六王連合   作:帯刀 撫臼

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68話 ~2章~ 倒錯しており申し訳ございません

 ディエゴの寄越した審問官へ出かけてくる旨を伝えて外へ出た。

 リスルッタ大聖堂から大通りを通って東へ。

 

 俺達は地図で見た丸印の場所、使われていないはずの屋敷、もとい神聖エドナ=ベルム教のアジトへ向かっていた。

 

 教国エドナは大聖堂を中心地とし、外へ行くほど治安が悪くなると聞いていたがその通りだった。都市へ入る大門からの大通り周辺は別のようだが、ここは貧困街と言っていい。家々の区画は整っておらず、小道と裏道が入り乱れ、浮浪者が地面で寝ていたりもする。

 

 そして不自然に立派な屋敷がまるで埋もれていたかのように、唐突に目の前へ現れたのだった。

 

「遠目からじゃ上手く屋敷が見えない、確かに隠れ潜むには丁度いい……中から人の気配もする」

 

 当たりだな。

 

 この屋敷は教国エドナの近隣国である騎王国(きおうこく)シャトロマの古い貴族が保有しているが手付かずで半ば放置されているらしい。管理不行き届きはこういった企みにも使われてしまうのだな。

 

「じゃ、始める」

 

 ティントアは事もなげに言うと小瓶を振って赤い霊灰をばらまいた。灰は生き物のようにうねり形を変え、二刀を携えた赤色鎧の戦士となる。

 

「行くぞ、ここを壊滅させる」

 

 断罪のサリに対するティントアの声は冷ややかだ。俺達と喋る時の声と違い、1トーン低くて圧がある。クロエいわく、ギャップがそそるそうだ。

 

「承知いたしマシた。ティントア様」

 

 颯爽と歩き出し一人で屋敷へ入るティントアの後を追う。

 

「あれ、ヴィゴ? いいよ、俺だけでやるし、休んでて」

 

「後ろに居てもいいか? サリさんがどのくらい動けるか見ておきたい」

 

 了承を得たので観戦させて貰う。

 

 ティントアの使役したこの霊がやられるとは万に一つも思っていない。俺とクロエの手数勝負にしばらく一人で張り合えた程の速剣だ。本当に動きが気になるだけだ。

 

「あの、サリさん」と声を掛けると「サリで構いまセンよ。敬語も不要です」と返事があった。

 

「了解。俺とクロエと戦ったことは覚えてる?」

 

「アア……ぼんやりとですネ。通常、私のような存在を完璧に近い状態で呼ぶことは非常に難しいのです。ヴィゴ様、クロエ様と戦った時の私は幻影のようなもの。ほとんどの自我が消えております」

 

 なるほど、森の洞窟に居た理由も聞いてみたが同じような理由で不明だった。

 

 ティントアとしてもそこが不思議だったようだ。

 

「サリくらいの格が高い霊は、偶然であんなところに発生しない。間違いなく誰かが呼んだ、と思うよ。一度その洞窟を調べて見ても、いいかも」

 

「あの、サリ? ティントアに様をつけるのは契約? とかの理由だと思うんだけど。俺や他の皆は様付けなんてしなくていいぞ?」

 

「いえ、これは縛りでございマス。もし仮に私が皆さまに砕けた言葉を発せば、その瞬間、私には苦痛が走るようになってオリます」

 

 ええ……。

 ティントア、何だか怖いよ……。

 

 ニッコリと優しそうに笑って「安心でしょ?」じゃないんだよ。

 余計に怖いよ。

 

「えー……サリはそれでよかったの? ティントアの前で言うことじゃないだろうけど、色々と窮屈なんだろ?」

 

「自由でないことは確かでスが、それよりも退屈していたのです。こうして受肉し、現世を歩き、ヴィゴ様とお話をして、また剣を振るえる。この感動に比べれば何という事もありません」

 

 それと、サリが付け加える。

 

「仮に私が自由を望んだトシても、ティントア様の使縛約款(しばくやっかん)は非常に緻密で絶大な強制力があります。抗う気もありませんでしタガ、そもそも抗えなかっタでしょうね」

 

 うーん、つくづくティントアは凄いな。

 

 俺&クロエと戦っていた時と違い、サリは体の輪郭がハッキリとしていた。体に纏っていた亡霊の霧もなく、赤い全身鎧を着た二刀戦士が普通に歩いているように見える。

 

「お、そろそろ、かち合うな。ちょうど出会い頭か」

 

 屋敷の敷地内に入り、建物を囲んでいる壁沿いにぐるりと左に回っていたのだが、この直角の曲がり角を曲がれば敵と鉢合わせる。気配を探れる俺からすると普通の事だが、サリは「えっ?」と驚いていた。

 

 会敵、相手が咄嗟のことに慌てて声を発する手前、サリは最小限の動きでそっと胸を貫く。右手の剣は深々と刃の中ほどに達している。即死だ。

 

「さすがのお手並み、早業だな」

 

「ありがとうございます。ヴィゴ様……気配を感じるのがお上手デスネ。私も大まかな位置は掴んでいましたが、そこまで詳細には……まるで壁の向こうを見通しているかのような鋭敏な五感、感服いたしマシタ」

 

「おいサリ、ヴィゴの手を煩わせるなよ」

 

「申し訳ございませんでしたティントア様!! いかなる処罰も覚悟しております!!」

 

 ティントア怖い!! サリも怖い!! 

 

「ちょっと、ティントア……お前サリに当たり強くないか?」

 

「ヴィゴは、分かってない。霊を簡単に、信用してはいけない」

 

「そっ、そうなのか……でも、縛り? ってのでティントアや俺らを裏切らないんだろ?」

 

「そう、絶対な服従。万に一つもない」

 

「だったら大丈夫なんじゃ……」

 

「仕方ない。霊の恐ろしさ、教えてあげる。夜、寝る前の怪談話で」

 

 やめろよ! 眠れなくなるだろ!

 

「大丈夫、深夜のトイレも、着いていってあげる」

 

 そ、それはありがたいな……じゃなくて!

 何だか可哀想だな、と思っていたらサリは急に兜を脱いだ。

 

 その兜とれるのか。

 骸骨の顔がある、とかではなくてちゃんと人の顔をしていた。

 

 しかも美人だ。カトレアと少し雰囲気が似ているか。

 色素の薄い亜麻色(あまいろ)の髪を後ろで二つにまとめている。

 

 サリの声は男と女の声が混じったようだったが、兜を取って喋ると女の声だけが綺麗に聞こえてくる。

「ヴィゴ様、問題ございません! 私、そういう事がけっこう好きな性質でございます!」

 

 ……え? と言いますと?

 

「ヴィゴ、サリはね。普通の人が嫌がったり、苦しんだりすることに、快感を覚える。不自由な縛りも好んでいるし、今も喜んでいる。気持ちが悪いよね」

 

 サリの顔を見る。

 端正な顔は努めて平静を装っているが唇の端が歓喜に震え、目の奥には喜色が滲んでいた。

 

「申し訳ございません! 倒錯しており申し訳ございません!」

 

 変態の英霊だ。エドナ教が知れば泣くぞ。

 

 マーキル教皇に教えてやりたい。

 聖人じゃなくて変態性人だったよ、と。

 

 さておき腕は確かだった。

 俺が戦った時よりも少し動きがいいかも知れない。

 

 ティントアの死霊術で幻影の時よりも完璧に近い状態とやらになっているからだろう。

 

 バッサバッサと敵を切り捨て、一応は証拠を残しておくか、ということで三人は動けないようにして放置しておいた。屋敷の中も一通りさらってみたのだが何が証拠となるか分からないので意味がなかった。

 

 まあ、後はエドナ=ミリアの祓魔師がやってきて調査するのだろう。

 

 俺、ティントア、サリが屋敷から出ると「その兜、脱げたんだ」と皆が俺と同じ反応をしていた。

 

 少し喋ってサリの変わった性格が伝わった後でカトレアは何か腑に落ちたように「そうか……サディストとマゾヒストのコンビなんですね」と呟いていた。そっとしておけ、妙な物に理解を深めなくていい。

 

 クロエはどこか親近感を覚えるようでさっそく楽しそうに話している。

 

 フーディは世話役が一人増えたようによく懐いている。

 

 アレな面はあるがまぁ、大丈夫そうだな。

 

 仕事も終えたし大聖堂のディエゴのところに戻るか、と話していると事後処理に来た祓魔師と会う。

 

 サリの姿を見て顎が外れるんじゃないか、というくらい驚いていた。そりゃあ君のところの聖人だものな。姿くらいは伝え聞いているかも知れないし、それから使役されていると知ればそんな顔もするだろう。

 

 祓魔師の人の大驚失色(たいきょうしっしょく)が治まった後で「今日はもう大丈夫ですので」と終わりを告げられ、本日の仕事が完了した事を知る。また明日に大聖堂へ来て欲しいとのことだ。

 

 これくらいの仕事だったら二つ、三つとまとめて片付けられるだろうが、エドナ教としても準備があるだろうし仕方がないか。この祓魔師もこれから屋敷に入って調査なり何なりやるわけだしな。

 

「サリの歓迎会でもやる?」

 

 そう提案するとみんな乗り気だった。

 

「良かったなァ、サリ?」とティントアだけやっぱり何だかぞんざいで怖かった。

 

 そういう性質の人とは言え優しくしてやって欲しいものだ。

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