起きたらレイヴンだったんだが、なんかコレ違うくね? 作:⚫︎物干竿⚫︎
はい、へっぽこ新人レイヴンのレストレイドです。
今日も今日とて護衛依頼こなしつつ金稼ぎと腕磨きの日々です。とりあえず目標の腕部パーツを買って更新したのが成果と言えば成果だ。
で、俺はレイヤード内時間で深夜3時とか言う虫も寝るような時間にACに乗ってイーストフロントとセントラルを繋ぐトンネル内のハイウェイを走ってます。はっきり言ってクソ眠い。
今日の依頼主はベルゼラインテクノロジーで、パソコンやらの民生品を運ぶ輸送トラックの護衛だ。この前のニュースでもキャスターが言っていたようにセキュリティーガードの巡回は増えているし、実際かなりの頻度でパトロールしている管理局のMTとすれ違う事もあれば協働して例のテロリスト共を転がす事だってある。
それでもわざわざ俺達みたいなレイヴンを使っているのは、各社が管理局に対して秘匿したいアレやコレを運ぶ際にレイヴンを使って怪しまれないようにするためらしいが、ぶっちゃけあんまり意味ないだろとか野暮な事は突っ込まないでおこう。俺達みたいな満足に自分の機体すら仕上げられていない底辺レイヴンが食いっぱぐれなくて済んでいるのはこう言った依頼のおかげなんだから。
そして、この輸送依頼だがカーマインアームズとベルゼラインテクノロジーとじゃ大分温度差がある。金払いはどっちも変わらないが、カーマインアームズの方は雑談飛ばして来たりしてくれるが、ベルゼラインテクノロジーの方は必要最低限以上は関わりたくないと言う感じがヒシヒシと伝わって来る。今日の連中は真面目に仕事に励んでるだけでそう言った排斥感と言うか壁が無いだけマシだ。
『レイヴン。状況はどうだ?こちらからは特に何も見えないが』
「こっちのセンサーやレーダーにも特に反応は無し。至って平和な普通のハイウェイですよ」
『そうか、引き続き警戒をよろしく頼む』
「了解」
壁越しすぐだと耐久性に難があるとかでセントラルと各フロント間はそれなりに距離がある。車でも10分くらい掛かる程度には長いトンネルが続いていて、壁にはカーマインアームズやベルゼラインテクノロジーを始めとした各社の広告が躍る電光掲示板があって、トンネル中央には列車用の線路まである。
そのままえっほえっほしていると、道路を封鎖するようにバンが並んでいて、その向こうに機関銃で武装した二脚型軽MTが2機と汎用二脚人型MTが雁首揃えて立っていた。
『システム戦闘モード起動』
すぐさま機体を通常モードから戦闘モードに切り替える。ジェネレーターの出力制限が解除されブースターがオンラインになり、それに合わせてFCSも起動してモニターにターゲットサイトが表示される。
なんで今戦闘モードを起動しているのかと言うと、明確に戦闘状態であると判断出来ない場合はACも戦闘モードはオフラインでなければいけないと言う法律がこのレイヤード08にあるからだ。俺達レイヴンからすれば突然の死!が大いにあり得るので困った話だが、下手に逆らおうもんならセキュリティーガードがマジで殺しに来る。
管理局の機体はMTですらAC並みの性能してるのにそれを遥かに凌駕する特別執行機なるバケモンが居るらしい。俺から見てバケモン級の技量の上位ランク帯のレイヴン達ですら面と向かって逆らわない時点でどれだけヤバいかは察して余りある。
「前方に例のテロリストのバリケードを確認。適当に蹴散らして来るから待機を」
『了解した。頼んだぞ』
「なるべく手早く済ませる」
そう答えて操縦桿を前に倒して機体を加速させる。ジェネレーターの出力制限が解除された事でさっきまでのえっほえっほとした鈍重な走りから解き放たれ、跳ねるような軽やかさで走り出す。そして、フットペダルを踏み込むと滑らかな挙動でジャンプへと移行する。
最優先は汎用二脚人型MTだ。鳥を思わせる脚にほっそりとしたコアユニットに貧弱な装甲と機関銃くらいしか積めない二脚型軽MTと違って、がっしりとしたパワフルなボディーに見た目相応に頑強な装甲と積載力による強力な武装をしているコイツはかなりの脅威だ。実際、目の前のやつもACの物と比べても遜色無いライフルに背中にはミサイルランチャーを装備している。
ぶっちゃけ、企業所有の輸送トラックってデカい装甲車みたいなもんだからこの汎用二脚人型MTさえ仕留めてしまえば無理矢理このバリケードを突破するくらいは出来る。とは言え、俺の仕事は安全かつ無事にトラックを送り届ける事だ。なら、他のも蹴散らす以外に選択肢は無い。
ブースターを噴射して落下タイミングや位置をずらしたりしてテロリスト達の射線を切りながら両手のマシンガンとライフルを二脚型軽MTの片割れへ向けて撃つ。紙を破るように装甲がひしゃげて蜂の巣になって行くそいつは無視してフットペダルを蹴飛ばすように踏み込めば、瞬間加速に優れたブースターが正しくその能力を発揮して、横へと機体をずらす。機体スレスレを人型MTが装備したミサイルランチャーから撃ち出されたミサイルがロック対象を見失って明後日の方向へ飛んで行く。
壁に当たってミサイルが爆発するが、あの程度のダメージなら全く問題無いとは言わないがすぐさま大事にはならない。地下空間と言うのもあって偏執的なまでに崩落対策が施されている恩恵だ。まぁ、だからって好き勝手にバカスカと撃たせまくって良い理由はない。下手したら俺に破損した壁とかの修繕費の請求が来る。
と言う訳で、人型MTが迎撃に撃って来るライフルを小刻みなブースター噴射で回避しながら接近。そのまま機体全身を叩き付けるような蹴りを叩き込む。機体重量で言えばおそらく向こうの方が重いが、運動エネルギーの分こっちの方が当たった際の衝撃が大きく、人型MTが後ろに吹っ飛んで背中から路面に倒れ込む。
一旦人型MTから視線を外して、機体をジャンプさせて軽MTやバンが撃って来る機関銃を回避する。当たったところで豆鉄砲だから大して痛くも無いが、修理費はかからないに越した事は無い。そして、空中から薙ぎ払うようにマシンガンを撃ってバンを全部仕留めて、そのまま軽MTの後ろに着地。ブースターの噴射で機体を高速旋回させて軽MTのコアユニットにライフルを突き付けて撃つ。
ここまでで3分程だ。早いと思うか?残念ながらこれでも時間をかけている方だ。実力十分なレイヴンなら同じ機体だったとしても1分もあればこれくらいの連中なら片付ける。伊達や酔狂で高い金をレイヴンは貰っている訳じゃないのである。
起き上がった人型MTが撃って来るライフルを左右に反復横跳びするように回避しながらマシンガンとライフルを撃ち込んで行く。流石にバンや軽MTと違ってそれなりに装甲で耐えて来るが、横槍も無いならただの的に変わりはない。そのまま問題無く蜂の巣にして着地だ。
『周囲に敵影無し、並びにレーダーも反応無し。戦闘終了を確認。システム通常モードに移行します』
「被弾もゼロ。上々だな」
まぁ、調子づいて天狗になれるような連中を相手にした訳じゃないんだけどな。これで相手が全部人型MTでACも居たなら話は別だが。だって、それが出来るなら一流のレイヴン名乗って許されるレベルだし。
『評判通りに依頼して正解だったな。これからも縁が有ればまたよろしく頼む』
「それはどうも。また機会が有れば」
その後、特に障害らしい障害も無く輸送トラックをセントラルにあるベルゼラインテクノロジー系列の家電量販店まで送り届けて無事依頼完遂である。
拠点に戻った後、レイヴンズネストに報告だけ入れて流石にクソ眠いのでパイロットスーツを脱ぐだけ脱いでベッドに潜り込んで寝る。
その後、昼過ぎくらいに目が覚めて携帯端末を確認するとKから2回連絡が来ていたが、完全に爆睡キメていて気付かなかった。
「もしもし、レストレイドだ。悪い寝てた」
『おはようございます、レイヴン。いえ、お気になさらず私の方も配慮が足りませんでした』
「まあ、普通はあの時間は寝て起きてるもんだし。それで?なんか報告に不備でもあったか?」
『そちらは問題ありません。ただの連絡のようなものですので』
「連絡?」
『はい。レイヴンレストレイド。我々レイヴンズネストはあなたの依頼実績及び、カーマインアームズ、ベルゼラインテクノロジー両社からの評価を鑑みて昇格の権利がある事を認めました。タイミングは任せますが、昇格試験をお受けください』
「カーマインアームズはともかくベルゼラインテクノロジーからも好評とはちょっと予想外」
『まあ、見下しているのと評価は別ですので』
「それもそうか。ただ、まだ俺のAC半分くらい貸与パーツだぞ?」
そう。ジェネレーターとブースターと腕部以外は機体本体を構成しているパーツは貸与パーツのマーヴばかりだ。流石に両手のマシンガンとライフルは貸与パーツではないが、こっちもこっちで使い古し中古品だ。と言う訳で、まだまだ自分の機体が完成しているとは言えない俺が受けて良いもんなんだろうか。
『規約上は問題ありません。あくまでもレイヴンとしての実績と実力で以てのみ評価されますので。もし機体を見て侮られるような事があっても同様です。実力で黙らせてください』
「ちょっとこの管理体制大丈夫?」
『体制とあなた方は別ですよ?』
うーんこの。
とにかく、また一歩前に前進はしたらしい。それが明るい未来か自分の墓穴へかは知らないが。
『それでは私からは以上となります。あなたのますますのレイヴンとしての大成と活躍をレイヴンズネストは応援しています』
Kとの電話を終えて携帯端末を机に放り出して、タオルと着替えを持ってシャワーを浴びに行く。本音を言えば風呂にゆっくりと入りたいところだが、このイーストフロントには銭湯すら無いので風呂に入りたいなら自力で自分の家につけるしか無い。当然、零細木端レイヴンの俺にそんな金の余裕は無いので我慢するしかない。ウエストフロントにはスパリゾートなんかもあるのでまた今度行ってみたいとは思っている。
シャワーを浴びて流石にまた寝るわけにも行かないので気晴らしに外に出るとガッションガッションとコンテナを抱えて道を歩くMTが居た。
そう言えば、散々転がして来た訳だがアレが本来のMTの姿なんだよなと実感する。何せ正式にはマッスルトレーサーと言って、元を辿れば工場などで使われるワークローダーやフォークリフトを起源にする汎用作業用重機として作り出された物だからだ。と言うか、純粋に戦闘用として作られたMT自体登場したのがACが現れるほんの10年前くらいらしい。なんでもゼネラルファイアーアームズ社がACの隠れ蓑として送り出して来たが、実際に使ってみれば「これなら戦車とかで十分では?」とか思われていたそうだ。
尤もそれはゼネラルファイアーアームズ社が決定版として送り出して来たACに対する認識を甘くする為にわざとしていたもので、AC以降に作られて来たMTはそれ以前のがなんだったのかと言いたくなるくらいの物になった。そして、AC相手にもまともに戦える数少ない兵器としてMTは確固たる立ち位置を獲得する事になり、マッスルトレーサーと言う呼び名は廃れてMTと言う呼称が一般的になって、俺達からすればMTはMTだが、一般人の間では戦闘用のMTと重機としてのMTは別の区分になっていたりもする。
そのままMTを見送って中に戻って、ソファーに放り出すように引っかかっていたパイロットスーツに着替えていつものようにACに乗り込んでシミュレーションを起動。
昇格試験はいつ受けるかと考えながらシミュレーション内のMTを撃破して行く。実際に依頼でちょくちょくMTを相手にしているからか最近、動きとかが物足りなくなって来たが、まだまだ数を捌くには俺の腕は拙いのは今日の依頼でも実感した。
『規定スコア達成を確認。シミュレーションパターンが変更されます』
「ん?こんなのあったっけか?」
とにかく何が来るかわからないので一旦、昇格試験の事を頭から放り出してシミュレーションに集中する。
『接近する敵影を確認。照合完了。ランカーAC【】を確認。最大限の注意並びに撤退を推奨』
機体名部分がノイズだらけで聞き取れないが、COMの言う通りならヤバい奴である事は確かだ。
「シミュレーションだから撤退もクソもあるかよ!」
青白いブースターの噴射光を尾のように引きながら接近して来るのは、濃紺色の戦闘機を思わせる鋭く突き出すような形状をしたACで右にはバレル部分が長いライフルを持ち、左腕には直接腕部ハードポイントに接続された二つに分かれたバレルの光学兵装っぽいのを装備していて、背部兵装は右側には左腕のを大型化したような感じのを積んでいて左側には3連式のミサイルの発射器が見える。
射程距離に入った事を知らせるロックオンアラートが鳴り、敵ACからミサイルが発射される。ミサイルをギリギリまで引きつけてブースター噴射で回避しつつライフルを撃つが、余裕と言った感じに向こうもブースター噴射で回避して見せる。それどころか回避しながら左腕に装備した光学兵装を向けて撃って来た。見立て通りであの二つのバレルの間からレーザーが発射され、実弾兵装とは比べ物にもならない弾速のレーザーが左肩の装甲を削る。
お返しとばかりにマシンガンとライフルを撃つが全く当たらない。とにかくシンプルにブースターの推力だけで振り切られる。どうにかこっちはこっちで回避してはいるが、攻撃が当たらないんじゃどうしようもない。
「マズっ⁉︎」
敵ACのミサイルと右腕のライフルで移動先を制限されたところに右背部兵装のレーザー砲から発射された極太のレーザーが右脚の膝から先をもぎ取って行った。そして、今の俺の機体は右に向かって降下している。つまりはだ。
そのまま転倒して転がったところに集中砲火を食らってあっさりと撃墜判定でシミュレーションが終了し、モニターが暗転する。
「なんだったんだ今の」
とりあえず、どっと疲れたから今日のところはシミュレーションはやめにする。開け放ったコックピットハッチの縁に腰掛けてヘルメットを脱いで首元を緩める。せっかくシャワー浴びたってのに汗でびっしょりだ。さっきのAC戦1分もやってないんだが………
『データ集積終了………保存価値なし。データを破棄』
なんかACから聞こえた気がしたが、モニターは真っ暗で機体も停止しているから聞き間違いだろうか?