『本日もハイランダー鉄道学園をご利用いただき、誠にありがとうございます。
本列車は、8時10分発アビドス方面ゲヘナ行き、各駅停車でございます。
終点までの所要時間はおよそ3時間20分です。
またご利用中のお客様は、次に案内致します注意事項にご注意ください』
・無賃乗車が発覚した場合、理由の如何を問わず、走行中の車両からご退場いただきます。安全は努力目標となります。
・添乗員の指示をご理解頂けない場合、走行中であろうと車両からご退場いただきます。
・他のお客様とトラブルになった際は必ず添乗員呼び出しボタンをご利用ください。
・車内の備品を破損させた場合、お客様の私物をその場で差し押さえます。こちらはハイランダー鉄道のカスタマーセンターへお問い合わせください。
・その他運行に支障をきたすと判断した場合、添乗員は実力行使を厭いません。
『到着まで3時間20分です。くれぐれも大人しくご利用ください。繰り返しになりますが、当列車では添乗員による実力行使を厭いません』
そう締めくくっても、話を聞いていない奴や最初から聞く気が無い奴などごまんといる。サービス業でここまでやるとSNSなどで大炎上待った無しなのだが、そこは流石に荒事に慣れている鉄道学園。
口頭注意から発砲までの一部始終は、添乗員の胸に装着された高性能ボディカム――通称『硬い君』により記録される。もちろん、顔出しでSNSにアップロードされるのがこの路線のデフォルトだ。
その日のハッシュタグは、『#本日の汚客様』。
「8号車にてトラブル発生! どうやら無賃乗車の生徒が他の客から乗車券を奪った模様!」
「奪われた方の購入履歴照会と奪った方は無賃乗車で間違いないか確認急いで!」
『履歴確認終わった。強奪した方に購入履歴無し』
「実力排除の時間だオラァ!」
各々の愛銃を構えた添乗員が飛び出した。
このキヴォトスにおいて、列車の大きさは非常識な程に大きく長い。
8両編成であるが外の世界において貨物列車並みの長さである。
無論その分現場に到着するまで時間が掛かる。
「これから売店車両通過するからアナウンスお願い!」
『りょー』
するとすぐに車内アナウンスが響いた。
『お客様にご案内を申し上げます。現在8号車にて問題が発生したため添乗員が向かっております。1号車から7号車までのお客様は通路を開けてお下がりください。指示に従わない場合は排除します』
それと同時に車両床の通路に赤文字のホログラムで『警告:添乗員が通過します』といった文言が浮かび上がる。
この路線を真っ当に毎日使っている客にとって、こんなのは茶飯事である。旅行や遠出といった客からしてみれば「なんだこの列車!?」ではあるが。
不幸にも今回騒ぎを起こした客は普段この路線を利用しないゲヘナの生徒であった。
「へっへへ。何が無賃乗車だってんだ。お願いすれば優しく譲ってくれるってのによ」
銃を以て戦わない猫の民間人は、涙を流して隅で震えている。
「姉貴もホント頭いいっすねー」
「だろだろ? ついでに少しお小遣いも貰うか!」
その言葉で周りにいた他の客が身構えた瞬間―――
「目標視認! ぶっ殺せェ!!」
「あん?―――ふぁっ!?」
7号車から飛び出して来た2人の添乗員が何の躊躇もなく銃をぶっ放した。
1人は異様に長い拡張マガジンを使ったデザートイーグルを、ただしお手製50口径強装弾。
もう1人はドラムマガジンを付けたAA12をフルオートで。しかもドラゴンブレス弾。
酷い銃声と炎が2人の迷惑客に襲い掛かり、車両最後尾まで吹き飛ばされる。
「な、何が…」
幸か不幸かもう1人が意図せず盾になったため意識が僅かに残っていた迷惑客。それを見た添乗員がまだ壊れていない玩具を見つけたような瞳で言い放った。
「10秒待ってやる。自分で飛び降りるか投げ捨てられるか選べ。はい10――」
「はい撃てー」
サービス業の立場から出てこないであろう選択肢に驚いた迷惑客は声をあげようとしたが、遅きに失した。
「は!? 数も数えられ―――……」
セリフは最後まで続かず、迷惑客は車外へダイビング。もちろん意識はない。
幸運なのはここが市街地であった事だ。この路線では例え砂漠のど真ん中であろうが捨てられる。
度々アビドス高校から抗議が来るが、線路があるから遭難しないというのがハイランダーの主張だ。
「対応完了ー。車内警報解除していいよ」
『りょー。あと後処理班向かわせるけどキレてたよ』
「知らねえ」と一方的に通信を切り、迷惑客が落としていった銃やら財布やらを物色した。勿論これは車内で損壊した備品の補填に充てられる。
「学生証あるじゃん。ゲヘナ1年生」
「やっぱりゲヘナかよ!」
もう1人から学生証を毟り取った添乗員は、その学生証を真っ二つに圧し折ると窓から投げ捨てた。
「お弁当如何ですかー」
後処理班より先にやってきた移動売店のスタッフが器用に薬莢の間をすり抜けてくる。
このスタッフも路線に配備されてはや半年。心が擦れに擦れて今やこの態度だ。
硝煙臭い車内でもこの店員と乗客はいつも通りであり、これがこの路線の日常であった。
もちろん、これでめでたしめでたしと行かないのがハイランダーである。
『お客様にご案内申し上げます。間もなく、終点・ゲヘナセントラルステーションです。
ゲヘナ循環線をご利用の方とトリニティ方面D.U行きをご利用の方はご自身で調べてお越しください。
なおこの列車は終着後回送列車となります。引き続きご乗車いただけませんのでご注意ください。
また、不当に車内へ残り続ける方へは実力行使を致します。
本日もハイランダー鉄道学園をご利用いただきありがとうございました』
ひっどいアナウンスが流れると、乗車していた客たちはいそいそと降車準備を始める。
繰り返すが、この路線だけは本当に利用者相手に手を出してくるのだ。
『全車両より降車確認終わりー。扉閉めたよ』
「おーし車庫へ向けてしゅっぱーつ」
そうして無事に客を運び終えて、えっちらおっちらと車庫へ到着した生徒に待っていたのは、上司からの嫌味たっぷりな皮肉と後処理であった。
他の学校と違い、この学園は列車と路線ごとにクラスが分かれている。
そのため、車両自体は比較的少人数で運行しているのだが…。
「床の焼損レベルA。壁面弾痕32、カメラ1基損傷、窓の張替え13枚……っと」
清掃員がホログラム端末に淡々とデータを打ち込んでいく。
「またドラゴンブレス弾でカーテン燃えたぁ!? バカなの!? 燃えない素材にしてって言ってるでしょ!?」
備品担当生徒の慟哭が車庫の事務室に響き渡る。
「それは備品係のお前が用意するんだよほらあくしろよ」
「そもそもそんな銃弾車内で使わないでよ!」
備品担当者1と武装添乗員が言い合ってる中で、経理担当がPCを睨んでいた。
「どう計算しても大赤字なんだが???」
阿鼻叫喚のすぐ横では、また別の地獄が発生していた。
「ドラゴンブレス弾による延焼被害ってどう記載すればいいんですか!?
銃撃戦までの経緯なんて上にどう報告すれば!?
入る学園、いや配属路線間違えた…!」
この路線に配属された新人の慟哭も響き渡る。
「ほい。#本日の汚客様っと」
路線の広報担当がSNSにアップロードすると、いいねマークが付き始める。
もちろん、モザイクなんて甘い処理はされておらず、顔も制服もしっかりと映っている。
そしてその1分後には、ハイランダー鉄道の中央管制室よりお叱りの電話が入る。
あれは何だと言われても、いつも通りと広報官は返すのだ。
圧倒的に業務過多と人手不足だが、もう新入生以外は誰も口にしない。
そうしてその日の運行業務と後処理を全て終えたこのクラスが、車庫を出たのは日付を少し回ってからであった。
「いつまでめそめそ泣いてんの新入生。ほら飯奢ってやるから」
「うわああん! ドラゴンブレス弾で被害拡大させた人に気を使われています!」
「はっ倒すぞ」
そうして和気藹々と退社ならぬ下校していく後ろ姿を、管理職の3年生は3階の事務室から見下ろしていた。
下級生の姿が見えなくなると、自分のPCに向き合って報告書顛末をまとめた。
ハイランダー鉄道学園、本日も通常運行、異常ナシ。
※ただし“常識”の定義は、当学園規定による。
ハイランダーのあのモブちゃんまた出ないかな
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