六王連合   作:帯刀 撫臼

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45話 ~2章~ 死んでも元気っぽい

 乗合馬車の旅、三日目。

 

 日も暮れて本日の宿に着き、俺たち五人はそわそわした気持ちで自分たちの部屋に居た。

 

 ベッドの上にはアッシュがいる。死んではいるが、こうして寝かせていると本当にただ眠っているだけのように見える。

 

「これからアッシュの魂がティントアの中に入って、そんで話せるんだよね……?」

 

 ティントアから何度も同じ説明を受けたはずのフーディが目をぱちぱちさせて聞いた。

 

「ヴィゴはもう話したんだよね? アッシュどんなだった!?」

 

「まあまあフーディ、これから話せるんだから慌てるなって」

 

 無理もない。俺がフーディでも様子を聞きたくなるはずだ。

 

「えー…ちょっと待って、ちょーっとだけ待ってて!」

 

 何を待てと言うのかと思えばクロエがいそいそと手櫛で髪を整えている。

 

「もう! なんで前もって言ってくれないの!?」

 

「昼の時に話してたら、みんな変な感じになるだろ。ソワソワして落ち着かなくなりそうだと思って」

 

 ティントアの口寄せ術を行うには人目を避ける必要がある。アッシュと話せると知っても実行できる夜まで待つしかないと言えば、やきもきすると思って配慮したのだ。

 

 本当は驚かせてみたくて黙っていただけだったのだが。

 

「……ヴィゴくん、なんで私にも内緒なんですか? 教えてくれても良かったのに」

「ごめんごめん。ちょっと驚かせたかったんだよ」

 

 カトレアだけはコソコソ話だ。まあ確かに話しても問題なかったろうが、カトレアのムッとした顔は珍しいので何となく得したような気分になった。

 

「始めてもいいかな?」

 

 ティントアがぐるりと俺たちを見まわし、その後アッシュを見つめて言う。

 

「待って待って! ねえティントアわたし変じゃない?」

 

「大丈夫。じゃ始めるよ」

 

 ティントアはクロエを見もせず、雑な「大丈夫」の返答で片付けて口寄せを始めてしまう。

 

 寝ているアッシュの額に手をやり、大層な儀式も難解な呪文もなしに、スッと入れ替わった。

 

 静かに目を瞑り、ゆっくりと瞼をあげた後の、顔付きの微妙な変化。

 ティントアではしない表情、目付き、ほんのちょっとの違和感かもしれないが、それでも分かった。

 

「よお、また呼びつけやがって」

 

 アッシュの声が響いた。

 

 一度すでに聞いた俺ですら、また息を飲む。ティントアの口からアッシュの声が聞こえてくるのだ。不思議でならない。

 

「アッシュ!」

 

 真っ先に名を呼んだのはフーディだった。もう涙声だ。

 

「おう、フーディ。なーに泣いてんだお前」

 

「泣いでなァい!」

 

「泣いでなァいか、そりゃあ結構。他のやつらも元気そうじゃん? よおカトレア」

 

「お変わりなさそうですねアッシュくん。あの世は居心地はどうですか?」

 

「居心地? なんつったらいいか分かんねえな。まあお前らもいつかこっち来たら分かるだろ。そういや問題児の俺がいなくて楽になったか?」

 

「いえいえ、アッシュくんの居ない寂しさでやるせない日々を送っていますよ」

 

「はっ、抜かせ。そんなタマかよお前がよお。なあヴィゴ」

 

「まあ、今はもういつも通りだよ。アッシュが居なくなってすぐは、しんみりしたけどな」

 

「そうかい。で、クロエ。お前は何マジ泣きしてんだよ。俺になんか言う事ねーんか?」

 

 いつの間にかフーディの涙声なんて目じゃない量で泣いているクロエであった。

 

「……ディンドアの見た目でアッシュの声っでいうのもグッとくるぅ……なんかエロい」

 

「……相変わらずキメェな」

 

 まるでいつもの六人に戻ったような気がして和んだが、ティントアのことに思い至る。

 

「そう言えば、ティントアはアッシュと入れ替わりだから、一人だけ話せないわけか。残念だろうな」

 

「あー、そこんとこは心配すんな。ティントアとは入れ替わる時に割と喋ってるぜ」

 

 魂同士の会話? でもしているのだろうか。きっと死霊術師か死体にならなければ分からない話なのだろう。

 

「それで? お前らここんとこ呼びかけて来てるけど、何か用でもあんのか?」

 

 ティントアは説明していないのか。まさかアッシュも生き返れる可能性があるとは夢にも思うまい。あの世で夢を見られるかは知らないが。俺は不敵に言ってやった。

 

「アッシュ、お前を生き返らせることが出来るかも知れない」

 

 そう伝えた時のティントアの顔は凄かった。中にアッシュが入っているので、アッシュのする表情がティントア越しに伝わってくるわけだが、目をかっ開き、大口を開けているティントアは初めて見た。

 

「な、なんじゃそりゃあ!!」

 

 両手をガバっと開いてオーバーリアクションでティントアもといアッシュが驚いている。

 いつも物静かなティントアの見た目でやられると違和感が凄くて吹き出しそうになった。

 

「マジに言ってんのか!? 生き返れんのかよ!?」

 

「いや、待て、絶対に確実ってわけじゃないんだが、教国エドナの教団なら可能かもって、ゴルドルピーの王家が教えてくれたんだよ」

 

「王家! おいおい! 思ってたより信憑性高そうじゃねーか!」

 

 カトレアが軽く現状を説明する。

「いま教国に向けて馬車の旅をしています。あと七日ほどで着く日程ですよ」

 

「七日ァ!? お前らが走ったほうが早いんじゃねーのか?」

 

「そうかも知れませんが、七日となると私たちの身一つで行くわけにもいきません。けっこうな大荷物なんですよ? 食料や……アッシュくんとか」

 

「俺を荷物扱いしてんじゃねえ。あっ思い出した。ヴィゴてめえ、俺をズタ袋なんかに入れて運ぶんじゃねーってこのまえ言ったろうが」

 

 ああ、そんな下りもあったな。そうは言っても他に代えがないのだ。

 

「分かった分かった。そのうちそれなりの物を用意するよ」

 とりあえずやっておきますのポーズだけ見せておけばいいだろう。

 

「おう、まあ頼むわ。いやーにしても、あと七日で生き返れるとはな!」

 

「王家からの情報とは言え、絶対の保証はありませんからね? これがダメでもアッシュくんを蘇生させる手段は探すつもりですが、王家も方法があることを知っているだけで、実際に見たわけではないらしいんです」

 

「分かってる分かってる。けどよ、仮にその教国のがダメでも、世界のどっかには生き返る方法がありそうじゃん? 火のない所に煙はって言うだろ? 現に大昔の王様だった俺らが生き返ってるわけだしな」

 

 その通りだ。

 実例として、俺たちが居る。全くの眉唾ということもないはずだ。

 

「生き返ったらなにすっかなー。ぜっかく俺らのギルド作ったのに、だせぇことにすぐ死んじまって、やっぱギルド何だから有名にして……。お、やべえな」

 

「アッシュくん?」

 

 これは、おそらくあれだ。昨日、アッシュは急に眠気を訴えて会話が途絶えた。

 前回と比べて喋れる時間が増えたとは言え、今日のところはそろそろ限界ということなのだろう。

 

「あ、アッシュ? アッシュ!?」

 泣きなっぱなしでほとんど喋れていなかったクロエがうろたえる。

 

「……もう限界みてぇだわ。眠ぃ。まー……また呼んでくれ……」

 

「アッシュ!? うそ!? 死なないで! アッシュ!!」

 

 いや、もう死んでるんだよクロエ。思わずその台詞を言いたくなる気持ちは分からんでもないが、とっくに死んでいるのである。

 

 昨日もこうなった事と、これから話せる時間が伸びるらしいことを説明してクロエをなだめる。

 

 そうこうしているとティントアが戻ってきたようだ。いつもの感情が薄い顔、穏やかなティントアの声で喋りだす。

 

「……どうだった?」

 

「昨日よりだいぶ話せる時間が伸びた。アッシュを生き返らせるつもりってのも話せたし、仕方ないだろうけど、ティントアも一緒に皆で話せればいいのにな」

 

「大丈夫。たぶんそのうち、出来るようになるよ。すこし混乱させると思うけど。アッシュの魂は、予想以上に強い。今も、まさか二回目でこんなに長く口寄せできると思わなかったよ」

 

 そのうち出来るとは、どういう状態になるんだろうか? ティントアの体を借りてアッシュが話しているわけで、同時にティントアも会話に参加できる絵が想像つかない。

 

「アッシュだったね! ほんとにほんとにアッシュが話してたよ!」

 

 飛び跳ねるような勢いのフーディ。

 カトレアも珍しく興奮気味に話している。

 

「死者と話せるなんて凄い体験でした! それにしてもアッシュくん、変わってませんでしたね。元気そうで何よりです。死人に元気というのも何だかおかしな話ですが」

 

 確かにね、と皆が笑う。

 

「クロエは、次はもう少し落ち着いて話せるといいですね」

 

「……ヴン。明日も話せるんだよね? ティントア?」

 

「もちろん、明日の夜なら、また話せると思うよ」

 

 クロエが鼻水を啜り上げながら感極まったのかティントアに抱きつく。これはけっこう珍しい光景だ。

 

 しばらくして背中に回される手の動きがいやらしい感じになってきたので、クロエももう大丈夫そうだ。

 

 さてさて、明日は旅程の四日目だ。十日のうちのもう四日目。

 アッシュに会える日もそう遠くないはずだ。

 

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