昴くんはなにもしない 作:あまも
小林くんちゃんさんが多いですが仕様です
誤字脱字報告と感想、評価ありがとうございます!!
閲覧ありがとうございます
冬の海のあとは冬の山。
なんと、阿笠さんは子供たちを連れて雪山にスキーに行く予定を立てておられた。
冬! 雪山! スポーツ! 子供!
……なんでそう、私が苦手な物を全部乗せしたみたいな予定組むんです?
どっこいこれが聞けば納得の真相。
「昴くんは昔から、冬も夏も出かけたがらんかったじゃろー。じゃが、今は子供たちも、新一も哀くんも出かけるのを楽しみにしておったから…」
と、しょんもりと眉や髭や肩を斜めに落として、遊びに出かけるのが楽しくてつい、ともじもじしておられる。
そこを突かれると……痛い……!
私が子供らしからぬ子供だったせいで、阿笠さんにさみしい思いをさせ続けて来たことは常々感じてはいた。
面倒な子供だった自覚はあるから、どうしようもない面倒以上の面倒をかけぬよう、努力してはいたのだけれど。
元々、楽しいことはみんなで楽しみたい性格の、おじさんのくせにかわいらしい人なのが阿笠さんだ。
彼が子供たちを連れて遊びに行くのは、何も今に始まった事ではない。
私を引き取ってくれた当時から、私の友人含めてよく様々な所に遊びに連れていってくれた。
しかし残念ながら、この私は夏と冬の季節をとことん苦手としている。
なので、そのお出かけは次第に春・秋の行楽シーズンに阿笠さんが国内に、夏や冬は工藤氏が海外に、と、そんな旅行予定が組まれるようになった。
越冬する白鳥の如し。
小市民な私は当時も今も信じられないのだが、この阿笠家も工藤家も恐ろしく気軽に旅行計画を立てる。
百歩譲って仕事のついでに、は頷ける。
しかしインスピレーションとか取材とか、ご当地グルメが食べたいとか地域限定の商品が、なんてそんなしょーもない理由ひとつで日帰りで飛行機使う人間がいるなんて…
ああ、なんて恐ろしい。
マイルの貯まる日々。参っちゃうね…ゴホン
ちゃんとその経験を糧にしていく人々も怖いが。
旅行というものは、1年に1度とかそういうペースで張り切って遠出するようなものを旅行と認識していた人間には困惑しかなかった。
そのうちに慣れてきて、ついには私ひとりでもぷらっと国内の飛行機乗るようになってしまったのは、良いのか悪いのか…謎です。
でも速くて(高度が)高いのはロマンだから…飛行機ってやっぱさ、非日常感と浮遊感がこう……いいよね。
なんて、金持ちの金銭感覚は一旦置いといて。
自由に、好きにお出かけしたことが無い灰原さん。
中学はサッカー、高校生になってからは自立心からか、なかなか阿笠さんとお出かけしてくれなかった新一くん。
楽しいことさえさせていれば素直にはしゃいで喜んでくる子供たち。
みんなで一緒にお出かけできる……それが阿笠さんにとって充実したものであるのなら、ついていけない側がとやかく言うものでは……無いのだが……
でもさぁ!!
「なんですか雪山スキーって。私についてくるなって事ですか」
「へっくしょん! ……じゃから、昴くんが無理して来んでも…」
「風邪っぴきが何をおっしゃる!阿笠さんが無理して行くなら、私も無理してでもついていきますからね」
なんとこの人、スキーについての手本の知識を入れるのだと、ハウツービデオを夜中まで観てたら疲れで体調を崩し、熱とクシャミと鼻水をズビズビさせることとなったのである。
休んでろと言っているのだが、本人はこれくらいなら行けると豪語。
「何してるのよ2人して…お昼に到着出来なくなるわよ…」
暖かそうな赤いコートに身を包んだ灰原さんが呆れ顔で荷物を持って上がって来たので、荷物を受け取りながらホットココアを渡し、あの聞き分けの悪いおじさんを指差してチクリ魔たる私の本質をですね。
「だって、灰原さん。この人ったら引率なんて言いながら、こんな有様なんですよ?風邪は引き始めの今こそ療養しないと。悪化して肺炎にでもなったらと思うと、心配で心配で」
預かった荷物はそれほどたくさん詰まっているわけでもないのだろう。軽い中身は、スキーで運動した後の肌着の着替えやタオル、靴下……を阿笠さんの分も。
貴重品は、いつものお出かけバックを阿笠さんが大事に抱えてるので、これなら忘れ物は無さそうだ。あったかい飲み物の魔法瓶でも持ってく?いらない?そう……
「じゃがのー、哀くん。昴くんは子供たちの引率と、冬の雪山という状況では
「雪山の私が頼りにならないのはそれはそうなんですが、だからといって今の風邪っぴき阿笠さんが行ったところで、使い物にならないのは同じですしここから悪化するだけなのは目に見えているじゃないですか!」
「それは仕方ないから、ワシは到着したらロッジで寝ることとするがの…」
「それは行く意味も引率の意味もないです」
「2人して、いい歳して子供みたいな言い合いしないでくれる?……あの彼はどうしたの?」
ホットココアを抱えてカウンター席に座り、改めて自分の分の包みを漁って忘れ物チェックしながらの灰原さん。
「小林くんですか。頼めれば良かったんですが、今日は彼、予定が入ってて…午後ならいけるかもと言ってましたね」
ジョディさんの様子を見ていた小林くんは、彼女が仲間と思われる外国人と電話で会話している所を盗み聞きして、今日、何やら行動を起こそうとしているのを知った。
それで、その様子を確認してみるらしい。
なんでも、ジョディさんたらデートに行くとかなんとか……
マジモンのデートなら、それはそれで相手が気になる。
でも小林くんが言うには、ターゲットの尾行か、FBIの仲間との接触か……だと思われるので、相手の確認をして本気でプライベートそうなら途中で抜けられるかもしれない、だそうな。
ちなみに我々の見解では、『本気のデートは有り得ない』で一致している。なので小林くんは今日頼れない。
知り合いで子供の引率出来そうな大人……
成実さんは、名探偵と面と向かって会うのはまだ心の準備が、と首を横に振られたので却下。
会ってやれよとは思う。同時に、会いたくないのもわかる。
あの光は強過ぎて、慣れないと……浴びただけで、生きててごめんと謝罪したくなってきちゃうんだよな。
ワンチャンありそうな秀吉は今、確か色々な予選と棋王のタイトル戦とNHK杯終盤が被ってめちゃくちゃ大事な試合続きだから大忙しの時期だし……真田くんは全国ツアー中だし……三船くんは樫村さんと一緒にアメリカのゲームイベント行ってるし……
あむぴは……と、そこまで考えて、妙案が思いついた。
「あ。」
「? 何よ?」
「ぶぇっくしょん! うぃー……」
……いや、ダメか……?灰原さんがいるもんな。
でも新一くんの目の前で灰原さんに手を出すとは思えないし、杯戸シティホテルのパーティで既に視認されて、小さくなった灰原さんの存在が確認されていることはバーボンが教えてくれている。
てことは、今さら見られたところでどうということは無いのでは?
「……いけるか…?」
「だから、何よ。……博士、鼻啜らない」
「えっくし!ぶぇっくし!」
視認済みにも関わらず、ここまで灰原さんが無事なのは存在まではわかっても、居場所がわからないから?
いや、でもホテルでは新一くんが灰原さんの手を引いて逃げたりしてた所を見ているんじゃないか?
「そもそもあなた、結局ついてくる気なの?それとも博士を家に寝かせて、彼の体調が落ち着いてから連れてくるの?」
「あ、それも良いですね……いや……」
この予定なら、安室さんは一旦離れられるはず。なら、監視業務を小林くんと入れ替えれば……
いやいや。クリスさんの前に小林くんは出せない。
でも、安室さんくらいしか今動いてもらえるのはいないし……
……うーーーーん。
ええい、ままよ!
「灰原さん。智ちゃん…新出医院の先生に、助っ人を頼んでも良いですか?」
「良いわけないでしょう!何考えてるのよ!」
『おいバカ、と新着メッセージが1件入ったよ』
怒られてしまった。この会話を横から聴いているのは安室さんなので、右耳からノアズ・アークが教えてくれたこのシンプルな罵倒も安室さんからである。
ほなダメかー…
「逆に言えば何かを調べようとしているなら、こちらから見せてあげれば何か行動を見せるのでは?なんて思ったんですが。何も無いなら何もないで、お医者さんですから阿笠さんの容態も診てもらえますし、私の容態も見てもらえますし」
「あなた、1番最後がその戯言の目的じゃないわよね…?」
『一応言っておくが、“新出智明”は今日出かける用事があるから連絡しても断られると思う、だそうです』
ほなダメかー…しゃーなし。
「腹括って、私が引率やりましょうか」
「良いのかの…?」
2人から、普通に心配そうな顔をされている。
いいさいいさ。人手が捕まらないときはやるっきゃないって話だ。
「ただし!阿笠さんは到着したら風邪が落ち着くまでロッジで寝てること!
で、灰原さんと、あと新一くんもですが、今回こそはあの子供たちから目を離さず、ルール厳守を徹底すること!
さもなくば…私が“おもしろい話”することになります」
「う、うむ……」
「ええ…」
出かけるなら、防寒着などの用意やキッチンの片付けをしないとな。
今回はバスを乗り継いでスキー場に行く予定だったから、その予定に乗っかろう。
慣れない道を、体重合計は(阿笠さんで)どっこいだと言っても、定員オーバー状態で走るもんじゃないし。
「……おもしろい話って?」
「昴くんの十八番じゃな。過去、実際に起きた事故記録を諳んじるんじゃよ。事件は新一くんの方が詳しいが、不幸な事故については彼の方が1枚上手じゃぞ」
「……」
「おや、スキー場で親とはぐれて彷徨っていたら崖から転げ落ち、見つからないうちに凍えて指と脚と鼻を壊死させてしまった子供の話しますか?」
「だいたい話してしまってるじゃない」
いやいやこの話のオチは別なところにあってだな。……ってそれはまた今度か。
だって何があるか、何が起きたらどうなるか、とか怖いじゃん。
バスって時点で野生動物との接触、または急ブレーキで車内で転倒とか、運転手の持病の発作とか、分離帯に突っ込んで車体横転とか怖いし……事件だけじゃなく事故も多いんだよ。
そしてそれが原因で起こるイザコザで、事件が起こる、と。
負のスパイラル!
さて。使うのは東都のバスか…バスジャックとかもありそうだ。
乗車前に小林くんや安室さんとの一連の連絡は済ませて、連絡機器類全部しっかり壊れないように、カバンの奥底に入れとくべきかな。イヤホンとかも。
もしなにかあったら、ノアズ・アークに一任しよ。
……なんかはあるんだろうが。
■
今回は子供たちの分の荷物も、となると大変なので、スキー用具一式を貸し出しているスキー場に、こどもスキー教室の予約まで入れて向かう。少なくとも、子供を見るプロのインストラクターの方が見ている間は私も休める。
子供たちも子供たちで私との距離感を測りかねているのか、新一くんが驚くくらい素直に言うことを聞いて、バス待ちの時間を大人しくしていた。
灰原さんに耳打ち。
「……これ、私怖がられてます?」
「苦手には思われてるかもしれないわね…」
最後に会ったのは病院で新一くんが退院した時。灰原さん的には、怖いまではいかないが苦手意識は持たれたそうな。
子供たちは緊張の面持ちで、阿笠さんを先頭にして並ぶ列の後ろ、私を見てはヒソヒソと小声でお話中。
怖い引率の先生みたいとか、前の小林先生みたいとか、小林といえばあのお兄さんは優しかったとか、そういえば昴お兄さんって、ホントは口悪いよねとか。
それもそれで陰口みたいで嫌なんだが…
これはあまり良くない。
子供が私を嫌うのは、私としては願ったり叶ったり。けれど、これでは阿笠さんの望みである、“楽しいお出かけ”には到底ならない。
楽しさってのは子供には必要だ。
けれど楽しいからって好きにしていいわけじゃない。みんなが良い気持ちで暮らす、そのためのルールとマナーだ。ルールとマナーは守るもの。
……うーん。面倒な……
灰原さんと新一くんを見ると、ついでに阿笠さんまで含めて心配そうな顔でこっちを見ていた。
いやいや、いじめないですって。
悪いことしてない子供をいじめるのは、遊びが通じる相手にだけだよ。私。
「ね。御三方」
「わわっ!」「きゃっ」「な、なんだよ沖矢のにーちゃん」
しゃがんで目線合わせて声掛けただけで、不審者かなんかみたいに驚かれてしまった。もうそれくらい嫌か……
「雪遊びってやったことあります?」
「「雪遊び?」」
「それって、雪合戦とか雪だるま作りとかですか?」
吉田さんと小嶋くんは揃って顔を見合わせているが、円谷くんは僅かに顔を明るくして答えてくれた。
「そうです、そうです」
「それなら歩美、やった事あるよ!」
「雪で遊んだことって事ですね?ほかにも、かまくら作りとか、そりすべりなどをしたことがあります!」
「でもスキーはやったことねーな」
「そうですか、そうですか」
6、7歳にして雪で色々遊べている。都内で?と少し驚いたが、今年も2月。今回の冬や、前回の冬にでも遊んだんだろ。
何?今回前回次回の今年の冬って。
…これは一生解決しないから投げ捨てとこ。
「じゃあ、私より余程、雪の危なさはわかってるんでしょうね」
「えー?昴おにいさん、雪遊びした事ないの?」
吉田さんの言葉に苦笑して頷いて見せる。
「ええ。私、雪が苦手で、そういった遊びはあまりした事がないんです」
「えーっ!なんでー?」
「おもしれーのに!」
「冷たくて嫌とかです?」
三者三様。口々に理由を訊ねてくる。
「円谷くん、その通り。小嶋くんの言う通り、雪は面白いものです。特に雪の結晶の観測はとても面白いですが、私、冷たいものに触れていたり、寒い場所に長くいるだけで、しもやけになっちゃうんですよね」
「“しもやけ”?」
「あ!雪玉を握ったあと、指が赤くなって痒くなったりするやつですか?」
「そう。円谷くんはよく知ってますね」
「え? へへ…それほどでも…」
「それなら歩美も、痒くなったことある!」
「オレもオレも!かーちゃんから、『手袋しねーからだ』って怒られたけどよー、手袋が濡れて冷たくなったから外してたんだぜ」
軽快に口が回り始めたようで。
「ふふ。小嶋くんはきっと、毛糸の手袋だったんですね。少し遊ぶだけならそれでも良いでしょうが、今回貸し出しの手袋は、ナイロンのしゃりしゃりのやつ借りましょうか。動かしにくいですが、濡れても中まで染み込むのに時間がかかる」
手袋濡れて冷たくなったら、家に入って乾くまで身体暖めろってそういう指標にもなるけど。
「昴おにいさん、雪遊びした事ないのに知ってるの?」
「雪で遊んだことはないですが、スノートレッキング……雪の山を散歩することはあるんですよ。テレビとか写真で見た事、ありませんか?雪の積もった一面の白い山の景色は、寒いのを我慢してでも見たくなるほどきれいでしょう?」
「ああー!テレビでやってたー!歩美も見てみたーい!」
「この間、絶景ランキングなんてやってましたよね。どこでしたっけ?」
「オレは景色とかより、うめーもんのほうが食いてーけどなー」
マイペースな腹ぺこ小嶋くんはさておき。
うんうん。雪山への好奇心と期待を思い出してワクワクが湧いてきたのか、3人の表情が明るくなった。こんなもんでいいか。
あとは阿笠さんに任せよう。
諸注意はもちろん大事だが、道中からお通夜モードで行くのは、中学高校の社会科見学くらいで良いんだよ。
次は到着の時に注意だけさせて欲しいな。
車内で座れとか騒ぐなとか、当たり前なこと言わせるなよ。
このタイミングでバスが来て、並んでいた乗客が続々と乗り込む。阿笠さんと共に、跳ねるようにして乗り込んでいく子供たち。新一くんが慌てて「おめーら!」と窘めに向かった。
……私ったら、あの程度でイラッとしてるのは過剰になり過ぎ。許容範囲もっと広げていけ…!
「意外だわ」
「何がです?」
灰原さんと私、揃ってバスに乗り込む。席は後ろが空いてるらしい。
なるべく阿笠さんの周りに子供を固めて、阿笠さんに代表保護者顔しておいてもらうか。
そのために風邪ひきながら来てるまであるし。
「あなた、自分の弱点をあの子たちに聞かせたでしょう?」
「ああ、その事ですか。あれは隠すことでも、わざと大げさに言ったことでもなくて、私が寒い所で雪に接していたら起こることなので周知しておいてほしかったんです。……あ、コナンくんの横どうぞ」
“そういうもの”なので弱み見せたくないとかその次元の話じゃない。
阿笠さんの横と、その前の2列席に子供たち。通路を挟んで阿笠さんの横の席に新一くん。そこの窓際に灰原さんを押し込み、既に阿笠さんの後ろの席はちょっとギャルギャルしい女性が座っておられたので、私は新一くん側の後ろに座ろうか。
「ホラ、おめーら、バス動いたらちゃんと席座れよ」
新一くんの呼び掛けに、元気よく返事を返す3人。
暖房の効いた車内は暖かく、私は荷物を窓際の足元に寄せて、重ねて着ていた上着を2枚ほど纏めて脱いだ。膝にでものせとくか。
「……もしかしてあなた、冬も夏と同じレベルで体調不良になるのかしら」
上着を脱ごうと、立ってごそごそしていた私に、見上げるようにしてこそりと訊ねてきた灰原さんに、私もこそりと口に手を当てて、席の上から返す。
「ふふ。正解です。詳しくは暇つぶしついでにそこのコナンくんに聞いてください」
「俺かよ。良いけどさ」
聞いていた隣の新一くんが、呆れながら了承してくれたので任せよう。どこまで話すかも含めて。
こればっかりは、知っていてもらわないと困る。
夏と冬の私は、阿笠さんが当然と言う程度には
使い物にならないからね。マジで自分のことで手一杯だから。
頼むから頼らないでくれ〜!
■
バスが米花公園前の停留所に着いた。
……なんでバスに智ちゃんとジョディさんが乗ってきてるんですかねぇ……?
そして最後列の、私の座る1列に新たに座った2人。……私の隣に座ったのは、普通に綺麗な
黒い、女性にしては短めのショートヘア。切れ長でキリッとした目元は、吊り目なのに気の強そうという印象よりどこか可愛らしいのは目そのものが大きいからか、それとも緩やかな弧を描く細い眉と、ほんのり上がった口角か。顎もシャープで、筋の通った小さめな鼻。
その顔で、隣失礼しますと言いたげに小首を傾げてにこりと微笑み、会釈してきた。
……ついつい咳き込みそうになっちゃった。
急いで安室さんに連絡を取るべく、バックから携帯を取り出そうとしたら、その隣の美人が下ろそうとしていたトートバッグの紐が邪魔になると思ったのか、手繰ろうと手を伸ばして……その手に紙が挟まっている。
“ウイスキーは2本”
一瞬、止まってしまった私。目線だけ向けると、にこりと女性は笑う。黒手袋に包まれた指を、隣の席に向けている。
そこに、丁度車内の通路の真っ直ぐ正面に、マスクをして咳き込む、顔色の悪い男が座ろうとしていた。
黒いニット帽。
チラリと、緑の力強い瞳がこっちを見た。
私の隣の美人な女性は笑うというか、困っていた。
その紙をクシャリと手のひらで握り潰して、女性は自分のトートバッグを脚の上にまとめ直して座る。何入ってんだか。
…………うん。
なんでぇ??
席、交換した方が良いか?
そして、米花公園前の停留所から乗ってきた最後の乗客。
スキーウェアを着込んだ男2人。
そいつらが、入口付近で徐に荷物を下ろすと…スキーバックから取り出した拳銃を構える。
「騒ぐな!! 騒ぐとぶっ殺すぞ!!!」
もー……
ホントになんでぇ????
町田さんがバスを一本遅らせたため、ニュースを聞いてびっくりすることになりました。
乗客人数が1名増えました。
読んでいただきありがとうございました!