六王連合   作:帯刀 撫臼

53 / 74
53話 ~2章~ ペリゴール家の嫡男、炎術を覚えよう!

 クロエを背負って歩いているとかなり注目を浴びる。

 

 なんでおんぶしてるんだ?

 怪我でもしたのかな? 

 うわ今の子すごい可愛かったよ! 等々、反応は様々だ。

 

 目を引くので何となく視線がをやると背負われている女が居る。やたらと可愛いので余計にジッと見てしまう、という循環ができているような気もする。

 

 特に今日のクロエはお洒落もしていて大変可愛らしい出来栄えだったので、良くない輩が引っ付いてきたみたいだ。俺が居て良かった、と言いたいところだが別にクロエだって撃退できるだろうな。

 

 はーどっこいしょ、とクロエをおろすとあからさまに不満げだった。

 

「あー待て待て、また後でおんぶするから。尾けられてるんだよ。気配も分かりやすいし大した奴じゃないけど、宿の場所を知られるのは気持ち悪いだろ?」

 

 なるほどね。といった顔をするクロエ。

 

「どっちから来てるの?」

 俺は振り向いて今通った道を指さす。

 

「分かった。たまにはわたしがやるよ。いっつもヴィゴが相手してくれてるし」

 

 おお、そりゃ珍しい提案だ。

 

「じゃクロエに任す。髪を操れるってバレたら騒がれるかもしれないから上手いことやるように」

 

「分かってるよーん。まあ見ててよ」

 

 さて、どんな輩が現れるかな、と思っていたら以外にも身なりの良い男だった。ぱりっとした上着と金糸で刺繍が入ったシャツ。靴もピカピカでまるで貴族の出にも見える。俺より年は上でもう成人もしているだろう。

 

 俺たちに気が付き、その男は歩みを遅めた。

 立ち止まってから「あの!」と声をかけてくる。随分と大胆な奴だな。

 

「なにか用?」

 

 突き放した冷たい声をクロエが放つ。こういう顔も出来るのか、フーディほどではないにせよ、いつも割かしほにゃほにゃしているほうだからギャップが凄いな。

 

「わたしたちのこと尾行してたよね、なんの用かな?」

 

 クロエに詰め寄られた男は焦った顔で謝罪を口にした。

 

「後を付け回したことはすまない! その、悪いとは思っていたんだが……いや、非礼を詫びよう。どうか許して欲しい。この通りだ」

 

 あれ、なんか思っていた感じと違うな。ピシリと最敬礼で頭を下げられる。

 

 クロエも予想と違った展開だったようでいつもの顔に戻ってとあせあせしている。

 

「頭をあげて下さい。俺たちに何か用でしょうか?」

 結局、俺が聞くことになった。

 

 身なりのいい男は顔を上げ、逡巡した後に意を決してこう言った。

 

「……つかぬことを窺わせて欲しい、君たち二人はどういった仲だろうか?」

 

「はい! 付き合ってます!」

 こらこらこら。

 こういう時のクロエの瞬発力は凄まじいな。挙手までして答えてやがる。

 

 呆気に取られている男に訂正する。

 

「いえ、冒険者パーティの仲間です。用がそれだけでしたら行っていいですか?」

 

「いや待ってくれ! こ、交際しているのか? 仲間? その、どっちなんだ?」

 

「ハイ! 熱々カップルです! 今日もさっきまでデートして――」

「ややこしくなるからもう黙ってなさい」と、クロエの口を手で塞いで強制的に黙らせる。

 

「……君たちが浅からぬ関係だというのはよく分かった。……僕の名はラルフ・ドゥ・ルート・ペリゴール! 教国エドナの聖職貴族(せいしょくきぞく)主教八家(しゅきょうはっけ)のひとつ、ペリゴール家の嫡男だ! 今日のところは引かせて貰おう。さらばだ」

 

 本当に貴族だった、と思ったら名乗るだけ名乗って帰ってしまった。

 

 ……何だったんだろうか。クロエの方をジッと見ていたので気があるようだったが。

 

「何だったんだろね、あの人……でもちょっとカッコよかったよね?」

 

 え? 趣味が悪いな、と思っていたらバッとポーズを取って自己紹介を始める。

 

「我が名はクロエ! 商人連国ゴルドルピーから王家の印を携えし者! 白銀の髪を閃かせ敵を討つ! みたいな感じかな」

 

 あー、かっこいいって、あの口上みたいな自己紹介のほうか。

 

「ヴィゴもやってみてよ」

 

「いいよ……えーと……我が名はヴィゴ、六王連合(ろくおうれんごう)がひとり、睦柱(むつばしら)一柱(いっちゅう)、闇夜と影を()(なばり)の王なり」

 

「えっ、なにそれ、凄くかっこいい。せこいよ、それちょうだい。」

 

 いや、せこくはねーよ。センスだよ。別にあげるよ。

 

 それからクロエの登場シーンで使う自己紹介の台詞を一緒に考えながら宿に帰るのであった。

 

 ――

 ――――

 宿の部屋に戻るとカトレアも流石にシャキッとしていた。

 

「お、元気になったか。カトレア」

 

「あ……はぃ。その、ご迷惑をお掛けしました」

 

 しゅん、としている。別にそこまで落ち込まんでもいいのにね。

 

 買い食いグルメコースの二人も帰ってきていた。

 フーディはベッドの上でごろんとしている。

 

「あ、ヴィゴ。みて見てお腹」

 そう言ってシャツを捲りポンポコになったお腹を見せてきた。

 

 うわー可愛い。

 許可も取るのも忘れて思わずお腹をさわってしまった。

 

「いっぱい食べたな~。美味しかったか?」

 

「うん! 北の小川の近くに売ってる揚げ物屋さんが凄い美味しかった。ヴィゴも明日食べてみてよ」

 

「ほう、そりゃ楽しみだ」

 

「でもちょっと食べ過ぎた。もう起き上がれないし何も食べたくない。

 でも明日になったらまたお腹すくんだろうな。人は不思議だ。

 どれだけ食べてもやがて腹は減るというのに、人はなぜ食べるのか……。

 本当に不思議だ。そう、まるで腹を減らすために食事をすると言ってもいい」

 

 ご飯食べ過ぎるとちょっと頭よくなるのかな。

 フーディなりの食の道を見つけたのかも知れない。

 

「さて、じゃあリスルッタ大聖堂の教皇どうするか問題を話すか」

 

「カトレアには、説明しておいたよ。やっぱり頭痛くて、あの時は、話を聞いてなかった」

 

「ナイスティントア」

 

「えー……朝はご迷惑をおかけしました。酒に目がないだらしない女ことカトレアです」

 

 自責の念が凄い。

 まあ、どうせまたやらかすだろうけど。

 

「色々と考えてみたんですけど、ひとまず待ちで良いのかな? と思います」

 

 なるほど、カトレアも似たような感じか。

 

「出来ないことが無いわけではありません。ヴィゴくんなら忍び込んで教皇を見つけられそうですが、その後の手を間違えると厄介でしょうね」

 

 うむ、確かに見つけられるとは思う。

 

「それと、王家の書状を持って参った私たちに対するエドナ=ミリア教の対応も、具体的な回答こそなかったですが、そう悪いものではありませんでした。取次自体はまともにしてくれるそうですしね」

 

 うむうむ、と皆が頷く。

 

「三日後くらいに様子を見てダメなら、またその三日後に再訪問、と時間を置いて通ってみます?

 あまりに埒が明かないようでしたら、仮にも王家の使いを何と心得るか~という内容を丁寧にごねてみましょうよ。

 教皇に会えないか理由くらいは教えてもらえるかも知れませんよね。

 その理由が私たちで対処可能な物だったら恩を売って面会させてもらう……。

 という流れが取れたら最高でしょうね」

 

 確かに、品性をもってごねることが出来たなら、あの司祭の人も聞いてくれるかも。

 こっちも本当に困っているんです~どうか理由だけでも……という感じだ。

 

「ダメ元でエドナ=ファドラの方も行ってみますか?

 革新派に蘇生術を扱える術者が居るかは分かりませんが、

 いや、どうせ動くなら調べてからの方がいいですね。

 酒場を回って聞き込みか……でも変な噂が立つのも嫌ですもんね、

 人に頼むか……んーちょっと考えてみます。

 ま、何にせよ三日後までは待ちでいいかと」

 

 一同、賛成の意を示す。

 

「じゃ、三日後まで自由だな。いっこ提案なんだけどさ」

 

 俺が野宿中に思っていたことを口にする。

 

「誰か火の魔術を覚えられたりしないかな? 火起こしが凄く楽になる。アッシュが居ないから今は俺しか火起こしできないし、夜でも灯りを使わずいられて便利だろ? 金も節約になる」

 

 俺は皆の顔を見渡す。

 魔術分野は専門外なので難しいのなら仕方がないが、実現が出来たら本当に楽になる。

 

「アリですね。ですが……教国に魔導書があるか、もしくは火の魔術を覚えていて、その上で魔術体系(まじゅつたいけい)が噛み合う人を見つけられないと難しいですね」

 

「その魔術書ってのは本屋で簡単に売ってるような代物じゃないわけか」

 

 俺の素人過ぎた発言がフーディに笑われる。

 

「魔導書は普通の本屋にないよ。

 魔導書は”導く”って字が入ってるでしょ? 

 魔術を覚えるために読む物だったり、

 読んだら勝手に覚えちゃうタイプの魔導書もあるけど、

 魔術書と魔導書は名前だけ似てるけど全然違うんだよ」

 

 まさかフーディに物を教えられる日が来るとはな。

 

「覚えられるなら、俺か、カトレアか、フーディ、だね」

 

 え、私は? という顔でクロエがティントアを見ている。

 

「クロエの髪の操作は、魔術じゃないから」

 あー、なんかそんな話もあったな。

 

「ティントアくんは死霊術ですし、

 私も緑生魔術(りょくせいまじゅつ)の体系が大本なので、

 一番可能性が高いのはフーディちゃんですね。

 ……というか私が今さら前提三源《ぜんていさんげん》の赤だけを学ぶなんて、

 式変換《しきへんかん》が狂って失敗すると思います」

 

「俺も、黒魔術の範囲だったら、

 死霊術じゃなくても何となく出来る術はあるだろうけど、

 赤は、たぶん無理。

 頭胸腹(ずきょうふく)でお腹以外から魔力、感じたことすらない」

 

 うわー凄い。

 知らない単語がポンポン出てくる。

 

「あたしもティントアが無理なの分かるけど、カトレアもダメかな?

 緑生魔術で成長させてる時の赤式(あかしき)ってさ、

 色んな植物でやれてるってことは、適媒(てきばい)させてるってことだよね?」

 

 フーディまでそんな頭良さそうな……!?

 蜂蜜の飴で頬をベタベタにするあのフーディが……!?

 

「結果としてはそうなんですが、ほぼ自動なんです。

 魔術体系の組み方で勝手に適媒(てきばい)するようにしてますから」

 

「え~! 凄い高度なことしてるんだ!

 あー、その辺の感覚ないなら確かにカトレアも難しいかも」

 

「逆にどうしてフーディちゃんは特定の魔術を使わないんですか?」

 

「それはすっごく簡単な話だよ。単純に覚えてないから使えない」

 

「え? 驚愕の事実すぎます……。

 この魔力量と質でどうしてフーディちゃんだけ体系が無いんでしょうね……?

 あ、でもないならいっそ炎術(えんじゅつ)で組んでしまえばいいのでは?」

 

「そうか。それ、盲点だった。凄いよカトレア。

 ……でもフーディの才能で基本の炎術か。少し勿体ないような気も……」

 

「べっつにいいよ~。魔術は火から灰までって言うし、

 あたしならあと三つくらい魔術体系も組めるんじゃないかな?

 ほら、あたしって四元(しげん)の王じゃん?」

 

「フフフ、確かにそうでしたね」

 

「よし、じゃあ明日は、俺たち三人で火の魔術を探して、動こう。いいよね? ヴィゴ」

 

 えっ、あっ、ハイ! 何でもいいですよ。

 

 ウンウン、と頷いて返す。

 もうなにを話しているのか分からなかったのに急にまとまっていてびっくりする。

 

「……わたしは、これから自分の事を魔術師って思うのはやめにするね」

 どこか寂し気にクロエがぽつりと言った。

 

 全く不要な情報だが、魔術師組が話していた用語の意味を教えてもらった。

 へぇ、そうなんだぁ。としか感想を返せなかった。

 

~~~ 以下、魔術用語集 ~~~

 

 【魔術体系(まじゅつたいけい)】魔術が組織され全体としてまとまった状態を指す。

  例:カトレアの魔術は植物の発芽、成長、枯死の三つが一つのまとまり。

 

 【前提三源(ぜんていさんげん)】白魔術、赤魔術、黒魔術という三種類の魔術のこと。

  白は始まり、赤は変化、黒は終わりの魔術だそうだ。魔術基盤とも言う。

 

 【式変換《しきへんかん》】白→赤 赤→黒のように魔術基盤を切り替えること。

  ちなみに白→黒は飛式(とびしき)、黒→白は戻式(もどりしき)と言う。

  赤魔術だけの式は赤式(あかしき)

 

 【頭胸腹(ずきょうふく)】一般的に魔力が作られる体の三か所をまとめた呼び名。

  大抵の場合、白魔術は頭、赤魔術は胸、黒魔術は腹で魔力を作るらしい。

 

 【適媒(てきばい)】対象へ流し込む魔力量、質、速度などを適した状態へすること。

 

 【炎術(えんじゅつ)】赤魔術の中で炎の生成や操作を指す魔術。

 

 【魔術(まじゅつ)()から(はい)まで】最も扱える者が多い炎術だが、

  炎術こそ基礎にして奥義であるという格言。基本を忘れるなの意味も持つ。

 

 【四元(しげん)】魔術体系を四つ扱える魔術師のこと。とんでもなく凄いこと。

 




後半にある怒涛の用語集は覚えなくて大丈夫です。
あぁ、そういう物があるんだな程度に思って頂ければと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。