昴くんはなにもしない   作:あまも

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あれってチョコクッキーじゃなかったんだ…

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35-2:形見となくした妻

 

 

 

 

 小五郎さんの事務所にて。

 

 ころころと、皿の上に顔が8つ、並んでいる。

 

「いやーうまいもんだな」

「本当に。蘭ちゃんのお菓子、小林くんよりうまいかもしれませんよ」

「それは負けられないな。今度カップケーキでも作ってみようか」

「カップケーキは今ちょっと見たくないです」

「? そうか」

 

 

 隣で小林くんが、蘭ちゃんの作ったみんなの顔を象ったチョコの造形を見てしげしげと、素直な感心を見せていた。

 皿の前では少年探偵団のみんなが、各々自分の顔を手に取り、はしゃいでいる。

 

 蘭ちゃんってば、先日事件のあったロッジでのチョコ作りの成果として、手のひらサイズのこんな大きなチョコを、阿笠研究所や少年探偵団のみんなの分作ってくれていたらしい。

 これが見事にうまくデフォルメ化されていて、誰がどれかもひと目でわかるし、変に大きなものや小さなものもなく、気泡もブルームも無く。本当に上手なチョコだった。

 

 呼び出し受けて来てみれば、私の分と小林くんの分もあって。

 私の顔は糸目が眉毛みたいな細さで、四角いフレームのメガネで再現されている。その目だけでも充分“私”だろうに、髪の毛のハネまでちゃんと作られていて…1番複雑だった。

 小林くんのはサングラスなのか、きゅっと目元に1枚、層があって、それが目を隠している。

 

 つまりデフォルメ化されたこれが、そのままそういう印象なんだろう。

 この“髪が少し長くてサングラスをかけている”形で“小林”という青年が定着したという意味でもあり、誰もこの顔をそのまま小林くんのものだという認識で否を言わない。

 上手いこと、小林が固定化されてて良いね。

 

 灰原さん曰く、『笑ってるけど悲しい顔』のこのチョコたち。

 けれど今の蘭ちゃんはとても嬉しそう。

 新一くんへのチョコの受け渡しは上手くやったんだろう。後でどう受け取ったのか、新一くんに聞かないとな。

 

 当の本人、新一くんはそんな女心がよくわかっていないらしいが、隣の小林くんが「いやー、青春だねぇ!」なんて嬉しそうにしているので、まぁ。色々あるんだろ。

 

 蘭ちゃんが紅茶を用意してくれると言って部屋を出ていったのに、待ちきれなくて食べてしまった子供たちやら、ノンデリ新一くんに不愉快にさせられている灰原さんやら。

 小林くんは流石に、いくら蘭ちゃんの手作りとはいえ、制作過程を確認出来ていないものに手を出せなくて内心困っているらしい。どうしようね。

 この子供たちの前で、小林くんのチョコを一欠片砕いて私が食べるのも、なんか感じ悪いだろう。

 

 ふむ。

 

 同じ『感じ悪い』なら、チョコの食べ過ぎで今食傷気味だから後で頂きますね、という事にして袋に入れて持ち帰り路線にしようか。

 小林くんがモテそうなのは、蘭ちゃんなら理解してくれるだろう。子供たちからの視線は、まぁ、うん。

 新一くんたちは、小林くんの事情はわかってくれるだろうし。これだな。

 

「オホン!」

 

 ここで、ここまで黙り込んでいた小五郎さんが、事務所の定位置から咳払いで、場の視線を集める。

 そしてお小言。早い話が『うるせーぞガキ共』である。

 

 そんなこと言っているが、競馬の実況集中して聴きたいだけだもんね。

 吉田さんにイヤホンジャック引っこ抜かれて、各馬一斉にスタートだそうで。

 

 俺の愛馬が!

 

 ︎︎シラっと冷たい皆の視線。

 ︎︎まぁまぁまぁ。依頼がないのはいい事だよ。困ってる人がいないってことだもん。

 ︎︎小五郎さんの収入?江戸川文代さんからもらってるでしょ。え?使い切っ……え?

 

 

 

 そんな大騒ぎしていたら、お客様がおいでになられまして。

 

「時計探しだァ?」

 

 依頼内容は、自宅で亡くした妻の形見の時計を求めて3000里。夢枕にまで出てくるそうで、それはきっと寝不足にもなるだろう。

 あるある。私もよく、研究室でデータ入れといたUSBがどっかいったり、工藤邸の書斎でも本がどっかいったりしてたわ。

 あいつら、目を離すとすぐどっか行くよね。

 

 

「そんなチンケな事に構ってられっか!!!この天下の名探偵、毛利小五郎を……お?」

「おや」「ん?」

 

 小五郎さん、ここで私と小林くんを視界に捉えた。イライラMAXだった表情が、見るからに『いーいこと考えた!俺って天才!』と書いてあるお顔に。

 

「でしたら、うちの見習い共ではどうですかね!」

「はぇっ」「ん??」

 

 喜色満面で、小五郎さんが真っ直ぐ、私と小林くん――どちらかといえば私か――に人差し指を突きつけた。

 見習い?

 

「毛利小五郎って、あの有名な眠りの……っ?!それに、み、見習いですか?」

「ええ、その通り!この名探偵毛利小五郎は、難事件で忙しい身の上……そこで、この見習い探偵共ではいかがでしょう?」

 

 見習い??

 

 確かに、来た時にこのあとビリヤードやりに行くんです〜なんて、「今日暇なんです」と等しいこと言ってしまっていたが。

 

 見習い???

 

 有名人と知ってしり込みした後、我々が若くて見習いで、特に情けなくて頼りなさそうな私に目を向けながら、依頼人の森田さんは「それじゃあ、よろしくお願いします……」なんて頷いてしまった。押しに弱そうな人である。

 寝耳に水な私と小林くんは揃って顔を見合わせ、そして小五郎さんを見る。

 

 口パクと、チャップリンのごとき良く動く表情。キリリとした眉毛。くるみ割り人形か何かか?

 

 い・け。

 

「だ、そうですよ」

「はは。――了解」

 

 小五郎さんの後ろ、左右に陣取る。

 小林くんがシャッキリと。私はニッコリと。

 

「それじゃあ、僭越ながら我々見習いが、ご依頼の品の捜索をさせていただこうか」

「とはいえ私たち、見習いですからね。名探偵程の名推理とはいきませんが、小五郎先生の名前に泥を塗るわけにはいきません。腕時計捜索のご依頼、受注しました」

「担当は私、小林と」

「私、沖矢で対応させていただきますね」

 

「よ、よろしくお願いします…?」

 

 宴会芸〜。

 依頼主が困っておられるわ。

 あとガキンチョ共も困っておる困っておる。

 小林おにーさんと沖矢おにーさんって、おじさんの部下の探偵さんだったの?とか吉田さんがみんなにこっしょり聞いているが、それは誰も真相を知らない。

 これがね、その話は当事者の私も今初めて聞いたんですよ。

 

「つきましては……我々、“見習い”ですし、今回はお試しということで依頼料はいただきません。だって、自宅での無くし物探し、なんて小五郎先生も仰る通り、あまり大きな事ではありませんからね。ボランティアです」

「俺たちは“見習い”だからな」

「へ?え、ええ……」

 

 小五郎さんも、私の依頼料をいただかない発言でギョッとしていたが、その後すぐに自分が『チンケな依頼』と言ってしまった事に思い至ってバツ悪そうに口を噤んだ。

 子供たちが、コソコソと「サボる気だぜ」とか「客みて断る高飛車な店だ」とか「事件に大きい小さいもない」とか至極真っ当なこと言ってて、更に居心地悪そうにしている。

 

 いやいや。小五郎さんは我々に、経験を積ませようとそういう魂胆でね。お考えがね。

 ……無いだろうけどね。そういうことなんですよ。

 何とかしろ、とまた口パクしてくる小五郎さん。

 仕方ないなぁ。

 

「では、人手を集めても良いですかね?」

「え?」

 

 視線を受けて、小林くんがそそそと忍び寄り……新一くんを掬いあげる。

 

「それでは、こちらの少年探偵団の精鋭たちの力も借りようかと!」

「え、ええっ!?」

 

 足元から地面が無くなった新一君がバタバタと暴れる。

 小林くんと新一くんがいれば、だいたい何が起きても(黒の組織以外なら)大丈夫でしょ。

 後は小五郎さんのご要望を叶えるため、ガキンチョ共を連れ出す口実に。新一くんのおまけだな。

 そんなおまけな少年探偵団は、出番が来て、頼りにされた事を素直に喜んでいる。ほっほっほと笑顔の阿笠さんと、呆れ顔の灰原さん。

 

 よーし行くぞ〜

 

 

 ■

 

 探偵の文字だけ見てふらっと立ち寄った、と森田さんが言うだけあって、森田さんの自宅は近い場所だったので、車を出すまでもなく徒歩にて集団でぞろりぞろりと。

 

 道中。小林くんと新一くんを招集。質問は少年探偵団たちに任せる。

 

「どうした?」

「軽く調べました。共有しておこうかと」

「お前……」

 

 2人から、疑いの目を向けられた。

 いや、調べるだろ。

 新一くんが大人しくついてきて、小林くんがいて、少年探偵団が揃ってるのに探し物だけで終わるわけがない。

 

 調べるのはノアズ・アークだし。狙い目は私が指示してるけど。

 

「森田さんの奥さん、交通事故で亡くなってますが、これおそらく自殺です」

 

 ぴり、と。2人からの気配が変わった。

 最近ようやく、子供ぶってるコナンくんの時と新一くんの時との違いくらいならわかるようになった。

 やっぱりみんな、どうも目付きが変わるみたいだ。零くんは本当に分かりやすく変えてくれていたんだなと思う。

 ……森田さんな。ノアズ・アークの報告を掻い摘んでいくと。

 

「奥様は自ら、車の前に飛び出したのだと。……どうも、始めたばかりの株で、かなりの損を出してしまって、それを取り返すのが……かなり難しい額だった様です。隣町で喫茶店の自営業をやっている森田さんが、どんなに働いても、店を売っても、……取り返せないくらいに」

「株」

 

 新一くんが、ふむ、と顎に手を当てて考え始める。歩みがやや遅くなったので、小林くんがサクッと小脇に抱えたらべちりとその腕を叩き、降ろさせてちゃんと歩き始めた。

 次考え始めたら、今度は抱っこだからな。

 

「どうやら最初、森田さんには内緒ではじめたものだったようで、どうにもならなくなってから、どうしようもなくなって、森田さんにバレる形で明かすことになって……大きな負担を彼に強いてしまった事を苦に、そうしてしまった、と」

 

 ちなみにこれらは、彼の住む地区のおばさま方の井戸端会議の内容かららしい。

 警察さんは、彼の奥様の死因が自殺である、とわかってからはあまり調べてくれなかったようだ。

 

「そういえばハルは、株のほう大丈夫か?」

「え?」

「スバルさん、株やってたの?」

「そう。コイツ、最近新しく投機家始めたらしくてさ」

 

 おいバラすなバラすな。広めるなって。

 

「ああ、だから…」

「だからってなんですか。何納得してるんですか」

 

 呆れた様子の2人である。

 そっちはもう、ノアズ・アークに全部任せることにしたので私の管轄外だからな。自動ジャンバリである。

 ちゃんと自発的ジャンバリもしていかないとね。

 

「……ああ、森田さんの話でした。

 それで彼、奥様の株取引の損害を補うため、お金を同じマンションの女性から借りているようなんですが、その女性がまぁ評判が悪くって」

 

 他の住人も、その他にも、その女性から借りざるを得なくなり、様々な家財がむしり取られているらしい。これがまぁ色々なところから悪評が聞こえてくる人物で……

 

「どうも森田さんの奥様は、その女性に唆されて株取引を始めて、失敗してしまったようなんです」

 

 これもおばさま方の井戸端会議より。情報の入手手段、おばさま方もノアズ・アークもどうなってんだこれ。

 

 しっかし、その女の金貸業、随分と悪質で悪徳だな。とっても嫌〜な仕組み。私でも滅多にやらんぞそんなの。

 …………あ、いや、間違った。

 やったことないぞそんなの。

 

「……それって、森田さんがその女性に強い恨みを抱いてる可能性がある、って言いたいのか?」

 

 新一くんの真剣な目と声色。小林くんは、子供たちの質問攻めにタジタジな森田さんの背中をじっと見ている。

 どうかな。やりそうではある。

 ただ、それは私がノアズ・アークからの情報を貰って、その上でこの流れを見たからそう思っているだけかもしれない。

 

「…さぁ? それはわかりません。調べてみた所、彼が説明していない話がこういった事情でした。その上で、彼の依頼の……幽霊が夢枕に、なんて話からしても怪しいと思っています」

 

 そも、その時計を本当になくしたのか、から怪しい。

 時計を家の中でなくして、外出して事故にあった、という言い分だが、このほとんどが嘘らしい。

 時計なくすようなそそっかしい人の幽霊が、時間を気にするわけがない。生前それだけ時間を気にしていた人なら、それこそ腕時計の扱いは丁寧だったはずだ。夢枕に立つ時の文言も、奥様の事情であれば謝罪か恨み言になるはず。

 

 これは2人とも同じ考えのようで、どちらも頷いてくれた。

 

「ああ。幽霊なんてありえないからな」

「毛利さんが名探偵だと知ってから、明らかに顔色が変わったよね」

「名探偵と呼ばれてるような人をこんなことに呼ぶのは気が引けたのかもしれないけれど、だからってオレたちみたいな、捜し物には邪魔そうな子供まで招くなんて普通ありえない」

「それに、ハルが依頼料はいらないと言った時も、微塵も喜んでいなかった。さっきのハルの話の後だとますます怪しいな。金に困って店まで売ってる人間が、探偵への依頼料の事を気にかけないのは……な」

「奥さんの件を考えると、動機は充分だね」

 

 私、そこまでは言ってないかな…。

 ちょっとアプローチ違かったか。

 

 

「彼の家まで行ったら、とりあえず俺がひと通り見てみるか。本当に形見の腕時計をなくしていたのなら、それはそれで可哀想だもんな。

 その間、江戸川くんは子供たちと一緒にあの人の注意を逸らすことと、言動の確認を頼めるか?こっちは手早く済ませるから」

「わかったよ。スバルさんは、あまりアイツらと居たくないんだよね?」

「……まぁ、そうですね」

「じゃあマンションの人達に、その女性についての聞き込みをお願い。もしかしたら、その人法律的にいけないこともしてるかもしれないし…森田さんが事を起こさなくても、その人をどうにか出来る証拠があったら良いんだけど」

「なるほど。了解」

 

 探し物を見つけるのは小林くんの得意分野だ。

 あるかないかはともかく、マンションの一室、家の中という範囲で、本来毎日使っていたはずのものであれば彼ならそう時間はかからないだろう。

 怪しい部分しかない人物の怪しい言動を見逃さない新一くんが彼のことを見ていてくれて、子供たちと灰原さん、阿笠さんにも手伝ってもらえば彼の動きを誘導も、制限させることも可能なはず。

 で、その隙に私が情報を集めておく、と。

 新一くんのあの言い方なら、たぶん裁判まで持っていけそうな証拠があると睨んでいるんだろう。ノアズ・アークもおばさま方の井戸端会議から拾ってこれている以上、情報はあり過ぎなくらいありそうだ。

 とはいえ、噂話から事実まで、色々混ぜこみわかめちゃんだろうし……

 

 ふむ。

 また妃さんに頼み事が増えそうだ。

 

 

 ■

 

 

 捜索開始5分で、小林くんが洗濯機から腕時計を発見した。

 あまりにも速すぎて、私がまだ森田さんの家から出ていないのに見つけてしまったので、こっそり3人集まって、どうしようかと物陰会議。

 

 マジでなくしてたのか、と私は驚いていたのだけど、小林くんも新一くんも別の意味で驚いたらしい。

 

 曰く。

 

「これは手巻きの腕時計なんだ。3週間前になくしたはずの時計が今も動いている(・・・・・)のはおかしい」

「つまり、彼はこれをなくしてなんかいなかった。これを探してもらうため、人を呼んだんじゃない」

 

 人を呼ぶ必要があったから、形見のこれをなくしたことにしたってことね。

 

 しかも、頭のキレそうな名探偵ではなく、頼りなくて情けない、ヘラヘラした見習い探偵や、騒がしいガキンチョ共ばかりを呼んだ。

 

 抜けてそうな人がいいのか、はたまた人の目が多ければ多いほどいいのか。

 なんにせよ――

 

「――これは一旦戻して、俺は危険物捜索に回るぞ」

「オレも少し“確認”を増やしてみるよ」

「了解」

 

 小林くんは、時間稼ぎを選んだ。まだ全然情報が無いけれど、森田さんが何か企んでいることは確実だからね。

 ただ、森田さんの自宅で事を起こすか?という点は引っかかる。ここを、何か噂で拾えたらいいが。

 新一くんは完全に容疑者の監視と尋問に切り替えてくれたようなので、森田さん自身からもうっかりポロリと滑ったお口が零すことがあるかもしれない。通信状態にした探偵バッチを各々、自分の襟や袖に仕込む。感度良好感度良好。

 

 私も、噂の女性について調査しつつ、妃さんに連絡取っておこうかな。

 

 これ、人死にが出ても出なくても、裁判沙汰にはなりそうだ。

 

 





話の流れで出てきた個人の貸し借りの金額じゃなくてびっくりした覚えがあります
そういう事業だったのかなとも思いましたが、金融業者とは書かれてなくてじゃあコイツはなんなんだと

法律家に相談したらなんとかなりそうな事件多い気がするけどコイツの所業が何の罪にも抵触しないならそれはそれでおかしい気もします。

法律ってむつかしいですね


読んでいただきありがとうございました!
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