昴くんはなにもしない   作:あまも

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4回くらい書き直しましたがまだしっくり来ません

閲覧ありがとうございます!


31-2:冷たい偽探偵

 

 

 

 

 毛利小五郎が、首を吊って自ら死を選んだことを、山村刑事はさめざめと泣き叫び、世の宝の損失を嘆き悲しんでいる。

 

 その後ろに本物の毛利小五郎が、冷めた眼でそんな山村刑事のことを見ているんだが。

 

 

 はい、ヘッポコ劇場もそこまでにして、サクサク進めていきましょうね。

 顔とか全然違うでしょうが。私でもわかるのに。

 

 

 今日はなんだか、小五郎さんがさっきまであんなにぐでんぐでんになってたのが夢か幻だったかのようなシャッキリ具合でテキパキと場を取り仕切っておられるのだ。

 遺体の確認、現場保存、各所連絡、山村刑事への指示……山村刑事への指示?指示出す側じゃないの?うん……指示出してるし山村刑事も素直に従ってる。

 普段もまともな時はまともなのは確か。しかし、さっきまでのあの酩酊っぷりはなんだったのかと新一くんどころか蘭ちゃんすらも驚いている。

 演技…?演技だったのか…!?

 

 あれか、働きアリの法則みたいなやつか。働くアリがいる間は動かないけど、働かないアリだけにすると働き出す。

 ……逆だっけ?逆だったかもしれねェ…

 

 や、でも本当に今日の小五郎さんはなんだかシャッキリしている。これは信頼できそうな探偵だ。

 

 

「これは…当たり年?」

「ワインかって。試しにヒントで誘導する程度でおっちゃんに任せてみるか」

 

 新一くんがちたちたと軽率に現場に入り込み、検証に参加しようとしていたので一旦止める。一旦ね。

 せっかくだから蘭ちゃんに預けとこうか。

 

 あんだけ見ない方が良いと言ったのに、蘭ちゃんってばうっかり視線をキョロつかせてしまって、結局ご遺体を見てしまった。

 …………見れる距離にあったらつい視線行っちゃうのはわかる。見るなの法則は自分の心にも働くのさ。怖いもの見たさってやつ。

 ま、私も見ちゃったし。いまさらいまさら。

 

「なんで毛利小五郎のフリなんか…」

「きっと、あのアタッシュケースの中を見たかったんだよ!ほら、カギが挿さったままだよ!」

 

 遠隔で指示出ししてくる小さい少年に、特に反論もなく山村刑事がいそいそとアタッシュケースを開けてくれた。

 …素直だな。

 

「これは…」

「スポーツ新聞!」

 

 相撲の1場面を捉えた写真と、初優勝の字がでかでかと書かれたスポーツ新聞。5年前のもので、当時の力士、赤城丸の優勝を伝えるものだった。

 

 相撲はよく分からない。ノアズ・アーク、赤城丸についてよろしく。……あ、いや、小五郎さんが言ってくれてるからいいや。詳しく知ってそう。

 今日はなんだか一味違う…かもしれない。

 

「アレ、なんか出てますよ。ほら、黒い糸のような……」

 

 と、山村刑事がスポーツ新聞の隙間から引きずり出した、長い……髪の毛のかたまりに悲鳴があちこちから。

 悲鳴ついでに抱きしめられた小さいヤツが役得してらぁ。

 

 これはきっと、あの髪の長い赤ジャケット男の呪いだ!……なワケは無い。

 

「フン!呪いで人が殺せるんなら、警察も探偵もお手上げだっつーの!」

 

 真面目な顔した小五郎さんが、まるで名推理かのように語ってくれているが、……残念。

 

 挟まっていた新聞の他のページが湿っているし、髪そのものもしっとり潤いが満ちている。

 となれば、これまでの私と新一くんの聞き込みも含めて、あの髪は今日、女風呂で採取され、ここに仕込まれたものだとわかっている。

 5年前の未開封品がここまで潤ってるのはありえない。

 

 ……とはいえこれは小五郎さんに明かしていない情報だから、小五郎さんの推理の着地点は、辻褄合わせにより心の弱い人たちの自殺ラッシュになってしまった。しかし山村刑事は小五郎さんの真面目な語り口に騙されてしまって気付けていない。

 

 やはりダメか…

 

 背中をペちりと小さな手で押された。新一くんが、ヒントを出しに行けとでも言いたそうな目線を向けてくる。

 ふむふむ。アイコンタクト言語の習得が進んでいるな、私も。

 よーし、任せろ〜!

 

 

「な〜んだ!やっぱり、これだけ科学が発達した時代に呪いなんてあるわけ…」

「それ、ひとりの人間の毛髪だけじゃないですよ」

 

 髪の毛を握りしめて明るい表情の山村刑事の肩口から、覗き込むようにして。なるべく淡々と。

 

「へっ?」

「よく見てください。色の抜けたものや、クセの強いもの、長さも髪質も違います。1人のものではありません。そしてそのどれもが湿っている……つまり……

 

 この頭神の森で命を落とした、数々の自殺者達の血と涙と怨嗟の念こそが、そのアタッシュケースの中身。生きる命への憎悪と執念は呪いとなり、アタッシュケースを開けてしまったことで、5年もの歳月をかけて溜め込まれた呪いは周囲へと撒き散らされ…手始めにその偽探偵の命を奪った。その証拠に、髪の毛の付辺は血や体液でもない何かで濡れt」

 

 痛ってぇ。背中蹴られた。

 振り返ると、蘭ちゃんが自分の耳を塞ぐべく手を離してしまったため、新一くんが解放されたらしい。

 

 なんでや。こういうことをしろって、私は今の視線から察したのに。違かった?

 蘭ちゃんと山村刑事は震えて、濡れた部分から飛び退いており、新一くんは呆れと焦りでため息。小五郎さんは険しい表情。

 

 水に濡れてる髪の毛が、5年間保管されてた……なんてありえない事に気付いてくれたか?

 

「(なんで本当にそれっぽい話にしちゃうんだよ!)」

 

 新一くんが小声で叫んできた。器用なマネを。

 

「怖い話ってほど怖くもないですよ。よくある話じゃないですか。確かにこういう髪の毛って、あまりオチとしてはメジャーではありませんが……髪の毛といえばお風呂とかではよくありますね。

 髪洗ってて、異様に抜ける髪に気付き、おかしいな、とその手を見れば、明らかに自分のではない髪が指に絡まっていた……みたいn」

「きゃぁあああ!!!」

 

 蘭ちゃんの悲鳴キャンセル。

 ふふ。明日お風呂にひとりで入れなくなる呪いである。これ、頭皮に不安がある方々の場合は別の意味でも怖いやつね。

 新一くんに脛叩かれた。ネクストコナンズヒントは入れたじゃないか。

 

「風呂…」

「あ、あの……」

 

 顎に手をやり、考えはじめた小五郎さん。

 彼がへべれけになる前、夕飯前に蘭ちゃんが『お風呂が清掃中で入れなかった』と言って戻ってきた事は知っている。

 ここでさらなるダメ押しだ。

 夕方に私と新一くんが話を聞いた仲居さんが視界に入ったので、先程の話を小五郎さんに教えてもらえないかと頼んでみる。

 遺体に怯えながらもおずおずと顔を出してくれて、清掃中でもないのに風呂には札が掛かっていて、廊下が濡れていたことを説明してくれた。

 

「209号室まで…?そうか、畳も濡れている……つまり――」

 

 見事、小五郎さんはこのアタッシュケースの中身が何者かによる細工の可能性があることに気付き、しかもそれは清掃中の札の位置を知っている従業員の誰かの手によるものだという所まで辿り着いた。

 

 ヒュー!やっぱり今日の小五郎さんは冴えてるって!SR小五郎さんだって!

 このまま育成成功してSSRやUR毛利小五郎にしてやりましょうや。

 

 

 携帯電話やらなんやら、見つかった物を漁って、この亡くなった偽毛利小五郎が『森 達夫』という名前なのでは?という話が進む横で、新一くんはティンと来たのか目を見開く。

 携帯に貼ってあったお名前シールでティンと来た……いや、蘭ちゃんの携帯のお名前シールで、か?

 …………あー……っと、あの人の行動がおかしいことになる、ってこと?

 

 ……とすると…

 しゃがんで新一くんの肩をちょいとつついてこっちに来てもらう。

 

「江戸川くん江戸川くん」

「スバルさん。アンタも気づいたか?」

「いいえ、わかりません」

 

 私が、3人が来る前に口を滑らせた覚えはないがうっかり喋ってしまった可能性は捨てきれないし……とはいえ初見で娘さん看破は中々テクいから、たぶん正解なんだろうが。

 キッパリと私がキメ顔で言えば、新一くんはガックリ肩を落とした。思考速度の同等な服部くんと、私を同じにしないでおくれよ。

 

「何か手がかりになりそうなこと、思い付いたのではありませんか?」

「それなら……森で見つかった長髪の男の遺体の持ち物について、確認したいことがあるんだけど」

「牛乳とあんパンの方ですか?それとも、ちぐはぐな方?」

「牛乳とあんパンの方!」

 

 ふむふむ。

 

 ……ちょっとよくわからんが、きっとアリバイ作りのトリックか何か、あるんだろう。

 

 山村刑事に訊ねると、小五郎さんがそんなこと関係ないだろなどと。でも、私はその遺体について詳しく聞いたわけじゃないからね。人伝に3回くらい又聞きに聞いてるから、実はよくわからないこともある。

 

「だから、何かの手がかりがあるのかもと思いまして。ほら、その赤いジャケットの男から始まった事件ですし。――もしかしたら、アタッシュケースの呪いはその男にも…」

「ったく!オカルト趣味も大概にしろこのパソコン小僧!詳しくもなにも、4年前のミルクとあんパン、それにレシートとタバコだろーが。んなもん…」

「あ!なんなら写真がありますけど見ます?」

「え、写真?」

 

 山村刑事がいそいそと、胸ポケットから5枚の写真を取り出して小五郎さんへ。

 それについて聞くために旅館に来ていて、だから丁度よく持っていた…のは良かったけど。

 ……普通に一般人の私たちにまでペラっと気軽に見せてくれちゃったりしちゃったりしておられる。

 もうちょい渋れよ。渋られたらそれはそれで困るが、ここまで開けっぴろげだと…心配になる。

 群馬県なら、昭夫くんも管轄下なのに……もし彼のそばで事件が起きてこのヘッポコが担当になったら、下手したら変な難癖つけてきそうで怖いな。ダメな時の小五郎さんみたいな感じで。

 前科者ってだけで偏見で物を言ってきそうな気配がある。

 

 ミルクの写真の裏表を新一くんが見たそうにしているので、シレッとバケツリレー形式で手渡し。彼はマジマジと見比べて、ニヤリと口元が笑い、自信ありげに瞳が輝いた。

 

 4年前ともなると、事件も何も起きていない店の防犯カメラではわざわざ残しておく理由もないデータはとっくに消えてしまっているだろうから、その購入者の特定は難しい。

 4年前に亡くなった、とされる理由が、このレシートの日付と、本来賞味期限の長くないミルクとあんパンの日付だけなのであれば、これらを誤魔化すことが出来れば死亡時期は操作出来てしまう。

 じゃあ、何のために時間を誤魔化す必要が?

 

 ……長髪の男が、4年前には生きていた事にしたかった?いや……長髪の男は殺された、とするなら、その犯行時の犯人自身にアリバイを用意したかった……?

 

「江戸川くん。その写真からわかることは?」

「ああ。……これ、ストローが付いてないんだ。ストロー無しで飲むのは大変じゃない?」

「そうですかね。普通に飲めますけど」

「……」

 

 あっ、不服そうな顔。求めてた答えと違うみたい。

 だって開ければ口を直接つけても、でっかく開けて直飲みでもなんでも飲め…あっ、ずぼら過ぎ?

 

「じゃあ…リュックに、開けて飲みかけの紙パック飲料は入れないでしょ?」

「ああ、それは……“はい” ですね」

 

 それなら納得できる。ペットボトルならいざ知らず、紙パックは開けたら最後、扱いに注意が必須な代物。森の中の移動中のリュックには入れにくい。

 見せてもらった写真の紙パックは、本来ストローを挿して飲む穴の所の薄い紙がヨレヨレになっていた。いくら古くて潰れてひしゃげていても、そのよれ具合は1度ぺろりと剥がした事があるよれ具合。

 細かいなぁ。こんな所も見るの?

 

 

「後は…」

「遺体の数の辻褄ですかね。聞いてみましょう」

 

 口の軽い山村刑事に、4年前にも自殺者はいたのかの確認。彼が答えるのと同時に、ノアズ・アークからも『いるよ』と副音声で解答が。なんなら詳細な個人情報まで読み上げてくれた。

 

 ちなみに発見者はあの人?

 

「な、なんでそれを!?どうして!?」

 

 ついでに怪しい人物の名前を出してみれば、反応は上々。山村刑事の焦り方に、横で見てた新一くんは確信を持った表情で頷いた。

 私の方はあまりピンとは来ていないが、怪しいことした人が正解、ということで合っているらしい。

 

「……死人はものを言いませんが、最期の念はどこに遺されるんでしょうね。頭神様はそれを遺していてくれるのかもしれません」

「ヒェエッ」

 

 よくわからんがお茶濁しとくか。勝手になんか想像して青ざめてる山村刑事はそっとしておいて…新一くんは将棋盤と机を見つめている。

 鑑識さんが迷惑そうだから、そろそろ回収しないと。

 

「はいはい、ボウヤはウロウロしないでくださいね」

「あっちょっ」

 

 そもそも連れてこないでください、なんて鑑識さんにお小言頂きまして。なんかあった?

 

「ああ。バッチリだぜ。……あ、と…鑑識さん!小五郎のおじさんが、あの電灯の上もよーく調べてって言ってたよ!」

「電灯の上…?」

 

 写真を改めて見比べている小五郎さんにみんなで視線を向ける。そして、改めて部屋の電灯を。

 

「なんか、犯人を追い詰める決め手になるんだってさ!」

 

 ……電灯が?

 

 あ、小五郎さんにネクストコナンズヒント出してあげよう。ほらほら、この牛乳パックのここが1度開いて閉められたみたいで…古いからだろって、そうかもだけどぉ。

 

 

 ■

 

 

 今回は小五郎さんを信じて、私が横でアシストしながら、山村刑事と一緒に解説してもらおうかなと。

 

 新一くんの推理を私が聞いて、(ノアズ・アークが簡単にまとめて補足もつけてくれて)そのヒントを小五郎さんに私から伝えて、小五郎さんの話を聞いた山村刑事が……という……非常にまどろっこしい。マトリョーシカか何か?

 でも、なんだか小五郎さんは今日調子が良いからね。

 実際、小五郎さんに一億円恐喝事件の話を伝えてから、スポーツ新聞について真面目に向き合ってもらったら、新一くんのアシストと私の過剰なオカルト圧によって

『そんな死者の呪いなんてあるわけない。なら、これはこの小僧の言う通り、頭神の森の何かを示しているのでは?』

 という方向性に逆張りおじさんしてくれた。

 

 私と山村刑事でポンコツヘッポコ推理と当てずっぽうと素っ頓狂なトンチキを先取りすることにより、小五郎さんの頭を冷静にさせることができた。ちゃんと答えに辿り着くもんなんだな、などと新一くんと2人で感心することに。

 

 これで私たちトンチキ推理のほうに「確かに…!」とか言われてたら諦めてたけど、「確かに……!」してたのは山村刑事だけだから。彼のことはもう諦めたほうがいいか?

 

 

 前倒れ地蔵の後ろにて、一生懸命穴掘りしてじゃがいものような小石の詰まった瓶を掘り出した従業員の神保さんを追い詰めてキメ顔している山村刑事。

 その握り締めてる一億円掘り出したの、巡査さんたちと私だからな。頑張ったのこっちだからな。

 

 しかし、まぁ……あれだ。

 

 いくら小五郎さんでも、ちゃんと手がかりを渡して、逆張りおじさん気質が上手くハマれば解いてくれるもんだね。

 普段は新一くんが子供のくせにこんな事件現場で何かやってるってのを快く思えなくて、早く現場から離れて欲しくて、頭ごなしに否定から入ってしまうのかもしれない。

 オカルトの流れに持ってこうとすると、『そんなわけがない、ありえない。何かあるはずだ』を探してしまう懐疑派の人として扱うのが正解だったのか……零くんタイプだな。

 景光くんは『確かに……!』してしまう場合があるから。読めない。

 

 ……どうだろ。なんせ今日の小五郎さんはやけに冴えてたからな。終始半眼で事件に集中してたし……

 まさか、マインドフルネス……!?

 

 これが……頭神様の加護……ってコト!?

 

 

 

 その後、私はクマの捜索のため追加で1日泊まるが先に帰る3人と、彼らを帰るついでに駅まで送ってくれるという山村刑事を、連絡先交換してお見送りした。

 山村刑事より高木くんの連絡先欲しい……いやいや、地方の人とのコネは大事。

 

 しかしお見送りしてから、私が装備整えていざ山中、と出かける段階で何故か山村刑事の車が戻ってきた。

 

 

「…………“遠山金五郎”おじさんが、さ。あの女の子たちがこの旅館に“毛利小五郎”が来てるから会いに来た、って言われて……有頂天で引き返してきたんだよ」

「もう!お父さんったら!また偽物騒ぎになっても知らないんだからね!」

「あの〜…帰らないんスかねぇ〜?」

 

 な〜っはっはっは!

 

 なんて高笑いする小五郎さんに、呆れ通り越して遠い目の新一くんと、ついにまたもや怒り出してしまった蘭ちゃんと、帰るに帰れなくて困ってる山村刑事であった。

 お疲れ様です。……一緒に散策でもする?

 

 

 





自殺の名所ってそうと言われないと分からないところあったりしますね

読んでいただきありがとうございました!
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