昴くんはなにもしない 作:あまも
今月、平日の更新は難しいかもしれません。
土日に進められるだけ進めておきたいですね。
閲覧ありがとうございます!
はい。
雪のチラつく冬ですね。
もう私、冬眠して良い?
動く気が微塵もおきない。
寒いし、眠いし。
今日は工藤邸の書斎にて倒れている。
昨日は1日部屋で寝ていた。
明日は何処で倒れようか。
……なんかブラックジョークにこんなのあったっけな。
冗談はさておき、ここは意外とカーペットの毛足が長いので、しっかり掃除した後ということもあってタバコ臭い以外にはあまり不満がない。紙の本の匂いは嫌いじゃないし。
読みたい本があった気がして、なんとか家から這い出して来たんだが、雪が降ってきてしまってね。
阿笠さんと灰原さんがお出かけしていて、私の探していた本は見つからなくてでどんどんやる気が削がれてしまい、今こんな感じである。
暖房もついているし、机の上にはおやつと水分もある。
遠いけど。
適当に伸ばした手の先にあった本を取る。三毛猫ホームズ。いいよね三毛猫。かわいいよね。
景光くんがメッセージのアイコンにしている三毛猫、あれどうやらポアロの周りを縄張りにしている猫みたいだが、アイツはなかなか気概があって人懐っこくて、かわいいので好きだ。
でもあれ、そこら辺歩かせていい猫じゃないはずなんだが。
なんもする気がない時は、頭ばかりが動いてしまう。暗いことは考えたくない。なんだろうな。
今日の新一くんは、沖野ヨーコさんから婚約パーティへの招待状が届いたとかで小五郎さんに連れて行かれて、今頃美人さんたちに囲まれて楽しくやっていることだろう。
死人が出なきゃいいが。
……出るんだろうな。
安室透は、無事小五郎さんへの挨拶を済ませた。
後日、私の所に小五郎さんから『バレなきゃ何やってもいいってワケじゃねーかんな。あと騙されたり変な詐欺に引っかかったりすんじゃねーぞ』とお電話いただいている。
安室透について聞いてみたところ、『……若いのに大変そうだが、おめーら全員、互いに、無茶しねーように見張りあっとけ。めんどくせーから。全員で一斉に駆け出すのはナシだぞ』とありがたい言葉をもらったので、金言としてグループメッセージのほうに上げておいた。
どうやら小五郎さんは、小林くんのことも安室さんのことも把握した上で、静観していてくれるつもりらしい。
あむぴ、どう説明して何言ったんだろうな。
小五郎さんは、2人にも、2人についてを私にも、訊ねることをしないと決めてくれた。
安室透が降谷零として、公安の立場を明かすことは無い。
深入りしてはならないような事象が起きている事は伝えたはず。小林くんが現れ始めた事と、私がバイトとして安室透の手伝いを始めた時期が大体同じくらいだと、小五郎さんも気付くだろう。
その直前に起きたのは、工藤新一を米花町で見かけなくなった事と、江戸川コナンの存在の出現。工藤有希子の遠い親戚。聡くて生意気で正義感があって、まるで小さな工藤新一のような、幼児。
……気づいているんだろうか。黙っていてくれているんだろうか。気付かないのか、気付かないふりなのか。本気になった小五郎さんの動きは読めないから、よくわからない。
何を言ったんだろう。どこまで伝えたんだろう。零くんは、私に「いつも通りでいい」と言った。
いつも通りってなんだ。
いつもの私ってなんだ。
胡散臭い、変なことばかり言う頼りない男か。
頼りないから教えてくれないのか。
頼りないやつに何ができるんだ。
出来ることがないからここに寝てるのか。
やれることはないのか。
やることはないのか。
やるべきことはなんなのか。
ああ、まずいな。思考がまとまらない。
本当に動く気がおきない。
『――お兄ちゃん?』
「…大丈夫です。ありがとう」
ノアズ・アークが、気遣わしげな声をかけてくれてようやく起き上がる気になれた。
取り繕う相手がいるのは、本当に助かる。昨日もどれだけ声をかけてもらったことか。
「ちょっと待ってくださいね。おやつ食べたら、また本探しましょう」
『……うん』
もうちょっとだけ、寝っ転がらせてほしい。
倒れてないよ、寝ているだけさ。
床に寝てるやつがいるわけないだろ。どこの殺人現場だ。
手元の文庫本。三毛猫ホームズ。三毛猫かわいいね。この冬空で凍えてないだろうか。
景光くん、今日はどこでバイトかな。
阿笠さんたち、どこいったんだろう。
新一くんは…そうだ、アイドルの殺人現場だっけ。
……違うな、まだ事件じゃない。新一くんが行ったからどうせ事件だろ。
そうかな?そうかも。
『お兄ちゃん』
「ああ、はい、はい。大丈夫です」
ゆっくりと起き上がる。
考え事していたら、何考えてるかもよくわからなくなってきたな。さっきまで考えてたことはもうよくわからん。
切り替えよう。
とりあえず小五郎さんに確認すればいいだろ。
おやつの自家製ラムネをモソモソと口の中に放り込み、ジュワジュワと溶ける甘さを水で満遍なく溶かす。
あまあま。
体調不良というか、いつもの冬というか。
風邪気味と寝過ぎってところかな。
冬って本当に嫌いだ。
早く終わればいいのに。
冬と夏なんて、スキップしてくれて構わないのに。
■
園子ちゃんに唆されて、蘭ちゃんが伝説のチョコを作りに山奥のロッジへと、武者修行…じゃなくて、勉強しに行ったらしい。
with小五郎さんと新一くん。
…………そうしたら、お馴染み色々あって、猟銃で狙われ殺されそうなピンチとなり(?)山奥のロッジが舞台だったのだけど、夜闇の猛吹雪の中(?)いるはずのなかった蹴撃の貴公子殿がダイナミックエントリーして(?)銃口見てれば回避余裕理論(?)を実行し(?)園子さんのピンチを救って、見事彼女の手作りチョコを手に入れたそうな。
話を聞いていても、後半の情報量が多い上にわからなすぎて、二郎、三郎という犬が賢かった情報しか私の頭に残らなかった。
ちょっと……バトルラブコメが過ぎるかな……
そんなこんなで、世はまさにチョコ商戦時代。スウィートでビターで、ミルキーな香りが女の子たちからほのかに薫る、そんな時期がやって来た。
ま、バレンティヌス司教の命日やね。
哀れな恋人たちのため、愛に殉じた聖人だ。この日本の浮かれ具合を目にしたら、かの聖人は果たして笑うのか、苦い顔するのか……
女の子たち同士や、野郎同士での別の戦いが勃発してるのも散見されるが、どうなんだろうな。
私としてはバレンタイン、普通に楽しい。
色んなチョコが店頭に並び、甘いのも苦いのもどちらもいける私はなんだって食えるし。
バレンタインが終わると軒並み安くなるし。
私はこの顔で、女の子のお友達もそれなりにいるから、義理や友チョコを色んな人から貰えるし。
零くんと景光くんは仕事柄警戒しなきゃいけなくて、結果的に何処から貰ったのかはわからないけどたぶん中身は無事なハズの、可愛らしい包装だったり形をした本気度の高い品物を私に回してくれるし。
食べてやれよとは思うが、そこはどうしても食べてやれないものなのもわかっている。
仕方ないので、昔は味のレポートを1個1個書いてやってたんだが、今回も欲しいか?
私も私で、個包装の1口チョコを友チョコ名義で配るなど。
灰原さんに市販のチョコをあげたら、逆だろうと言いたげに睨まれた。美味しいよそれ。
阿笠さんにはチョコ色チョコ風味のプロテイン。こんなのココアみたいなもんだから。
小五郎さんには、最近の諸々含めて景光くんと零くんとで相談し、カンパして、景光くん垂涎オススメ最推しの、東京のお店の…予約の必要があるウイスキーボンボン系のなんかバカ高ぇのを、事務所の机に置いてきた。
我々の手紙と、「妃さんと一緒にどうぞ」の付箋を貼ってきたので、蘭ちゃんが真っ先に見たならワンチャン。本人が最初に見たら……どうかな。恥ずかしがって全部自分で食べてしまうかも。
妃さんには、バレンタイン前の都合の合った日のうちに、同じ高級店の、小五郎さんに渡したそれよりちょっとだけ小さいやつでリキュール系のお酒が入ってるものを。リンゴの香りがついていて、女の人にオススメ、と店員さんに言われたものを渡してきた。
あの人、チョコレートが好きだから。とても喜んでくれてこちらも嬉しい。
妃さんには、事ある毎に世話になっているし、最近は栗山さんに税理士の真似事なんかさせてしまって……ちゃんとした人、探さないとな。
妃さんに渡したチョコと同じものを、ジョディさんと、
チョコは美味しかった。うん。お酒……リンゴの香り?よりアルコールのクセが……こう……
…………食べさせて欲しくて持ってきたわけじゃないってのにさ。ぽこぽこ渡してくるもんだから、仕方ないから箱の半分くらい食う羽目になってしまって。
結局その日は、新出さんちでお泊まりさせてもらったりしてね。
彼女たちからも義理チョコ貰えたので、こうして配り歩いているとなんだかハロウィンのお菓子や、お年玉回収していた少年時代を思い出す。
そんなこんなで、バレンタイン当日は大量の甘いものを回収して、夕方にはリストアップしたそれらと一緒に、向かうは秀吉の家。
秀吉も秀吉で、若くてカッコイイ、イケメン最強棋士として名を馳せている男だ。将棋連盟経由で、大量のチョコを貰ってきている。
せっかくだからヒロキくんも呼んで、毎年恒例の仕分け作業なのだった。
「……お兄さんたち、とっても手馴れているね」
「そう? やっぱり回数かな」
「今回はヒロくんとノアズ・アークが手伝ってくれて、とても助かります。後で無事なチョコ、好きなの持っていって良いですからね」
「それは、申し訳ないよ」
バレンタインという文化は、あまり馴染みがないヒロキくん。
中学校で彼もいくつかもらったらしいが、真っ先に見せてもらったところ、とても可愛らしい包装のされた、小さなカップに溶かしたチョコとカラースプレー、みたいな……かわいらしい、気持ちのこもった物しかなかったので、そちらは大事に食べてあげてね。
「友チョコや義理チョコに関しては、配った側も深いことは考えてないから大丈夫。せいぜい、来月何が返ってくるかの期待しかしてませんからね。
問題は本命のやつです。特に閣下宛のやつ」
「閣下呼びすんなってば。連盟側でも、会館の事務員さんがかなり選別してくれてるから、本当に危なそうなのは無いんだけど……あった。こういうのがヤバい」
あら。今年もあっちゃったか。
秀吉が手渡ししてきたそれを受け取り、ヒロキくんと一緒に見てみる。
一見すると、市販品と同じ箱、同じ包装。お手紙添え。
但し、これは開封済みだ。
巧妙に留めテープなどを変えてあるが、今回のバレンタイン商戦の一通りの市販品のパッケージは覚えている秀吉の目は誤魔化せない。
「そういうのを見分けるんだね」
「基本的に手作りの物は、閣下の場合、連盟のほうで弾いてくれているんです。けどたまにこうして巧妙な手口ですり抜けて来るものがあって。
他にも、箱そのものを自作していたり、去年や一昨年の箱に入れてきたり…偽装している時点で中味が信用ならない。
そういうのは、秀吉の記憶力で見分けられるので意外と簡単なんですけどね。
あと知人からのものでも油断できません。連盟側が、秀吉の知人を完全に把握しているわけではないですから。
こういう……ケーキ類は全て弾いて貰っていたはずなんですが」
「それ、昴宛の方じゃない?」
「おや。……あらホントだ。転がっちゃってましたね」
紙袋に入った、個包装されたカップケーキ。
ヒロキくんにためつすがめつ、検分させてみる。
「……いいんじゃないの?キレイに作ってあるね。料理上手な人かな」
「それ、字とか丸文字で女の名前ですが、男からですよ」
「ブフッ」
吹き出してんじゃねぇぞ秀吉ィ。
「……ダメなの?」
「男性からも、友チョコとか嬉しいので良いんですがね。この時期の手作りは、余程仲良しでもない限り危険です。0:100じゃない。マイナス方向の-100:100で、振り切れた愛か憎悪が含まれてます」
仲良しでも、それはそれで危険なのさ。
「これの場合、見た目はカップケーキですが、重い。とても重いです。気持ち的にも。
周りの紙カップ、これ1度剥がされているんですね。振ると僅かに異音がするので、恐らく中に異物…私宛ですから、ボルトやナット、悪いと剃刀かカッターの刃でも入っているのでしょう。上手に作りますよね、ホント」
「え?」
ヒロキくんが驚いている。試しに割ってみるのが早いか。袋越しに慎重に割って見せると…………おっと、このパターンは初めてだ。
「閣下、閣下。おもしろいですよホラ」
「昴がおもしろいって言う時、大体趣味悪いじゃない……わぁ……基板?」
「ふふ。はんだカスのアラザンに、基板カスの粉砂糖、焼いて砕いたプラスチックパーツはチョコチップのつもりですかね?極めつけは折られた基板……これ阿笠研究所へ喧嘩売られてますね」
ふふ。良くやるわホント。
くだらない嫌がらせを。
これ、阿笠博士が企業と共同開発した製品の1つだろう。とても分かりやすく、阿笠さんが好んで付けている丸顔に白い髭の小さなパーツが、基板に挟まれていた。
「……趣味が悪いね」
「ねぇ。本当に。物に罪はないっていうのに」
こんなことをされる為に生まれたものじゃないってのにさ。
リストを見るに、大学の研究室に届いていた物。
私と阿笠さんの関係を知っていて、これが私への嫌がらせになると思っている。
男で、例年に無いタイプ。ケーキ自体は市販のもの。デパ地下ではなく、スーパーとかで買える安いやつかな。
ふむ……
「大体犯人は絞れましたね。特定して来月お返ししましょう」
「絞れたの?」
「私、今年あまり大学の方とお話していませんから」
今年初めて面識を持った相手なら、牡丹さんとかもいたが、彼のような真面目に大学生活に命かけてるタイプはこんなくだらないことをする人ではない。
これは、帝丹大学祭での私と女の子たちとのやり取りを見ていた、かわいそうな男性のどれかからのやっかみあたりだろう。
若干引き気味なヒロキくんが、私がリストの中からピンクマーカーを引いた名前をなぞった。
「……大変なんだね、女の子とお付き合いするのって」
「これは……私が全方位に敵を作ってるからじゃないですかねぇ。こういうのは私向けにしか来ないですし」
こういうのは滅多にない事だから、ヒロキくんは安心して秀吉辺りを見習うといいさ。
秀吉は、こういうのは貰ったことはないし、女性からのチョコもお返しをしない方向で、メディアでも女性関係の話は愛しの彼女の話しかしないし。
……ん、そういえば。
「秀吉、彼女からチョコ、貰えたんですか?」
「え?」
「いえ、ですから彼女…由美タンから、チョ、コ――」
「え??」
あっ……これ、貰えてなさそう。
丸メガネを新一くんみたいに反射させて、口だけニコニコとした笑みを浮かべた秀吉が微動だにせず、食い気味に聞き返してくる。
ヒロキくんがこしょりと耳打ちで訊ねてくる。
「……お兄さん、秀吉お兄さんの彼女って」
そうだよな。ヒロキくん、秀吉の彼女なんて見た事ないもんな。
「ああ、その……今、ちょっと上手くいってなくて」
「上手くいってなくないから!!待っててくれてるだけだから!!!!」
せっかくより分けたチョコを撒き散らしながら勢いよく立ち上がり、力強い主張を述べる秀吉。
「これだって、きっと、由美タンは、僕に……
早く7冠達成して、受け取りに来いって意味だよ!!!そうに決まってる!よーし、頑張るぞー!!!おーっ!」
まるで自分に言い聞かせるかのような、痛々しい勝鬨。それとも本心からなのだろうか。そう思い込まないといけないのだろうか。
かわいそ……
「その、彼女さんって秀吉お兄さんに連絡とか…」
「色々あったんですが、彼女さん、かなり腹立ててるのか…連絡とか全部着拒してるみたいで」
「あぁ……」
警視庁交通部交通執行課の女性警察官、宮本由美さん。
彼女がこの秀吉の彼女なのだが、中々この、ほのぼののほほん族な秀吉には取り扱いの難しそうな、大層気風の良い、豪快な女性であらせられる。
結構グイグイ来るノリのいい性質で、私も調子がいい時でないと付き合いきれない程度には破天荒な人である。
彼女とやる麻雀とか、普通に楽しいんだけどね。彼女の誘う面子がマル暴とか強面なおじちゃんたちなので、恐縮しながら勝たせてもらっているが……とにかく圧が強くてさ。
勝ち過ぎると平然とアルハラしてくる、昭和のオヤジみたいな人だ。
…………何度聞いても、彼女視点ではもう秀吉とは別れたつもりらしいんだが、秀吉は頑なに別れてないって主張なんだよな。
これがどっちが本当なのかわからなくて。
秀吉の思い込みとか、由美さんの照れ隠しとか。どっちも行き過ぎてしまう人たちだからな。
とりあえず秀吉のほうを弄って発破かけているんだけど、コイツはコイツで中々頑固だから自分で決めた決心を破る男じゃないし。
1度嫌だと思ったら、とことん嫌いになってしまうのは私と同じな由美さんの気持ちもわからないでもないし。
恋愛には、私は口出しできない。わからないからね。
うーん。
総評、かわいそ……となる。
『……人の恋愛って、大変なんだね……』
「ぼく、あまりお返しとか考えるの上手くないから…心配になってきたよ」
「私では恋とか愛とか、教えてあげられませんからねえ。よそを見てもらうしかないんですが、こういうかわいそうなのはそうそうありませんから。あまり参考にしないように」
『うん。わかったよ』
「かわいそうってなんだよ!!」
聞いてるのか聞いてないのか。
文句言うな、お前の事だよスットコドッコイ。
由美さんは1から10まで説明すれば100まで考えてくれる人なんだから。
まず説明をちゃんとしろっての。
秀吉さんはどちらかというと100伝えておくといつでもどの数字でも100以上でも出てくる人だと思います。
1で0がわかるのはヒロキくんで、0と1で数がわかるのが安室さんかなぁなどと。
阿笠博士には何が見えてんですかね。
読んでいただきありがとうございました!