昴くんはなにもしない   作:あまも

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短い話のつもりですが短くない気もします


閲覧ありがとうございます!


20-2:益者三楽

 

 

 

 小五郎さんが足を折ったのだそう。

 

 すわ大事件の前触れかと警戒したが、聞けばなんてことはない、沖野ヨーコちゃんのコンサートに寝坊して、大慌てであの少し危ない階段を駆け降りようとして派手に階段落ちを披露してしまったらしい。

 あそこ、ちゃんと気をつけて降りないと薄暗いし危ないよな。

 

 見事にポッキリ、右足を折ってしまったが、逆にそれだけで済んで良かったとも言える。小五郎さんはこの程度で死ぬ御仁ではあるまいが、アタリドコロさんはいつだって気まぐれだ。

 

 見舞いに来てひと通り冷やかして、気晴らしに太閤閣下監修の詰め将棋集を預けてからの帰りがけに、少年探偵団を連れた新一くんと出会った。

 

 元気いっぱいなお子様に混ざって、今日は子供らしく笑う新一くんである。

 サッカーボールを背負っている様子から、私のように小五郎さんをお見舞い(ひやか)してから公園でみんなでサッカーでもやるんだろう。

 

 なんだかんだ理屈捏ねて別にサッカーが大好きってわけじゃねーけどとか言ってた反抗期の頃の新一くんが懐かしい。

 結局のところサッカー大好きだろ君。

 

 

 長話で引き留めるのもなんなので、私はさっさとおいとまさせていただきます。

 

 今日は久しぶりに大学行って、仮の大学教授として名前貸してくれる方と打ち合わせして、あと役所行って、税金関係の提出書類確認して……

 

 

 不意に振り返ってみる。尾行はないな。よしよし。

 

 少年探偵団、人のこと隙あらば尾行してきやがるのでね。私何も怪しいことしてないっての。

 

 

 

 実は私、少年探偵団の連中が苦手だったりする。

 

 大きく理由は3つ。ひとつは、初回の出会いで取り繕ってしまったために『優しい気のいいお兄ちゃん顔』をキープしなければならないこと。

 ふたつに、彼らの善性の輝きと、そこから来る蛮行の数々に私がついていけないこと。

 で、みっつ。

 アイツら阿笠さんに(たか)りすぎである。

 

 新一くんが悪いんだよな。阿笠さんのこと使いっ走りにし過ぎなんだよ。

 代わりに私を使えと言いたいところだけど、必要な時に気軽に使える場所にいない私も悪いのか?

 春や秋の山は良いけど、夏の海と冬の山は自分の世話で手一杯だし。

 

 にしたっても……阿笠さんがいいよと許してくれるからって、世話になりすぎだ。子供好きな彼が良いなら、しかたないからいいかとも……思うけども……それにしたって、だよ。阿笠さんが外出が増えて運動量増えたのは喜ばしいことだけども。

 

 

 更には灰原さんまで追加メンバー入りしたし!今後とも彼はあの連中に振り回されてしまうのか。

 

 私が手間取ってる時には小林くんに頼んでみてもいいのかもしれないが、いくら小林くんの隠密スキルが異次元じみてきたとはいえ、彼はあまり大っぴらにうろつかせてよい人ではないし……

 

 

 なんで私ってば、最初っから素で接しに行かなかったかなぁ。

 小林くんに注意がいかないようにするためとはいえ、初回で取り繕った後いいかっこしぃし過ぎて今更引っ込みがつかない。

 このままでは私の爽やかさが振り切れて小林くんに「“コレ”じゃないんだよなぁ」されてしまう。

 

 初めて少年探偵団と遭遇した……東都のボンバーマンの件が未だに響いているんだよ。おのれモリアーティ。

 

 

 しかし子供……子供ねぇ。

 私、ああいう生意気な子供見てるとこう……大人げなくマウント取って大人の力見せつけたくなる悪い方の大人の見本みたいな、接してるうちに良い人顔が維持できなくなるという悪い大人なもので、絶対そのうち我慢しきれなくなる自信しかない。

 

 これも大部分新一くんのせいだな。彼が生意気ですーぐ人の事バカにしてくるもんだから。

 

 全人類景光くんになるべき。

 

 

 ……子供相手に大人げないのは生来の気質では?……まぁ……否定しないけど……

 

 

 ひとことで言ってしまうなら、実はそもそも子供が苦手ってだけなんだけどね。

 

 

 ……いやいや。

 どちらかといえば“子供が”ではなくて“子供”との接触が苦手。

 

 だって、丁寧に対応しなきゃいけない。こっち(おとな)が必ず気を遣わなきゃいけない。

 ヒロキくんはいいんだよ。彼はわかってるから。

 

 灰原さんは、わかってるのかな。あの時年齢のことで何か誤魔化しごと言ってたけど、あそこで返事した時点で未成年確定なんだから今更だろうに。

 

 だいたい最近の新一くんは、一人暮らししてた事も相まってなんか男子高校生してた頃より更に謎の全能感抱いてるのが不安だ。

 

 工藤氏に鼻っ柱、また折ってもらわないとダメかもわからんね。

 

 定期的に、今も昔も子供だってことをちゃんと思い出して貰わないと。そのうちまーーたやらかしそう。

 

 

 例えばそうだな……

 新一くんも灰原さんも、組織の手がかり見つけると、ついつい気が早まってブレーキの掛けどころを間違えるというのはこの間のフロッピーでわかってしまったからな。

 

 ……組織の偉い人でもみつけて、殺人計画かなんか聞いてしまって、その阻止とあわよくば情報を探ろうとして『子供の姿だし眼鏡もかけてるからバレない』みたいな事言いながら敵陣潜り込んで敵に捕まるとか?

 

 ……ええ……どうかな……

 

 

 ……ありそうじゃない?

 

 

 万が一そうなったら困るな。安室さんに米花町近辺で近々大きな行動する予定ないかダメ元で聞いてみようか。

 

 …………ま、流石にそこまで無鉄砲な無茶はしないか。

 

 

 なお、その後病院で騒ぎがあったりして子供の誘拐や危ないお仕事の方々の抗争やら色々あったらしい。

 早めに病院離れといて良かった〜!

 

 …………新一くん巻き込まれてな……いわけないよな。

 怪我してなくて良かった〜。

 

 

 ■

 

 

 阿笠さんの晴れ舞台。

 

 突如飛来したパトランプ。

 

 頭に直撃して転倒してしまった阿笠さん。

 

 

 

 そりゃ私はキレるわな。

 

 

 

 怒り心頭で飛んできた方向に目をやったら、大挙して来たパトカーと白バイの群れ。

 

 覆面パトカーの屋根には新一くん。

 

 

 わかっていたさ、この状況でパトランプ飛んで来るなら打ち出した馬鹿がいるってことだもの。

 私の視線を避けるように、近くにいた若い刑事の後ろに回り込んで隠れようとしたが、その若い刑事は「佐藤さーん!」と叫びながら美術館の方へと走っていってしまった。

 

 おやおや、隠れる所がないなったねぇ。

 

 壇上から見下ろす新一くんはいつも以上に小さい。壇上でしゃがんでも、まだまだ小さいな新一くん。

 

「……やぁ江戸川くん。何のつもりで阿笠さんを攻撃したんです?」

「……あの、スバルさん、これは……」

 

「どうせ爆破解体される予定のこの杯戸美術館に、うっかり入り込んで大捕物したら重ねてうっかり抜け出せなくなってしまった刑事さんと冤罪で捕まってしまった犯人と思われてた男を救う為、大急ぎで阿笠さんを止めようとした結果なのでしょうけど」

「えっ?」

 

 阿笠さんの制作した特製の爆破解体用発破装置、『トロピカルレインボー』の運搬と設置を手伝いに来ていた私が、作業のおじさん達と暇つぶしの将棋を指していた今朝。

 かかってきた電話で、人がいるかもしれないから確認しろと、なんと昨日から再三に渡る警察からの指示があって嫌気がさしてきていたらしい。とはいえ安全確認は大事だ。おじさん達を労い、コーヒー淹れときますからと送り出した後、最後の確認をした際に鍵が壊されてた……なんて事を聞いて、念の為もう一度だけ、私もついていって確認したら…………人が居た。

 って話。

 

「え、……」

 

 ふふ。久しぶりに呆気にとられた新一くんの顔みて僅かに溜飲が下がった。

 阿笠さんが倒れてる事実は変わらないので、舞台から降りて改めてしゃがみ直して視線の高さを合わせるくらいはしてやろうかな。

 

 後ろでは先程の若い刑事が、半べそかきながら件の閉じ込められていた若い女刑事さんの後ろで良かった、良かったと懐いている。なんか犬みたいでかわいらしい刑事さんだなあの人。新一くんが懐くのもわかるわ。

 

「……えっ? じゃあなんで佐藤刑事は、目暮警部たちに連絡しなかったの?」

「ん?まだしてなかっただけじゃないですかね。我々が彼らを見つけたのは25分くらい前で、そこまで彼ら、閉じ込められていた間ずっとトイレ我慢してたらしくて」

 

 手錠の鎖を壊せる工具を取りに行ったり、爆破解体の予定は中止すべきかどうかと相談したり使えるトイレに案内したりしてたら20分はすぐに過ぎてしまったわけで。

 

 逃走者を追いかけている間、かなり激しく動いたため、ポケットに入れていたものをあちこちに撒き散らしてしまったそうで、手錠の鍵をはじめ、携帯などもどこかに落としてしまったらしい。

 

「……てかなんでスバルさんがここにいるのさ?」

「毎度言いますが、いちゃ悪いんですか。阿笠さんの手伝いですよ」

 

 またこのジャリボーイは詮無きことを。

 つむじをグリグリと押してやると、多少の負い目を感じてはいるのか振り払うのを躊躇っている。阿笠さんの頭に衝撃を与えるなんて畏れ多いことしたからには罰は受けて然るべき。

 

「いででででで」

「で。事件は解決したんですか?」

「痛いって!話す、話すから止めろ!」

 

 これで真犯人捕まえてなかったら跳んでドロップキックする所だったわ。

 

 個人的には事件はどうでもいい。あの刑事さんたちがどうしてああなったのか知りたい。

 

 ……あとチラチラ見えるパトカー内の少年探偵団。

 

 阿笠さんも無事目を覚まして、大幅に予定はズレたが無事爆破解体出来たので阿笠さんの懐はポカポカがっぽり稼げたことだろう。

 

 その金で子供たちをキャンプに……なんて止めてね?灰原さんの身の回りのもの買ってあげなされ。

 

 しかし佐藤さんと高木くん……面白い警察官と知り合えたな。あわよくば連絡先交換したい。彼らって確か、警察のレギュラーキャラクターでしょ?

 

 

 ■

 

 阿笠さんちで、新一くんが最近の出来事を教えてくれた。

 灰原さんや小林くんの件もあってか、結構こまめに教えてくれようという気概を感じる。

 だいたいは組織とか関係ない、事件の話だけどね。

 うんうん、流石事件ホイホイの死神だねと笑顔で聞いていた。

 

 

 トロピカルランド……遊園地の屋外スケートリンクでショットガンで殺されるって何?

 

 たまにこういう、あんまりにも『本当に一般人の起こした事件か?』と不思議に思うような事件があるから怖いんだよなぁこの世界。

 ポン刀とか拳銃とかさあ。やのつく自由業の方?

 

 新一くんたちが例によって例のごとく丁度居合わせたため、事件は解決したが……

 

「國友さんがいたんですか?」

「知り合いだったの?」

 

 なんで私の知り合いってだけで途端に疑わしげにするんですかねぇ新一くん。織田さんでしょ?あの人は良い人だよ。

 

「競技クレー射撃で以前知り合って、それ以来の知り合いですね」

「アンタ、クレー射撃なんてやってたっけ?」

「昔のことですよ」

 

 

 クレー射撃は、まだ赤井秀一との差異に悩んで、やれる事を模索していた時代に齧った事がある。

 アーチェリーとか弓道も同じく、そういう『赤井秀一』らしいことを……多少は、ちょっとだけやってみたりはしたのである。

『赤井秀一』がコナン作中での狙撃最強という情報を持っていた、当時の私なりの足掻きだったな。

 

 それで初めて、気軽に人を殺せる凶器を手にする恐怖を自覚して、長続きしなかったのだが。

 

 狩猟免許とって知り合いのおじちゃんおばちゃまたちのサポートのボランティア始めた頃から、感覚忘れないようにたまにやってはいたりする。本気でたまにね。

 

 それなりに知り合いは出来たもののそれ以来でまだ連絡は取れている数少ない知り合いの1人だ。

 

「前にお会いした時は、消防士の彼によく燃える話をしたんですけど」

「よく燃える話って何だ?」

「ほら……何故か私、火の事故によく遭遇するので」

 

 

 主に人間が直接燃える方向の。

 

「…………」

 

 なんだよその顔。車、人、屋敷、家、車、建物、人、……人、車、建物、橋、……車……

 

 車両火災の方が多いか?

 だいたいは事故だし、事件性はないし米花町での事故でもないけどね。

 

 そんな火災に遭遇したとき、咄嗟に人命救助の選択を取れるか、取っていいのか、取るならどうすべきかを聞いたりする……それくらいの仲だ。

 仲良し、友人などではない。頻繁にやり取りもしない。

 けれど、危険と隣合わせの仕事をしている人だから、たまにまだ連絡はつくのかと心配になる人でもある。

 

 思ったんだが、この世界……案外ああいった危険な職業の人達の方が、まともな確率の下で生きているのではないだろうか。

 危険な職業に就くのと米花町で生きるの、どちらが危ないかと言われると……難しいな。

 

「あなた、火は怖くないのかしら?」

 

 ここで灰原さん、私の火傷の話を知っているのにデリカシーの無いことを。ずいぶん容赦が無いが……初っ端にノンデリかましたのはこちらが先なので何も言えない。

 

「それほど過剰には。普通の人達が恐れる程度にはもちろん怖いですよ」

 

 普通に怖いものは怖い。火なんて危ないものだからね。

 でも実際にたたきくらいに炙り焼きされたのは私だけど“私”じゃない。

 

 リハビリ頑張ってた時は火への憎しみくらいは抱いたけれどね。それへの恐れは抱いちゃいないのだ。

 

 

 …………だから私の『火は怖いものです』脅しは効かないのか?!

 

 

「フゥン……」

 

 そんなどこかの社長みたいに。灰原さんが途端に興味が無くなった様子で視線を手元のPCに戻してしまった。

 鼻をぷんと鳴らした新一くんは、帰るのかカウンター席から降りて私の腰辺りをトンとノック。身長差のせいでその高さなだけで、彼がよくやる『気を取り直して』、な仕草。

 

「スバルさんも気を付けなね」

 

 オマエモナ〜!

 

 

 ■

 

 

 ちょっと先の話にはなるけど、要請があって新出医院の若先生が青森に出張するらしい。智ちゃんは優秀だから仕方ないね。

 その間、新出医院は一度閉めるけど、もし私たちが怪我やらなんやらした時は成実さんがいるから診てくれるとのこと。

 

 ってことで、智明くんが行ってしまう前に、成実さんと景光くんと一緒に安室さんの顔合わせを夜に頼んだ。

 

「彼らはよく怪我をする人達ってこと?」

「そうです。すぐ危ないことしでかすんですよ」

「怪我以外でも、体調が優れないなど違和感がある時はちゃんと病院を受診して下さいね」

 

 にこにこあむぴ。首に青筋浮いてるゾ。

『お前が言うな』って顔で私を見ないでくれよ、4人して。最近は無茶してないでしょうよ。

 

「昴。彼らはその、口は堅いのか」

「そこは俺が保証するよ、安室」

 

 景光く……小林くんが安室さんにいい笑顔で頷いて、安室さんも納得したのか頷く。

 

 智明くんは、4年前に彼の母親の死を原因とした事件の関係で色々あって工藤氏経由で私に恩がある。

 成実さんも月影島からの一件で、小林くんと彼に依頼した私、そして生きることを再確認させてくれた智明くんに恩がある。

 小林くんは言わずもがな、稀に拵えてくるカタギじゃ無さそうな傷や大怪我を、偽造保険証で何も言わずに治療してもらっている。

 私は普段から度々迷惑かけてる自覚はある。

 

 そういう相互関係でお互い恩を着せあってのwin-winな関係だけど、それくらいの秘密で繋がる関係というのも始まりだけだ。

 今では普通に小林くんと成実さん、保本さんで仲良く買い物行ったりしてるようだし。

 

「……沖矢さん。確認させてください。彼はどのような仕事をされていますか?」

「警察です」

「オイ!?」

 

 うわ声でっか。安室さんたら腹から声出てるじゃん。

 

「わかりました。今は?」

「探偵兼アルバイターです」

 

 智明くんは「小林さんと同じですね」なんて頷いているが、一方で私はまたゴツゴツの拳でゴリゴリとこめかみをドリルされている。

 ︎︎あいててててて。

 

「すいません、安室さん……でいいんですよね。沖矢さんには、この質問だけは絶対に嘘偽り無く答えてもらっていたんです。これ以外はどんな嘘も、隠蔽も黙認します。詳しくも聞きません」

 

 そう。この大きな便宜を図ってもらうための、智ちゃんとのたった一つの約束だ。

 

 景光くんの時はこれで「死人になるしかなかった元警察です」と紹介したら、何を解釈したのか警察で悪いことして逃げた人だと思っていたらしい。今はその誤解も解けたが、銃創とか作ってくるんだもん、そりゃヤのつく自由業を警戒もするか。

 

 

 この4人にも、件の私が家主となった別荘の話をしておく。まだ補修や改築はしていないけど一時的に身を潜めるには充分なように準備はしてあるので、何かあったらそちらに行ってもいいし、医者としてそちらに呼び出すかもしれないと。

 

 

 

「……聞いてはいけないことだとわかっています。答えてもらえないとも。

……一体、皆さんは何をされているんですか?」

 

 

 智明くんの質問はごもっとも。

 そしてその通り、答えることはできないのだ。

 横のウイスキーダブルスがとってもいい笑顔で私の肩を掴んでくるもんで、素直に答えようとしたのがバレてるらしい。先に答えてしまえば聞いちゃったもんはしょうがない流れになるかと思ったのに。

 

 

 帰りがけに、安室さんがバーボンお目目で一足先に夜闇に消えてったのが引っかかる。なんか企んでるのだろうか。

 

 







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