昴くんはなにもしない   作:あまも

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朝夕の草むしりのしやすい季節ですね(繁茂しくさった庭を見ながら)
工藤邸も阿笠邸も、庭広いですけど業者に手入れ頼んでいるんでしょうか
まだまだ残暑が猛攻撃してきますがご注意ください


閲覧ありがとうございます!


24-3:かくして黒衣の騎士

 

 

 

 

 小林くんの、

 

「君の憧れのホームズは、感情に流されて身近な人を危険に晒す様な人なのか」

 

 というひと言が決定打となった。

 

 “シャーロック・ホームズ作品をあまり読んだことない人がホームズのモノマネやってる人の行動を見てホームズを嫌いになってしまった”

 

 という設定で、ファン心理を逆手にとった推しへの迷惑をまざまざと新一くんに見せたのである。

 

 その結果、ガックリと肩を落とす新一くんが後部座席で車に揺られることとなり申した。

 

 いやー……酷かった。

 新一くんの今回の件も含めた好奇心から来る数々の問題を、『ホームズってそういうことするんだな』のひと言で、新一くん自身に憧れとの差異を自覚させる高等テクニック……

 

 言い方ひとつで彼の推しを馬鹿にすることになるこれらを、絶妙なバランスで、関心と、ほんの僅かな「(あまりそういうキャラクターは好みじゃないな…)」の滲ませた雰囲気だけで伝える表情と声色。

 やはり天才か……

 

 でもさ、景光くん。きみ確か…ホームズ読んだことあるよね?

 しかして深くは語らず。反省いただいたところで新一くんには事務所にお帰り願いましてね。

 病院行くまでではないにしても、まだ風邪気味なのは変わらないから。

 

「はい、探偵事務所到着です。お疲れ様でした……おや、お客様がいらっしゃいますね」

 

 開け放たれな窓から聴こえる、オルゴールの音色。『春よ来い』かな。

 句読点の無いほうね。そとへいきたいぞよ〜のほう。

 

 ほーら、落ち込み名探偵。事件だぞ〜。

 

 ………………怒られた手前、駆け出すことはせずともソワソワはしている。帰って良いんだよ、ネッのお顔は期待に満ちておられる。

 

 小林くん!付き添いヨロシクニキしてよい?

 

「了解。ついでに毛利探偵に挨拶に行って来るよ」

「挨拶?何のですか?」

「前に北斗星で会ったけど、その前からもバイトで探偵紛いやってる手前、たまに現場で顔見る事あるんだよな」

 

 私の知らないところで事件と毛利御一行に邂逅してるんじゃねぇ。心配になるだろうが。

 車を降りた新一くんと小林くんへ、迷った末にこの言葉を送ることにした。

 

「冷静・沈着・慎重。忘れてはいけませんからね〜」

「ああ!」

 

 はい、良いお返事。

 

 

 

 今回の脅しは、そこら辺歩ってる人にも、身内の中にも、既に敵が紛れているかもしれないから注意しとけよって意味もあるが、大まかには…油断大敵。気を抜いていいご身分ではないのだよと言いたかったのだけど、伝わっただろうか。

 

 小林くんに丸投げしているが、彼も彼で当時も今も神経すり減らして生きてる人だからな。

 

 彼のメンタル回復、彼の身内の人間が元気で楽しくやってる様子を見ることだから、せめて私だけでもおちゃらけておいてやらないといけない。

 私は大丈夫ですやで!

 

 その理論だと、今の安室さんの様子を小林くんに見せたらまずいかもね。順調にお疲れモードでバーボン成りっぱなしなご様子でござい。

 

 

 新一くんなぁ…

 こんだけスリルショックサスペンスな脅しでの忠告をしても、どうせそのうちまた劇場版な大事件で首突っ込むんだろうな。

 

 彼は小さい頃から私のことも見て育っているから、私の『やられたらやり返す』精神はちゃんと学んでいるので、今回の件での諸注意を『貸しができた』として今後は『借りを返す』行動を取るのだろう。

 新一くん相手に、恩を売るつもりは無いんだがな。

 恩義や恨みの貸し借りの範囲は人それぞれで、例えば智明くんのようにこちらが「そこまで?」と思うような恩義を勝手に感じて、借りを返してくれる人もいるし、景光くんや零くんや阿笠さんのように、延々と人に負債だけを負わせてきて、一向に返済させてくれない人種もいる。

 

 ……あれか。私が完済仕切れてないのがダメか。

 でももう皆からの借りが山積みになってて、いっぺんには到底返済できないよこんなの。

 

 コツコツ返してくしかないかぁ。

 

 

 ■

 

 

 野生生物とはそれすなわち、恐ろしい生き物である。

 

 特にクマ。

 

 人里降りてきたクマを猟友会でなんとかしました、なんてニュースが流れると、途端に一部の方々が騒ぎ出すわけだが、そもそも人間ですら話通じない相手には襲われて殺される時があるってのに、どうしてコミュニケーションZEROな相手と心通わせられると思ってるのか。

 

 ご飯あげてお世話してあげれば感謝するだろって?

 そのご飯くれる人がやって来る扉の向こうに、チマチマした量でなくてもっと沢山のご飯があるって理解できないほど馬鹿じゃないんだよなぁ。

 

 

 ………………いや、うん。

 猟友会のおじいちゃまと、役場のおじちゃま方からの愚痴を聞かされてしまってウンウンソウダネbotと化していた私です。

 

 “十兵衛”、というネームドツキノワグマが、狩猟区内にて目撃された。

 近くには山菜採り用に開放している一般向けの区画があり、そちらはマツタケも採れて時期ともなれば多くの人が訪れるような場所。

 金網で二重に柵は設けてあるとはいえ危険。

 

 と、言うことでこの度、十兵衛さんを山の奥にお引越しクエストが発注されましたと。

 どっこいこの十兵衛さん、中々のくせ者でございまして候。

 

 ご飯食べに来ちゃったか〜…あそこのマツタケ、美味しいもんね。

 

 あのクマ、マジで頭良くてめんどくさいから相手にしたくねぇ〜という気持ちは、おじちゃま方みんなの総意である。

 

 

 十兵衛に助けられて以来、見守ってきたという雑賀さんが今回のリーダー。これまでの傾向からの作戦を立ててくれている。

 彼が昔から、近寄ってはならない場所に十兵衛が近寄るたびに発砲音で追い払う事を続けてきたお陰であのクマさんは銃の発砲音で逃げてくれるクマさんである。

 しかし、あの山が良い餌場なのは間違いないため、きっとすぐに戻ってきてしまう。

 挙句、今年は子グマが2頭生まれたそうで、その子グマ分の餌だって必要だろう。

 

 グルメなクマさんめ。どんぐりや魚でも食べてろっての。

 

 あの山の狩猟区から追い立てても、餌があると知っている十兵衛が餌を求めて戻ってくるのは確実。

 

 かといって、罠で捕らえたり麻酔で眠らせて……なんてのも難しい。

 

 

 昔、罠にかけて他の山へ移して以来、人のしかける罠を覚えてしまい警戒心がバリ3に。

 錯誤捕獲で括り罠に左手を取られ、うっ血して腫れ上がって、麻酔銃で眠らせて取る……なんて事もあって、その後に奴が罠に掛かったことは無いそうだ。

 

 そして十兵衛のネームド由来……左目の十文字のような傷の原因である銃を警戒することを覚えている。

 

 しかも麻酔まで記憶してるのか、かなり上手くやらないとあのクマ、麻酔銃の弾を避けやがるのである。

 

 

 人間を目視すると、そこから弾丸が飛んでくることを警戒する賢さを持ってしまっている。ヤベー奴。

 

 

 3度ほど実物を見たが、あれは発砲音で驚いて逃げているのではなく、人の縄張りっぽいからやめといてあげるか、とあちら側が引いてくれているだけだったように見えた。

 危険だと判断したら銃で撃たれようが構わず向かってくるだろうな、あのクマ。

 人にも、発砲音にもすっかり慣れてしまっていた。

 

 雑賀さんの努力の賜物だね。

 よくもやりやがったな。

 

 なんも出来ん!

 

 

「――どうしろってんです?」

「ワシが責任もって、毎日十兵衛の追い払いを勤めるつもりじゃ」

「でも雑賀さん、あなた毎日なんて無理ですよ。体力が…」

 

 良い歳なんだからおじいちゃまは座ってろって。

 私が獣医師免許取ってれば、麻酔銃使えて当てられたかもしれないけど、生憎持ってないし……非合法でも良ければ、封印指定のあの銃持って来て内緒で3発くらい撃ってクールに去るぜするが、あれは流石に非合法。

 てかクマの毛皮を貫通出来る気がしないな。曰くおもちゃだもんな。

 雑賀さんはなおも食い下がる。

 

「じゃから、ワシが責任もって」

「雑賀さん。シーズン中、毎日あなたが回るのは不可能だ。精神論の話ではありませんよ」

「…………チッ……若僧が偉そうに……」

 

 あぁ?ご老体が何か言ってやがるな。時代ってのは変わるもんなんだよご隠居さま。危険だから狩っときますねが許されない時代なのだ。

 

 うん? うん。

 最近例え話するの多くなってきて、考え方がネガネガしてきて嫌なんだが。

 

「どれだけ言おうが野生のクマは野生のクマです。……この際、狩猟区及び一般開放区画まで含めて、立ち入り制限で良いのでは?」

 

 人間側としての安全策最優先にした場合の最悪のパターンを伝えると、おじちゃまがたから一斉に抗議の声。

 でも、それが一番問題起こらなくて安全だってぇ。

 

 何? 制限した所で、無断で入り込んでマツタケ採ってく連中がいる?

 そんなバカはほっとけよ。

 ……と、言えないのが行政の困りどころ。

 

 こういうのって昔から自己責任じゃんか〜!

 

「そういえば、あの柵って去年猪に穴あけられてませんでしたっけ」

 

 面々の顔を見る。曰く、そこは直したのだと。

 でも、また穴開けられてるかもしれないじゃん?

 そこから人間が、あっちの方がマツタケ多いから入って採っても、少しだけだから大丈夫!なんていつぞやの少年探偵団みたいなこと言いながら入り込む奴は出てきてしまうやも。

 

 そんなこと言うなら、雑賀さんの案で班組んで何班かでローテーションで追い払いやればいいんじゃない?

 区画分けの柵の穴とかも補修しっかりしてさ。

 

「一旦やってみましょうよ。ダメなら最終的に制限かけるってことで」

 

 

 野生生物との共存とは、むつかしいものである。

 

 ■

 

 

 首に掛けられた縄と、だらりと力なく垂れても地面につかない手足。

 俯いた顔には光を反射するだけのビー玉みたいな目玉が2つ。

 

 

 首吊り死体があった。

 

 

 

 

 熊のね。

 しかも子グマ。

 

 酷いことをするもんだ。

 

 横で怒りに震えておられる老体の、今にも射撃体勢に入りそうな腕を上から押さえる。

 ご老体の狙いは、首吊り死体を下卑た笑いを浮かべながら離れた位置から眺めている男。

 

 慌てて駆け付けてきたターゲットの母グマが、死体の下で覚束無い二本足で立って、鋭い爪を備えた両手で懸命に縋り、子グマを降ろそうとしている、その哀れな様子を見て、猟銃を構えた男。

 

 あの子グマの死体を吊るし、母グマを罠に嵌めようとした下手人――が、あの男であるとしよう。

 

 

 普通にぶち殺されても文句言えない所業なんだけど……

 

 

 ……この一連の全部が、私の視界の届く距離にある時点で、もう私としては全部かなぐり捨てて逃げに入りたいんだが。

 

 私が見えてるって事はクマからも見えてるんだからね?

 

 しかし、隣で絶対に殺すという強い意志を込めて猟銃を振り上げようとしている人がいるもんだからそうもいかない。

 

 その気持ちはわからないでもないが…

 

 

 ちょっと勘弁してよォッ!!法律が許すならオメーの命なんてどーでもいいけどさあッ!

 私に見殺しさせる気ィッ!?

 

 

 こちとら圧倒的光に日光漂泊が如く白くされてしまった人間。救える命なら救っておきたいし、悪は赦してはおけないのである。

 

 ってわけで……

 

 

「雑賀さん。あなたが狙うべきはそちらではなく、あちらの縄のほうでしょう。まずはあの子を降ろしてあげてください」

「……ッ!」

 

 あの男がいつ撃つかわからない状態でなにをそんな悠長な事をって?

 

 私は最低な男の背後目掛けてそこら辺に落ちていた小石を拾って、適当に投げた。距離は男までは到底届くものではないが、草葉に擦れた音はする。

 山で動くなら多少なりとも物音には敏感でなければならない。

 そのくらいは気付けたのか、男の意識が小石の立てた物音に逸れた。私は男の方へ、小石を明後日の方向に散らして投げつけ、あちこちで物音を鳴らしながら近寄る。

 

 どうか背後から私ごと撃ってくれるなよと願っていたが、雑賀さんはなんとか堪えてくれたのか、発砲音と共に子グマの死体は母グマの眼前に落ちた。

 流石。あの距離から縄を一発で狙い撃ち出来るとは。

 

 何がなにやら、慌てた様子で猟銃を音のする方へ構え直し続けている男。

 私は両手を、交差するようにして左右それぞれの手で手首を握る。セットアップ完了。今回は左手に集めた。

 

 

 やはり交流こそが最強(さいつよ)…ってね!

 

 

 この間は洞窟なんて暗くて狭くて陰気臭い場所で複数相手だったが、今回は昼、森、木陰いっぱいで相手は1人。

 そして相手が悪い人だと保証してくれる目撃者までいる。

 躊躇う必要が無いのだよ!

 

 これぞ人類の力!叡智の結晶!

 食らえシステムケラウノ……ヘナチョコ裏拳!バリバリー!

 

 

 駆け寄る私に猟銃を向けて来たが、右手で払い除け、すかさず私の左手の指の関節部が追撃。無事男の左の頬骨の下を打ち上げた。

 

 瞬間、バチンと閃光が一瞬だけ散って、男の体が痙攣する。

 

 倒れる時に大きな音を立てないよう袖と猟銃を掴み、ゆっくりと落ち葉の積もる地面に倒してやった。松葉がチクチクして痛いとかは知らん。

 

 ホントは、脳や心臓に近いところに当てない方が良いんだけどね。

 阿笠さん謹製だから死にゃしないでしょ。

 

 

 こっちは良いとして、大問題の母グマは、というと……落ちたままピクリとも動かない、冷たい子グマをずっと舐めて起こそうとしていた。

 ︎︎多少、人間が騒いでいようが、お構い無しに。

 

 動物のそういう行動には、ギュンと心臓がしめつけられそうになってしまう。お涙頂戴やめてね?

 

 その横の茂みから、もう1頭の子グマが現れてようやく、母グマは冷たい子グマを諦め、私と雑賀さんに1度だけ目を向け…雑賀さんと数秒見つめ合った後、踵を返して茂みの奥へと去っていった。

 

 暫く動かず、その姿が見えなくなるまで待ってからようやく、私は詰めていた息を吐き出せた。

 深く息を吸うと、鼻の奥に漂う獣臭さ。あと小便臭いが、たぶんこれは感電した男のほう。

 

 雑賀さんはゆっくりと子グマの亡骸に歩み寄り、ポソポソと何かつぶやきながら見下ろしている。

 私が近寄ると、私が引き摺ってきた、下を洩らして意識を飛ばしている男を強く睨みつけた。未だに握る猟銃が、彼の手袋と擦れてギュリと鳴る。

 

 はいどうはいどう。生きてりゃ死ぬより酷い目にだって合うもんさ。

 

 

 そんなことより。

 

「せめて埋めてあげましょう。このままは可哀想だ」

「…………ああ」

 

 雑賀さんは自前のナイフで、私はぴっかぴかの折りたたみ新調したてのハンドスコップで、黙々と穴を掘り、首の縄を解いた子グマを埋めてやってから、手頃な石を乗せて墓石がわりに。

 ︎︎雑賀さんは鞄からワンカップの日本酒を取り出そうとしたので、子供にそりゃないでしょと。

 水で良いでしょ。ここの麓の湧水汲んできたやつだから。

 

 なんだっけな、マタギの唱え言葉だっけ?

 胸毛ムッチリ子グマちゃんしか覚えてないが、そういや雑賀さんも元マタギだっけね。

 

 

 雑賀さん、私に巻狩りというものを教えてくれた先生みたいな人だから、子グマちゃんの師匠の歯車頭の豪傑みたいなムショ送りにならなくて本当に良かったよ。

 

 

 

 ︎︎で、後日。

 

 ︎︎マツタケ採りに行くとか言ってた少年探偵団が、隣のエリアにマツタケがあったから柵を登って越えて採ってきた、とかいうルール違反していた話を小林くんから聞いたので、もっかい私の中の勘弁オバチャンが飛び出して来ちゃったよね。

 ︎︎クマ相手を想定してる時って、物音聞いたら銃構えるんだから危うく撃ち殺されたかクマに食われてたぞい。

 

 ︎︎……何?はぐれた子グマを母グマまで案内していた?

 

 ちょっと勘弁してよォッ!!

 

 

 ︎︎そんなガキ共相手にも、怒鳴るでもなくちゃんと子連れの母グマという存在がいかに危ないか説明し、ご理解いただけたという小林くんのお兄ちゃん先生力と根気強さには天晴れはなまるぴっぴをあげましょうね。おつかれさまやで。

 

 

 ︎︎




口下手ながらあのおじいがちゃんと説明してくれてたらああはならなかった……と言いたいところでしたが普通に被害者がクズでもありましたねあれ

天空の難破船を見てたら、子供たちを虐めるなと蘭ちゃんたちが怒ってたのでこの主人公も怒られてしまうんだろうな……

まだ作業完了していないので、今週も引き続き更新ド低速となります。ご了承ください。


読んでいただきありがとうございました!
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