空飛ぶ豚の行進で町まで帰る。
ティントアに頼んで豚は街の外壁の前に降ろしてもらう。
このまま街の中までいくのは目立ちすぎるだろう。
死霊術を依然として嫌う人もいるそうなので、悪目立ちは避けたいところだ。
「白豚号……よくぞここまで……」
ごっこ遊びでもしていたのだろうか。情感たっぷり込めてアッシュが豚の死体に話しかけている。
「無理が祟って命を落としたか……白豚号」
アッシュの話しかけている豚。
その腹がめちゃくちゃ凹んでいる豚は自分で蹴った豚だと思うぞ?
人目を意識して街の外で降ろしたのだが、すでにそこそこ目立っている。
衛兵と街の人が何事かと寄ってたかった。その中にひとりだけ見知った顔があった。
「うお! なんだお前ら! 大丈夫なのか!? なんかすっげーな!」
あ、一番初めに見た衛兵の人。
いや、あんたじゃなくて……。
「あんた達……本当にとってきたんだね……」
群衆の中からマチルダが抜けてきた。
何事にも動じなさそうだった彼女も流石にこれは予想外だったと見える。
「どうでしょうかマチルダさん。これで二七日分は支払えますよね」
「……ああ、問題ないよ。晴れて自由の身ってやつだ」
少しだけ考える素振りをした後でなにか袋を投げよこした。
中を開けてみると金色のコインが十二枚入っている。金貨だ。
「あんたらの取り分だ。一人頭一匹で計六匹、三匹余った分は買い取らせてもらっていいね? それの取り分だ」
「いいんですか? まあ、もう返しませんけど」
「構わないさ。先行投資だ。あんたらこの先もでかいことやってくれそうだ。面白い話があるなら私にも回しな、力になれそうなら喜んで手を貸すよ」
なるほど、笑いたくなるくらい正直な人だ。
この第三自由都市サドンの街に頼れる人が出来たというのも心強い。
金貨十二枚か、はした金でないのは分かるが、どれほどの額なのだろうか。
ということで俺たちはわずか四日目にして【
もうお別れか。
昨日までの勤労の日々も楽しかったと思うが、わざわざ働き続けるほどに暇な性格はしていない。
店から出て、振り返る。フレヤが呼び止めた。
「アッシュ!」
それを聞いて身を強張らせるクロエ。
大丈夫だよ、心配するな。
「……また、お店に来てくれる?」
「おう、メシ食いにいくわ」
それでフレヤは嬉しそうに頷いた。アッシュは分かっているんだろうか。どちらともとれない。それで挨拶は済まされた。これくらいの物だろう。クロエが心配するようなことにはならないよ。
さて。
急に開放されるとふと困る。なにからやればいいか迷ってしまうのだ。
ひとまず俺たち六人は目抜き通りを歩いていく。明るい時間帯で街をちゃんと眺めることもなかった。昨日まで朝から夕まで働いていたのだ。赤茶色のレンガでしっかりとした作りの大通り、昼時の今は大いに賑わいをみせていた。
いくつか屋台が立ち並んでいて香りに誘われそうだ。
客の呼び込み、道端で品物を広げる商人。なんだかわくわくしてきた。
どこに向かったものかな、と考えていると。
「わたし服ほしい!」
「賛成です!」
クロエとカトレアが明るい声で言う。
確かに替えの服が必要だが、女子二人はそういう意味ではないのだろう。
今まで本当に服なんて気にする余裕がなかったからなぁ。
「甘いもの食べたい!」
フーディはまだまだ食い気のほうが勝つらしい。
それもそれで可愛らしいと思う。
「じゃあ、フーディは俺が見てるよ」
確かにお守りは必要だ。ただのごろつき程度なら心配はないが、広い街なので迷子になったら困る。
「俺はどうすっかなぁ。鉄球ってどこに売ってんだ?」
なぜ鉄球……なんの用途で……。
聞いてみれば武器だそうだ。
「俺も飛び道具が必要だと思ったわけよ」
狼と出くわして鉄球を投げ込むアッシュを想像する。
めちゃくちゃ似合う。弓と言いださないところがコイツらしいな。
「ヴィゴはどうすんだよ。お前も鉄球いるだろ?」
「いや、いらんってか、二人して鉄球を投げつけてるの面白すぎないか?」
「は? 絶対かっこいいぜ。お前も買えよ。鉄球」
なんで俺は鉄球の押し売りをされているんだろうか。
流れから、クロエとカトレアの服を買う組、フーディとティントアの買い食い組、そして俺とアッシュの鉄球組になった。
アッシュと二人というのはちょっと新鮮だと思ったが、ほとんど六人で居たので誰かとサシの状況がほとんどなかった。
夕食は皆で食べることにして、
夕食前の時間に現在地へ集合だ。
「うし、じゃあ武器屋を探すか!」
ナイフ一本で心もとないと思う場面はなかったが、それでも選択肢が大いに越したことはない。
かっこいい剣とか買っちゃおうかな。
「それじゃあ武器屋、探しに行こうか」
「よーし、鉄球! 鉄球!」
鉄球は保証できないが、俺もけっこうウキウキしながらアッシュと二人で通りを歩いていった。
通りの目立つところにあった武器防具店【大がま口】を見つけたのでさっそく入ってみる。
かなり立派な店構えで、表には金色の全身鎧が飾ってあった。
こんなに派手なら期待できると思ったのだ。
この街の一番大きな通りに面しているわけだし、半端な商品は売っていないだろう。
「おー、めちゃくちゃ武器あんじゃん」
「ちょっと迫力ある眺めだな」
扉を開いてまず見えたのは。棚に飾られた剣だ。窓から差し込む光をわずかに浴びて剣先がきらりと光っている。どれもこれも切れ味が良さそうだ。
剣、かっこいい……。
なにかこう、本能的に惹かれるものがある。
これは……サイズ的に片手用の剣だろう。
こういうシンプルな武器もいいな。
持っていれば様になるというか、こういうのを腰に佩いたり差したりして颯爽と歩いてみたくなる。アリだ。剣あり。大いにアリだ。
思わず剣を買ってしまいたくなるが、まあ待て、落ち着けヴィゴよ。
まだたくさん武器はあるだろ? 鎧だってあるんだからな。
しっかりよく見て決めたほうがいいんだぞと言い聞かせる。
アッシュも「ヒョー」だの「ホォー」だの言って興奮している。
分かるぞ、めちゃくちゃテンション上がるよな。
次に見たのは槍が置いてある一角だ。
渋い。一突きでしとめたらかっこいいだろうな。
それに単純にこのリーチだ、絶対強い。
刃が付いたものも突くだけじゃなくて便利そうでいい。
俺たちが熱心に物色していると奥から店主が出てきて挨拶してくれたのだった。