昴くんはなにもしない   作:あまも

8 / 154

初期って結構過激ですよね


読んでいただきありがとうございます!


3-2:見知らぬ来訪者

 

 

 

 ♤

 

 存在しない“江戸川コナン”の存在しない母親が迎えに来た。

 

 江戸川文代と名乗るそのオバサンは、江戸川コナンが工藤新一であることを知っていた。薬のことまで知っている。恐らくは組織から来た女。

 蘭やおっちゃんはこの女に言いくるめられてしまい、この人は知らない人だと言っても信じてもらえなくて、車に押し込まれて、連れ去られてしまったのだ。

 

 なんとか隙を突いて、女の運転する車を交差点に突っ込ませ混乱させている間に車から飛び降りて、命からがら逃げ出せた。

 

 ……迂闊に工藤新一の名前を使ったオレがバカだったんだ。

 だから組織に生きてることがバレてしまった。

 どうする。どうすればいい。

 

 体力のない子供の体では、ろくに走れず息が上がってしまう。弱いな、本当に……

 

 子供の姿のオレには、保護者を名乗られてしまうと打つ手がなくなってしまう。

 

 だから、頼るなら阿笠博士かスバルさんだ。博士の家なら、2人かどちらかはいるはず。2人とも、オレの正体を知っているし、あんなオバサンに言いくるめられたりしない。

 

 なんとか家に逃げ込んで、鍵を閉めて、2人に事情を相談して……そんな算段を立てていた。

 

 しかし、閉じられている門扉。人がいれば開いている…だから、今阿笠邸には人がいない。

 

(2人ともいないなんて!)

 

 諦め切れず、裏口にまわる。あの人なら、あの人なら車で来ているはず。車があれば……

 

 はたして、車はあった。路上に停まっているスバルさんの愛車の赤い車体。しかも、裏口を閉めて丁度乗り込もうとしているのか、荷物を片手に、運転席に手をかけている。

 

 良かった、助かった。

 

「スバルさん!」

「? おや、新一くん?」

 

 オレが声をかけながら駆け寄ると、スバルさんが不思議そうに首を傾げてこちらに体を向けてくれた。

 

 彼に話をしようとして、

 

 その彼の背後に、丁度車の陰から、ぬるりと立ち上がる黒い影。

 真っ黒なシルクハットに、耳までつり上がった口元、黒いマントに身を包んだ影。

 

 その恐ろしい、人間離れした顔に言葉が詰まる。そしてその顔が仮面であると気付くも、そこでの逡巡が、動作の遅れとなった。

 

 黒い影が、何かを素早く振り上げ、スバルさんの頭に振り下ろす。バンっという、弾けるような音。

 スバルさんが小さく呻き…吊られた糸を切られた人形のように、ずべしゃっと、鍵や荷物の落ちた硬い音と共に雪の上に倒れた。

 そして動かない。寒いのも冷たいのも嫌いな彼が、雪の上にいて、ピクリともしないなんて。

 

「す、すばるさ……」

「そうか、やはりコイツもお前の正体を知っているんだな?」

 

 黒い影から男の声がする。倒れたスバルさんを跨ぎ、こちらに近寄ってくる黒い影…仮面の男から、自然と身体が後退りしてしまう。

 

「フン……愚かな男だ……」

 

 そして目の前の男に注意を向けていたため、背後の存在に抱え込まれるまで、気付けなかった。

 口元に、何か布を当てられ、意識が遠のく。クソっ、薬品が……

 

「ゆっくりおやすみ……ボウヤ……」

 

 意識が飛ぶ直前に聴こえた声は、江戸川文代を名乗ったオバサンのもの。

 一体……どうやって……ここがわかったんだ……

 

 クソ……スバルさん……

 

 

 

 

 

 ♠

 

 

 

(「ハッハッハ……上手く行ったな。中々演技が上手じゃないか昴。お前はこの雪の中、倒れるなんて嫌がるとオレは思っていたんだが、随分と気合いの入った倒れ方で……昴? おい? 昴?」)

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 穴があったら入りたい。

 

 

 

 2階のテントに突っ込んで赤い顔とこぶを隠して、頭隠して尻隠さず状態の私の背中を、新一くんがベチベチと叩いてくる。

 

「スバルさんまでオレのこと騙してたんだ!!」

「いやいやいや私はあそこにいただけで」

「アンタいつもなら外ではオレのこと新一って呼ばねークセに、わざとらしく外のあんな所で呼んでただろーが!」

 

 バレテーラ!

 

 なんか新一くんのその言い方だと、2人っきりになった途端特別な呼び方しあう仲みたいでなんだかちょっと……

 

 ……いや友人たちとやった記憶あるなそれ。どいつもこいつも野郎共ばかりで、そんな甘い物じゃないどっちかというとアオハルな、爽やかなやつだけど。

 

「……父さんが『スバルは紙鉄砲に驚いて、雪で滑って転んで、頭を打ってしまってね』って」

「わああああ」

 

 ひぃ、恥ずかしい。

 

 その通りなのだ。

 普通に(おもちゃ)とか棍棒(ひのきのぼう)とか血の付いたナイフ(ぴょこぴょこするやつ)とかで襲われると思っていたら、棍棒の勢いで振り下ろされた紙鉄砲の紙鉄砲たる所以、でっかい音が耳元でなったもんだから小心者で小市民な一般米花町民の私はビックリして警戒のため動こうとして、雪と雪の塊踏んづけて上手いことすってんころりん。

 

 その時、後頭部を強打して、軽い脳震盪で私は目を回してしまったのであった。ヒン…

 

 

「ホントはもうちょっとスマートに殺されたフリするつもりでしてね……まさか紙鉄砲とは、このリハクの目を持ってしても」

「アンタ李白じゃないでしょスバルさん」

「だってぇ……新一くんに身近な人が殺される恐怖を味わって貰おうと思ってたんですよ〜! その上でマイルドに行くなら私かなってぇ〜!」

「いや、それはやってもらわなくても充分怖いって。どこもマイルドじゃないし」

 

 わざとコミカル全開で情けなく言ってみると、バツ悪そうに新一くんが顔を逸らしたので、ちょっとだけ考えてくれてそうだ。

 こんなの、そうなってもいないのに真剣に考えることじゃないからね。「そうなったらどうしよう」なんて、なってみなけりゃわからないのだし。…………いずれは考えさせなきゃならない事ではあるけども。

 

「……スバルさん、父さんの担当編集の人達に、父さんが日本に居ること連絡してくれていたんでしょ?」

「ん、ああ、そうですよ。阿笠さんの家で待機してる間に連絡させてもらいました」

「おかげでオレの手間が省けたよ。成田からの出発時間をしらせるだけで良かったから。今頃父さん、空の上で頭抱えてるぜ! ありがとね」

 

 ニシシと、歯を見せるいたずらっ子の笑顔はそれこそ昨日見た顔にそっくりだ。

 

 

 工藤氏も、私が連絡することくらいは予想ついただろうが、それでも私に時間を与えたんだろう。

 

 本来、彼が私に教えた作戦内容では、私はあそこで殺されたフリをして、廃屋まで連れ込まれ、明確に『組織に関わったから殺された』『死体の処理をする』所を見せる予定だった。

 その前に昏倒してしまったので、大事をとって家で待機となったが、そうでなければ私は、行動を制限された状態で廃屋で一晩過ごすことになっていた。

 

 彼が立てた計画では、私は担当の人たちに連絡する隙が無かったのである。

 

 言うてそれでもちょっと頑張れば抜けられるし連絡も出来ることを考慮していただろうから、最悪最後に飛行機の便を私たちに教えない、もしくは直前で変更と言った形で、日本の次の国、もしくは更にその次の国にまではついてこれない……とでも考えていたんだろうけど。

 

 ︎︎新一くんはそこまでアフターケアしてくれたらしい。

 

「仕事、してほしいですもんね」

「まったくさ! 父さんの連載を気に入ってくれてる人達だっているんだから」

「まぁ…息が詰まって、投げ出して一息つきたくなるのはわかりますが、彼はその一息がワールドワイドですから……」

 

 やんなっちゃうよ、と新一くんは、腕を組んで口を尖らせ、これまた最近見たようなぷりぷりとした苛立ち。可愛げのあるその仕草は、歳をとっても変わらない可愛らしい人のよう。

 

 ああ、息子だなぁ。

 

 

「あと……スバルさん、体調大丈夫? 頭打ったのは確かだし、元々体調悪かったんだろ」

「大丈夫大丈夫。頭は今度定期健診でついでに伝えますし、元々ただの疲労ですから寝れば良かったのでね」

「寝てなかったの?」

「ハハ……工藤先生が帰ってくるって知ってから、闇の男爵また読みたくなっちゃったんですよね……」

 

「博士〜スバルさん伸縮サスペンダー要らないって〜」

「待って待って待って待って」

 

 せっかく作って貰えることになったんだから止めないで、あんな便利グッズ何本あっても良いんだから!! 持ち物のロープ類全部あれに変えてもいいくらいなんだから!

 

 

  ■

 

 

 

 

 小さなピンバッジが2つ。手のひらの上に乗っている。私はそのうち1つを緩衝材で包み、封筒に入れて郵便受けに突っ込んだ。残った1つを摘み、さてどこにつけようかと思案する。

 

 こちら、阿笠博士制作の発明品。

 

 ︎︎その名も、探偵バッチだ。

 

 ︎︎新一くんがゲーセンでお友達に負けて、その代償に制作を依頼…させられたもの、とのこと。

 いつまで経ってもゲーム下手な新一くん。私が彼にドヤ顔で勝利できる、彼の弱点の1つなので、ぜひそのまま健やかにあって欲しい。

 

 探偵バッチの方は今日、学校のお友達に渡してあげるらしい。

 小学生のお友達に。

 

 おもちゃにされそう。

 

 超小型トランシーバーと発信機内蔵。通信有効範囲は短いものの、バッジ同士で会話できる。

 

 間違いなくおもちゃですね。山の中でトランシーバー使って山狩りケイドロとかやったら楽しそうじゃん。

 

 ︎︎でも新一くんだとそれやったら死体見付けそうだな……

 

 

 

 

 ────とか思っていたら、まさかの街中で死体を見つけて、そのおもちゃで殺人犯を捕まえる事が出来るとはビックリである。

 

 

 てか渡したその日のうちに事件って。さすがの言葉を名探偵に向けるべきか、この町に向けるべきか判断に困るね。

 

 

 

 

 ■■

 

 

 

 

 つい先日クリスマスだった気がするんだが、どういうわけだか雪が無くなってきた。

 

 気が付いたら年末年始も節分も記憶にないのに、庭に新芽が生えてきている。緑萌ゆる季節なり。

 

 寒くなくなるのはいいんだけど、ホントにどういうわけだろう。なんだか1週間が1日になってるくらい、日付け感覚がめちゃくちゃだ。

 

 新一くんが小さくなってから、こういった違和感が凄い。

 

 

 そもそもクリスマスが唐突過ぎた。私の車、早めにスタッドレスにしといて本気で良かった。

 ……これは言い訳したいんだけど、あの時履いてたの、靴底ほとんど溝のない靴だったから滑ったんだ。ホントホント。

 

 これが世に言う、サザエさん時空というやつなんだろう。明日には夏になってるかもしれない。

 怖過ぎるな。ただでさえ私は温度変化に弱いんだから。

 ︎︎衣替えとかどうすればいいんだ……?

 

 

 さて私は今、どこにいるかと言いますと……私は、ただいまちゃんと厚着で冷えないよう注意して、夜空の下にいる。

 

 阿笠さんの家の屋上で、アンテナ前で座り込み、天体望遠鏡で空を見る。見たい星があるわけでもない。

 でも見ないのもアレなので、今日は惑星でも探すか。

 

 

 

 この家に迎えられたばかりの頃、周囲よりやや高いここを気に入って、事ある毎に登っていた。

 

 気付いたら星が、天体観測が好きだと思われてしまっていた。確かにそんなことを言ったような気がしないでもない。

 考え事する時登っていただけなんだけど……ボケっとしてても違和感がない理由付けとして、丁度良かったのでその発想に乗ってしまった。

 

 以来、誕生日や何かの節目に、天体観測グッズを贈られてしまって今やすっかり趣味:天体観測の男になってしまっている。

 ……阿笠さんとか、嬉しそうにそういった物を渡してくるから断りにくいんだよ。

 

 ずっと、1人になるのに丁度良くて、そのままそう思っててもらっているけれど。

 工藤氏あたりは気付いてて、でも私が誤魔化す理由に乗っかってくれてそうだな。

 

 今日は、件のバッジの話。

 

「──という面白いおもちゃが手に入ったので、あげますよ」

『へぇ、ハカセの新作? ……通信距離にその子供たちが入ったらどうすれば?』

「砕いて壊すしかないですね。残念です」

『えっ』

「冗談です。私も隣でお手伝いしまして。そのバッジと対になる、私の持ってる物としか通信出来ません。ちなみになんの対策もしてないので通信傍受される恐れがあります。発信機の受信機も私のメガネ以外無いです」

『えっ……ゴm……』

「だからおもちゃですってば」

 

 これで救われる命がこの先どれだけあると思ってるんだ。今のところはそんなところだけれど、グレードアップして肌身離せない必需品までいけたら良いなと思っている。

 きっと、子供たちに渡されている方も色々機能が盛り込まれて行くんだろう。

 

 と、そんな感じに望遠鏡を覗き込みながらいつもの情報交換会。おもちゃの話と名探偵の活躍を話したら、彼は町がおかしいと断言した。死体に……事件に遭遇しすぎであると。

 ︎︎やっぱりあなたもそう思う? 私もそう思ってるんですよ。特に最近ね。

 

 最近っていつだろうね。

 

 

 一方で、話は変わる。通話中の声はひそめているけれど、音声自体は問題ない。ちゃんと使えているようだ。……怖いなぁ。

 

『そもそもトランシーバーより、前にくれたこの通信機の方が便利じゃない。これ、まだ都内だけなの?』

「あ〜……一応、他でも使えるかもとは……専用のアンテナをあちこちにばら蒔いてますし……そのうち知らない間に、気付いたら固定電話相手にも使えるようになるんじゃないですか?」

 

『先行で使ってるんだっけ? お前どんなツテなんだよ。

 PHSだっけ? これ小さくて、使いやすくて良いな』

 

 

 ………………古い。

 

 知識が……知識が古い。

 

 

「──……そちらの調子はどうですか?」

『おっと。悪くないよ。そちらの調子はどう?』

「ええ、こちらも悪くないです。じゃあ、また」

『うん。また』

 

 耳から離し、通話を切る。

 

 タッチパネルにアプリがいくつか並ぶ、普通のスマホがこの手の中に。

 

 ホームボタンのない、ちゃんと新しいやつ。ため息が漏れるほど普通のスマホ。普通に使われていたスマホ。

 

 何故か最近、とんと見かけなくなったスマホ。

 

 あの通話相手、確かに前まで普通にスマホ使ってたんだよなぁ。

 

 なのに、最近になっていきなり、連絡方法を伝えてきたと思ったら、なんとまさかの公衆電話を指定してきて……横転してしまった。頭は打ってないけど、もしかして新一くんが小さくなった時にびっくりして私頭打ってたのかもしれない。

 ︎︎やっぱりあれ以来おかしいんだ。

 

 十円玉いっぱい用意するの大変だったんだからな。

 

 

 

 以前とある会社で呼び出されて、お手伝いしていた時に頂いたPHS。スマホが無くなった状態で、デカい携帯電話を携帯している人が珍しい社会で。

 まだ使えるのかと試したら、繋がるのは私のスマホだけだった。

 

 

 

 …………そりゃ怖いでしょうよ!!!

 

 

 繋がらないならまだしも、繋がることが恐怖。

 

 謎の電波回線が存在してるのか、それとも電波回線はあるのにそれを拾う物が世界中から消えたのか。

 

 

 世界に何かを起こした“何か”の存在に、久しぶりに、遠くに保留していた私が“私”になっている謎を思い出してしまって、めちゃくちゃ怖くなってしまった。

 

 

 あまりの恐怖に、今日の探偵バッチと同じ方法でぶん投げ……預けて来たのである。通信手段はなんぼあってもいいですからね。

 また知らない間にスマホ使うようになって、変なところと妙な連絡取り出したり……とか、……季節がこうもコロコロされると、彼との定期連絡増やしたほうがいいかなとか。思ってしまう。

 

 ︎︎

 あの探偵バッジは、発信機としての有効範囲を現状可能な限り広めさせてもらった。現に今スイッチを入れれば、場所はわかる。

 ︎︎とはいえ、場所がわかったところで彼のピンチがわかるわけじゃない。

 ︎︎盗聴機能つけるとどうしても他電波と干渉しちゃうし……じゃあどう彼のピンチを…………自分で切り抜けてくれたら良いんだけど……いや良くないよ知らない間に節分みたいにイベント終わってたら怖いよウゴゴゴ

 

 ︎︎もっとちゃんと、原作読んでおけばよかったなぁ。そしたら、もっと……

 

 

 うーん…………今日は雲も多いし。ヨシ、やめよう。

 

 

 こういう時は早く寝るに限るね。

 

 




お話ピックアップしてるとどうしても季節の話になってしまいました。
この話はサザエさん時空に違和感感じます。
そしてそろそろ春ですね。(書いてる時点は夏)

劇場版……?あったかな……?


閲覧ありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。