昴くんはなにもしない   作:あまも

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色々やってみるけど徒労に終わる話です。

※25歳の新出智明というのがずっと首で引っかかってたんですが、27歳くらいになってもらうか、医者キャリアなんて吹っ飛ばせするか悩んでおりました。
とりあえず27歳ということにさせてください。だからといって変わるのは新出医院における事件の発生時期だけです。よろしくお願いします。

閲覧ありがとうございます!


29-1:幽霊騒ぎと気難し屋

 

 

 今日は安室さんと智明くんと一緒に、音無さんというご老体のアパートの謎の怪現象を解明していこうと思います。

 

 

 なんでこんな面子で…

 

 

 智明くんが智明くん(クリスさん)だということを、安室さんが私にバラしてたってことに機嫌を損ねたクリスさんのご機嫌窺いに2人で新出医院に出向き、私の定期健診ついでに、殴られたから念の為に、と米花総合病院で撮られた私の頭の輪切り(MRI画像)の確認と、腕の怪我の今後の経過の話をしていた時のこと。

 

『青森への異動の準備のため、患者さんたちを少しずつ別の病院に紹介するため、1人無理を言って猶予をもらった』という建て前で、実際クリスさん自身が診るには医者としての知識と技術が足りない患者さんを、他の病院を勧める形で進めていたのだが……

 1人、どうしても一生を新出先生に世話になりたいと駄々をこねるご老体がおりまして。

 

 名を音無芳一。死ぬ前に早く米花総合病院に行くべきである。

 

 そんな彼は特に不調があるでもなしに、新出医院の若先生との雑談を楽しみに新出医院を訪れる。

 

 その日もそうしてやって来て、見かけない金髪色黒イケメンに「また怪しい外人が来よったわ」と顔を顰めてさぁ大変。

 外国人に間違われるのを死ぬほど嫌がる零くん――あの時は零くんだったな――が、なんとか堪えて首に青筋浮かべながら引き攣ることなく作った笑顔で自分は日本人であり、私立探偵をやっているちゃんと日本国籍としっかりした身分のある人間であると主張。

 

 …えらい!

 新出医院に来ていた、大っ嫌いなFBIの人達と混同され、“怪しい”の枕詞をつけられ、侮蔑の目を向けられてなお、クリスさんの前であり、感情をあまり見せるわけにはないからと笑顔で堪えたその精神力見事なり。

 ただちょっとムキになりすぎかも。肩の力抜いてこうぜ。

 

「ああ、そっちの若造と同じか…」

 

 とか私を見て言うので、たぶんせやねんでおじいちゃまと肯いてあげるなど。

 ちなみに愛しの新出先生は今中身外国人やで。言わんけど。

 

 

 さておき。探偵だと聞いた音無さんは、ならば家のアパートの謎を解いてみろと安室さんを挑発。良いでしょうと安室さんもその挑戦を飲んだ。

 

 一応探偵の助手になっている私が連れていかれるのはまだわかるが、そこに面白そうだと顔に書いてある智明くんが参戦してきたのは意外だったな。

 

 

 で。

 

 

 

 やって来ました閑静な住宅街にボロっと建ってる音無さんのアパート。

 ……住むところにあまりグレードを求めない私でも、もうちょっと良いとこ住めるよう努力するかもしれない。

 それくらいのオンボロで、隣は工事途中に放棄されたという廃ビル。

 

 てかこの、目の前の公園さ。

 

「ここ、4年前に人が燃えてた所ですよね?」

「ほお?知っておるのか」

「というか通報者です」

 

 

 毎度おなじみいつもの炎上。

 焚き火してんなと思ったらどっこい人だったでござるの巻。火力不足で灯油か何か追加したのか、独特な脂の焼ける匂いがしたっけな。

 うーん、思い出しても最悪。

 

 その時の犯人の顔、特徴だけは覚えているんだけど、そこは私なので。あの頃から変わらず人を見る目が無い。

 

「犯人は2人組で、男。顔に傷がある男と、特徴のある顔の男……なのは覚えてたんですが。

 たしか、どちらもまだ捕まっていなかったはずです」

「その殺された女子(おなご)の霊が、夜な夜な現れる…という話じゃよ…」

「ええ……」

 

 ホラー的な事件です?高校の頃思い出してちょっとワクワクしちゃうね。

 ここで顔色を見てみましょう。安室さんは完全に懐疑的。お前はそういう奴だよな。

 智明くんは興味はあるけど、私たちがどう解決するのかが気になるんだろう。

 

 2人して幽霊信じてないんです?

 私は信じるけどね!幽霊!

 

「ん…?」

「おや。ええと……?」

 

 アパートに入って早々、メガネの四角い印象の男性と鉢合わせした。

 彼は、私のことを視界に入れた途端に、何やら睨みつけてくる。

 誰だ…?知り合いか?この顔……たしか、大学のほうでチラホラ見かけた覚えがあるような、ないような。

 

「彼は大学院生の牡丹さんじゃな」

「まさか、またお化けが、なんて話ですか?下らない…私の論文作成の邪魔だけはしないでくださいよ。………貴方も、よくそんな事にかまけてる暇がありますね。また論文未提出で留年するつもりですか?貴方、電子工学部の噂の…」

「ふふ。お気遣いどうも?なんの噂か知りませんが…論文なら案外どうにかなりますって」

 

 なんだ、私が一方的に知られてるだけか。

 何、そうピリピリしなさんな。単位も発表も、ダメならまた次挑戦すればいい。

 今日はちょっとおばけ騒ぎで騒がしくなるかもしれないが、我慢していただきまして。

 

 しかし私の笑顔に牡丹さんは苦い顔で去っていった。

 彼がどこの学部かも知らないし、仲良くなる気はしないが、私の事知ってるなんて。なんてったって私は“沖矢昴”だし、目立つほうではあるけど。

 ……噂って何だ?

 

「噂?」

「沖矢さん、噂ってなんですか?」

「さぁ……?」

 

 どうせ休学だの留年だのして遊んで回ってた、爆死した教授のゼミの学生とか、中学生連れ込んで遊び呆けてる優男とかそんな話でしょ。下らなそうだから気にしなくていいんじゃないかな。

 

 

 ■

 

 

 お話お伺いしまして。

 

 へぇー……

 人魂ねぇ……

 

「方向はこの窓ですね?」

「そうじゃな…」

 

 安室さんが既になんとなく察しがついていそうな表情で音無さんに確認。窓を開ける許可をもらって、窓を開けさせてもらうと、隣の建設途中の廃ビルがそこにあった。

 

「ホー…」

「ああ、なるほど」

「4年前からですか…ここ、今音無さんと牡丹さんの他に住人は?」

「他には2人じゃよ。特撮好きでホラー映画の自作もしておる四谷さんと、模型屋で働いていて部屋が不気味な人形ばかり並んでおる番町さんじゃな…」

「みなさん1階に?」

「そうじゃのお」

「退去したのは2階の方が多いのですね」

「そうじゃが」

 

 へぇー。

 

 2階に住む音無さんが、夜、廃ビル側の窓に人魂を見てから始まった心霊現象の数々で、2階の方ばかりが被害にあって引っ越して行ったんだ?1階の人も見てはいる?ふむふむ……

 

 

「トイレの水が赤くなったり、気が遠くなって気絶、夜中に恐ろしい幻を見たり、窓から人影が覗いていたり……ね」

 

 聞いた限りでは確かに心霊現象。ただし、『幽霊の正体見たり枯れ尾花』だ。トイレはともかく、夜中の幻も窓の人影も、何かと見間違えた可能性は充分に。

 

「色水ですかね?」

「実際に見てみないことには」

「夜まで待ってみるか…」

「となると、智ちゃんどうします?帰りますか?」

「そうですね……夜までは難しいか。後でどうなったか、教えてもらっても?」

 

 さすがに患者さんの数を絞って来てるが、まだやってはいるワンオペ診療所の先生。

 こんな所で遊んでるわけにはいかない。

 今だって、お昼休みの時間で来てるのだ。

 

 後々、音無さんがどうせお話のタネにしてくれるだろ。

 

 智明くんが帰ってしまうのを寂しそうにするも、お医者さんは忙しいものだと彼もわかっている。

 おうちまで来てくれたことで、最近冷たくされたのも忘れてまた行くからな、などと。

 だから紹介された病院行けって。

 

「じゃあ私、智ちゃん送ってきますよ」

「いや、良いよ。俺が送ってくる。車の鍵貸せ。その間、沖矢は周辺の電波や、回線の混線等の確認しておいてくれるか?」

「ああ、なるほど?了解」

 

 そんなふうにサクサク進めたのに、いざ私の車をアパートの前に持ってくると。『()っ』と目が険しくなった。

 ……赤い私の車に乗り込む際、非常に不本意の顔されておられたが。そんな嫌なら、私に送らせれば良いじゃないの。

 

 

 お見送りしてさて、さて。

 

 頼まれた仕事はちゃんとやらないとね。

 

「仕事しましょうか、ノアズ・アーク」

『うん。探偵さんのお仕事だね!』

 

 

 ■

 

 

「何かわかったかのお?」

「おや、音無さん。ありがとうございます」

 

 暖かいお茶と、最中を持ってきてくれた音無さんに礼をして、ノートPCから手を離してありがたくおやつタイムにさせてもらった。

 

 あまあまうめうめ。

 

「そうですね、予定では今日で、最低でも人魂のほうは解決出来るかもしれませんね」

「ほお…」

「あと幻ってどんなものを見た、とかわかりますか?」

「そうじゃのお…恐ろしい形相の女が現れたとか、じゃったか」

「ふむ……」

 

 動画でも模型でも、やりようによってはどうにか作れそうな気もする。

 牡丹さん、専攻どこだろう。あのオカルト懐疑的な言い方は完全否定かあえて否定して見せたかのどっちかだろう。

 私への態度からすると、バカにした色が見えたし、本当に関係ない人な気もする。

 だとしたら今日は、彼の論文作業の邪魔になってしまって申し訳ないな。

 

 せめて今日で終わらせてあげないと。

 

「そうだ。夜、泊めてくださってありがとうございます音無さん」

「ふん。……お前さん、新出先生んとこの悪代官事件の時の探偵の1人じゃろ」

「……」

 

 悪代官?探偵?

 ……ああ。

 

「ご存知だったんですか、新出義輝さんの事」

「当たり前じゃろ……あの男は上手く隠していたつもりのようじゃが」

「詳しくは言わずとも結構。何処までご存知かは知りませんが、口に出す話ではありません」

「……そうじゃの」

 

 醜聞極まりないからね。

 

 私のかかりつけ医に、と距離的に丁度良かった新出医院に決めてからしばらく。

 その日、たまたま受診した際、一緒に付き添いで来てくれたのがかの有名な推理作家、工藤優作氏だと知った新出陽子さんから、彼女の友人であり智明くんの母親の千明さんの交通事故についての相談を受けたのが事の発端だった。

 

 ……いろいろあったのだ。主に、あの義輝という男の私生活方面に。

 

 女性関係は、本当に関係ない人間からしてみたら、心底軽蔑するものでしかない。

 

 ………………あの件は私も悪い。

 工藤氏は全てを話してしまえばどうなるかまで想像出来ていて、あえて説明していなかった所まで、こっそりと律儀に説明してしまった。

 

 事を起こしたのは後妻の陽子さんであって、覚悟を決めてやってしまったものは取り返しはつかなかった。

 裁判の用意として私たちで証拠探ししている間に起きてしまって、そのトリックに、当時まだ家政婦として働き始めたばかりの保本さんが関わってしまったりと……工藤氏の想像を超えるポンコツとタイミングとうっかりの入り乱れた乱戦模様と相成りまして。

 色々……うん。色々不幸と不運と絡んじゃいたが、結局のところ私が感情に任せて全部バラし過ぎたのが、彼女を煽ることに繋がっちゃったんだよな。

 

 ……しかし、ご近所の間の噂、どころの話ではなかったんだな、あの男の色情魔っぷり。

 下世話な話は苦手だなぁ。

 

 

「若先生はあの男に全く似とらん。ミツさんや千明さんが、大事に育ててくれたんじゃろうなぁ…」

「……そうですね。いい子ですよ、智ちゃんは」

 

 千明さんに頼まれて、智明くんのためにあの醜聞の塊を排除しようとした陽子さんだって、いい人だったことには違いない。ただやり方を間違えてしまっただけで。

 

「だからって、彼が青森に行ってる間は診れる人が居なくなってしまうのは避けようのない事実ですから。ちゃんと紹介してもらった先生のところ、1回でいいから行ってきてください」

「……」

「耳が遠いフリしないでください……智明くんが音無さんのこと心配だから言ってるのはわかってらっしゃるでしょう?大丈夫です。みんなで戻って来るって、言ってましたから」

「……仕方ないのお……1回だけ行ってみてやるか…」

 

 散々駄々こねてきた音無さんだったが、ようやく、とても渋々うなずいてくれた。

 決め手はなんだろう。義輝と智明くんは違うってのを知ってる私がいる事かな?

 セカンドオピニオンの話は、しない方が良さそうだな。やっぱり智明くんのがいい!って、言い出しそうだし。

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

 話も丁度なところで安室さんが帰ってきた。手には中身の入った買い物袋。

 

「一晩泊めていただくので、お礼になるかはわかりませんが、夕飯を作らせていただこうかと。宜しいですか?音無さん」

 

 さっきまでニヤリとではあるが笑顔を見せてくれたのに、音無さんは仏頂面に戻ってしまった。

 

「フン……ワシはハイカラな物は好かんぞ…」

「それなら大丈夫ですよ、音無さん。あんなんですが彼の作る家庭の味はおふくろレベルですから」

「“あんなん”ってなんだ沖矢ァ!手伝え!」

「フン……」

 

 音無さんてば、どうにも見た目で安室さんが受け入れられないらしい。

 見た目だけならチャラ男だもんな。

 ……偏見嫌いの安室さんも躍起になって認めさせてやろうとしておられて、2人して頑固者同士ガチンコぶつかってしまってるらしい。

 外見だけなら私も大概だが、悪代官の話を知ってたなら土台はそこにあったんだろう。

 

 なら、腹を掴めば安室さんのことも認めてくれるかもね。

 

 安室さんの買ってきた買い物袋を覗けば……これは……

 

「……ホッケのみりん干し、と……煮物です?」

 

 立派な魚の開きが3枚。里芋、人参、大根、レンコン、ゴボウに、丸っとイカが1杯。葉物野菜と絹豆腐。これは冷奴とおひたしか?

 

「正解。下処理は俺がやるから、お前は火加減をしながら報告頼む」

「ああ、なるほど了解」

 

 キッチンは好きに使えと言い残し、日課の散歩に向かった音無さんを見送って、夕飯の時間に温め直して食べられる所まで調理してしまおうということで。

 初対面の怪しいチャラ男がいるのに、よく家空けられるな。盗まれるほどの物もないって事だろうけど。

 下処理は安室さんがやる、と言っていた通り、材料がポコポコ飛んでくるので私は言われた通りに鍋に入れたり出したり転がしたりするだけである。

 

 

「先に俺から2点。アパートに帰ってきてから、残りの住人2人を確認した」

 

 音無さんの所の客人が何しに来てるのかと興味のある様子だった番町という細身の男性と、お化けの調査、なんて眉唾物な話に面白がって話に混ざってきた四谷という大柄な男性。

 

「2人とも、人魂を見たそうだが、四谷さんは2階の6号室に以前住んでいた、知人の部屋に行っている時。番町さんは自室の、ビル側でない窓から見たのだと」

「ホー…?」

 

 それは……

 

「おかしいですね」

「ああ。……あと、外の窓の枠に人が掴んだ指の跡のような形に汚れがなかった。外の塀に上がれば手は容易に届く」

「なるほど」

 

 外から何かしようとした人がいたらしい。

 一通りの材料を入れ、あとは焦げないように気を付けるだけ。味付けは任せて良さそう。

 

「そっちは?」

「このアパートはケーブルで共同アンテナに出力可能でした。音無さんのテレビで確認済みです。音声、映像、どちらも流せます」

「そうか」 

「妨害も少し流してみましたが、こちらは収穫なしです。物音はしていません」

「そうか」

 

 電波の調子が少しだけ良くなくなる、程度の妨害だが、ポータブルTVなどの持ち運び用の物は再起動してみたくなるような、その程度でもある。失敗したがね。

 

「……一応確認しておきたいんだが、お前、もう1人の方の顔、覚えてるか?」

「正直、見ればわかるかも、くらいですかね。顔に傷がある方ばかり印象が強くて」

 

 

 音無さん以外の住民は、あの事件以降の人ばかり。

 ……ま、あとは確認だけみたいなもんだろ。

 

 

 ■

 

 

 というか番町さんとやらを目にした瞬間、私は彼があの公園で人を焼いていた2人組の片割れだとわかってしまったんだがね。

 

 日の落ちた室内に、帰れ帰れと催促してくる女……の顔が画面いっぱいに広がってたり。

 トイレの水が赤くなったと騒ぐ牡丹さんが共同トイレから飛び出してきたり。

 

 その騒ぎで駆けつけた番町さんの顔の見覚えはしっかりあって、あの日のキャンプファイヤーを思い出したもんね。

 

 行けっ!安室!純粋な暴力で引っ捕えい!!

 

 

 ついでに、廃ビルに潜んでいたもう1人のほうも安室さんの部下で私の監視もたまにやってくれてる眼鏡の気難しそうな人が捕らえてくれたので、お化けの心霊現象を見る前に終わってしまった。

 

 えー?一件落着なのぉ?

 ホンモノの心霊現象見たかったのに!!

 

 





※新出医院での事件の発生時期が、陽子さんが義輝の悪事を全て知ってしまうのが早かった事と、おそらく原作より2年ほど早くに智明さんと保本さんの出会いがあったことなどで早まったものだと考えていただければと。
起きた出来事は大まかには変わらないはずですが、良かれと思ってのうっかりは絡んでるかもしれません。
ってことは裁判はもう終わってます。



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