昴くんはなにもしない   作:あまも

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そりゃこんな世界にただの一般人
軽いうつにもなるさって。

閲覧ありがとうございます!


30-1:お昼ご飯と不在の死神

 

 

 阿笠さんちの2階ギャラリーの定位置で、冬の晴れ間の陽射しを満喫していたら額をぺちぺちと叩かれる感触。

 目を開けたら、灰原さんのお顔があった。

 

「お昼だけど、麺、茹でて良いのかしら」

「わ! やりますやります」

 

 急いで飛び起きた。

 いくら実年齢は“おねいさん”だとしても、幼児の身長でお湯を使うなんて危ない。

 

 今日はパスタです。

 ミートソースは阿笠さんのお腹に贅肉をつけてしまうので、あっさりバジルとほうれん草の緑みどりしたなんとかって洒落た名前のソース。監修は灰原さん。

 

 私がこんなオシャレなもの、作るわけないだろ!

 

 麺だけ茹でれば、あとはソースをかけるだけ〜まで作ったんだが、小洒落過ぎて味の想像が出来なくて味付けに手間取ってしまった。

 ミキサーで作れるのは楽でいいと思う。

 

 

 今日は日曜日。

 ︎︎新一くんは園子さんがここのところ熱心に通っている陶芸教室に行ったそうな。

 なんだかよくわからないが、セーターの次は陶器の贈り物で、蘭ちゃんはなにやら新一くんへの贈り物作りに、園子さんと一緒に行って……新一くんは……蘭ちゃんが誰にどんなのを贈るのか気にしてついて行った、のかな?

 

 昨日帰り道に蘭ちゃんと園子さんに偶然出会って、話のついでに聞いただけだから、なんで湯のみ?とか新一くんがついて行った本当の理由とか、よくわからないんだけど。

 ……陶芸って、なんか人間国宝の事件にも絡んでなかったっけ?新一くん。

 

 一旦さておき。

 

 んじゃそれがついでなら何をそんな聞いたのかというと。

 

 園子さん、いつだったかの夏に彼ピが出来てたらしい。

 

 ……知らんかった。園子さんとは仲良くさせてもらってるつもりだったのに……

 

 

 詳しい話を聞くべく、昨日は2人を誘ってポアロでお茶会して、恋バナと洒落こんじゃったよね。梓さんまで聞き耳立ててたぞ。

 

 恋多き園子嬢の心を射止めた相手の手口だが、悪漢共から身を呈して救い出し、蹴り一閃で蹴散らした上で真っ直ぐに愛を伝えたそうな。

 どこのバトルラブコメ?

 ……ここか。

 

 その圧倒的な強さとカッコ良さと、愚直なまでの素直な気持ちに惚れてしまったんだとさ。

 そのお方、“蹴撃の貴公子”なるネームドのヒューマン。

 何?100戦に留まらず200戦だか300戦だか無敗なんだって?

 どこの青春バトル漫画?

 ……ここか。

 

 将来の事を考えると、園子さんの事を“守護(まも)”れる強さはどれだけあっても良いだろうし……

 良いんじゃないかな。

 蘭ちゃんですらアレ(・・)で、零くんや景光くんがゴリラなのを考えると……国内最強クラスの格闘家って言葉だけでも寒気を覚えるが、うーん。

 つくづく身体鍛える方向に進まなくて良かった。

 そんな人達と渡り合える気しないもん。怖いって。

 

 チラッと写真を見せて貰ったが、これがまた精悍な、昭和俳優のような、昔ながらな良い男でして。

 うん、良いんじゃないかな。

 

 これまでのポイントも貯まってるし、面白おかしくからかってやろうかと思って話を聞いていたのに、かなり真剣なお付き合いを考えている様子に、ブラックコーヒーがちょうど良くてね。しばらく様子見してみようかなと思う。

 

 うむうむ。アオハルだねぇ。

 

 ……綾子さんの時の事を考えると、そのうち相手さんの調査依頼とか史郎さんから頼まれそうだ。

 心しておこう。

 

 ■

 

 

 そんで名探偵は蘭ちゃんの後を追って陶芸教室に行っているため、他の場所が平和でね。

 今日なんて、安室さんも警視庁に出向中で小林くんも何やら杯戸町でバイト中……ということでこの和製ロアナプラは珍しく、のんびりとした時間を過ごしているというわけ。

 

 今日は本当に静かだ。

 パトカーの音もないし。

 爆発音もしないし。

 外に出ないから悲鳴も聞こえないし。

 

 うーん、快適!

 

 

「あなた、することない時はいつも寝ているの?」

「さすがにいつもではないですよ。今日は良い天気なので」

 

 この隙にリフレッシュしてメンタルリセットを図るのさ。

 

「ギャラリーはあなたの部屋みたいなものだと博士が言っていたけど、あそこしか使ってないのかしら?」

「昔は貰い物やリハビリ器具とか置いてましたが、今は片付けてしまいましたね」

 

 ひとり暮らしを始める時に、本当に大事なもの以外は全て倉庫代わりに借りてる部屋に送るか、処分してしまった。

 

「プチ家庭菜園とかもやってたじゃろ」

「でしたっけ?……ああ、2年間だけやりましたね、そういえば」

 

 温室みたいだからと、鉢植え持ち込んでベビーレタスや二十日大根やプチトマトなど育ててみた事がある。三日坊主常習犯の私にしては長続きして、1年目は大成功だったのだが。

 

「2年目にキュウリ、スイカ、カボチャを植えたら、最初の収穫までは良かったんですよ」

 

 庭にまで進出して、グリーンカーテンというやつをやってみようとしたのだ。最初は良かった。最初は。

 

「想定以上に育って、ギャラリーがレインボージャングルになってしまって」

「なっはっは」

「レインボージャングル……?」

 

 原因が誤魔化し高笑いしておられる。

 

 謎の栄養剤を土にぶっ刺した人誰ですかね。

 

 その『超!スクスクくんレインボー長期型』とかいう栄養剤は、市販に流そうとしていたので必死に止めたけどさ。

 

 

 彼なりに良かれと思ってのことで、作物が沢山取れたら良いだろうな、なんて軽い気持ちだったらしい。

 全てウリ科だったのが良くなかったんだろう。

 勝手に奇妙な交配を爆速で進め、おかしな植物が完成し、いよいよ手に負えなくなったため、零くん主導のもと、景光くんと私とで協力し全てを焼却処分した。

 その灰が庭に埋まっているが、未だにそこだけ蔦が生えたりする。抜いても抜いても、次の年には芽を出すのだ。生命力…ですかね…

 

 

 今後のことも考えて、設備の不十分なここでバイオハザードさせるわけにはいかないので、植物を育てるのは止めたのである。

 

 

 ……なんで虹色にしちゃうんだろうな。ゲーミング好きなの?阿笠さん。

 

 

「……わかったわ。家庭菜園はやめましょう」

「うん…」

 

 家庭菜園はね……やってもいいんだけど、阿笠さんは絶対に手を出してはいけないルールを作らないといけなくて、手を出せない阿笠さんがしょんぼりしてしまうからね。

 

 でも帯化スパイラルイチゴ造られたらね。もう私は許可出せないですよ。キモすぎた。

 私の家の方で作ってるやつで我慢して欲しい。

 

 さて、お昼もみんな食べ終わって片付けも終わったら、もうひと眠りしようかな。

 

「……ねぇ……」

「はい?」

 

 使った鍋を片付けていると、食後の紅茶を飲んでいた灰原さんが妙に真剣な顔でこちらを見ていた。なんじゃらほい。

 

「…………いいわ。なんでもない」

「なんでもないって顔じゃありませんでしたよ。言ってみるだけタダってやつです」

 

 首を振ってしまったので引き止める。気になるじゃん。何?

 

「あなた…病院に通院して定期健診してるって、江戸川くんにも聞いたけど、改めて……何処が悪いのか聞いても?」

「ああ、大丈夫ですよ」

 

 そういえば、あの時はバスジャックやら智明くん(クリスさん)やらで灰原さんはそれどころじゃなかったか。

 これからも付き合っていくなら、私が出来ないことは確認してもらうべきだろう。

 ︎︎そうだな、まず頭と察しが悪いと。これは通院しても直らんね。

 

「私の取説ですね。大きくわけて3つです。

 1つ、暑い、寒いの温度変化にめっぽう弱いです。

 2つ、自覚はありませんが診断ではうつ病です。

 ……3つ、『スバル』で反応しない時は必ず阿笠さんに言ってください」

 

 1つ目は普通に、子供の頃の事故で全身の広範囲の重度の火傷を負った影響で、汗腺や毛細血管その他、表皮機能が正常でない部分が多い。

 だから暑い時には体温調節が上手くいかなかったり、寒い所では毛細血管が血を回せなくて、なんてことになってしまう。

 それでなくとも痒くてなんとなく搔いたら搔きすぎましたとか乾燥とか諸々ある。だから手袋は本当に大事なのさ。まとめると、これの通院理由……なんだろうな。

 メンテナンスかな。

 

 2つ目は、まぁ、自分は全く問題無いというか、自力で勝手に立ち直れているのだから病名をつけるようなものでもないと思うんだけれど……

 一応これでもうつ病らしい。

 言われてみれば『躁鬱激しい』と。納得できなくもない。

 でもこの米花町で人生に悩んで一喜一憂するのは当たり前の事だと思うんだ。

 事件のひとつにでも遭遇すれば、死に直面して取り乱すし、自分もいずれはなんて心配になるし、でもまぁ今は生きてるしいっか!なんて元気になるのも早い。

 私がテンション高かったりいきなり落ち込んだりしてもあんまり気にしなくて大丈夫。勝手に色々考えているだけだからね。

 薬飲んでるわけじゃないし。とりあえずうつ病とか言っちゃうんだからまったく。無理に病名つけなくていいのにさ。

 身体の不調で病院行くと、病名つけられてしまうんだもんよ。風邪とか、腸炎なんてただの疲れで免疫低下と悪いもん食っただけでしょ。寝てれば治るって。

 

「……2つは江戸川くんに聞いたわ。3つ目は、何?それ」

「3つ目はそのままですよ。私を呼んでも反応が無いときは気をつけて」

「だから、それはいったい何でなのよ?」

 

 ふふ。阿笠さんがしょんぼりしておられる。

 

 灰原さんは不思議そうだが、こればっかりは分からない。

 そろそろ20年近くにもなるが、それより前がまだいるかなんてさっぱりわからない。

 

「私じゃないかもしれないので」

 

 色々要因の可能性はあるけれどね。

 

 自分で見たならドッペルゲンガーだ。死んじゃうかも!

 

 きゃあ!オカルト!

 

 

 

 ……なんてね。

 

 

 首を傾げ、はぐらかされたのかと睨んでくる灰原さんだが、本当にわからないから仕方ない。

 ︎︎私的にはもういないと思っているんだけどね。

 

 

 ■

 

 

 阿笠さんと新一くんたち少年探偵団が、アニマルショーに行くという。

 OK、小林くんよろしくね。

 

 私はその日は……シャトー米花でヒロキくんや秀吉と遊んでくるかな。

 

『動物好きじゃなかったっけ?』

 

 ノアズ・アークが不思議そう。

 好き……では……うん。そりゃかわいい動物は嫌いじゃないが、アニマルショーなんてのは嫌いだ。

 特に、今来日しているサーカスのようなものなんか。

 

 「見世物にするなんて、見てられません」

 

 最たる例が火の輪くぐり。人間の悪いところを見に行くみたいなもんだよ。

 

 火を恐れるはずの猛獣をしつけて、人に慣れさせることのげに恐ろしきこと。

 水族館や動物園みたいな、理由があって人が触ることに慣れさせていたり、彼らの習性を利用して見る人に学びを与えたりするのとは違う。

 人間を楽しませるためだけの調教なんて……

 

『……動物嫌いなの?』

「嫌いじゃないですよ。見てる分には良いですね」

 

 うーん……たぶん、『やらせてる』感が好きじゃないんだろうな、私。人間が人間を楽しませるための研鑽は、喜んで楽しめるんだが。

 

 

 なんてことは気にせずに。小林くんに任せてきたので話は終わり。シャトー米花の18階で秀吉のタイトル防衛おめでとうパーティーしてたのだが、外がパトカーのサイレンで騒がしい。どうせ新一くんだろ。

 

 これだから少年探偵団の活動は……絶対何か起こるじゃん。

 

 なんだなんだと外の様子を窺う2人。あんまり気にしなくていいと思う。小林くんもいるし。

 

「ノアズ・アーク、小林くんたちの様子、見れる?」

『待ってね……ええと、

 誘拐騒ぎでパトカーに追われてるよ』

 

?????

 

「え?」

 

 ちょっと話端折り過ぎかもしれん。察しの良い天才達も、ノアズ・アークの言葉に揃って同じ方向に首を曲げている。

 ごめん、もっかい主語述語ちゃんと教えて?

 

『……あ、捕まってる。

 ええとね……パトカーに扮した誘拐犯の乗る車を止めるために、小林くんの車に少年探偵団を乗せて、逃走中の誘拐犯を装って、ちゃんとした刑事さんたちと一緒に追わせたみたい』

 

――???

 

 どゆこと?

 

 状況がよくわからない。登場人物一覧がほしいかも。

 でも今ので2人はわかったらしい。あぁ、とかなるほどとか言ってしたり顔で頷いておられる。

 

 説明キボンヌ。

 

「そうだな……じゃあ、これが誘拐犯の乗る偽パトカーだとするだろ」

 

 将棋盤の上に、玉を1つ。パチンと置かれたそれがホシね。

 

「中の犯人はきっと、容疑者の護送、みたいな感じで拘束していたんじゃないかな。あれって、左右で犯人を挟むんでしょう?顔隠してさ」

 

 そこら辺に引っかかっていた秀吉の羽織を頭から羽織って、両手首を揃えてやや俯くヒロキくん。その隣にグイグイと、おしくらまんじゅうのように秀吉がヒロキくんを押すのでとりあえず私も反対側から参加するか。

 おしくらおしくら。ソファーが広くて狭さがねぇや。

 

「偽警官なら、拳銃とか持ってたかもしれないし」

 

 指をピストルの形にして、脇の下からヒロキくんを擽る秀吉とやめてやめてと楽しそうなヒロキくんである。

 

 あー、これで車に載せられてたら、抜け出せないし逃げにくいね。

 へぇ、賢いな、この犯人。

 問題は人手が必要な事かな。

 

「これだと、もし犯人が偽装がバレてる、って思ってしまったら、人質の人が危ないでしょう?」

「そうですね、簡単に害せてしまう」

 

 秀吉が歩を玉の後ろに付けている間に、ヒロキくんの頭をもしゃもしゃくしゃくしゃ撫で回していると、遂にヒロキくんは我慢出来ずにスポンと飛び出してしまった。

 車内ではああして逃げ出すこともできない。

 やっぱ車は移動する個室。立派な誘拐ツール。はっきわかんだね。

 

「だから、偽のパトカーに対抗して彼らは偽の誘拐犯を用意した。子供を攫う凶悪な犯人をね」

 

 そこに成って龍の赤い文字の駒を玉の横からスっと前へ。

 ……小林くん、君もしかしてパトカーに、私のスバル360を追わせたの?

 

 おい、景光???

 

「その“凶悪犯”を追って、他のパトカーが追ってきても見た目は違和感無いだろ?」

 

 ゾロゾロと、歩が後から前からぱちぱちと寄せてくる。

 

「後はこの偽パトカーに、『協力してほしい』とかなんとか声掛けて、集団に入れてしまえば車は逃げられないよ」

「でも、中の人質は逃げられないじゃないですか」

 

 龍だけ前に残って、玉が前後左右を歩に囲まれている。将棋なら斜めに出れるが、車はそうはいかない。

 

「この集団が一斉に急ブレーキをかけたら?」

「……ああ!」

 

 秀吉がいつの間にかもっていた扇子で玉を示しながらの言葉で、そりゃ止まるでしょと答える前にわかった。

 なるほど、なるほど。

 面白いなこれ。

 

「スポンと人質だけ吹っ飛んで、フロントガラスに突き刺さると。慣性の法則ですね!」

『なんで?』

 

 先程抜け出したヒロキくんを指差して回答を言ったら、2人とも何故かずっこけた。漫画かよ。漫画だったわ。

 代表してノアズ・アークが心底不思議そうに。

 ええ、でも北海道金塊争奪戦でそんなの見たよ?

 

 ノアズ・アーク曰く、ラストはそこまで勢いは無かったけれど、そんな感じで犯人達は前にある座席やハンドルにぶつかるけれど、人質はスッポリ倒れて抜け出せる、という流れらしい。

 

 つまり、この2人の想像は合ってるってこと?

 

『うん。大体合っていたよ』

「「やった〜!」」

 

 2人して喜んでいて大変微笑ましいが、秀吉よ。車運転してるくせにわかんなかったの?って、お前、急ブレーキなんて危ないんだから滅多に踏むわけ無いだろ。

 

「この間はお兄さんが先に正解しちゃったから、なんだか嬉しいね」

「そうだねぇ!僕たちの気持ちもわかったんじゃない?」

 

 ……あの時の意趣返しか……!

 

 確かに、答えだけ提示されてたみたいなものだったし……ぐぬぬ。

 答えの先出しは私の十八番だぞ!

 

 

 

 ……ところで、マジで小林くん大丈夫だったの?偽、とはいえ警察に追われてたってことだけど……後で連絡しておこうか。

 

 





でも本人至って健康なので大丈夫です。フレーバーテキストみたいなもんです。


読んでいただきありがとうございました!
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