六王連合   作:帯刀 撫臼

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20話 薄葉灰影

 装備品探し続行。

 

 さて、せっかく武器も防具もこれだけあるのだから手裏剣だけでなく他にも何か探したいところだ。

 

「色々あるけど、全身鎧はやっぱり値が張るなぁ」

 

 武器も防具も大事だが、それだけに金をつぎ込むというのも考え物だ。

 買い揃えたいものを挙げていけばキリがない。

 

「俺も金ぴかの鎧とか着たいけどよぉ、重たくなりそうなんだよなー」

 

「ま、確かに。スピードが落ちるのは持ち味が消えるかもな」

 

 今までの戦闘を振り返ってみて、俺もアッシュも足の速さが殺されれば対応が遅れることも起きそうだ。

 

「財布の中身も考えて無難なものにしといた方がいいかもな」

 

「あんまり使い過ぎたらカトレアの奴がキレそうだしな」

 

 あー、確かに、カトレアならそういうこともあるかも知れない。

 

 別の棚を見てみようと頭を動かしている途中、とある物に目が留まった。

 

 樽の中に剣が何本も入っている。別にこれに不思議はない。

 樽詰めされた剣はあまり値段のしない、いわば寄せ集めの品々らしいことがすぐ分かった。

 

 汚れが酷いもの、古びているもの、抜身のまま突っ込まれているものまである。なまくらの並ぶ森の中、何か異様に黒いものが見えたのだ。つい気になって引っ張り出す。

 

「剣か。……ここに入ってるんだからそりゃ剣だろうけど、なんか……見たことない意匠だな」

 

 遠い地方で作られた剣だろうか? 

 握りもツバも、鞘にまで目立つ傷はない。新品というほど真新しくもないが、この樽に押し込められているには似つかわしくないほど綺麗なナリをしている。

 

「さて、刃は……と」

 

 鞘から抜く、ほんの少しの抵抗の後で驚くほど滑らかに、鞘から刃が滑り出た。

 

 その感触にも驚いたが、剣身を見て我を忘れていた。

 いつの間にか後ろに立っていた店主にも気付けぬ程に。

 

 店主は、なにもかも通り越したような、多くの感情を含んで話してくれた。

 

「……それは刀だよ。ヴィゴは、なにか縁があるのかも知れないな。

 

 その刀も手裏剣と同じ国で作られているもんでね。……これがうちにきたのは、もう十年以上前か。ふらっと店に来た人が置いていったんだ。見るからに高そうな代物なのにね。

 

 その武器を置いていった人はこう言っていたよ「これは俺の影法師(かげぼうし)だ」とね、名のある刀剣なんだろうが、私が知っているのはこのくらいだね」

 

「影法師……か」

 妙に印象に残る言葉だ。

 

 不思議な話だ。そして他にも不思議に思うことがある。

 

「そんな値打ち物をどうしてここに?」

 

「いやね、勝手に消えちまうんだよ。気が付いたら隠れるみたいにどっかに行っちゃうんだな。

 

 その刀、一度も手入れをしてないんだよ。刀ってのは古い油をふき取ってやったりしなきゃいけないんだが、どこもかしこも綺麗なもんだろう? 

 

 たまに顔出して、私が手入れしようと思ったら隠れてしまう。たぶん、触らせたくないんだな」

 

 店主は目を閉じて、大きく長く息を吐いた。

 

「ヴィゴ。君に譲る。その刀の名は、薄葉灰影(うすばはいかげ)と言うんだ」

 

 いいんですか? と聞きそうになって、なんて間の抜けた言葉だと思った。

 

 店主のこの刀を思う気持ちがどこまでかは分からないが、滲み出るものだけで少しは感じられる。相応しいように努めたくなった。

 

「ありがたく頂戴します。この刀に恥じぬように、俺が主で在れるように、努力します」

 

 深々と頭を下げる。

 まさかこれほどの品をタダで頂けるとは、感謝してもし切れない。

 

 改めて刀身を見る。鞘の中から刃を全て解き放つ。

 武器というものは、ここまで美しくなれるのだろうか。

 

 片刃の刃には不思議な模様があった。

 

「綺麗な……。不思議な刃だな」

 

 刃文(はもん)と言うらしい。灰色の影が複雑な波を打つように見えるが、この紋様には吸い込まれそうなほどの美を感じる。いつまでも見ていられそうだ。

 

 柄を握って構える。

 良い、しっくりくる。

 

 剣の時にはない、なにか地に足がついた心持ちで刀を構えていられた。

 

 薄葉灰影(うすばはいかげ)を一振り、だが決して素早くは振らなかった。

 

 ここにある空気までも斬っているような気がする。

 亀のような一振りを終えて、俺は額に少し汗をかいているのに気付く。

 

 これは思わず夢中になれる、いや、なってしまう程の武器だ。

 

「やばいぜヴィゴ。すげー雰囲気でてるわ。いいんじゃねえの?」

 

 アッシュが腕を組んで見ていた。店主も心から満足気な顔だ。

 俺は改めてお礼を言う。

 

 それからアッシュと一緒に防具も見繕ってもらった。俺は黒い革のベストを、アッシュは茶色の革のベストを買う。ほどほどに丈夫で、動きやすい。店主が念入りに選んでくれたので間違いない品だろう。

 

 俺は店を出る時にもう一度、しっかりと頭を下げてから外に出た。

 

 ここにはいつかまた来よう。

 

 左の腰に刀を帯び、右の腰には黒いナイフを付け、手裏剣をホルスターにしまう。

 今なら何にでも勝てそうな気がした。

 

 ――武器屋を出て雑貨屋などを回っているとあっという間に約束の時間がやってきた。

 

「おー、日が暮れてきた。ヴィゴ、そろそろ集合場所行こうぜ」

 

「そうだな。……まさかお前の方から、そういうセリフが出るとはね」

 

「そういうって、なんだよ?」

 

「約束の時間が近いから、遅れないように向かおうぜ、みたいなことだよ」

 

「はあ? お前、俺のこと馬鹿だと思ってんだろ」

 

 思ってはいるが、たまにまともな感性を見せられると驚くのだ。

 

 待ち合わせの胸像の前で夕食は何にするかアッシュと話していると、二人分の足音がこちらに向かってきているのに気付いた。

 

 たぶん服を買いに行っていた二人だろう。

 見れば買ったばかりの服をさっそくおろしているのだった。

 

 カトレアは足首まで丈のある深い青のドレスワンピースを着ていた。

 

 生地は裾へ向かうほど薄青い水玉が大きくなり可愛くも爽やかな印象だ。全体の見え方がうるさくなり過ぎないようにすっきりしたシルエットでバランスがいい。

 

 クロエもワンピースを着ていた。色は黒、少し光沢のある生地で柄はなし。カトレアが選んだ物よりドレス寄りのもので、見える肌色の面積も多い。

 

 胸元が細かなレースで出来ており、見えてはいるもののヴェールに包まれているところが何とも絶妙だ。肩が出ていて、丈も膝下と、カトレアとは方向の違うワンピースだった。

 

「二人ともよく似合ってる。素材がいいのは勿論だけど、選び方がいいな」

 

 素直に褒めるとカトレアが目を丸くしていた。

 

「まさかヴィゴくんがそんなことを言うと思いませんでした。ありがとうございます」

 

 カトレアが綺麗に会釈する。その装いでその仕草はどこかの令嬢に見えてくる。

 

 青いワンピース、ふわふわとした肩口まである薄い色味の茶髪、色合いとしては冷淡さを感じるのだが、口調と顔つきが柔らかく、二つの要素を合わせると全体として優雅さを感じるのだ。

 

「ヴィゴって意外とそういうの上手いよね」

 

 クロエが窺うような視線で俺を見ているが、その服を着ているだけでどこか妖艶な気配があった。

 

 もともとプロポーションが良く、色の白い肌に長くて艶やかな神秘的な銀髪、質の良い黒いドレスはコントラストが利いていて、いつもの何倍も綺麗に見えた。

 

 予想通りというか二人のお洒落について何の感想も言わないアッシュは他に気になっていたことを聞いた。

 

「それ、結構したろ? いくらで買ったんだよ?」

「なんと……銀貨七枚です」

 

 高い、と思う。俺で言えば手裏剣換算で七枚買える。投擲武器が七つと服が一枚であれば、今後の冒険を考えれば武器をとるだろう。奮発したなぁ……。

 

 正直な話をすれば必要であるものを買って欲しかったところだ。これに関してはアッシュと意見が逆だったようで、特に何の感情も込めずに言った。

 

「ふーん。まあ自分の金だし、なに買おうと勝手だよな。別に全部使ったわけでもねーんだろ?」

 

「ええ、さすがに服だけ買えませんよ。これは余所行きのとっておきです。後は、普段用の普通のお値段の服です」

 

「だよね。それでアッシュはなに買ったの? いま着てるベストだけじゃないでしょ?」

 

「これ」と、背負い袋から灰銀の籠手を取り出して見せる。二人分の「へー」の声。

 

 反応の薄さは見えていたことだが、金貨三枚という値段と、そこから二枚を値切らせた話を聞いて笑っていた。そりゃあ笑うよな。

 

 当然の順番で俺も薄葉灰影のことを話す。鞘から抜いて美しい刃を見せれば、武器に興味のない二人も思わず刀身をじっと見ていた。そうだろうとも、この刃は興味がなくても目を釘付けるはずだ。

 

 二人増えて四人で夕食について話していると残りの二人が帰ってきた。

 

 こちらに気付いたフーディがティントアの手を引っ張って走って来る様は元気な妹に振り回される姉の……いや兄のようだった。

 

 近づいてきたフーディの顔を見て、屋台巡りの痕跡がしっかりと残っていることに気付く。

 

 口の端についているのは苺のジャムだろうか。

 

俺は自分の口元を指でとんとん、と指して教えてあげた。指で取らずに舌で迎えるところがフーディっぽいと思う。

 

「ん、あっ、甘っ!」

 

「……拭き残しがあったか」

 

 何度か使ったらしいハンカチでお子様の口元を拭ってあげるティントア。

 本当に仲睦まじい姿だ。

 

「ティントアとフーディはなに食べてきたんですか?」

 

 気になるところだ。

 この街で食べられる美味しいものは何だろうか。

 

 「えっとね」と、思い出すような素振りでフーディが腕を組む。

 

「レンガみたいなケーキと、ハチミツの飴と、揚げたパンに砂糖がまぶしてあるのと、林檎と、串焼きの肉と、ハチミツの飴だよ」

 

 ハチミツの飴、二回出てきてるぞ。

 夕食前にそんなに食べて平気なのだろうか。

 

「おまえなぁ、晩飯食うって言ってんのに食いすぎだろ? ティントアもちゃんと監督しとけよ、おまえ保護者だろうが。飯は全員で食うから美味いんだぜ?」

 

 どうしたアッシュ、そんなまともなこと言って。

 

「フーディが食べたがるから、つい」おっと甘やかすタイプの保護者だ。

 

「あたしまだ食っべ……ゲフッ。食べられるよ!」

 

「はらぺこあおむしかテメーは」

 

 アッシュのよく分からないツッコミが入って、話は本格的にどこの店で食べるか、というところになった。

 

 ティントアとフーディの屋台組は本当に屋台しか回っていなかったので店を構えた食事処に有力な情報とはならなかった。

 

 不味いものは嫌だが、あまり高すぎる食事も嫌だ。

 

 そして、いま思いついたが今日の寝床も決めていない。

 酒場を兼用する宿屋が良い。となれば一つ、アテがある。

 

「風船豚、食べられるかも!」

 フーディが目を輝かせながら言う。

 

 確かに。

 自分たちで仕留めた豚だが、その美味と言われる味を知らないままなのは勿体ないかも知れない。

 

 今日は休業だが、店で働いていた俺たちなら開けてくれるんじゃないだろうか。

 

 払う物を払えば文句のなさそうなマチルダは承知してくれるだろう。

 

 なんだか出戻りのようで少し気恥しいが、勝手の知る店で、味の保証もある。俺たちは【樽乗り豚】へ向かうこととなった。クロエだけ猛反対だったが、まあ我慢してくれ。

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