六王連合   作:帯刀 撫臼

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47話 〜2章〜 火鼠傭兵団

 この平和な馬車の旅にボケてしまっていたのだろうか?

 剣を突き付けられながら反省する。

 

「オラァ! 命が惜しかったらさっさと馬車から降りやがれ!」

 

 さっきまで空腹で喘いでいた行き倒れの四人は食料を分けてやるやいなや餓鬼のようにそれを腹に詰め込み、水を飲んで一息ついたと思ったら武器を構えて馬車の前に立ちはだかったのだ。

 

「ヴィゴくん? なんですこの人たち?」

 目をパチクリさせながらカトレアに聞かれる。

 

「……いやぁ、フーディと鬼ごっこしてたら見つけたんだよ。狼に襲われたから荷物とか捨てて命からがら逃げてきたとか何とか言っててさ」

 

「なるほど、良心に付け込んで強盗をする輩ですか。賊の工夫も日々進歩しているんですね」

 

 カトレアのセリフは賊を前にして言うにしてはのほほんとし過ぎた物だったが、まあ見るからに弱そうだったので無理もない。

 

「うーん、俺が見つけた時は本当に腹減ってボロボロで動けないって風に見えたんだけどな」

 

 少なくとも演技には見えなかった。飯にありつく様なんて、それこそ樽乗り豚(たるのりぶた)亭で食事を恵んでもらった俺たちと相違ない様子に見えたのだ。

 

「お前らが普通の行商人なら飯だけで勘弁してやったさ、だがその上玉を黙って見過ごすわけにゃいかねーなぁ。どえらい美人が三人も! 遊んで良し、売って良し、楽しみでしょうがねえ!」

 

 美人が三人、と聞いてフーディがちょっと得意げな顔をしたが、視線の方向から見てティントアを含む三人のことだと思った。まあ、わざわざ指摘したりはしないが。

 

 俺はクロエに聞いてみる。

 

「なあクロエ、男から熱烈な視線を浴びているわけだが、そこんとこどう思う?」

 

「え、いやいや……こういう系の人たちって、わたしあんまり好みじゃないかなぁ。ヴィゴにあげるよ」

 

 いや、俺もいらんわ。

 

 さすがのクロエも行き倒れてボロボロの男じゃ見向きもしないわな。

 それに彼女は相手方の見た目にはけっこうウルサイらしいのだ。

 

「お前ら……なんか俺らのこと舐めてねーか? そっちで戦えそうなのはせいぜい二人だろうが、こっちは四人いるんだぜ? 逃げるんなら今の内に逃げな。何も逃げるやつまで殺したりしねぇからよ!」

 

 下卑た笑い方をする男の吐息があまりに臭くて顔をしかめた。

 

 何日も水浴びすらしていないだろうから臭くて当然だが、今ので一気に面倒を感じたのだ。

 さっさと終わらせよう。

 

「逃げる奴は生かしておくってのは、優しさなのか怠慢なのか、後々のことを思えば殺す方がいいとは思うが、とはいえ逃げるやつを追いかけて切るのは確かに手間だもんな。ま、どうでもいいことなんだが……」

 

︎︎ 俺はブツブツ言いながら近づいて一番近くに居た野盗のこめかみに爪先を蹴り込む。

 

 こんなもんは作業だ。

 見るからに汚い奴らを切って武器を汚したくないので足技しか使わないことにした。

 

 あと三人。

 

「はあ!?」とか「なんだテメェ!」とか、相手は色々と騒いでいる。

 

 蹴りの一発で意識が飛んだ仲間を見て俺を警戒しないのだろうか。

 

 二人掛かり、せーのの要領で左右から切りかかってきたが、その速度では一人ずつ対処しても何ら問題ない。

 

︎︎ 右のやつのみぞおちを蹴り抜き、左の奴はあごを蹴り上げる。最後の一人はハッとした顔の後で背を向けた。

 

 逃げるつもりだったのだろうがそうはさせない。

 

 どこを蹴ってもよかったのだが何となく尻を蹴ってみた。そこそこ全力で。すると当たりが良かったのか嘘みたいな飛距離で男が飛んでいく。

 

 ケツを蹴られてポーンと吹っ飛んでいく様が少し面白かった。

 

 四人ともたぶん死んではいないだろう。まあ人様を襲って生きているような奴らなので死んでいたとしても何とも思わない。

 

「ご苦労様です、ヴィゴくん」

 

 はいどうぞ、とカトレアが革袋の水筒を渡してくれる。そうそう、一仕事終えてちょうど喉が乾いていたのだ……というレベルの運動でもなかったが心遣いは嬉しい。流石はカトレアである。

 

 グイっと水を飲んでフ―と息を吐けばナックが駆け寄って来てガバッと肩を掴まれた。

 

「ヴィゴ! あんためちゃくちゃ強いじゃねえか! なんで言ってくれなかったんだよ!」

 

 いや、何でって……。

 

 そんなわざわざ「俺、強いんですよね~」なんて言いまわるのもおかしいだろう。

 

 傭兵として強さには憧れがあるのだろうが、ナックは興奮し切りで話しかけてくる。

 

 ナック程ではないがマルゴとアウールからも丁寧にお礼を言われた。

 

 大したことないのはそうだが、炭鉱夫と司祭の二人は武器も持たない人たちだ。

 

 もし俺たちが乗り合わせておらず命まで失うような最悪の未来を想像すれば感謝の言葉もなんら大げさではないのだろうな。

 

︎︎ そうは言っても俺が連れてきた野盗なので自分で自分の尻を拭いたに過ぎないのだが……。

 

 その後は特に変わったこともなく平和な馬車の旅が続く。

 

 後で気付いたのだが、騒動の最中すらティントアは荷台でスヤスヤと寝こけていたのだった。

 意外とこういう図太いところがあるよね。

 

 さて、今日も予定通りの順路と進度で目標としていた野宿地点に到着。

 

 とっぷりと日が暮れて、焚火の灯りが周囲に長い影を作っている。

 

 初日こそびっくりされたが、カトレアが作る草のベッドとテントにはナック、マルゴ、アウールも随分と慣れ親しんでくれた。

 

 寝具のお礼に酒や干し肉を分けてくれたので自分たちのテントで頂いていると、眉間に皺をギュッと寄せたナックが真剣な顔で訪れる。

 

「夜分にすまねぇな。もう休むところだったかい?」

 

 ナックの手にはその辺で拾ったような枝が握られている。少し削って成形したのか木剣のように握りやすそうだった。

 

 夜更けに真面目くさった顔をして手には武器まで持っているとは少し剣呑(けんのん)だ。

 真っ直ぐこちらを見て言うので、俺に用があるのだろう。

 

「いえ、まだしばらくは起きていますよ。……なにかあったんですか?」

 

「あのよ、ヴィゴ。もし良かったらなんだが手合わせしてくれねぇかな?」

 

 スッと木剣の一本、その柄を俺に向けて渡してくる。

 

「昼の時の戦いっぷりは見事だったぜ。まさか四人相手にを武器も使わずあっという間にのしちまうなんてな。何となく強いんじゃねえかと思ってたんだがまさかここまでとは思わなかった。大した礼も出来ねえが、あんたの強さを直で感じてみてえんだ。いいか?」

 

 お安いご用だ。俺は快諾する。

 

「礼なんて要りませんよ。さっき干し肉も貰いましたしそれで十分です。……あ、終わったら傭兵団のことを色々聞いてもいいですかね? 俺たちこの辺のことには疎くて、ナックさんが所属している傭兵団周りの話を聞いてみたいです」

 

 ナックが笑って答える。

 

「そんなことで良いなら後でいくらでも話すぜ!」

 

 それから表情を引き締める。

 

「じゃあ……始めてもいいかい?」

 

 俺は「いつでもどうぞ」と、渡された木剣を構えて答えた。

 

 ナックは一般的に見て弱くはないだろう。こうして剣を持って向かい合えば分かる。立ち方、重心の配置、目線、呼吸を見れば一端の兵士以上に鍛えられていることが分かった。

 

 おそらく昼間の野盗たちを一人で追い払うことも出来たと思う。

 

 俺は、上段から真っ直ぐ振られた剣をかわし、次いで横に切り払われる攻撃に対し、ナックの剣の腹を軽く押して軌道を逸らす。

 

 薙ぎ払い伸びきった腕を戻すより先に距離を詰め、剣の柄頭を打つ。派手な動きではないが、的確な攻撃を正しい場所に置けばこれだけで相手は剣を取り落とすのだ。

 

「……参りました。……あの、ヴィゴ。もう何本か稽古をつけてもらってもいいか?」

 

「もちろん。でも稽古だなんてそんな大げさな。俺はこういう得物そんなに得意じゃないので、教えてあげられるほどじゃないですよ?」

 

「これだけ使えて剣が本職じゃないのかよ!?」

 

 そんなに良い反応してもらえると流石に気分いいな。

 ではせっかくなので扱いなれた武器でお相手しよう。

 

 俺は自分の荷物から黒い刀身のナイフを取り出し、木剣を半分に切り落とす。少し形を整えて同じくらいのサイズに調整し、改めて構え直した。

 

 仕切り直して手合わせ開始。

 

 ナイフは良い。リーチがないのは認めるがとにかく全ての攻撃を素早く行える。腕の延長線上に伸びた短い刃は身体感覚とのズレが少なく、直感的に動くことが可能だ。

 

 狭いところで振り回しても不都合がなく、懐に入れても邪魔にならない。それに……。

 

「うおっ……!」

 

 投擲した木のナイフがナックの腹の真ん中に当たってポトリと地に落ちた。

 

「一回限りですが投げて攻撃することも出来ます。今のナックさんみたいにけっこうギョッとして当たっちゃうんですよね。長物だと投げる予備動作が大きいですが、ナイフだとバレにくい。攻撃手段が一つ増えるってだけで視野が広くなりますし、ナイフなら二、三本携行しても邪魔になりません。一本目を外して丸腰だと勘違いした相手が近づいてきたら二本目でグサリ、ということも出来ますしね。ナイフ二刀流だったらもっと多角的な攻撃が可能です。扱いが難しい面はありますが、敵の装備が剣一本なら懐に入った時点で二か所の攻撃を防ぐことは困難です。投げナイフの場合でも両手でやれるなら――」

 

「どうしたんですかヴィゴくん、前世ってナイフの王でしたっけ?」

 

 ナイフの王て何だよ! 

 と思ったが知らぬ間に饒舌に喋っていた自分に気付き少し恥ずかしさを覚えた。

 

 知らなかった。

 俺、ナイフのことがこんなに好きだったなんて。

 

「そっか……ヴィゴってナイフのことが好きだから、だからわたしがあんなにアタックしても反応薄かったんだね……」

 

 クロエがわざとらしい泣き真似で茶化してくる。

 その言われ方だと俺が毎晩ナイフを抱いてる変態みたいじゃないか。

 

 こほん、と咳払いしてそれからもう何回か手合わせした。

 

「……強いな、本当に強い。まさか一本も取れんとは……ヴィゴならうちの団長とでもやりあえるかも知れんな」

 

 ナックが手足を放り出して地面に寝転がっている。

 汗だくの顔で荒い呼吸を繰り返すが、このくらいじゃまだ俺の息は乱れない。

 

「ご苦労様です、ヴィゴく――」「ヴィゴお疲れ様!」

 昼間の時と同じようにカトレアがやってきて労ってくれる。

 

︎︎今回は手にタオルを持って……だったのだが、妙に負けん気を出したのかクロエが割って入ってきた。

 

「あ、汗をさぁ、拭ぅいてあげるねぇ?」

 

 言い方気持ち悪いな! ニヤニヤしながらタオルを手にしてにじり寄ってくる。

 

 もうこの際、クロエの下心についてはとやかく言わないが、もう少しサラッとやれないものだろうか。

 

「その……クロエ。いいよ俺、自分でやれるから、てかそんなに汗もかいてないし」

 

 有無を言わさず半ばタオルをひったくり手早く汗を拭う。

 そんなしゅんとした顔するなよ。俺が悪いみたいじゃないか。

 

 いつものやり取りを終わらせ、ナックに聞きたかったことをいくつか質問する。

 

 ナックが所属する傭兵団の名前、規模感などなど。

 

 まず、ナックの居る傭兵団の名前は【火鼠傭兵団(ひねずみようへいだん)】と言うらしい。

 

 大陸でも指折りに大きな傭兵団だそうで、その数なんと一万人を超す。傭兵団員の質は農家のおじさんに毛が生えた程度の者も多いが、そうは言っても一万人だ。いかに農家といえど一万人も居れば小国の抱える兵士よりよっぽど多い。

 

 活動範囲は商人連国ゴルドルピーと教国エドナ、それからあと二か国ほどの間を行ったり来たりして紛争地区や魔物の掃討作戦など頭数の必要な荒事には手広く関わっているらしい。大陸中央部で一番有名な傭兵団といえば火鼠傭兵団といっても過言ではない、とナックは胸を叩いて自慢げに話す。

 

 ちなみに火鼠傭兵団の火鼠とは、彼らが共通で身につける丈の短い赤いケープと、鼠と連想させるぐらいどこにでも居て数が多いことから呼ばれているのだと教えてくれる。昔は単純に【火勢(かせい)の傭兵団】と、勇ましい名前の団名だったのだが、誰が呼び出したか火鼠のワードで世間には浸透してしまったとのことだ。

 

「凄いな、一万人の傭兵団か……ちょっと口で言うだけじゃ実感が涌かないくらいの人数ですね」

 

 ある程度の大きさを持つ国でも常備兵1万人を抱えることは楽ではない。火鼠傭兵団も絶えず一万人が動き続けるわけではないだろうが、それでも数の暴力としては破格だ。国の要請で兵を貸し出す大々的な依頼の話も珍しくないことが予想できる。

 

 俺の次にカトレアが思いついたことを聞いた。

 

「初歩的な質問をしてしまうかも知れないんですが、傭兵団も冒険者の仕事をすることはあるんでしょうか? 私たちもつい最近、冒険者ギルドに登録したばかりなんですが、受けられる仕事内容を聞いた時に二つの区分が曖昧だな、と思いまして」

 

「そうさなぁ、まあ色々とあるが。冒険者の方が仕事の幅が広く、依頼達成の報酬もピンキリだな。秘境で薬草探したり遺跡を調査したりとか、なんつうか何でも屋みたいな印象が強い。逆に傭兵って言ったらとにかく戦うのが仕事になる。貰ってる金も冒険者よりまとまった金額が多いぜ。冒険者がパーティ単位で数人なのに対して、傭兵団って言えばだいたい二〇~三〇人は居るから、依頼の規模感も違いのあるところだな」

 

 あ、と思い出したようにナックが言葉を続ける。

 

「そういやうちの団長も冒険者ギルドに登録してんだった。パーティ名はそのまま【火鼠】で、

最近はそんなに活動してないらしいが、Sランクの最上位冒険者だって自慢してきたのをよく覚えてる」

 

「Sランクですか!?」

 

 カトレアが目を見張る。

 冒険者のランクはS~Gまでの八段階でランクが設けられている。

 

 Sは最上級

 ABは上級

 CDEは中級

 FGは下級

 ……といったように定められている。

 

 Sが最高ランクなのだから当然すごい事なのだろうが、カトレアがそんなに反応するとは……そう思っていると分からない俺に耳打ちしてくれた。

 

「……数万人は居る冒険者の中で最高位のSランクは、なんと現在たったの4パーティのみです」

 

 そりゃ凄いな。よほどの英雄たちなのだろう。

 

「……冒険者は傭兵と違って戦うことが専門ではありませんが、それでもSランクともなれば1つのパーティが国の扱う軍隊にも匹敵する、との噂だそうです」

 

 はぇ~、Sランクってのは本当に凄いんだな、と我ながらフーディみたいな顔していたと思う。

 

「手合わせした身としちゃ、ヴィゴよ。お前も大概化け物じみてるぜ? 団長と同じだ、強いのは分かるが全くもって底が見えねえ。いったいどっちが強いのか気になるぜ」

 

 数万人の中で選ばれたひと握りの強者か。確かに俺は自分の技が一般人より優れていることは知っている。それがどこまで通用するのか? と言われたら気にならないとは言えない。

 

 ここにアッシュが居たならSランクパーティ火鼠の団長に腕試しで会わせろとナックに無茶を言い出したかも知れないな。

 

「もしヴィゴ達が俺らのホームに来るなら顔出してってくれよ。火鼠傭兵団は大陸中央ならどこでも居るが、本拠地は国境都市ウィンクスに構えてんだ。ちょうど商人連国と教国の中間だからよ。アンタらのギルドの名前もうちで通るようにとしくよ」

 

 最大規模の傭兵団とSランクパーティにコネが持てるかもしれないのは有難いことだ。もしかすると国境都市ウィンクスへ挨拶しに行ったら勧誘する気満々だった、というのもあり得るが、なんの裏もなく良くしてくれる輩よりは健全な気もする。

 

 冒険者としてのランクか……。

 

 アッシュよ、お前が居ない間に楽しそうな話が目白押しだ。はやく会って、お前も交えて話したいよ。六王連合の行く末と、今は亡き友の顔を思い浮かべるのだった。

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