六王連合   作:帯刀 撫臼

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67話 ~2章~ 高僧六聖、断罪のサリ

 神聖エドナ=ベルム教、アジト襲撃作戦!

 なのだが、よくよく考えると作戦を立てるほど難しい物でもないよな。

 

 場所が割れている。

 屋敷を破壊してもいい。

 放火すら認められる。

 

 仕事を舐めているわけじゃないが俺達なら今日のうちにも達成できる簡単な難易度だ。

 

「作戦かぁ。俺がパパっと行って忍び込んで来るのが一番早いかもな」

 

 カトレアが手を挙げて言う。

 

「ヴィゴくんばかり働いてもらうのも悪いですよ。たまには私がやりましょうか? 地中から大木を生やして屋敷を貫くとか……あぁでもさすがに目立ちますよね」

 

 カトレアの緑生(りょくせい)魔術ってそんなに大規模な事まで出来たのか。しかし屋敷が大樹に覆われるのは流石に目を引きすぎるか。

 

 お次はクロエが手を挙げた。

 

「私の髪ならそんなに目立たずにやれるよね? 突入して全部がんじがらめにすればそれで終わりだし、あ、でも一応ヴィゴに着いて来て欲しいかな~。近距離のカバーだけお願いしたい」

 

 うんうん。クロエのそれでいいんじゃないか~と思う。

 別にテキトーになっているわけではない。

 

 ハイ! とフーディが元気よく手を挙げる。

 何か発表する人みたいだ。

 

「イッチバンすぐに終わる方法があるよ! あたしの魔炎砲(まえんほう)でぶっ飛ばせばいいじゃん!」

 

 実は真っ先に思いついたがあえて言わなかったのだ。

 ティントアがフーディを膝に抱えながら聞く。

 

「家の中に、人が居ると思うけど、フーディは出来る?」

 

 そう、その点だ。ただの空っぽの屋敷ならフーディの魔炎砲で一撃だろう。作戦会議すらせずに向かっていたところだ。フーディも言われて「あっ」と口にしていた。

 

「……んー、あんまりやりたくない、かな」

 

 それで良い。

 俺もフーディにはなるべく人を殺して欲しくない。

 

 最後にティントアが手をあげて素早く「ゴメン俺はできない」と答えた。

 

 大丈夫、知っている。

 ティントアの死霊術は様々なところで活躍するのだが、こと戦闘において即効性はないのだ。

 

「俺だけ、出来ないのは……何だかショック……死体、持ち歩こうかな?」

 

「いや~……その、人の目もあるしな。他の事で役に立ってるんだし気にしなくていいだろ」

 

「そ、そうですよティントアくん! ただの適材適所ですって!」

 

「ティントアの顔! 今日も綺麗だよ!」

 

「いつもティントアはあたしに優しいからありがとうだよ!」

 

 後半の奴ら、励ますの下手だなぁ……。

 

「でもまぁ、ティントアが平時でも実力を発揮できるってのは、実は俺、前々から何かないかなって思ってたんだよ」

 

 え? とティントアが目を丸くしている。

 

「そうない事だけど、単独行動時に強襲された時の想定だな」

 

 ティントア以外は皆それぞれ即座に攻撃の態勢をとれるのだ。あまり初速のないカトレアだとしても、ポケットに忍ばせた木の枝は鞭のようにして扱えるし、葉であれば鋭い刃物のようにして扱える。

 

「うーん……蛇かカラスの死体でもあれば、操って戦えるだろうし、そのうち探しにいこうかな」

 

 なるほど。そのくらいのサイズなら持ち運びも苦労ないな。

 だが、ティントアくらいの死霊術師ならもっとこう、ビビっとした解決方法があるような気も……。

 

「ティントアは霊も操作できるんだよな?」

 

「ああ、いけるよ。でも霊は実体がないからね。情報を集めてもらう、とかは便利だろうけど」

 

「そうだよなぁ……あ、でも実体がある霊なら?」

 

「実体がある霊は強力だけど、発生もしにくい。教国はエドナの霊場が敷かれているから、余計にね」

 

 ピコーン! 俺の中に雷が走る。

 今まですっかり忘れていた。

 そして思い出したと同時にもしかして!? と閃く。

 

 血相を変えて自分のバッグを漁る俺を皆が不思議がっている。

 

 取り出しますはこの小瓶! 中にはなんと!

 

霊灰(れいはい)! ヴィゴ! なぜそれを!?」

 

 その反応……大当たりなのでは!?

 

「ちょっと前にクロエと一緒に悪霊と戦った話をしたと思うんだけど、その時に霊が落としていったんだよ。これ霊灰って言うのか」

 

「ヴィゴォ! 俺にくれェッ! それがあれば俺は無敵だァ!」

 

 こっわ!! これそんなに凄いの!? 

 迫りくるティントアの顔が血塗られた闇の死霊術師に見えるほど迫力があった。

 

「あっあっ、あげるからっ、落ち着けってチェントア」

 思わず噛むほどビックリした。

 

 瓶を受け取ったティントアは喜びのあまり「ギヒヒ」と見たことのない笑い方をした。

 

「……ヴィゴ、本当にもらって、いい? 返さないよ? けっこう高く売れるし、まあ売りさばける人、限られるだろうけど」

 

「全然いいって、ホントにあげるあげる」

 

「ありがとう。今度、なにかで埋め合わせる」

 

 ティントアは小瓶をじっくりと観察する。光に翳してみたり、音を聞くように耳に当てて見たり様々だ。

 

「強かったでしょ? この霊……うん、自然発生じゃないな、誰かが呼んだ霊だ。召喚霊かな」

 

 ほう、そんなことまで分かるのか。

 

 二刀流で凄まじい剣速を誇る全身鎧の亡霊だった。

 クロエがティントアに森の洞窟の中で戦ったことを話している。

 

「ねえヴィゴ、俺の指の先、ちょっとだけ切ってくれない?」

 

 ギョッとして理由を聞く。

 

「死霊術で使うんだ。血を一滴だけ使いたい」

 

 ああ、なるほど。

 死霊術はそんな方法で術を扱ったりするのか。

 意外……と思えるほども知識がないので、ただただ凄い世界だと感じる。

 

 ティントアがこちらを左手の薬指で差す。

 きっとそれも魔術的な意味があるのだろうな。

 

 俺は最も手に馴染んだ黒いナイフを持つ。

 ダフネス公国の跡地で小鬼を倒した時に拾ったナイフだ。

 

 手首の返しだけでスッと切った。

 

「あれ?……ヴィゴ……あ、ちゃんと切れてる」

 

 ほとんど痛みもなかったはずだ。

 使った日は手入れを欠かさないし、たまに砥石(といし)を使って研磨もしているのだ。

 

 ぱちぱち、カトレア他が拍手をくれた。

 

 ティントアは薬指から一筋だけ垂れた血を霊灰の詰まった小瓶に落とした。

 

「血を媒介にするんだ。俺と霊を結ぶためにね。魔術師にとって、体液は重要だ。特に契約や、支配を多く使う死霊術師にとってはね。唾液でも良かったけど少し効果が薄い。精子では深く縛りすぎる。今回は血液がちょうどいい、はず」

 

「ティントア、わたしは精――」

 

 その先を聞きたくなかったのでクロエの口を塞ぐ。

 

 血を落として少しした後、瓶の中身が膨らみ、灰がこぼれそうになる。

 するとティントアがほのかに光を帯び、瞬間、全身から魔力を迸らせた。

 

(むくろ)の王が命ず。紅血(こうけつ)を貴方へ、貴方は万象(ばんしょう)を王へ、

 御霊(みたま)一匙(ひとさじ)今代(こんだい)にあり、塵芥(ちりあくた)も共にあり」

 

 これは……呪文だ。

 詠唱というやつだろう。

 

一切(いっさい)を王へ、再度(さいど)再三(さいさん)再死(さいし)を以って、

 尊厳(そんげん)は無く、慈悲(じひ)もない、(つくば)()えばこそ、貴方は成らん」

 

 小瓶からあり得ない量の灰が噴き出す。

 

 ティントアの血を一滴たらしただけにも関わらず、部屋の中に溢れ、渦を巻く灰は真っ赤に染まり、むせ返るような鉄の匂いが部屋中を包んでいる。

 

「よし、成ったね」

 

 軽い調子でティントアが言った。

 成功したらしいが、本当だろうか。正直かなりおぞましい。

 

「ティントアくん……なんという詠唱を……きびし過ぎませんか?」

 

 カトレアが稀に見る驚きと恐れを顔に貼り付けている。

 

「これでも、かなり、自由にさせたんだけどな……」

 

 まだ緩くした方だったらしい。それを聞いたカトレアが「さ、サディスト……」と小さく呟いていた。

 

 どういうやり取りなのか気になったが、たぶん説明を頼んでも魔術用語だらけでもっと意味が分からなくなるんだろうな。

 

 血の匂いが濃くなりすぎてそろそろ窓を開けようかと思っていた時だった。

 赤い灰が集まって球体になり、血の匂いが一瞬で掻き消え、玉から手足が生えて人型となった。

 

 まばら森で出会った全身鎧二刀流の亡霊がそこに居たのだ。

 ティントアの血の影響か鎧が赤く染色されていた。

 

「……ティントア、これは?」

 

 大丈夫だとは思うが念のため構えた。

 口を塞ぐために捕まえていたクロエと体を入れ替えて前に出ると、後ろでブハっと息をした後に答えがあった。

 

「大丈夫だよそれ、ティントアの魔力で満ちてる。てかもう~ヴィゴ! 力つよすぎ! 息できなかったじゃん……まあちょっとゾクゾクしたけどぉ」

 

 お前は本当に何でもアリだな。

 てか、魔術師ではないクロエでもそのあたりの事は分かるのか。

 俺は魔力を感じられても誰のというのは分からない。

 

「……驚いた。マサカ私が縛られルとは」

 

 赤い鎧の亡霊が言葉を話した。

 不思議な声色で男と女が同時に話しているような音のダブりを感じる。

 

「しゃっ、 しゃべった!! おい! 喋ってるぞこいつ!」

 

 すっごぉ……と思っていたのは俺だけで他の皆からすれば普通だったらしい。

 

「あの、ヴィゴくん。霊は喋りますよ?」

 困った子ね、とでも言うようにカトレアが眉を下げて笑っている。

 

「えー! 知らなかったのヴィゴ?」

 当たり前じゃん、くらいの勢いでフーディが笑っている。

 

「そうだよ~、霊も喋るんだよ、凄いよね~」

 真後ろのクロエが小さな子に教えるような声で言っている。

 

 ティントアに至っては初歩的すぎたのか鼻で笑ってくる。

 

 お、お前らなんか気配の察知すら出来ないくせに!!

 

「生きた人と喋るナンテ何百年振りでしょうか、ヨクゾ霊灰(れいはい)からここまで……ただの幻影だったといウのに」

 

「お前、名は?」

 

 ティントアが霊に話しかける。

 いつものふわりとした空気が消えて冷たい印象の横顔だった。

 

「エドナの高弟子(たかでし)が一人。高僧六聖(こうそうろくせい)断罪(だんざい)のサリ。如何様にもご用命くださいマセ」

 

「課した縛りに不満はあるか?」

 

「ございまセン」

 

「結構、戻っていろ」

 

 ティントアの前で片膝をついて首を垂れていた断罪のサリが「ハッ」と短く返事し、灰に姿を変えて小瓶の中に戻った。どうやらあの霊をティントアが操れるようになったみたいだ。

 

 すごいすごい、くらいの感想しか言えない俺だったが、カトレアが「ぬァァぁァッ!!」と叫びながらティントアに駆け寄って取り乱す。

 

高僧六聖(こうそくろくせい)! 断罪のサリって! エドナ教の高僧六聖の! 聖人のサリじゃないですか!? なん、なにをティントアくん! 英霊や神霊の類ではありませんか! なにをサクっと使役してるんですか!?」

 

「だ、大丈夫だよカトレア。完全に縛ってあるし」

 

「いや縛れないですし! そもそも縛らないでしょう! あの手の上格霊(じょうかくれい)を無期限使役って! 普通は一時的では!? どんな使縛約款(しばくやっかん)つかってるんですか!?」

 

「どんなって……まあ、後で、見せるよ」

 

「い……いいです。何だか怖いので」

 

「そう……。なんか、ゴメン? でいいのかな」

 

「いえ、その、ティントアくんの腕が凄すぎて理解が追い付かないだけで、怒っているわけでは……」

 

 カトレアがここまで騒ぐ程に凄い事だった、という事だけが分かった。

 いいなぁ、俺もナンチャラ霊はホニャララ約款なので流石ですね! くらい言いたいものだ。 

 

「というわけで、ヴィゴ。屋敷への襲撃は、俺に任せてよ。サリのテストをしたい」

 

 お、なるほどね。

 神聖エドナ=ベルムのアジトへゴーストアタック大作戦、というわけだ。

 

~~~ 魔術用語集 ~~~

 

上格霊(じょうかくれい)】身分や地位のある霊。エドナ教の聖典にもあるサリは高僧六聖と呼ばれる最上級信徒の一人。霊格も最上位に位置する。

 

使縛約款(しばくやっかん)】霊や精霊などを使役する時に使うルールをまとめたもの。一方的に契約する時は【縛る】と言う。対等に取り決める時は【結ぶ】と言う。ルールが多いので紙におこした使縛約款を使うことがほとんどだが、ティントアは頭の中にしまっているらしい。どういうこと?

 

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