昴くんはなにもしない   作:あまも

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性別をあまり気にせず書いていますが、楽なヤツらとつるむのが一番楽しい、そんな彼です

閲覧ありがとうございます!




19-2:冗談と孫

 

 

 

 

 

 ケーブル握り締めてロッジへの帰路に着くまで、土井塔さんと色々な話をした。

 

 どうも疑われているというより、これは私は何者なのかを調べたがっているような、そんな雰囲気だった。

 

 前回のクリーニング屋で、私の事を知ったんじゃないのか?

 

 ……いや、そうか、あの時の私は美人対応で頑張っていたし、結果的には景光くんに正体がバレてしまっていたのだっけ。

 その上で、何が違かったかを確認したくて?

 

 ……ってわけでもなさそう。

 

 

 しかして。

 

 調べられたら調べ返して良いのだよね?と、答えながらそっくりそのまま聞き返したりしていたわけである。

 

 

 だって、聞かれたからには素直に答えたところで隠すものもない今回に関しては私にはなんのデメリットも無い話だし……それに素直に答えられない方が怪しいものね。

 

 と、気合い入れてレスバするつもりで向かっていったのだけど、これが土井塔さんたらほとんど隠すことなく素直に答えてくれてしまって、拍子抜けしてしまうほどだった。

 

 ……どうも、私があんまりにも素直に答えるせいであちらも拍子抜けな顔してたから……これお互いに今回、何も対立する事なく目的を同じとするものじゃないかと結論が出てしまった感じがある。

 

 

 何故参加したのか。

 知人のマジシャン、真田一三からの依頼で春井風伝の脱出マジックの失敗について調べていたら、その失敗に向けた不謹慎なコメントを見つけてしまって、どうもそれを咎め(・・)ようとする人がいるのではないかと予感がしたので。

 

 手品や奇術への想いはどのようなものか。

 どのマジシャンへも、その努力と技術、そして情熱を評価したい。私はそのタネやトリックを気にせず、楽しく見るタイプだから、見てるのはかなり好き。それっぽいトークより、コミカルで面白い方が好み。

 ちなみに1番好きだった手品師は黒羽盗一で、最近応援してるのは真田一三。顔が好み。トークじゃないのかいと笑われた。

 

 何故1台だけ車を離して停めたのか。

 万が一にも爆破やパンクされては困る。だからわざわざビニールシートで覆って放置車両みたいな顔させてる。変な積雪されるのも嫌だしね。

 三船くんが山奥で車パンクさせられたって聞いて、なりふり構わない犯人はなんて恐ろしいことをするもんだと。

 

 …………そんな質問を、こちらも答えながら同じく質問で返したところ。

 春井風伝のアカウントだった『イカサマ童子』が、彼が亡くなったあとも稼働していた事に疑問を抱いたのだと。

 上手く真似てはいるけど女性の気配のするコメントに変わり、誰が何のために成りすましているのか確かめるべく様子を見に来た。ここまでは知人に送ってもらったため、彼の車は無い。とまぁ。

 

「『春井奇術団』に春井さんの孫娘さんがいたはずだけど、沖矢さんは調べたかい?」

「ええ、顔写真の公開されてはいませんでしたが、名前は確認したので所属はしているようでした。手品のアマチュア大会で『田中貴久恵』さんは出ていた記録が。『春井奇術団』のやりとりの様子も確認しましたが、あちらはそれほど過激なことになってはいなかったですね」

「やっぱり、彼があの脱出マジックを行うに至った原因の、こっちの掲示板が重要か」

 

 「となれば?」

 「決定打はあの2人のコメントだよねぇー?」

 

 

 どうも、結論は同じらしい。雪道で土井塔さんと頷き合う。

 結局、2人からの返事が見れなかった。西山務、生きてるかな……怪しいよな…………

 おお、寒い寒い。マフラー持ってくるんだった。ほっかむりでも良い。

 ダサいか……

 

 新一くんや友人が居ない私には、結果は想像出来ても過程がわからないし、途中で止めることも出来ない。助っ人は大事。

 ここで目的が同じらしい人を見つけることが出来たのは良い事だし、きっと彼もそう思ってくれてるはず。

 憂いだけは取り除いておくか?

 

 

「そういえば土井塔さん」

「ん?なんだい?」

「“どいとうかつき”ってひらがなで書くと、結構簡単に答えが見えてしまうと思うんですけど他に名前無かったんですか?」

「……なんのこと?」

「でも確かに“ど”の扱いが難しいですよね。なんでこの間の“瀬戸瑞紀(せとみずき)”みたいな関係ない名前にしなかったんですか?」

 

「……誰のことを言ってるの?」

 

 不思議そうに、苦笑しながら首を傾げられた。

 ありゃ。今は明かす事じゃないらしい。失敗したかな。

 

「そうですか?……そうですか。すいません、勘違いみたいで」

「……そういう沖矢さんも。ずいぶんと鈴木ちゃん(・・・・・)や、警察の人と親しいようじゃないですか。それに、真田さんから依頼されてって……本当にただの大学院生?」

「ただの大学院生ではあるんですよ?」

 

 ちょっと知人に天才が多いだけの。そして真田くんからの頼みは依頼というか頼み事の範疇だ。

 

 

 けれど聞くだけ聞いて、断言はしてこない。私が警察の……公安の協力者だと、情報だけでもパーツは集まってそうだが。

 

 なるほど、お互い知らぬ顔で行きましょうと言う事ね。

 了解だ。

 

 

 

 ■

 

 夕飯をみんなで食べ終わり、未だ来ない『脱出王』と『影法師』に連絡を取ろうと固定電話に向かった浜野さんの後ろで、蘭ちゃんが、何かに気付いて外に向かう。

 浜野さんの電話も気になるけど、こういう時の蘭ちゃんの勘は捨て置けないので蘭ちゃんについていくと……

 玄関先の雪の中に小さな新一くんが倒れていた。

 

 酷い熱である。

 

 

 

 なんでこっちにいるの????????

 

 

 

 譫言の中、何度も「早くここから逃げろ」と呟いて、気を失った新一くん。なんでそんなに無茶したの??

 …………何かがあったことを、私たちに報せる必要があったって事だよな。

 

 蘭ちゃんと園子さん、そして土井塔さんが新一くんの様子を見てくれるようなので、私は急いで上着を着て橋の様子を見に行くことに。こりゃ……色々既に起きてしまってるらしいからな。

 

 園子さんが付いてこようとしていたけれど、押し留めて、いち早く懐中電灯を片手に来てくれた須鎌さんと、私は両手にケータイとスマホのライトの灯りを頼りに2人で橋を見に行き……ほとんど炭と化した橋の支柱を見るに至る。

 

 ……いつ燃やしたんだこれ!

 

 私と土井塔さんで戻る時、ちゃんと左右の森の中まで目視と耳で確認しながら、誰とも擦れ違わずに戻って夕飯ギリギリだったのに……

 携帯は、こちら側では圏外表示。

 こうして橋を落としたとなれば、既に固定電話の電話線もやられてるだろう。

 

 はい孤立完了、と。

 

 

 

「……これは……」

 

 須鎌さんが崖上から下の川を覗き込む。すっかり橋は燃えおちてしまい、何も残ってはいない。

 

「よくある展開じゃないですか。山奥の人気(ひとけ)のない孤立したロッジ、唯一の道が断絶、連絡も繋がらず、集まった人々は一夜を過ごす……」

「…………殺人事件の冒頭ですね……」

 

 おっ、須鎌さんたら気が合うね。そういうの読むんだ?

 

「そんな作り話みたいなことが……ありえますかね……」

「有り得ますよ。作り話になるくらいなんですから…エックシ!……うー寒……とりあえず戻りましょう。崖上寒過ぎる……」

 

 須鎌さんに照らして貰いながら携帯の写メで落ちた橋の証拠写真を撮り、ロッジへ戻る。

 

 須鎌さんたら、ずいぶん落ち着いてるねぇ。こういうの初めてじゃない感じ?

 

 

 戻ると、土井塔さんが新一くんの容態を診ていてくれた。

 解熱剤でなんとかなりそう?大丈夫?お前医者としての知識実際のところはほとんど無い素人だろ?医大生を名乗ったからには信じるからね?

 

 でも常備薬くれたのは助かる。ありがとう。

 

 

 

 電話は通じず、ボードリーダーの『脱出王』は何をしてるやら。……ここまでくると亡くなってそうだ。西山さんの確認に行ってくれた景光くんが、新一くんに連絡してくれた説もある。

 ……うん、充分ありえるな。

 

 

 状況を見ると、このロッジが孤立している危機的な状況だというのに、いない彼の代わりに臨時の仮リーダーを決めよう、なんてのんきな話になった。

 船頭多くして船山に登る。1人のリーダーを決めるのは大事では……あるけども。

 

 もうめんどくさいから荒さんか土井塔さんでええやんと思ってたのに浜野さんがマジック風で決めるなどと言い出し。

 

 あーもう、面倒な。ジャンケンで良いじゃないか。たぶん土井塔さんが勝つだろうに!

 

 

 しかも浜野さんたら、助手に園子さんを指名しようとしていたので、お前のようなチャラくてこの後殺されそうな筆頭の男に鈴木のご令嬢を任せたら後で史郎さんと小五郎さんから私がめちゃくちゃ睨まれること間違いなし。

 

 当然ここはインターセプト。

 

 ああ?目隠しだと?よかろう。

 

 栄えある助手の座を奪われた園子さんは不満げ。

 

 

 でも私、小五郎さんに君たちのこと頼まれてるから許して……これも年長者の責務なのである。

 

 

 後で土井塔さんから手品でも見せてもらってくださいよ。頼んどくから。

 

 

 

 眼鏡を外して襟に引っ掛けて、指示通りに渡された紙束とペンで適当に〇印から描こうとしたが、いざと紙に触れたペン先の、この書き味、耳障りな音……そしてノアズ・アークの『そのペン、インクが無いみたい』の声。

 

「これインク無いみたいですね。別のペンはありませんか?」

 

「えっ?」

 

 今の驚きの声は田中さんかな?

 

 皆が不思議に思うより早く、すかさず浜野さんが「ゴメンゴメン」と言いながら紙を回収、土井塔さんらしき気配が近付いて、手入れのされたいい手触りの手が私の手元にペンらしきものを握らせてくれて、改めて皆の視線を私の手元から離し、紙を握らされた。

 

 ……うん、女性の手は今無かった……はず……

 

 あー……いや待て、これ……そういう…………

 

 

 …………とりあえず描くか、印。

 

 

『あ。……そういうこと?』

 

 ノアズ・アークも気付いたらしい。

 

 

 

 でまぁ。〇✕△、印が描いてある紙がこちらに、色の違う同じ形が2枚ずつ。

 

『ごめんなさい。あれ、マジックのタネだったんだね』

「ねー……」

 

 

 やっちまった。

 

 

 結果、浜野さんのマジックを見事にぶっ壊した事になり、罰としてリーダーに任命されてしまった。

 〇を自分の名前の紙に描いてたってのもある。

 引きが強すぎたか……

 

 代わりに、マジックに失敗した2人にはそれぞれサクラの田中さんに風呂炊き、浜野さんには宴会部長の任命。渋々外と部屋にそれぞれ向かおうとする2人を一旦引き留める。

 ……これ大丈夫か?

 元から彼らのマジックの結果でもそうなる予定で、田中さん自ら「失敗をしてしまったから」と進んでやりに来たのを鑑みるに……

 

 横目で土井塔さんを見る。土井塔さんてば絶対タネ分かってただろうに、何もいわないんだもの。私にペン渡す時に紙見ただろ。

 

 

 よし、罰として土井塔さんには宴会係長を任命!どうせアンタならちょちょいのちょいで軽いマジック出来るんでしょ。ちゃんと紙にはバツ印も私つけてたし。

 ちょっと浜野さんと一緒にネタ考えて来てもろて。いや渋るなよ。

 責任もって見ててやってくださいよ。

 

 土井塔さんと浜野さん、焚くなら早めに、と主張する田中さんを送り出す。

 

 これでひとまず、か。

 

 サクラのつけた〇のついた黒田さんにサブリーダーを任せて、テーブルのセッティングを監督してもらい、荒さんはワインを取りに、須鎌さんはおつまみを作りに。

 

 私が△付けてた園子さんには、田中さんがちゃんと風呂焚けてるか見てきてから蘭ちゃんを呼びに行ってもらおうかと……おもったら、新一くんが息を切らせて駆け下りてきた。

 お前、寝てろよ。病人やろがい。

 しかも、蘭ちゃんから熱冷ましの相談を受けて途中で浜野さんと別れていた、その蘭ちゃんと土井塔さんが後を追ってきてしまっている。

 

 おい、浜野さんがフリースタイルじゃないか。

 

 

 しかし新一くん曰く、一刻も早く蘭ちゃんや皆に伝えたかった話があると。

 

 『脱出王』こと西山さんは既に都内の自宅で亡くなっており、ここに来ることは無いし、「まずは1人目」と『影法師』からのメッセージが残されていたとの情報を教えてくれた。

 

 そんな呼吸荒く辛い様子で……無茶をする。大人しく寝ていなさいな。せめてもっと厚着しなさい。

 

 

 ……………………そうか、やっぱり既にひと仕事してしまった後なのか……

 

 

 怖がった様子の女性陣。

 私は宴会部長の浜野さんの様子を見にね。行こうとしたんですがね。

 園子さんにサボりだと指摘されてしまい、リーダーなら黒田さんとのテーブルセッティングを責任もってやれと……ご命令を……

 

 

 いいや!サボるね!!

 

 今は飲み会とかそんなどうでも良いんだよ、事件はとっくに起きているんだから。

 

 浜野さんの所に!レッツラゴ〜!

 

 

 たぶんそろそろ殺されてる!!

 

 

 ■

 

 

 

 案の定。

 

 反抗した私に「なんなの!」とわけも分からずに着いてきた園子さんと、私と同じく襲われるなら今だと考えた土井塔さんとフラフラなのに無理してスタートダッシュキメた新一くん、新一くんを心配した蘭ちゃん、張り切って仕事ほっぽり出してきた私たちに興味を持ったみんなで、浜野さんの部屋へ凸。

 

 アイサツ無しで前触れなしに勢いよく扉を開ける(マイルドダイナミックエントリー)した所、田中さんが浜野さんの首に巻いた縄を全力で引いている姿勢で固まってこちらを驚愕の表情で見ていた。

 

 

 はい現行犯!!!

 

 

 風のように私の横から飛び出した土井塔さんが、ふわりと軽い身のこなしで田中さんの懐にそのずんぐり丸い体を潜り込ませると、腕を絡め取り、捻るようにして彼女をベッドへと投げ込んで、浜野さんから離す。

 

 私はすかさずベッドにうつ伏せに投げ込まれた彼女の上に乗って、腰と背中、両肩を押さえた。指先で手首引っ掻かれるしめっちゃ背中蹴られる。いてててて大人しくしてくれませんかねぇ!

 

 誰か早く彼女の膝裏押さえてくれませんかねぇ!私の背中の青アザが増える前に!

 

 

「いでで…残念ですがここで終わりです、『影法師』。決定的瞬間を目撃した者は多い。あなたが逃げることはできませんよ』

「クッ……」

 

 

『影法師』のアカウントまでバレていることを知り観念したのか、ようやく落ち着いてくれた。

 

 襲われていた浜野さんは、土井塔さんが介抱してくれている。咳き込んでいるが、意識はある様子。

 まだ混乱しておられる。そりゃあそう。

 

 

 

 ひとまず、もう1人持ってくのは止められたか?

 

 

 ■

 

 

 

 私と土井塔さんとで、彼女こと『イカサマ童子』と『影法師』を最初から怪しいと睨んでここに潜り込んでいた事を明かし、彼女のターゲットが件のチャットのコメ主、『消えるバニー』と『脱出王』だったことを伝える。

 

 全部バレてしまったことに観念した田中さんが、ポツポツと、全てを話してくれたが……それで終わらないのは被害者側。

 

 当然の権利とばかりに激昂し、「たかがその程度のことで、なんで殺されなきゃなんねーんだよ」と……

 

 

 “その程度(・・・・)”と思ってることが大問題で殺されかけたんだろうがよ。

 

 

 ベッドの縁に座り、拘束として後ろ手に縛る事を了承し、身動きの取れない彼女に、殴り掛かろうとした浜野さんを土井塔さんが足を引っ掛けて転ばせ、私などより的確に体重を掛けておさえつけた。

 後ろではいつでもハイキックで浜野さんの意識を刈り取ろうと狙っ……蘭ちゃん、それは危ないからね。過剰だからね。いらない。

 

 悪態をつくばかりの浜野さん。

 どうしても、我慢ならなかったと悔しそうに呟く田中さん。

 

 ネットの匿名性はこういう所が良くない。

 目に余る暴れっぷりに、土井塔さんが滔々と語る。

 

 

「……浜野さん。あなたは『その程度』と言いましたが、春井風伝を尊敬していた彼女には、あなたたちの言葉は最大級の侮辱だった」

「だからなんだよ!あんなの、軽い冗談だろ!」

 

 うん。すごく良くない。

 

 

「あの、浜野さん」

 

 田中さんがもう暴れない様子なのを確認してから、床に引き倒されてどちらが被害者か分からない状態の浜野さんの前にしゃがむ。なるべく彼だけに聴こえるように。

 

 ネットがいつの間にか普及してたのに、マナーが普及してないの本当に良くないバグだよ。

 他の皆は、良心でセーブ利いてるから良いけど。浜野さんは、……これは良くない。

 

 

「――アンタを救った事を、私たちに後悔させないでくれません?」

 

 

 次があったら、もう無い(・・)かもしれない事を学んで貰わないと困る。

 

 お前、次も新一くんたちが居るかはわからないんだからな??

 

 

 

 ねっ!土井塔さん!!

 

 




最初書いてた時は間に合わなかったんですが精神衛生上はそちらのほうがよかったかもしれません

今週の土日は更新あるかわかりません。

そろそろ睡眠時間的に低速化するかもしれません。暑さで寝苦しくて昼しか寝れない……


読んでいただきありがとうございました!
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