六王連合   作:帯刀 撫臼

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58話 ~2章~ 魂をネズミの中に

 よし、それでは潜入開始だ。

 

 時刻は朝、太陽はリスルッタ大聖堂を明々と照らしている。

 

 忍び込むなら人が寝静まる夜の内の方が都合が良かったのだが、急遽として話が決まったので仕方がない。昨日はすでに酒を飲んでしまっていたのだ。

 

 酔いの程度から感覚的にいけなくもない気はした。

 だが、もし万が一見つかってご破算では目も当てられない。

 半端な仕事は大嫌いだ。

 

 日が出ているうちは確かに夜より見つかりやすいだろうが問題ない。

 

 実は昨日、俺も新たな技を得て成長した。久々に手強い相手とやりあって経験値を得たためだろうか? 瞬断一足(しゅんだんいっそく)とはちょっと違う姿を隠す技なのだが、フーディあたりに見せたら驚くだろうなぁ。そのうち披露しよう。

 

 俺たちは朝食を済ませた後、宿を出て四方向に別れる。

 

 俺は大聖堂の方面、目抜き通りを行き教国の中心へ、クロエは中心部南の冒険者ギルドへ、カトレアは酒場を巡る。ティントアとフーディは墓地へ行き霊に聞き込みを行うらしい。

 

 教皇がなぜ王家の書状を後に回すほど多忙にしているのか、エドナ=ミリア教が何か問題を抱えているのか。俺たちが広げる網のどこかに情報が引っかかることを祈るのみだ。

 

 大聖堂へ忍び込むことは容易かった。

 

 書状を持って参った時と同じで、大聖堂はある程度の区域まで一般開放がなされている。そこから各建物を順に見ていくだけである。

 

 主聖堂、小聖堂、告解部屋(こっかいべや)香部屋(こうべや)、納骨堂……。

 

 その他のなんて呼べばいいか分からない部屋・建物が数多くある。

 

 三大宗教の聖地にもなるとなまじの大きさではない。

 見歩くだけでも骨が折れる。

 

 途中で司祭館を見つけたので住み込みで神に仕えている司祭たちから祭服を拝借する。これで更に紛れやすくなった。

 

 信者の変装をして教皇の居場所を聞いてみたりしたのだが、この前と同じで「奥の院」だと回答を貰う。では「奥の院は?」と問うてみたが、ざっくりとした手振りで「あの辺りですね」だそうだ。

 

 いや広すぎる。

 教える気がないのはありありと伝わってきた。

 

 マーキル教皇の顔の特徴などは信者のふりをして情報を集めたのだが、まったくそれらしい人も見つからない。お偉いさんが着る祭服を見つければ後をつけていくが、その先でマーキル教皇が見つかることはなかった。

 

 太陽は天高くまで登り、昼を告げている。

 

 もう四時間は探しただろうか。

 

 疲れたな。

 潜入・捜索はまだまだ続行可能だが、これだけ探して居ないとなると教皇が大聖堂を離れている可能性も考えたほうがいい。そうなると継続する意味も薄くなるな。

 

 教皇もしくは枢機卿レベルの最高位役職者が住む部屋でも見つけられたらいいのだが、質素倹約が美徳であるエドナ=ミリア教は王宮と違って階級による部屋の内装も違いが少ない。部屋が見つかれば室内にある手紙や私物から色々なことも知れるだろうが、いかんせん部屋数も尋常ではない。

 

 ……一旦、戻るか。

 

 大きな通りにあった露店で肉の串焼きを買い、食べながら宿に戻る。

 

 六竜館(ろくりゅうかん)、教国エドナ滞在中に俺たちが泊っている宿の名だ。

 

 俺たち六王連合と同じ”六”の字を使っているので縁を感じてここに泊まったが中々いい宿だった。宿屋にしては珍しい六匹の竜が絡み合う看板の下まで来て、俺たちの部屋にはまだ誰も帰ってきていないことが気配で分かった。

 

 わざわざ部屋に戻るまでもなく察知できるのは便利だな、普段からこうなので思い出したように便利だったのだと気づいたわけだが。それにしても、誰も戻ってきていないのであれば俺だけ早々に休むわけにもいかないな。

 

 他の皆のところに行けば何か手伝えることがあるかも知れない。六竜館の店主に墓地の場所を聞いて向かう。クロエの向かった冒険者ギルドの位置より近かったからだ。

 

 教国の墓地は都市の外れにある共同墓地だった。

 

 かなり広かったが大聖堂と違って壁や屋根に囲われた室内ではないので二人は直ぐに見つかった。輝くような混じりけの無い金髪は珍しいのだ。

 

 ティントアは虚空に向かってブツブツ呟いている。

 

 たぶん霊と話しているのだろうが、知らない人が見れば墓地で見えない人と話す謎の金髪美人である。すぐに噂話になる光景だな。フーディは地面で寝ていた。

 

「こらこらフーディ、お墓で寝るやつがあるか」

 

「んおぉ……ヴィゴ? なんで……?」

 

 なんで? とは、なぜヴィゴがここに居るのか? だろうか。

 なんでお墓で寝ちゃダメなの? ではないと思いたいところだ。

 

 一瞬だけ起きたがまた寝入りそうになるので抱きかかえて連れていく。

 まあ、ティントアが霊に聞き込みをしている間はフーディも暇だろうし仕方ないか。

 

 少し遠目にいたティントアが俺に気付いてこちらへ寄って来た。

 

 おや、ティントアの目の色がいつもと違う。

 

 光の加減でそう見えるとかいうレベルではなく、様々な色が絶えず変化しているのだ。極彩色(ごくさいしき)が瞳の中で踊っている。目から魔力を感じたので何か霊と交信するための術を使っているのだろうな。

 

「いい魂だね。エドナ=ミリアの教皇について、何か知らないかな?」

 目が七色に変化したままティントアが聞いてくる。

 

「……? 大聖堂は一通り探したんだが見当たらなかった。外に居る可能性もあるし、一旦みんなの手伝いでもしようかな、と」

 

「……え? ……あ、ヴィゴか」

 

 ティントアがようやく気付いたような反応をする。

 瞳もいつもの状態に戻る。

 

「いい感じの魂してる人がいると思ったのに、ヴィゴだったのか。ずっと霊視(れいし)してると、生きてる人間と死んでる人間の区別が、曖昧になるんだよね」

 

 おお、凄い世界の話だな。ティントアが行える霊視の世界を覗いてみたいものだ。

 

「ああ、そうだよ。さっき話した人。うちのパーティのリーダーさ、そうそう」

 ティントアが俺の少しだけ後ろを見て話をする。俺の後ろに人の気配なんぞはない。

 

「あの、ティントア……俺の後ろに……霊が?」

 

「そうだよ。気のいいオジサンで、色々と教えてくれた。教皇の話は知らないらしいけど」

 

 この世に実体を持つくらい強力な亡霊であれば殴ることも出来るので怖いと思ったことはないが、俺の全く感知できないところにナニかが居る、というのはけっこう不気味だな。

 

「ハハ! だめですよ? 彼は勘が良いので」

 

「ティントア……? なに、話してるの?」

 

「ヴィゴの魂の色が珍しいから、ついていきたいって言ってる」

 

 ダメダメ! ダメだよ! 

 なに言ってるんだそのオジサン! 

 何だか急に怖くなってきた。

 

「あのぅ……ティントア。いまもしかして俺の左肩に手とか置いてる?」

 

「よく分かったね! 流石にヴィゴは感覚が鋭い。ちなみに、手じゃなくて、こう……なんていうか、両手でぶら下がってる感じだね」

 

 あぁ~こわぃ~……!

 知らない見えないオジサンに「君の魂キレイだね」とか言われて肩にぶら下がられているの怖すぎる。

 

 更にゾクリとした。

 俺が意識したせいで感覚が敏感になっているのか、いま確実に頬に触れられたのが分かった。

 

「ティントア! いま俺の顔! 頬のとこ触られてるよな!?」

 

「……それも、分かるんだ。凄いね。まぁ~……手じゃないけど、聞かない方が、いいよ?」

 

 手じゃないとこで触るって何だよ……。

 そんなもん、もう舌でベロンベロンされてる想像とかしちゃうじゃないか。

 

「ティントア……祓ってくれ……」

 

「え? 祓えるけども、そんな大袈裟だよ。そのうち飽きてどっか行くよ。……え? あぁ、この抱かれて眠ってる子はフーディだよ」

 

 あれ? 霊のオジサンの興味が俺からフーディに移ったのだろうか。

 

「……はあ? ダメだよ。なに言ってるんだ? お前の魂をドブネズミの中に突っ込んでやろうか?」

 

 こわ、どうした急に。

 

「あ、逃げていった」

 ティントアがあらぬ方向を見ている。

 

「ど、どうなったんだティントア?」

 

「フーディのことも気に入ったとか言って、同じように頬を舐めようとしてたから、脅したら逃げていったね」

 

 同じようにって何だよ! 

 やっぱり俺のほっぺたペロペロされてたのかよ!

 というか俺の時にもそのくらい怒ってくれよ!!

 

 さて、一難去ったところでティントアに成果を聞く。

 

「教皇にまつわる話は、聞けなかった。この都市は徘徊霊(はいかいれい)が少なすぎる」

 

 霊にもいくつか種類があり、ウロウロと徘徊する霊、同じ場所からあまり動かない定着霊(ていちゃくれい)、特定の場所に縛られて動けない地縛霊(じばくれい)などが居るそうだ。

 

「教国エドナ=ミリアの本拠があるし、祓魔師(ふつまし)が、ちゃんと仕事してるんだろうね」

 

 ああ、祓魔師《ふつまし》の方は俺も知っている。

 

 教会に所属する戦闘信徒だ。信仰秘術(しんこうひじゅつ)と呼ばれる神の奇跡を再現した術や、洗礼を施した聖具で武装しておりけっこう厄介なのだ。……たぶん昔に戦ったことがあるのだろうな。

 

「教国じゃないとこの墓地なら、もっと色々、聞けたと思うんだけどな」

 

 なるほどな。お国柄というやつか。ティントアくらいしかその気質を感じることはないだろうが、ともかく調査の程が芳しくないのならあまりここに居ても意味はないな。

 

「俺の方もイマイチだった、クロエかティントアが何か掴んでればいいけどな……」

 

 リスルッタ大聖堂に三日間くらい潜り込んで体力勝負で徹底的に探してもいいのだが、そもそもずっと外出中だったりしたら時間を無駄にするのも勿体ない。

 

「クロエの方にでも行ってみるか?」

 

「そうだね。カトレアは酒場を巡ってるんだもんね?」

 

 そうだ。特定の所という事ではなく、ここがダメなら次、という風に動いているだろう。

 

「俺の予想だと、酔って帰ってくる、と思うよ」

 

 カトレアが? いやぁ、それはどうだろうか。

 確かにカトレアは意外にかなりの酒好きで悪酔いする方だが、やるべき事はきっちりやる人間だ。

 

 というわけでクロエの方に向かう。

 冒険者ギルドには既に行ったことがあるので道も知っている。

 

「……しっかしフーディ起きないな。具合が悪いわけじゃないんだよな?」

 抱っこからおんぶに切り替え、背負ったまま歩いているが一向に起きる気配がない。

 

「大丈夫。無垢魔炎術(むくまえんじゅつ)の基礎体系が、出来たばかりだからね。体系を定着させるには、かなりの魔力を消費する。フーディなら今日一日も寝れば、回復すると思うよ」

 

「あぁ、魔術ってのはそういうので疲れたりもするのか」

 

「ヴィゴは新しい技を覚えるなら、剣を何度も振って体力を使うでしょ? 魔術師の疲労は、後でまとめてやってくるんだ、日々の魔術を訓練するより、魔術理論を組む時間の方が長い。頭を使って考える時間が長くなって、引きこもるから、魔術師は体を鍛える暇がとれないんだ」

 

 納得だ。

 呪文を唱えている術師を倒したいならさっさと距離を詰めてぶん殴るのが早いと思っていたが、耐久力も反射神経もないイメージなのはそういうことか。

 

 冒険者ギルドに到着。

 逆さになった船の扉をくぐればクロエがえらいことになっていたのだった。

 

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