六王連合   作:帯刀 撫臼

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46話 ~2章~ 暇つぶしの本気鬼ごっこ

 乗合馬車の旅、四日目。

 

 荷台に乗って進む旅路にも慣れてきた。何なら退屈さが勝つかも知れない。

 

 俺はまだしもフーディにとってはこの緩やか過ぎる時間というのは苦痛だったようだ。

 

 フーディ係のティントアは口寄せの術の影響か出発も早々に荷台で眠り込んでいる。

 

 カトレアは付近で採取した植物を図鑑と見比べ、紙に何かをメモしている、なにか薬でも出来るのかも知れない。

 

 クロエは昨日、興奮冷めやらぬせいでなかなか寝付けなかったらしく、ティントアと横並びで寝息を立てている。

 

 よってフーディはひどく退屈していたのだった。

 

 結局、退屈しのぎに馬車から降りて、付き合って俺も一緒に歩くことにした。並足で馬車を引いているので人がついていけない速さではない。もしフーディが疲れても俺が傍にいれば安心だ。

 

「ヴィゴも歩くの?」

 

「ああ、あんまりずっと座ってると体が鈍りそうだ」

 

「あと六日もこのままずっと馬車なんだよね?」

 

「そうなるな」

 

「うーん、そっかぁ」

 

「もう飽きてきちゃったか?」

 

「うん、ちょっとだけ」

 

 絶対ちょっとじゃないだろ。

 

「鬼ごっこしようよヴィゴ~。なんかすっごい暇なんだもん」

 

 ほら、やっぱりすっごい暇なんじゃないか。

 

「鬼ごっこ……。いいけど、いいのか?」

 

「なにが?」

 

 キョトンとした顔でフーディが覗き込んでくる。

 

 そりゃあ鬼ごっこするのは別にいいけど、俺に勝てっこないがそれでもいいのだろうか? という意味だ。俺が露骨に手を抜いてもフーディは怒りそうだし……いや、まあつべこべ言わずやってみるか。

 

「はい! タッチ~! ヴィゴが鬼ね!!」

 

 よーいドンもなしに急に始めてしまうのって実に子供っぽいと思う。ちなみにアッシュが今のをやったとしても違和感がないな、とふと思った。

 

 全力疾走でバタバタと駆けていく小さな背中を見ながら数を数える。

 

「……八、九、十! 行くぞ~フーディ!」

 

 フーディ……思ったより足速いな。とは言え俺に駆けっこで勝てる道理はないが、それでもその辺の大人と競争してもいい勝負するんじゃないだろうか。

 

 かなり前の事なので忘れがちになるが、俺やアッシュ以外も素の身体能力はそれなりに高いのだ。石の小鬼を殴り合いで圧倒していた。あれを見る限りその辺の喧嘩自慢とやっても遅れをとることはないはずだ。

 

 とか何とか考えるうちにフーディの背中はもう目の前まで迫っていた。

 

「フーディ~? 追いついちゃうぞ~? もう捕まえちゃうぞ~?」

「やだ! ちょっと待って待って! ダメダメやだ! バカ!」

 

 きゃあきゃあ言って目の前のフーディが頑張ってスピードを上げたようだが、俺にとっては関係がない。ピッタリとフーディの後ろをついて追いかける。

 

「はい捕まえた!」

 

 ガバッとフーディを後ろから持ち上げる。

「アワギャァ~!」みたいな判別不能の奇声をあげている。

 

 持ち上げられたフーディが俺の腕の中で丸まって息を切らせている。

 

 ハァハァハァハァハァハァハァハァと犬を抱っこしているような気分だ。

 

「ヴィゴせこい! 早すぎ! 本気出し過ぎ!」

 

「手ぬいたほうがよかったか?」

 

「ダメ! ちゃんと本気でやって!」

 

 なんじゃそりゃ。難しい注文をしてくれる。

 

 無限にハァハァ言うかも知れんな、と思っていた息切れも徐々に収まり、フーディがひと息ついて額を手の甲で拭う。そして、

 

「タッチ!! またヴィゴの鬼~!」

 

 せこいな! 何度やっても同じだと言うことを分からせてやる必要がある。

 

 次は十秒を数えず即座に捕まえてやるか、だが、走り出してすぐ異変を覚える。

 

 フーディが右手を体の横に突き出しているのだ。手をパーにして何かを呼んでいるみたいに見える。

 

 答えはすぐに現れた。岩だ。岩が飛んできた。大岩というほどではないが、小柄なフーディなら足を置くのに苦労はないだろう。なにがしたいかはすぐに分かった。このお子様やりやがったよ。

 

「ほらヴィゴ! アタシに追いつけるかなぁ~!?」

 

 フーディお得意の魔術だ。たしか魔力で岩を掴んで操作しているのだったか、それに飛び乗って飛行しているのだ。

 

 いいだろう。お子様との駆けっこじゃ張り合いがなかったところだ。

 

 俺は息をふっと吐き出して全力疾走を始める。一歩一歩が土を巻き上げ俺の後ろに小さな爆発が続くような絵面になる。流れる景色が歪むほどに速い、悪いがフーディ、スピード勝負じゃ魔術師には負ける気がしない。

 

 岩に乗って飛行するフーディは自分で走るより遥かに速度を増していたが、それでも俺のほうがまだまだ速い。

 

 もうあと数秒で捕まえられる。そんな時にフーディが岩を蹴って跳び上がった。

 

 なんと次手があったのだ。俺の背後からまたも岩が飛んできてそちらに飛び移る。しかも今度は横に逃げる動きではない。縦、高度を上げて逃げ切るつもりだ。鬼ごっこでそれは禁じ手だろう! いくら何でも空までは終えない。

 

 だが、この一瞬ならまだ追いつける。

 

 フーディが乗り捨てた岩を持ち上げ、頭上に放り投げる。

 高々と宙にある岩を目掛け、そう、これは空中の踏み台だ。

 

 地面からの大跳躍、そして、岩を蹴ってもう一度跳ぶ。

 

「フーディ捕まえた! おしかったなあ」

 

 高度が上がり切ってしまえば二段ジャンプでも追いつけなかっただろう。よく咄嗟に出来たものだと自分でも関心する。

 

「え~! ずる! ずるいずるいずるい! ヴィゴは岩つかっちゃダメでしょ!」

 

「なんでだよ。フーディも使ってたろ」

 

「だってヴィゴと普通に勝負しても捕まっちゃうもん。今度は絶対アタシが勝つと思ってたのにぃ!」

 

 もう一回! とせがむ子供の頭をわしゃわしゃかき混ぜながら笑う。

 

「ちょっと休憩。今のは俺もちょっと疲れたよ」

 

「後でもっかいだからね!? アタシ勝つまでやるからね!?」

 

 分かった分かったと返事し、俺も歩いて息を整える。

 

 リベンジマッチに燃えるフーディは新たな岩の上に乗り飛行操作の練習中だ。

 

 あの岩ってどれくらいまで高く上がれるんだろうか?

 

 ほどほどにしておいてくれないと、フーディのことなので落っこちないか心配してしまう。岩から岩に飛び移る芸当ができるくらいだから、かなり精密に操作できるとは思うのだが……。

 

「ヴィゴ~! なんか人が倒れてるよ~!」

 

 いつの間にか見上げるほど高い位置に浮いていたフーディが指さしている。

 

「こっちこっち! 四人いる。一人倒れてて、他にも座り込んでる人とか」

 

 フーディが岩に乗ったままフヨフヨと案内してくれる。

 

「こっちの、岩場になってるところ。この先の坂を超えたら見えてくると思う……。あ、アタシ降りたほうがいいよね? 魔術って警戒されるんだっけ」

 

 そうそう、ちゃんと分かっているようで偉い偉い。フーディの頭をポンポンと撫でてから坂を登りきると、話の通り四人がうずくまっているのが見えた。

 

「なんだろ? 怪我しちゃったのかな?」

「どうだろうな。見たとこ血が出たりはしていないみたいだ」

「えっ、ヴィゴってこの距離でそんなの見えるの?」

「まあな」

 

 四人の男たちはくたびれた格好こそしているが、外傷と呼べるものはない。すぐに命の危険はないだろう。声をかけるかどうか迷っているうちにフーディが大声を出す。

 

「すいませーん! 大丈夫ですかー!?」

 

 こちらに気付いた男たちがよろよろと立ち上がり近づいてくる。何かから逃げてきたのだろうか。

 

 フーディでも顔の分かる距離になった。四人は旅の冒険者というより傭兵のように見える。剣や小振りの手斧、革の胸当てなど、軽装だが鎧を着こんでいる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「……悪ぃけど、なんか食い物持ってねえかな?」

 

 切羽詰まった様子で腹をさする姿から何日もろくなものを食べてないのだろう。

 

 話を聞けば、荷を運ぶ仕事の途中、街道から逸れて森を抜ける近道をしようとしたのだが、運悪く荷馬車の車輪が壊れ、オオカミに襲われ命からがら逃げてきたのだと言う。

 

 森の中をやみくもに走って今ここにいるため、自分たちがどこにいるのかも分からず途方にくれて居たのだとか。

 

「そりゃ災難でしたね。街道ならすぐ近くですよ。俺らも荷馬車で旅の途中なんです」

「荷馬車? え、どこかに停めてあんのかい?」

「ああ、えーと、暇つぶしにこの子と鬼ごっこしてまして」

 

 我ながら何を言っているんだ、という気分になるし、言われた方もコイツらは何をしているんだ、という顔をしていた。

 

「……まあ、ともかくこっちですよ。御者さんに相談すれば乗せてくれるかも」

 

「ありがてえ、街についたら金は払うから、何か食わせてくれねえか? 旅の荷馬車ってんなら食い物ぐれえ乗せてんだよな? もう何日も食ってなくてよ……」

 

「うーん、仲間と相談させて下さい。俺だけじゃ決められないんで」

 

 ひとまず野盗では無さそうだな。

 

 歩き方と呼吸の仕方を見るに、本当に空腹がつらい時の症状だ。しばらく何も口にしないとこういう風になる。弱っているふりをして襲撃してくるつもりなら本当に食事もせずやってくるとは思えない。

 

 俺たちは行き倒れの四人を連れて自分たちの馬車に戻るのだった。

 

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