六王連合   作:帯刀 撫臼

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2章
41話 ~2章~ 新たなる旅路


 風は穏やか、空は太陽が顔を見せ、白い雲は雨の気配もなく、本日は旅に良い日和だろう。

 

 あれから一週間が経った。ロジェを殺した後、ティントアとフーディは二日寝込んだものの、今はすっかり元気を取り戻し、また仲が良さそうに今も二人で話しながら歩いている。

 

 クロエはいつもの調子で、おんぶしろだの手を繋げだの言っている。

 カトレアは地図を広げて行き先の確認だ。

 

 あの後、ロジェの屋敷の地下室が暴かれ、九人の子供の死体が出てきた。殺したままの状態で体が腐らぬよう処理をされていたことから、骸骨にさらわれた子供たちだというのはすぐに判明した。

 

 連国で最も有名で称えられていた死霊術師の本性を知り、商人連国ゴルドルピーの人間たちには衝撃の強い話だっただろう。

 

 地下からは大量の武器も見つかり、国を乗っ取ろうとしたというロジェの声も城下街中に響き渡ったことから、俺たちは救国の英雄として王城へ登り報酬を得た。

 

 どっさりと褒美を貰えたのはもちろん良かったことだが、そこで得た情報こそが何より希望を抱かせた。さすが王都、王城、どこで仕入れる情報よりも信憑性が高いことだろう。

 

 俺たちが目当てとするのは隣国にあるそうだ。

 

「隣の国ってさー、どんなとこかな?」

 

 フーディが大量に買い込んだハチミツの飴を口に入れながら言う。

 

教国(きょうこく)って、言ったよね?」

 

 カトレアが指を立てながら答える。

 

「ええ。大陸にある三大宗教のひとつ、エドナ教の総本山となる国です。治安の良いところだそうですよ。商人連国と比べたら遊びが少ないそうですけど」

 

 カトレアがフーディに話す様は教師然としていたが、その知識は俺と一緒に図書館を巡っていた時に得たものだ。

 

 ちなみに三大宗教というのはエドナ教、ハイリ教、ラナボール教だ。

 

 連国と教国は親交があり、俺たちが今から訪れるのでわざわざゴルドルピー王家に一筆書いてもらったりもした。これで大体の煩わしいことは素通りできるはずだ。

 

「ねー、手つなごうよお」

 

「わかった、わかった! もう繋ぐから叩くな!」

 

 クロエはこのところ本当によく甘えてくるようになった。寂しいのだろう。

 

 俺だってそうだ。一番うるさいのが居ないのだ。

 

 皆の心にも穴が空いているはずだ。

 

 クロエと手を繋ぎだしてすぐにフーディが空腹を訴えたので、手近な屋台を見つけて昼食にする。

 

 ちなみに今は教国へ立つための準備として必要品を買いに市場へやって来ていたのだった。

 

 食べ終わってから買い物の続きだ。日持ちのする食品を見繕っているとカトレアが寄ってきた。

 

「結局、馬車はどうします?」

 

 俺は「ふむ」とアゴをさすりながら考える。

 

 教国までは馬車に乗って十日ほどだ。俺としては徒歩でなんら問題はなかった。

 

 前と違って準備は万全だ。少し歩くだけで路銀を使わずに済むのはけっこうなことじゃないか。

 

「カトレアはどうしたいんだったっけ?」

 

「私ですか? そうですねぇ……。節約も大事かと思いますが、十日も歩くのかと思うとやはり少し気後れしますね。今はお金もありますし、乗合馬車でいいんじゃないでしょうか?」

 

 乗合馬車。

 

 他の利用客と一緒に乗る種類の馬車のことだ。

 馬車を使う方法として最も安く済ますことが出来る。

 

「え~、専用の客車付きので行こうよお。気まずくない? 知らない人とずっと一緒なんだよ?」

 

 クロエがわざとらしいほどの嫌そうな声で言う。

 

 身内以外の人間に対して意外と排他的(はいたてき)なところがある。

 

「まあ、それがイチバン快適ってのは分かるんだけど、いかんせん金がな」

 

「いいじゃん、王様から白金貨(はくきんか)もらったんだよ? ちょっとくらい使おうよ」

 

 確かに払えないことはない。仮にも国家転覆を未然に塞いだのだ。その割には白金貨十枚とはケチな王家だと思ったりもしたが、そうは言っても白金貨十枚はまごうことなき大金である。

 

「でもなあ、馬車くらいは俺もいいかと思うが、貴族様が乗るような客車付きの代物はちょっと贅沢し過ぎな気がするかな」

 

 俺一人なら徒歩で行っていただろう。足を使うだけで出費を抑えられるなら安いものだ。

 

 だが、俺たちはパーティという単位で動いている。

 

 仲間の言葉はよく聞くべきで、乗合馬車の意見には頷けるが過剰な贅沢をすんなり承知することは出来ない。

 

「ヴィゴってけっこうケチなんだよな~。もっと今を生きようよ~」

 

 クロエよ。

 それでは俺が過去ばかり振り返っている奴みたいじゃないか。

 

 次はフーディに聞く。

 

「アタシはね~、馬に乗りたい!」

 

「フーディは乗合馬車に一票か」

 

「違うよ。馬、飼おう!」

 

 あ~……。そういう意味ね。

 それはさすがにちょっとなぁ。

 

「今の段階で馬を手にするのはちょっと気が早いな。街に定住するなら使い出もあるし検討するんだが」

 

「そうなの?」

 

「ああ、馬は必要品も多いし、手入れもかかる。それに例えばこの先、山や沼みたいに馬で行きづらい路もあると思うんだよ。たぶん俺らなら馬が無い方が進路を自由に取れる状況も出てくると思う」

 

「そっかぁ、あたしが優秀すぎるというわけか……でも馬、乗りたかったなぁ」

 

 分かりやすくシュンとしたフーディを見てカトレアがフォローを入れてくれる。

 

「馬車の御者さんに言えば、少しくらいなら乗せてくれるかも知れませんよ? フーディちゃんが頼めばきっと乗せてくれますよ」

 

「えっ! そっかな~? それならいいかな!」

 

 よしよし、流石カトレア。

 

 目礼すれば「いえいえ」というような笑みが返ってくる。

 

 残るはティントアだ。

 

「俺は、他の方法もアリだと思う。無料だし、早く着く方法を思いついた」

 

 お、どんな提案だろうか。

 

「イノシシやシカみたいな、大型の動物を狩る。風船豚みたいなのだと一番いいのかな? それを俺が死霊術で操って、教国エドナまで乗っていく。……どう?」

 

 死霊術って便利だ。

 

 見た目と倫理観に囚われなければ、俺個人としては大いにアリだ。

 だが……。

 

「行き先が教国だからなぁ。死霊術に対してどう思われるのか心配なところがある」

 

 俺がカトレアにその辺りがどうなのか聞こうとしたが、目線をやっただけで話し始めてくれた。

 

「断定は出来ませんが……ティントアくんには悪いですが良い印象は無さそうです。図書館でエドナ教の教義を読みました。斜め読みなので抜けも多いと思いますが、黒魔術全般に対して反対派だと思われます」

 

 ティントアが「そうか」と特にがっかりした様子もなく感想を口にした。

 

 今回は使いづらいが、今後の旅路においてティントア式死体騎乗術が生きる機会は大いにあることだろう。

 

 教国は初めて行く場所なので(教国に限らず未知の場所だらけだが)街道沿いに行くことになる。

 

 人目を避けて森や山を行けば迷ってしまう可能性も高くなるだろう。

 初回は真っ当な行路を使うべきだ。

 

 さて、それじゃ決まりかな。

 

 根強い反対意見を出していたクロエだったがカトレアが説得する。

 

「まあまあクロエ、きっとその分ヴィゴくんがサービスしてくれますよ」

 

「う~ん、それならいいかぁ」

 

 俺の意見は聞かれず勝手に差し出されていたのだった。

 肩もみとかくらいで良いだろうか?

 

 城下街のはずれにある馬屋に向かい、出発だ。

 

 簡単なサインと料金を払い、いざ荷台へ。

 

「また新しい冒険が始まりますね」

 

 カトレアがどこか晴れやかに目を細める。

 

 そうだ。この旅はまだまだ終わらない。

 

 今は明確な理由が出来た。

 

 我ら六王連合、欠けた一人の王と相まみえんとする。

 

 ゴルドルピー王家で耳にした希望。

 

 それを探しに行くのだ。

 

「行こうか。教国でアッシュを生き返らせよう」

 

 六人は五人に減ってしまった。

 

 俺たちは六王連合なのだ。五人では格好がつかない。

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