばたとフリースタイルにブラブラした足が暴れている。
ふはは、床に届かないの?小さいねぇ新一くんたら。
あっ、ちょっ、脇腹の皮を摘むな、捻るな、イテテテテ
「このっ!このっ!アンタホント、ふざけんなよ!バーローッ!」
「はは、仔犬が吠えよるわ」
「あ゛ぁ?!」
「あっ、すいません心の声が」
いてててて、つねるな、つねるなっての。
腹の皮が破けちゃうでしょうが!(ガチ)
■
どう説明したのやら、新一くんは景光くんを信用することにしたらしい。頑張った!と胸を張って鼻を鳴らした景光くんに、私も零くんも拍手喝采を捧げた。
つまるところ、私の件があったために景光くんも零くんも、幼い頃から阿笠博士と面識があるのだ。
阿笠さんは彼らが警察官を目指していた将来有望な学生だった事を知っていて、警察学校を卒業した事も知っている。
そしてそれは工藤氏も同じく。
それを言い出したのは景光くんだった。
景光くんは、新一くんの信頼を保証する担保となる答えを持っていたのである。
…………というか私も零くんもそれを知っていたのに、完全に頭から抜けてたんだよな。
零くんは仕事についてからこちらと接点がないから、思い浮かばなくても仕方ないかもしれないが、私が思い付かないのはホント……
なんで思いつかなかったんだろう?
景光くん、こと小林くんは、新一くんと目線を合わせるべく片膝着いてしゃがみ、眉を下げて見せた。スポーツサングラスは今は頭の上で、髪の毛を耳に引っ掛けているため素顔がさらけ出されている。
「ごめんな、江戸川くん。本当は写真とか卒アルとかあれば良かったんだけど、ハルに頼んで全部処分してもらったから、昔のものは何も残ってなくてさ」
「そんな……いいよ、小林さん。博士もスバルさんも、あなたと昔からの知り合いだったなら間違いないよ。オレの父さんとも知り合いなんでしょ?」
「ああ。工藤先生にはよくしてもらってる。実はライターの仕事は工藤先生からもらったんだ」
「そっか。……ごめんなさい、あなたを疑ってしまって」
「いいって。俺みたいな怪しいヤツが周りにいたら、心配になるのは俺も同じだよ」
2人の間には和解ムードが溢れている。
いやぁ良かった。味方同士で疑い合うとか時間の無駄だからね。
一方で。
離れた所から視線を投げ続けているそちらへ、そそそと近寄る。
日々の努力の成果か、私が近づいても逃げなくなってきてくれて嬉しいけれど、これは信頼とかではなく、彼女の妥協の範囲だろう。
ここから私が手を伸ばそうとしたら、たぶん逃げる。
お触りは厳禁ですか、そうですか。
カウンターの丸椅子に座る彼女の横にちょんとしゃがむと、キィと体の向きをカウンターに向けて回した。回したが、それだけだった。
よしよし、ちょっとだけ、歩み寄りを感じる。
「苦手ですか?彼」
「苦手というか……不思議だわ…。彼、組織に潜入していた捜査官って本当なの?」
「ええ、コードネームまで貰った幹部級ですよ。疑問の理由を聞いても?」
新一くんから説明を受け、阿笠さんからの保証も確かに、私からの必要かはわからないけど長野出身の情報を引っ提げて、小林くんは灰原さんと対面した。
同じく組織から逃げた者同士、何かあるかなと思ったが……
協力していこうと手を差し伸べた小林くんに、灰原さんはそう……と短い返事だけして離れて、この席に来てしまった。
それで、小林くんは新一くんの方に向かったわけだが。
「……彼、匂いが無いのよ…」
「匂い?」
「組織の者には、特有の“匂い”があるの。どんな末端の者でも、必ずある。幼い頃から組織に所属していた私は、なんとなくだけどそれを感じ取れるの…」
これ実際の臭気的な意味じゃなくて、第六感的な話?
気配とか、雰囲気みたいな話だろうか。
「それが、彼には無いと?」
「ええ……彼、抜けたのは2年前って話だけど、たったそれだけでここまで薄くなるものなの?」
ふむ……
その“匂い”ってのがよくわからないけど、例えばここにあむぴを呼んだりしたら、バーボンモードでのみ、その匂いを感じるのか、降谷零になっても感じるのか、興味あるな。
ま、試してみればよかろうもん。
「小林くん!」
「お?どうした?ハル」
にこにことした小林くん……景光くんが振り返ってこちらを見てくれる。さて、これは景光くんだ。小林くんはニュートラル景光くんとほぼ同じ、と。
零くんにバーボンっぽくなってもらう時、バーボンやって〜って言うと機嫌が良い時はやってくれるけど、あんなに簡単にスイッチオンで変えられるものなんだろうか。あれは零くん特有なんだろうか。
というわけで。
「仕事を頼みたいんです――スコッチ」
「――お、なんだ?簡単な仕事だといいんだが」
ガッタンと、隣から大きな音。そして背中に震える温もり。
なんとなんと。これはこれは。
「……あ、もしかしてこれダメなやつか。OK、了解。今後気を付けるよ」
いち早く事態に気付いたスコッチ?が、瞬きひとつで景光くんに戻った。小林くんか?零くんほどわかりやすくない。
というか、素人目には何もわからないな。阿笠さんも何が起きたかわかってない。新一くんだけは、辛うじて小林くんの方を見て、1歩引いているところを見るに、灰原さんの言う“匂い”とやらの片鱗を感じたらしい。
いや、違うかな。表情も行動も、声色も何も変わっていないのに、小林くんの“何か”が変わったのを感じたんだろう。
で、その変化を最も大きく感じ取った彼女。
しゃがむ私の背中にしがみつき、呼吸も荒く、羽織を掴む指は震えている。
なるほどなるほど。
これは問題だ。
「……灰原さん。大丈夫、小林くんはもう気配を消してくれましたよ。……ここは安全になりました。大丈夫です。……新一くんも阿笠さんもいます。だいじょうぶ。……深呼吸してみましょうか。ゆっくり、息を吸えるタイミングを探して。大丈夫、大丈夫です。呼吸に集中してみましょう。ゆっくり、ゆーっくり……」
私、人を安心させるのなんて苦手なんだが。組織関係者が来ると突然こうなるのか……いや、困るな。
荒い呼吸が落ち着くのを待つ。どうせその匂いとやらはもう無いはずだし、彼女は優秀なのだから、ほっといても勝手に持ち直してはくれるだろうけど……まぁ、縋られてしまっては振り払うのもかわいそうだ。
つとめてゆっくりとしゃべり、自分も呼吸をゆっくりと、わざと大きく肩を動かして、掴まれている手も動くくらい、タイミングをわかりやすく。深呼吸深呼吸。ラジオ体操よりもゆっくり、腹式呼吸よりもゆっくり。
懐かしい〜昔の景光くん思い出すわぁ。
徐々に呼吸がゆっくり、私の深呼吸に合わせて落ち着いてきた。これで合ってたらしい。そりゃよかった。
首だけ振り返って見ると、やや青ざめた灰原さんがこっちを見ていた。目と目が合って、それですぐに灰原さんは手を離し、カウンターの裏に引っ込んでしまう。
野生動物か何か?
……すぐに引っ込めるカウンターがあったのに、その道中の邪魔な私の背後で妥協したのか。
それは……判断に困るな。
「大丈夫ですか?」
「…………ええ、ごめんなさい」
「いえ。今起きただけ、街中で突然始まるより余程いいでしょう」
こうなる事を知らずに、突然組織の方々とすれ違ったりしただけでこんなことになっていたら、同行者は困りものだろうに。厄介なことで。
「小林くん。新一くん。阿笠さん」
遠巻きに心配そうな様子の3人を呼び寄せる。カウンター裏でまだしゃがみこんでる灰原さんもそのままに、お湯を沸かす用意を始めた。うん、コーヒーでも淹れるか。
足元から、疑問と不安の混じった目線。
いや、無理だよ私には。人を安心させるのは私ではなく、この3人みたいな人達だからね。頼るならそっちでお願いしたく。
うむむ……別にどこでこうなろうと構いやしないけど、これは本当に厄介な問題だ。反応があまりに過剰過ぎる。
「彼が組織にいた事がある、というのはおわかりいただけました?」
「…………ええ」
「もー、ハル。ちょっと乱暴過ぎるだろあれは。事前に言っといてくれないと」
「乱暴にしたのは小林くんでしょう。事前に言ってたら強弱とかできたんですか?」
「え、どうだろ。できるのかな……」
「やらないでくださいね」
「おっと。うん、うん」
「……今は全然“匂い”を感じない…さっきのはなんだったの……?」
サイフォンに豆を入れながら小林くんと言い合いをしていると、灰原さんがゆるゆると立ち上がった。
「小林くん、さっきのやつの説明よろしくお願いします」
「え?うん。……あれは組織で仕事やってた頃の自分を思い出しながら返事したんだ」
「それだけで?」
「んー……顔つきや声色とか目線とか……ひと言で“雰囲気”ってまとめて言ってしまっても良いけど、心構えとかは違うから、それが少しでも表に出るとそうなるのかも」
自分の頬をもにもにと揉み込み、「顔怖かったか?ごめんな哀ちゃん」なんて笑っている。
私も阿笠さんも、見た目だけではそう言うほど顔も声も変化は無かったよなと首を傾げる羽目になった。鈍感である。こういうところがポンである。
「でも、そうだな。こうやって気配を隠せる奴もいるし、
にこりと、人を安心させる笑顔を見せてウインクを灰原さんに投げかけている。
灰原さんはそれを避けるように、私の後ろを通って博士側のカウンター席に着いた。
やーい、嫌われてやんの。
私が景光くんを揶揄すべく指差したら、素早くその指を握られて、ぎちりと一瞬折れたかと思うような強さで握られて離された。
痛えと口から出る前にもう離された……何その技術……
なんだよ、機械使ってって、私や新一くんのことか? あともしかして小林くんも“匂い”わかるの?
「本当に優秀な人だったんだね、小林さん。なのになんでNOCだとバレてしまったの?」
新一くんの疑問。あれ?それ話してないんだ?
「俺のミスもあったんだけど、簡単に言えば警察とのやり取りが見つかっちゃったりしちゃったりして、かな。
……だからホント、盗聴とか盗撮には気を付けろよ、キミたち」
おお。簡単にまとめて別の話にすり替えた。
明言せずになんとなくで、(ああこの人盗聴されてバレたんだ……)みたいな察した空気が3人に漂っている。
「ちなみに今、実際盗聴器つけて動かしていても何も感じてないと思うので、基本的に身の回りの物や不意に誰かに触れられた時にはそれとなく確認してみるか、離れてからしっかり確認する事をオススメしますよ」
新一くんの方を見ながら襟を示してやると、彼は慌てて自分の襟を触り、そこに貼られたシール型盗聴器を発見。
あと灰原さんはスリッパ裏で、阿笠さんはズボンのポケットの中と手元の調味料の小瓶の底である。
小林くんには服の裾に付けた直後に何故かバレて3秒くらい真意を探るように見つめられたし、後で逆に2個付け返された。いつ返されたかわからない。何故オマケもついてきてるのか。
驚愕のまま、シールを返してくれる3人。今回は録音もしてないし聴いてもいないけど、知らない間にいつの間に!はよくあるからな……
これに関しては私は仕掛けられる側のプロである。……悲しいことだよ。
「いつの間に……」
「私のような素人でもこれくらい出来てしまうんです。本職の方なんてもっとわかりにくいですからね。気疲れするかもしれませんが、油断は禁物です。くれぐれも気をつけてください」
「バレないように仕掛ける方法なんてたくさんあるからなぁ」
本職の方が悪ノリしてそんなことを言うもんだから、灰原さんは席を1つ移動した。よしよし、あったかいカフェオレをあげようね。阿笠さんもどうぞどうぞ。
キラキラした目の新一くんが、小林くんの袖を引く。
「ね、小林さん。そういう仕掛け方とか教えてくれないか?」
「ん?……それは『盗聴器仕掛けたい』って意味?」
元とはいえ警察官によくそんなことを言えるな。怖くない?逆に尊敬する。
「ううん。仕掛けられ方がわかるでしょ?」
「ああ……いやでも、教えるのは流石にマズイかな」
おや、渋るのかそこ。てっきり、すぐに教えてあげるかなと思ったのに。
「でも勝手に覚えられちゃったら仕方ないよな。どうする?」
「…………灰原には止めてあげてね」
「あはは!OK、了解した」
………………今、2人の間で、目線でのやり取りが何かあったな。職人でよく聞く、『俺のワザは見て覚えろ!』みたいな事?
新一くんは盗聴器への警戒方法を学んで、小林くんは彼の普段行動中に何やらかすか、確認のための盗聴を、本人に仕掛けるならば良いよと許可を得たって事か?
私の軽い思いつきが利用されてる……
でも正直、協力体制が出来たなら新一くんの事件ホイホイ率はとんでもないから、景光くん……じゃないや、小林くんが駆け付けるためにも彼のピンチを察せる情報源は多い方がいい。
にこにこ笑顔同士の新一くんと小林くん。
ちなみに今、小林くんは手のひらに隠して指にシールを用意している。私がコーヒーを出してそちらに新一くんの注意が向いた時に仕掛けるつもりだろう。
この世界に心休まる時などないのか……!
つくづく思うのは……阿笠博士、こんな超小型発信機兼盗聴器なんて、なんてものを作ってしまったんだ。
これ更に徐々に小型化されてくってマジ?
そうだ。彼も巻き込めるなら、私たちの持ってた探偵バッジも改めて、正式に作り直して貰おうか。同じものにした方が色々便利だろ。
︎︎ジャンジャン使い倒して差し上げるのでね。覚悟の準備をしといてくださいね景光くん。
はてさていやはや。……2人が変に拗れなくて、本当に良かった。
彼でこれなら、零くんも大丈夫じゃない?
なんて私は思うのだけど、景光くんにも零くんにも頑なに『俺(ゼロ)のことは喋るな』って言われてしまっている。
察するような手がかりすらも言ってはいけないらしい。
何か動きがあったのかね?
なんか景光くん曰く、『公安としては灰原さんの存在がね……』と考え込んでからのそれだったので、まぁ、何かあるのかもしれない。
あっちを片せばこっちが荒れるなぁもう!
気付いたら原作コナンくん、あの小さいシールを走り去るバイクに貼り付けたり仕掛けられた盗聴器を利用したりとかえげつないことするようになってたので、これはテコ入れや強化フラグではないですね。だよね、ノアズ·アーク。
感想ありがとうございます。
読んでいただきありがとうございました!