六王連合   作:帯刀 撫臼

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19話 新たなる装備を買い叩いて

「へいらっしゃーい、好きなだけ見てってくれよ、お若い旦那方。試し振りしてもいいけど絶対ぶつけねーでくれよ!」

 

 でっぷり太った気の良さそうな人だ。

 それじゃあ遠慮なく見させてもらおう。

 

 片手用の剣、両手持ちの剣、ハンマー、メイス、斧、鎖のついた鎌まである。

 うわ……迷う。楽しい。悩む楽しさに身悶えしたくなった。

 

「おいヴィゴ! これ見ろ! めっちゃカッコ良くねーかこれ!」

 

 どれどれ……とてつもなく巨大な剣だ。

 全長二メートル超えてるんじゃないのか!? 

 

 グレートソードの刃を更に分厚くさせたようなまるで鉄板を思わせる武器だ。

 けれどしっかり研がれており鋭さを思わせる。職人の技が光るねぇ!

 

「アッシュ! ちょっとそれ振ってみてくれ!」

 

「よっしゃ見てろ、くらえ袈裟切り!」

 

 すごい、この重量の大剣だと風を吹かせてくる。

 

 というかアッシュ、よくその剣を振り切れたな。しかも片手じゃないか。

 

 よし、俺もやろ。

 

「見てろよアッシュ! 三段付きだ!」

 

 素早く三回、突きを見舞う。

 

 あー、これやっぱ重いなあ。なかなか脇にギュッとくるものがある。

 

「渋いな。あえての突き。そのでかい武器でわざわざ突き、俺は好きだぜ」

 

 その後も色んな武器を持ってアッシュと一緒に振り回して楽しんでいたら店主に声をかけられた。

 

 さすがに遊びすぎたろうか。

 

「お兄さんらは、傭兵かい? それにしちゃまだ若いよね?」

 

 良かった。ただの世間話のようだ。

 

「いえ、旅の者ですよ。まともな武器も持っていないので、ちょっと見させて貰おうかな、と」

 

「オッチャン、ここはいい店だな。武器屋って初めだけど、いい店だと思うぜ」

 

「……まともな武器を持ってない? 武器屋が初めて? いやいやちょっと、からかわないでよお」

 

 どうも信じられないらしいが、俺たちの様子を見て思ったことをそのまま口にしてくれた。

 

「……え、マジなのかい? いや、まあね。私もけっこう人は見てきたんだわ。こういう商売してっからね、戦う人ってのは身近なもんだ。だからあんたらの体を見たらそれがどんだけ鍛えられてるかすぐ分かったよ」

 

 だがね、と続ける。

 

「はじめはふざけてんのかと思ったんだ。剣を振る筋力は申し分ないし、でもなんか本気じゃなさそうだと思った。

 

 まあ店の中だしね、本気で振るのも遠慮してくれてんだと思ったわけさ。でもね、よく見て違うと思い直した。なんて言うか……技がないってね」

 

 この店主、見る目が確かだ。

 

 確かに俺もアッシュも剣や槍の技はない。

 

 得意なところは別にある。

 

「……ほう、おっさん。技が見てえってか」

 

 制止の間もなく、アッシュが腰だめに構える。

 

 手には何も持たず、ただ拳を固め、打つ。

 

 その動きは確かに技と呼べるほど洗練された動きだった。

 

「……いやぁ、見惚れるね! 徒手空拳がお兄さんの武器であり技ってわけだ」

 

 店主はこちらを見てそわそわしている。

 強さに憧れがある人なのだろうか。

 

 早く見せてくれと言わんばかりのところ悪いが、瞬断一足でいいのだろうか。

 

 直接的に敵を討つ技ではないしなぁ。適当にナイフでも振ってみようかと、鞘から抜いて手の中でくるくる回していれば勝手に喋り出してくれた。

 

「こっちはナイフか! 随分と様になってるね。もしかして暗殺の……いや、止めとこう。聞かないほうが良さげな技術だ」

 

 物騒なこと言う人だな。

 まあ確かに俺はそういう系統の技術も心得がある。

 

「素手とナイフね。よしきた! じゃあちょっと待っといてくれ」と言って店の奥でゴソゴソし始めた。

 

「なんかいい感じのオッチャンだな。俺けっこう好きだぜ」右に同じだ。

 

 店主が何か抱えて戻ってくる。あれは、手袋か?

 それと歯車のようなものが十個ほどだ。

 

「これは灰銀(はいぎん)で出来た籠手だよ。見たことないでしょ灰銀なんて。けっこうな希少鉱石なんだよ。

 

銀によく似た性質の鉱物でね。でも銀より軽くて、そして丈夫だ。磨くほどに銀色の透明感が増していく。派手な銀ピカにはならないが、渋くていいだろ?」

 

 灰銀(はいぎん)籠手(こて)

 籠手というよりは手首まである手袋のように見えた。

 

 拳のところにガードがついている。拳ダコに合わせて沿うように波のついた形で、手の内側は黒い伸縮素材で出来ていた。指ぬきグローブの形で穴が開いているのでこれなら細かな動きも阻害されない。

 

 さっそく手を通してみたアッシュが指を動かして動作を確認する。

 

「どうだい?」

 

「いいね。なあオッチャン。なんか試せるもんねーかな?」

 

「拳と拳を合わせてみなよ。胸の前でガツンってね。思いっきりやってみな」

 

 言われた通り、加減もなしの力でかち合わせた。

 

 灰銀同士が打ちつけられた鈍く重厚な音が部屋の中に響く。

 

「……いいねぇ。なーんかしっくり来たぜ! よし、これ買う。いくら?」

 

「金貨三枚だね」

 

「一枚に負けてくんない?」

 

「二枚じゃなくって一枚に負けるの!?」

 

「おっちゃん。これは投資だぜ? 俺はここの武器を使って旅をする。旅先ですげぇ活躍するだろうな。そんでこの武器のこと宣伝してやるよ。俺が有名になったらオッチャンの店も有名になる。どうよこれ!」

 

 店主は唸る。

 なにか秤にかけるように揺れているようだ。

 しかしアッシュよ。おまえの値切り方はいっそ爽快だな。

 

「……金貨一枚と銀貨五枚なら――」

 

「なあオッチャン。損はさせねぇ、俺には賭けられねえか?」

 

 店主は更に深く唸る。

 唸って唸って、眉間の皺がもうこれ以上に深くはならないだろうところまできて、決めたらしい。

 

「……お兄さん。名前は?」

 

「アッシュだ。腹は決まったよな?」

 

「ああくそいいだろう! 上等だ! 金貨一枚でいい! その代わり私に夢を見させろよ!」

 

「任せろや! やっぱ俺オッチャン好きだぜ!」

 

 いったー! 勢いで金貨二枚もいったー! 

 

 啖呵を切ったような売り方のあとでやっちまった、と悶々とした顔をするのはやはり商人なのだろう。ちょっと待ってと言い出さない辺りは、この人の思い切りの良い性格を感じられた。吐いた唾は飲めないものだ。

 

「さて、そいじゃあ次はこっちのお兄さんだ。お名前は?」

 

「ヴィゴです。連れが安く売ってもらってすみません」

 

「気にしなさんな。でもまぁヴィゴはもうちょっと優しく値切ってくれよな」

 

 そりゃアッシュでもないとあんな大それたことは言えないだろう。

 

 べらぼうに高くない限りは定価で買うつもりだ。

 

 店主が俺に見せてくれたのは手裏剣という武器だった。手の平に収まるくらいのサイズで十字型に刃がついた歯車のようだった。

 

「ここらじゃあんまり見ないだろうね。海を渡った東の国で使われてるもんで、投げナイフみたいな要領の武器だ。ほら、投げてみなよ」

 

 店の端っこに人の形をした木があった。試し切りの人形だ。そいつ目掛けて手裏剣を投げ込む。頭、胸、腹、と体の中心を狙って投げ込む。全投命中。これはなかなか使いやすいな。

 

 よし、次はもっと手首のスナップを効かせて……。

 うん。かなりの速度で飛んでくれる。

 

 黒塗りされた鉄は闇に紛れながら使うのにもってこいだ。

 別に暗殺を企てるわけではないが用途が思いつく武器というのは機能性を感じられて好きだ。

 

 次は二枚同時に投げる。

 親指、人差し指、中指に挟んで腕を振り抜く。

 

 よしよし、これも命中。本当に手に馴染む武器だ。

 

「……まったく、驚かされてばかりだね。そんなにすいすい扱えるような武器じゃないんだけどなぁ」

 

 まいったという様子で頭を掻く店主。

 

 俺も手裏剣を見た時は扱いづらそうに思ったのだが、手にしてみれば頭の中ですぐに軌道を描いて投げ込むことが出来た。

 

 俺によく合う武器だったのだろう。

 いいものを見繕ってくれたお礼を言う。

 

 手裏剣は一枚で銀貨一枚だった。

 渡された十枚を買ったので金貨一枚を支払うと、アッシュが「値切れ、値切れ!」と肘で小突いてきた。

 

 いやいや、無茶を言うな。店主の人も「勘弁してくれぇ」と言っている。

 

 アッシュの強引さに付き合わせて少し申し訳ないと思ったので、きとんと定価で支払った。

 

 さて、武器は買ったので次はやはり防具か。

 

 こんなただのシャツではなく、せめて胴回りくらいは守れる丈夫なものが欲しい。アッシュは見るからに高そうな全身鎧を指さして値切ろうとしていたが流石に店主も承知しなかった。 

 

 少しは自重というものを覚えるべきだな。

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