六王連合   作:帯刀 撫臼

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22話 六王の断片

「調子はどうですか? ヴィゴくん」

 

 カトレアが自分の読んでいた本から顔を上げこちらを覗いてくる。

 

「この付近の情報についてだけど、こんな感じだな」

 

 俺は読んだ本の内容をざっとまとめて伝える

 

 俺たちが居る国【商人連国(しょうにんれんこく)ゴルドルピー】は大昔に大商人たちの持ち寄った莫大な資金で作られた国だそうだ。

 

 建国に携わった商人の一族が有力貴族となり今の国の運営を行っている。

 

 武勇や功績で成り上がった貴族ではないため近隣諸国からは金で買った貴族の地位だの言われるそうだが、商人たちの築き上げた金と物の行き来する地盤は豊かさをもたらし、結果として民が飢えることは少ない。

 

 自主性を認めた各都市の自立を推奨しており、ここ第三都市サドンのような自由都市が多いのも特徴だ。金を稼ぐ力があり、縛られることが嫌いな人なら住みよい国だが、その反面で自由の代償として治安の良くない面もある。

 

 来る者拒まないことで知らないうちに問題を抱えることもあり、敵国の大規模な潜入作戦を許してしまった事などが歴史書の中では挙げられている。

 

 そして、成り立ちとして兵士という人種が少なく、自前の軍が他と比べて小規模なのも問題となる。有事の際は隣国から兵を借り受けるらしいが、足りない兵すら金で解決するのがこの国の面白さだと思った。

 

 まあ、総評としては、けっこう良い国なんじゃないだろうか。

 治安はともかくとして自由で、そして豊かさは魅力的だ。

 

 いま読んだ商人連国の歴史書には、俺たちの誰の名前も出てこなかった。まあ商人の国だ、俺たちの異名から商人連国の王だったことは考えにくい。

 

 それに俺たちを蘇生した魔術師の口ぶりから考えてかなりの時間が経っているようだった。とっくに滅んでいるのかも知れない。

 

「ようやく自分たちがどこの国にいるのか判明しましたね」

 やれやれといった調子で小さく笑うカトレア。俺もつられて笑った。

 

「次は私の調べた内容をお聞かせしますね」

「ああ、頼む」

 

 カトレアの得た知識を聞かせてもらえば、連国は気候の面でも安定しているそうだ。

 

 四季があり、春から秋までは冷え込むこともなく軽装で過ごしやすい。

 

 気温は高いが湿気が少なく、木陰に入れば簡単に涼をとることも出来るのだと。

 

 地形は大部分が平原で、連国の王都があるゴルドルピ―だけは小高い山の上にあるそうだ。商人たちが長い月日をかけて(なら)していった大地、その上に馬車道を敷いて物資の高速輸送を実現している。

 

 聞けば聞くほどに良い国だと思ったが、ただ、これはあくまで連国の図書館に収められた本だ。基本的には良いことしか書かないので丸切りは信じられない。

 

 そういえば、地形を聞いていて気になったことがあった。

 

「俺たちが出てきた廃墟の街については、何か書いていたか?」

 

「ありましたよ。あれはダフネス公国(こうこく)だそうです」

 

 ゴルドルピ―連国の名門貴族、ダフネス公爵が治めていた都市だそうだ。

 

 第二の首都のような扱いだった。その公国に居た絶世の美女を巡って争いが起き、騒乱は天から舞い降りた強大な一匹の竜によって幕が引かれる。

 

 公国を焼き尽くし、その美女は竜の花嫁となってどこかへ飛び去ったのだそうだ。

 ……あの廃墟の街も俺たちとは関係なさそうだ。

 

「しかし、おとぎ話だな……」

 

「ですね。史実というよりは絵本のほうが似つかわしい内容です。脚色(きゃくしょく)もあるのかも知れません」

 

 公的な図書としてこれが書かれ、そして管理されているので事実なのだろうが……。

 

 なんとも壮大な話だ。ちなみにこの一連の事件は【傾国(けいこく)の魔女と亡国(ぼうこく)の竜】と題された物語として世に出回っているらしい。

 

 もう何百年も前のことなので誇張されたまま伝わっていそうではある。

 

 廃墟となった亡国は怪しい魔術師の実験場や魔物たちが住み着き、縄張りを巡って争う危険地帯だと本には書かれていた。俺たちに生き残れる力があったのは幸運なことだな。

 

 その他、狩猟、旅道具、植物、野生動物、などについて書かれた本を斜め読みして図書館を後にした。 

 

 結局、俺たちが王であった逸話などは見つからない。

 

 遠い異国の王なのだろうか。

 

 次は買える本がある本屋へ向かい、付近の地図と、カトレアは個人的に植物図鑑を購入、最後に教会の図書館だ。街の規模から考えれば随分とこじんまりした教会だった。

 

 同じ石造りの建物だが趣はまったく違う。

 

 満遍なく壁と屋根にツタが伸び、ほとんど植物と同居しているような教会だった。

 

「い、いいですねえ……」

 

 カトレアは縦横無尽に緑が走る壁を見てうっとりと言った。

 

 うん、まあ目を引くのには違いない。

 聖堂とは別に図書だけが収められた建物があり、俺たちは本の方に向かった。

 

 お祈りくらい捧げたほうがいいかと思ったが、教会がなんの神を祀っているのか知らない。むしろ神様に失礼か。教養的には大きな宗教くらい知っていたほうがいいだろうが、生きるのにすぐ必要でもないので今度にした。

 

 教会の図書館は、古い本が多いな。本の香りが街の図書館よりも強い。

 日に焼けて書架一面が茶色の背表紙で揃えられた一区画もある。

 

 ざっと見てみたがあまり俺たちの役に立ちそうな本はなかった。

 

 神話の本は個人的に気になったが、それはあくまで読み物としての話だ。そろそろ引き上げようかと話していたら、カサリ。背後で紙が落ちたような音がした。

 

 振り向いて見てみればどこかの本のページだけが床にある。

 

 古くて傷んでいたとしても、そんな一枚だけ綺麗にとれるものだろうか。

 

 茶色いページを拾い上げ、書かれた内容を見てすぐカトレアを呼ぶ。

 

 日に焼けた茶の紙に、どろりとした黒の字で書いてある。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

黒鉄(くろがね)の王

()の王はその身一つ、拳を振って国を築いた。

その一撃は神をも砕き、砕かれた神は消え失せた。

守護の神を失い、国は滅びゆく。王が作り、王が壊す。

どこまでも鮮烈(せんれつ)な王だった。

 

(なばり)の王

()の王の姿を知る民は居ない。(かげ)に潜み、影に消える。

夜闇(よやみ)は彼の友だった。月の光を愛すばかりに、民の心は離れゆく。

煙のように王は消えたが、それすら誰も知りはしない。

 

(むくろ)の王

()の王の国に生者(せいじゃ)は居ない。人は当然、獣も全て、歩くは(しかばね)

誰よりも死を知る王だったが、人形遊びに飽きたのか、

屍たちは地に横たわる。国は文字通り腐り落ちた。

 

鶴髪(かくはつ)の王

()の王は銀の髪を操った。手足を()るより自在な程に。

城には髪が張り巡る、王は全てを聞いていた。

想い人の心を聞いて、嫉妬(しっと)に狂って愛を()む。

そうして国の未来さえ、怒り任せに摘み取った。

 

四元(しげん)の王

()の王は指先一つで天変地異(てんぺんちい)を引き起こす。

空が泣くも、海が荒れるも、それは王の気分次第。

誰かが何かを王に申した。その返答に、気まぐれに、

地を割り、全てが落ちていく。

 

花冠(はなかんむり)の王

()の王は草花(くさばな)の心を知る。だが人の心は分からない。

それでも王は国を治め、民をより良く導いた。

とある日、口さがない者がいた。王はその者を木へ変える。

ふと気付く。物言わぬ方が愛らしい。国は一夜で森となる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 カトレアと顔を見合わせる。これは、どう考えても俺たちのことだ。

 書かれているのは表だけで裏は白紙。

 

 六人それぞれは性格か能力で一致している逸話。治めた国はほとんどが滅びている。

 このページは何だ? どの本の物だ? 詩なのか? 歴史書? 

 

 付近の本を全て調べてみたがこれ一枚しか見つからなかった。

 

 まるで誰かが俺たちに読ませようとして置いていったかのようだった。

 

 当然、俺が察知できる範囲に人の気配はない。

 

 胸の中にもやもやした物が広がる。

 これ以上調べても収穫はなさそうか。

 

 昼でも薄暗さが落ちた図書室だった。

 

 どこか底の知れない不安感がのっぺりと付き纏っている気がして、俺たちは足早に立ち去るのだった。

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