昴くんはなにもしない   作:あまも

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ついにいきます

読んでいただいてありがとうございます


4-1:月影島の友人

 

 

 

 

 

 

 世はゴールデンウィークを控え。子供たちも大人たちもみんな大はしゃぎ。

 私などは相も変わらず阿笠邸にて論文でもやろうかと。

 ……でもやること多いんだよ。ゴールデンウィーク。

 

 ……その前に、季節感無視状態になっている自宅の整頓しているなう。

 冬のコートと夏のパーカーが並ぶクローゼット。壮観だね()。

 今のところ、これから夏だし薄手の服はハンガーラックに掛けとこうかな。春服、出番あるのかな。

 置きたいものもあるし、スペース確保は大事大事。

 

 お前家出たのに阿笠邸に入り浸ってるなら意味ないじゃんと言うことなかれ。居候の肩身の狭さと、プライベートな空間ってのは大事なのだ。一方で恩返しというのもまた大事なのだ。

 つまりそういうこと。

 

 ちなみに新一くんのほうは、ゴールデンウィーク初めは毛利探偵事務所のみんなで、月影島に行くそうな。先日手紙で依頼があったそうで、伊豆沖の孤島で観光気分で2人はついていくらしい。

 港まで送迎しに行く予定が入っているので、ついでに何か土産を頼もうかな、なんて思うも、行く先が月影島だってことを思い出す。

 あの島、スローライフ向きで観光とかの名所も特産品も、特にこれといって無いって聞いたが。

 

 

 

 そんな月影島ということで、1人の友人を思い出した。昔、病院に通院していた時に出会った、島から手術のため、入院していた彼。

 せっかくだから話通して、島にいるなら観光案内でも頼もうかな〜なんて考えて。

 ︎︎あれ、彼って。

 

 とりあえず彼の都内の自宅の方に連絡してみる。

 コール音。出ない。

 勤務先の方に連絡してみる。別の人。往診で出てるらしい。

 

 なるほど、島にもう行ってるのね。

 

 

 

 

 ………………舞台は島。

 過去に起きた不可解な事件。

 事件の生き残りの青年が舞台にいて。

 謎の多い依頼が届き。

 

 そこに名探偵が向かいました。

 

 

 Q:導き出される答えは?

 

 

 

 

 A:事件じゃねーか!!!

 

 

 

 緊急事態だ。友人が危なそう。急いで島の診療所に電話をかける。

 友人が犯人側か、被害者側かはまだわからないけれど、私の予想では犯人6割被害者3割、依頼人としての探偵のガイド1割。

 

 

 依頼人の名前聞いておくんだったな……麻生だったらワンアウト。圭二だったらツーアウト。

 内容が犯行予告ならスリーアウトだ。

 チェンジチェンジ! 変えてくれ! 馬鹿お前チェンジしたらスリーアウトしてるってことじゃねーか。継投! 継投!

 

 

「もしもし? 先生は居らっしゃいますか?」

『はい? ……ええと、どちら様でしょうか』

 

「12年前、病院で知り合った“スバル”が、話をしたがっていると。伝えてください」

 

 診療所の受付のおばちゃんに取り次いでもらい、保留中の月光を聴きながら友人について考える。スバルを知らない先生なら、だったらどこいったよ先生は、になるだけだしおっけおっけ。

 

 美人と言える女顔で、けど見た目と違って芯の強い奴。

 

 

 彼が事件の犯人だとしたら、十中八九12年前の事件の仇討ちだろう。

 

 彼は家族の自殺のように見える事故のような殺人事件で、自分以外の家族全員をいっぺんに、自分の知らない間に喪ってしまっていた。

 

 その事情が、どこか家族を亡くした私に似ていて、なんだか親近感を覚えて……病院で話をきいたり、その後も事件について調べる手伝いをしていた時期がある。

 

 結果は、あまり好ましいことではなかったけれど。

 

 海外で活躍していた父親が、麻薬密輸なんて犯罪の片棒担いでいた……とか、それを止めようとして仲間に殺された……とか。

 

 しかも当時の私たちや警察では、焼け跡からは連中による麻生一家殺害の証拠を揃えられず、連中のことは麻薬の密輸の件でしかしょっぴけなかった。

 

 

 それでも、あの時彼は一区切りつけて、前を向こうとしてたはずだ。

 

 だから、私の希望としては、彼は今回巻き込まれた側なのだと……思いたいのだけど。

 

 

「顔がいいんだよなぁ(せい)ちゃん……」

 

 

 その回だけの登場じゃない人、基本みんな顔がいいから……ワンあるやもしれん。

 

 と、そこで流れていた月光が切れた。

 

『──もしもし?』

「ハェ????」

 

 電話口の向こうから、女性の声がして吹き出してしまった。え? 女性?

 

『……“スバル”って、沖矢くんだよね? あのさぁ、島にはかけてこないでって言ったじゃない』

「いやいや、待っ、えっ??」

『…………事情があるの。“察して”』

 

 一瞬だけ、男性の声……というか本来の彼の声で聞こえた。

 

「あっ…はい……成ちゃんで良いんですよね?」

『うん。で、どうしたの沖矢くん。……よっぽどの用事なんでしょ』

 

 どこか苛立っているような調子。よくよく聞けば、彼の高めの声だとわかるが、……にしても。いや、今は置いておこう。

 島に行く時、彼はいつも「忙しいから、連絡は控えて欲しい」と毎度言っていた。だから島にいる彼に連絡を取ったのは、これが初めてのこと。

 

 ……で、事情があって、“これ”?

 俄然きな臭くなってきたな。

 

「成ちゃん。何しようとしてるんですか」

『…………何って、何を?』

 

 反応が遅い。声が強ばった。あーだめですその反応……何かしようとしてるじゃないですか。犯人寄りかも。

 

「あの事件は、犯人はもうわかったでしょう。逮捕もされました。最近有名な毛利探偵事務所を頼ったのは、何かあったからなのだと私は考えましたが。

 だから、あなたが……何があって、そして何をしようとしているのか、聞きたくて電話をさせていただきました」

『……………………何をしようって……なにもないよ。もう終わったことなんだし……沖矢くんは相変わらず変なこと言うね。島での往診、忙しいんだからもう切るね、それじゃあ…

 

「あなたはここで電話を切ると後悔しますよ」

 

 ︎︎……』

 

 彼はどうも、私に知られたくないことがあるようだ。この電話を早く切り上げようとしている。

 

 むしろ、このタイミングで、何を企んでいるかを……探られる事自体を嫌がっている?

 

『…………後悔するって、何で?』

「私があなたにとって有益な事を教えてあげるからです。断言します。これを知らなければあなたは、きっと後々酷く後悔する。

 それこそ、12年前、島に帰れるとなった日のように」

 

 ガチン、と。歯を食いしばり、次いでチィと舌打ちの音。怒っただろうか。

 彼はかつて、入院していた理由……病気の手術が無事終わり、これで帰れるとなったその日に家族の訃報を聞いた。祝いに駆け付けた私が、追い返される程度には酷く取り乱していた。

 

『へぇー、沖矢くんてばそれ持ち出すんだ?』

 

 よし、怒った。

 酷く冷静な声だけど、さっきより反応が早い。逆ギレに近そうだ。

 

 最も触れられたくないことなのはわかっている。でも申し訳ないけれど、彼が何かするならそれを理由にした事じゃなきゃ話にならない。

 怒ってる人との会話、売り言葉に買い言葉になってしまうから、得意ではないんだけど。

 

「ええ。だって、あなたのことですからどうせ今回もそれ関連でしょう? ただでさえ後悔し尽くしてるのにまだ足りないんですか?」

『足りないかって? もちろん足りないよ。どれだけ想っても、まだまだ全然足りない。疑問ばかりが浮かぶんだから』

「でしょうね。それはそうだ。

 ──成ちゃんはまだあの事件の、本当の答えに辿り着いていないのだから」

 

 本当の答え。当時の私たちや、警察の方にはみつけられなかったもの。

 

 

『本当の答え……? 沖矢くんはそれがわかるって言うの?』

「いいえ、私はわかりませんよ」

 

 手元で、連絡先リストからその人の名前を選ぶ。コール音後、通話が始まる。挨拶無しでマイク部分を指先で二度叩く。

 

 

「でも、名探偵ならばわかります」

 

 

 固定電話の受話器を首に挟み、ノートPCを操作して一番早く月影島に向かえる船を探す。この際個人所有でも漁船でも良いか。チャーターだチャーター。……うーん、金額やばそう。アイツ払えるかな。

 

『……わかると思う?』

「わかるに決まってる。わからないとは言わせない」

 

 彼が、名探偵と噂の小五郎さんに手紙を書いて依頼したのが、『12年前の事件の真相を暴いて欲しい』という内容だったのなら、こんなに私に聞かれたくない動きは見せないだろう。

 

 嫌な事に、ここはバイオレンスサスペンスミステリーラブコメ世界。名探偵が呼び出されて、事件と因縁と、晴らし切れなかった後悔遺る島に向かおうとしているなら……事件は起こるもの。

 

 手紙の内容は、どんな意味を含むものであれ、きっと『助けて欲しい』内容だったはず。

 

 

「いいですか。3つです。

 

 1つ。私の知る限り最高の名探偵をあなたの所に送ります。彼にもあらましは伝えます。手助けしてあげて下さい。

 

 2つ。早まるなとは言いません。もう遅いかもしれないので。……あの名探偵は絶対にあなたを救います。どうか信じてあげてください。

 

 3つ。…………」

 

 新一くんならばきっと、手がかりを与えれば真実を詳らかにしてくれる。彼が事を起こす前に、新一くんに手がかりを教えて、様子を見る時間さえあれば、彼もきっと新一くんに少し任せてみる気になるはず。

 

『……3つめは?』

 

 3つめを聞いてくれる。この時点で、彼が私の薦めた名探偵に期待を持ってくれたことがわかる。

 

 大丈夫。きっと大丈夫。

 

 でも、けれど、今の新一くんはまだ、工藤氏のような完璧ではないことが気がかりで。工藤氏に言わせれば「まだまだだな」な事が、何か大きなミスになりそうで。

 

 

 彼が私に、話をしたがらなかった理由が、どうしても引っ掛かる。

 

 私は12年前に、病院でひとりきりになってしまった彼に、『あなたは生きるべき』だと伝えた。

 その通りに彼は頑張ってひとりを生きてくれた。ここまで。これまで。

 

 なのに、何かしようとしてる、となると。

 

 

「……どうか肝に銘じてください。

 ……火は、ひどく熱いです。とても……痛いですよ」

 

 

 大火傷を負った私が言う言葉に、彼が怯えてくれたらどれだけ良いだろう。

 覚悟の決まった人に、何言っても無駄なのは知っているけれど……探偵を自ら呼んだなら、きっとまだ、彼は。

 

『…………ああ、わかった』

 

 彼の返事に、止まった会話に、これ以上私から言える言葉も、何より通話を切る言葉が思いつかない。

『じゃあまた』、でいいのか。『気を付けて』、なのか。

『がんばって』も、『さようなら』も、違うのだけはわかるんだが。

 黙り込む私に、電話の向こうから小さく喉を鳴らす音が聞こえて、息が漏れるみたいな笑い声になった。

 

 

『ハハ……沖矢くんの送ってきた名探偵、どんなもんだかみてやるよ。

 

 じゃあな……』

 

 

 

 ぶつりと、受話器からの声はそれきり途切れてしまった。

 

「じゃあな」はないだろうお前。「またな」まで付けろお前。

 

 

 静まり返った部屋に、ぽそりと。

 

『──つまり、仕事の依頼だな?』

 

 もうひとつの通話口から、囁く様な声。あまり新一くんの周りで動いて欲しくはないけれど、今回の舞台は孤島。僻地。ド田舎。

 

「……ええ。頼みたい事があります」

 

 

 今の名探偵が「まだまだ」なら、ワトソンなり小林少年なり、サポート役の相棒をつけてやればいい。

 

 

 

 ♤

 

 

 出発前。港まで送ってくれたスバルさんが、オレだけひとりを手招きして、話してくれたひとつの依頼。

 

「…コナンくん。ちょっとお願いしたいことが。探偵としての、キミに。

 

 私の友人が月影島に居ます。彼はとある事件の真相を追っているのですが、どうしても証拠が見つからないんです。

 

 そこで、キミに……その証拠探しをお願いしたいんです。詳しくは、島の診療所にいる先生に話を聞いてください。当時、私と一緒に事件について調べた友人です。

『沖矢 昴から頼まれた』と、それできっとあちらもわかるでしょう

 ……よろしくお願いします、名探偵」

 

 毛利探偵事務所に届いた依頼の手紙を読んで、ひどく辛そうな顔をしてからのそんな話。

 いつもにこにこと笑って、飄々としている彼が今朝出会った時から珍しく、蘭やおっちゃんですら違和感を覚える程神妙にしていたスバルさん。

 

 彼があれほど真剣になるなんて、一体どんな事件なんだろうかと予想しながら、オレは島に向かっていた。

 

 

 診療所の先生、という浅井成実(あさいなるみ)さんに、スバルさんから頼まれた事を伝えると、酷く驚いて、次いで吹き出して高らかに笑い声を上げた。

 意外と低い声で笑うのが印象的だったけど、笑われた事がちょっとだけ頭に来て。

 

「そっか、そっか。アイツ、やけに信じろ信じろって念押すと思ったら……アッハッハ! ……ごめんなさい、小さな探偵さん。あなたを笑ったんじゃないの。

 沖矢くんがね、あなたを紹介してくれてるとき、凄く必死だったから。アイツ普段があんなんでしょ? 思い出しちゃって」

 

 と、笑った理由はスバルさんの態度のことだと謝ってきた。普段の姿を知ってるなんて、本当に知り合いなんだ。

 

 笑い過ぎて泣けてきた、なんて言いながら目の端に涙を浮かべて笑うその人が、「沖矢くんと一緒に調べたかぎりではね──」と、教えてくれた当時の事件の内容は、しかし聞けば聞くほど、もう解決した話ではないかと首を捻る。

 

「そう。事件の真相は分かってるの。証拠が見つからないだけ。なのに、沖矢くんは『本当の答え』があるって言う。……私に、それに気付いて欲しいんだって。

 それで、探偵さんならその『本当の答え』を私に教えてくれるって聞いたのよ。

 ……わかる? 小さな名探偵さん」

 

 しゃがんで目線を合わせて、どこか挑戦的に笑う彼女に、オレも自信を持って笑い返す。

 

「うん、もちろん!」

 

 スバルさんは、既にある情報を集めることは、オレの知る中で誰よりも上手い。

 正確には、必要だと思われる情報を拾い出すのが異様に上手い。

 その彼が、彼の可能な限り調べ尽くした上でオレを現地に向かわせて、調べるよう手を回してくれている。

 

 だからきっと、まだ見つかっていない、もしくは島の外まで出てこなかった情報があるってことだ。

 

 それこそがスバルさんの言う『本当の答え』の手がかりなんだろう。

 

 島の有力者の葬儀会場で、依頼主について調べてくる、と別行動となったおっちゃんと蘭。

「診療所の方でお預かりしますね」と、オレをひとり連れ出してくれた成実さんに、事件に関連する場所をひとつひとつ案内して貰う事になった。

 

 公民館。当時の麻生さんの使用していたピアノ。麻薬取引の鍵だったとされるそれを隅々まで調べると、底に小さな仕掛け蓋があり、微量の麻薬が残っていた。本人が使っていたものに、となると、流石に知らなかったではすまされない。

 ……しかし、まだモノが残っている……?12年前に、麻薬に関しては解決した事件なのに?

 

 燃えた家の跡地。一応見ておこう、のつもりで立ち寄る。当然何も無かった。

 そこで最近島に配属されて来たばかりで、道を覚えようと島を回っていた新米駐在さんと出会う。成実さん曰く、「いまの駐在さん、昔からずっと駐在さんしてて、すごい高齢だからね」という言葉に、事件当時の事を何か知っているのでは? と、新米駐在さんも連れ立って駐在所へ。

 

 駐在所にて、高齢の駐在さんに事件当時の話を聞く。彼の知る話は、彼の見た限りで、という注釈はあれど、状況を良く見ていた。伊達に長くおまわりさんをやっていないらしい。

 どこか情報が足りない気がして訊ねると、「おお、それはな……」と答えが出てくる。隠しているわけじゃなくて、この人はスバルさんの逆で、必要な情報がどれかはわからないけど、気になった事は覚えている人らしい。本当に、12年前なんて古い事を、良く教えてくれた。

 

「そういえば、焼け跡から見つかった金庫の中の楽譜なんてのもありましたよね」

 

 とは話を聞いていた新米駐在さんの言葉。来てから島での出来事を覚えておこうと、島の事件記録を見ていた時に気になったらしい。

 

 ピアニストの家の金庫から見つかった楽譜だって?

 成実さんの方を見ると、とても驚いていた。全て燃えてしまって、残ってるものなんて無いと思っていた、と、震える声で呟いている。

 

 今は公民館の保管庫にあるらしいそれ。確認したい旨を伝えるも、鍵はどこにやったかね? なんて、老人みたいなことを言い出す高齢な駐在さん。さっきの感心返せ。

 

「これじゃないですか?」

「おお、そうそれそれ。いやー、捜し物が上手いな君。えーと……、誰だったかな」

「やだなぁ、俺はタダヒロですよ、先輩。早く覚えてくださいね」

 

 駐在所に入ってからこれで五度目になるやり取りに、オレと成実さんで苦笑し合う。

 

 

 面倒見の良いおまわりさんたちが、公民館での楽譜探しまで手伝ってくれた。タダヒロさんは本当に捜し物が上手くて、すぐに「これじゃないですか?」と見つけてきてくれて。

 

 そうして、その楽譜の束が成実さんの手に渡った。

 

 見れば見る程、ただの楽譜だけれど、成実さんはその楽譜の束を見た途端、バラバラとめくり、とある1枚でついに大粒の涙を零しながら座り込んでしまう。

 

 顔を見合せて、首を捻る高齢な駐在さんと、なんだか安心したように笑う新米駐在さん。

 そして、その楽譜にどんな暗号が仕込まれていて、それを瞬時に読み上げ、涙を流した彼女は何者なのか思案するオレ。

 公民館の一室は暫くの間、小さな嗚咽だけが響いていた。

 

 

 





気付いたんですが、麻生って麻を生むって、なるほどだからこの名前なのかと。

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