六王連合   作:帯刀 撫臼

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62話 ~2章~ まずはお前が俺を信じろ

「出会って間もなくする話でないことは重々承知しているが、言わせて欲しい。僕は君に惚れてしまった」

 と、ティントアが感情をしっかり込めて言う。

 

「好きな女性の心を考えもせず嫁いでもらうなど、男の風上にも置けぬ卑怯者だ」

 と、カトレアが感情をたっぷり込めて言った。

 

 そしてフーディが「きゃー!」と黄色い悲鳴を上げるのであった。

 

 や、やめなさいよお前たち。

 いじって良い事とダメなの事がこの世にはあってだな……。

 

「それでぇ? クロエはどう思ったんですかぁ?」

 

 屋敷を出てから一番面白がっているのはカトレアだった。

 それはもう本当に、さっきからずっとこの調子なのだ。

 

 クロエが生真面目ぶった変な口調で返す。

 

「はい、そうですね。ラルフははっきり言うと私のタイプではありません。ですが、あれだけ真剣な目をして言われると……正直、こう……グッと来るものがないと言えば嘘になりますね、ハイ」

 

 なぜ俺を見ながら言う。

 

「さあ! ヴィゴくんはこれに何とコメントするでしょうか!? 大変な見物となっております! 本日の大一番!」

 

「えー……ノーコメントで」

 

「貴様! それでも男か!」

 まさかティントアから檄が飛ぶとは思わなかった。

 

「男として誠意を見せろ! この甲斐性なし!」

 これはフーディの飛ばした野次だ。

 さっきコソコソ話をしていたのでカトレアに仕込まれたのだろうな。

 

 フッ、甘い甘い、 蜂蜜よりもまだ甘いという物だ。

 俺がいったい何回クロエをのらりくらりとかわして来たと思っているのか。

 こういう時は名言せず、そして誠実であれば間違えることはない。

 

「俺は、クロエを信じてるから」

 

 すると銀の君は「ヴィゴ……」とウットリ、気分もご機嫌だ。

 我ら愉快な六王連合、一人の陰りもなく離脱もなし、めでたしめでたしである。

 

「チッ、なかなか上手にやるではありませんかヴィゴくん。次はこうはいきませんからね?」

 

 もはや舌打ちを舌で打たず口で言っている。

 そしてなぜ次がある。妙な画策をするんじゃない。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 ともかく四季麗人会(しきれいじんかい)に招待してもらえる事になって良かった。思わぬ展開もあった事だが、即日即決で物事が進むとは思わなかった。

 

「上手く行きすぎて怖いくらいですね。まさか朝にマーキル教皇の情報を共有してから日の終わりに招待まで漕ぎ着けるとは思いませんでしたよ」

 

 全くもってその通りである。何事も巡りという物があるわけで、今日の俺達はついていたのだろう。

 

「ですが好事魔(こうじま)多しとも言いますからね。四季麗人会は二日後です。私はそれまでになるべく調べものをして知識だけでもつけておくようにします」

 

「工事魔……?」

 

 フーディが頭の中で工事をする悪魔か何かを思い浮かべているだろうから、物事が上手く進む時ほど思わぬ邪魔が入りやすいこと、と意味を教えてあげる。

 

「じゃあ、カトレア明日は図書館か?」

 

「はい。リスルッタ大聖堂で大きな書庫が解放されていると聞きましたので。良ければヴィゴくんも来ませんか?」

 

「ああ、行くよ。知識面はカトレア任せのところが多かったからな。俺もなるべくなら自分で仕入れておきたい」

 

「え! ヴィゴ図書館いっちゃうの?」

 

「クロエも来るか?」

 

「ん-……でもわたし本ってそんなに興味ないしなぁ」

 

「じゃあクロエもあたしとティントアと一緒に買い食い行進しようよ! 西側のお店はまだ全然見て回れてないんだ~」

 

 ティントアとフーディの食べ歩きに買い食い行進なんて名前があったとは知らなかった。

 

「うーん、そだね。じゃ明日はフーディ達と出かけようかな。カトレアもたまにはヴィゴを独り占めしたいでしょ?」

 

 いやあ女性陣が代わる代わる俺を独り占めしたがるだなんて、これに勝る喜びはありませんねえ。

 

「そうですね。でもいいんですかクロエ? 私の手にかかればヴィゴくんなど一日で骨抜きですよ? それはもう首ったけでしょう。手を繋いで仲睦まじく宿に帰ってきた後はクロエに見向きもしなくなるでしょうね」

 

「そんな事なりっこないよ。何故ならわたしはヴィゴを信じているからね! ……信じてるよヴィゴ? 大丈夫だよね? 信じていい? 大丈夫?」

 

 まずはお前が俺を信じるところから始めろよ。

 

 ――

 ――――

 宿へ戻る頃には日が落ちかけ夕日が街を赤く照らしていく。

 今日は酒場で食事ではなく、露店で適当に買い込んで部屋で食べることにした。

 

 提案したのはカトレアだった。

 

 理由を聞けば「酔っぱらって寝てしまってもすぐベッドですからね」とのこと。恥ずかしそうに言うくらいなら胸に秘めておけばいいのに……明日の図書館もあるのでそれなりにセーブさせておこう。

 

 六王連合の宴は他所様の例に漏れずうるさい。

 粛々飲めなどと言うつもりもないが、それにしたってカトレアとティントアはガラリと人が変わる。

 

「ヴィゴくん! ヴィゴくんはねぇ、もっと私を労ったほうがいいと思いますよ? そう思いますよねえ? 優しくしてください! もっと!!」

  

「あーはいはい。ほらカトレア~酒だぞ~。ぐいぐい飲めよ~」

 

 酒の一切入っていない果汁を注いで渡すと一口飲んで「コレすっごぉい飲みやすいれすぅ!」と満足気だった。よし、もう酒の味も分かっていないし、これ以降は俺の注ぐ酒しか飲ませないようにしよう。

 

 カトレアはいつもの反動なのかとにかくやたらと絡んでくるようになる。

 まあ暴れたりしない限りは可愛いものだ。

 

 クロエは酔いが回ると案の定というか甘えてくるようになる。さっきまでティントアに引っ付いていたが次は俺の番のようで、ぐにゃりと背中にのしかかってくる。

 

「ヴィゴ~! おんぶしてぇ~!」

 

「いや。これもうほとんどおんぶだろ」

 

「ヴィゴくん! まずは私をおんぶするべきでは!? というか私がおんぶしましょうか!?」

 

「じゃあ、とりあえずクロエをおんぶしてみて」

 

「いいですとも~」

 

 こけたら危ないのでベッドの上でやらせる。カトレアがクロエをおんぶしようとしたら思った通り失敗して二人がゴロゴロとベッドを転げ待っている。

 

 それを見てティントアが笑い転げる。飲むと良く笑うのだ。あと口調も変わる。

 

「まったく愉快な奴らだ!」

 

 無垢魔炎術(むくまえんじゅつ)の時に様子がおかしいティントアも話し方が変わっていたし、ティントア的な切り替わりがあるのかも知れない。

 

 フーディはあまり酒を飲まない。ひたすら食べる、とにかく食べる。飲んでも甘い酒を少しだけだ。もう少し大きくなればまた変わってくるだろうな。

 

 アッシュだったら……。

 と、呑めば更にうるさくなる男を思い出してティントアに思いつきを口にする。

 

「ティントア! 口寄せでアッシュ呼べる?」

 

「お安いご用でござい、あらよっと!」

 その喋り方はどこから来てるんだろうか。

 

 あっという間に幽界から呼び出したティントアがアッシュに切り替わる。

 

「……あ?……酒……? あぁ、何だお前らか」

 

「宴会中だ。まあ飲めよ。駆けつけ一杯ってな」

 

「また急に呼びつけやがって、ティントアがやってる口寄せとかいう術、天使からなんかすげえ怒られたぞ? 無暗に死者を呼び戻すな~ってよ」

 

「あー。やっぱそういうのあるんだな。それで? アッシュは怒られてどうしたんだよ」

 

「んなもんウルセーってぶっ飛ばすしかねーだろが」

 

 俺も酒が入ってるせいか思い切り笑う。やはりアッシュはそうでなくちゃな。

 

 クロエとカトレアが寄って来ないなと思っていたら、見るとベッドで静かに寝息を立てていた。それも二人仲良く抱き合っている。

 

 クロエが「ヴィゴ~……」と言いながらカトレアを抱きしめ、クロエは「ダメですよヴィゴくん……」と言っていた。間に俺を挟むなよ。

 

「それでアッシュ。上級天使とかいうのはどうなったんだ?」

 

「おう、割かし強かったがトーゼン俺が勝ったぜ。次は大天使がお出ましだそうだ」

 

 勝ってやがる。そのうち神と喧嘩し始めそうだ。

 

「つーかさ、久々に飲む酒うまいわ! メシも久々だしな!」

 

 アッシュの表情でティントアが笑う。やっぱり冥界じゃ飲食などないらしい。

 

「あっ、そうだ。せっかく宴ならもうちょい早めに呼べ! もう俺……つかティントアか。腹いっぱいで大して飲み食い出来ねえじゃねえかよ」

 

 おお、面白い現象だ。

 アッシュが一時的にティントアの体に入っているだけなので腹具合なども引き継いで急に現世に現れるのだ。

 

 酒のせいで話が遅れたが、教皇に会ってどうにか蘇生の話が進んだことをアッシュに伝える。

 

「ほーん? 良かったな。まー早いとこ頼むわ。最近はもう天使どもに毎日追い回されてんのよ俺」

 

「いっかい謝ってみたらどうだ?」

 

「アホか! もうぶっ飛ばした奴一人や二人じゃねーっての! 散々暴れまくってる奴が急にサーセンって謝り出しても許してくれるような状況とっくに超えてるぜ。俺じゃなくても火に油だわ」

 

 あ、火と言えばフーディが炎術を使えるようになっただとか、話が尽きることはなかった。

 

 この日は本当によく酒が進んだ。

 後半は俺も記憶を飛ばすほどだった。

 

 アッシュと二人でゆっくり話すなんて久々だった。

 もう少し待ってろよ。もうちょっとで生き返らせてやるからな。そしたら六人揃ってパーッとやるぞ。

 

 ――翌朝、目が覚めた俺はクロエとカトレアの間に居た。

 まさか本当に挟まれているとは思わなかった。

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