AM 04:30 特急GA3005号 車庫
キヴォトスに存在する鉄道路線の大半はハイランダー鉄道学園の路線というのは結構有名な話である。
線路が校区となり、路線ごとに派閥やクラスが分かれている中でも、ハイランダー鉄道学園生徒の間で特にハズレと名高い路線が2つも存在する。
それこそ、かの有名なゲヘナ循環線と、ゲヘナ循環支線だ。
「そういえば最近ゲヘナ循環線の奴らがとうとうやったらしいじゃん」
「聞いた聞いた。先月の最優秀生徒に選出されてたね確か」
ここはゲヘナ循環支線アビドス方面行きの列車が鎮座する車庫。
始発駅であるゲヘナセントラルステーションへ向かうため、朝の5時から生徒たちは集まっていた。
「じゃあ昨日ドラゴンブレス弾ぶっ放した私らって年間優秀生徒になっても良くない?」
「あの子らは葛藤の末に手を出したのに対し、君ら最初から撃ったろ?
そんなのが選ばれたら世も末だわ。
はい始発前朝礼始めるよー。点呼はよ」
実際に走行する車内で序列の高い生徒である運転士や車掌が、管理職の3年生の合図で点呼を始めた。
「運転士いつも通りでーす。目の下の隈が取れないー」
「車掌問題なし。眼精疲労が抜けない…」
「添乗員大丈夫…これで3日間お風呂入ってないよ」
「うおくっさ…。同じく添乗員補佐行ける」
「おぇっ…売店員おっけー」
「よーしそこのサービス業にあるまじき奴はシャワー浴びて来て。
また本日は祝日のためゲヘナ循環線からの乗り換えが多い見込みだからね。
終点のアビドスまではいかなくても、途中まで結構乗車するだろうから気を張るように」
最後に、射撃許可はいつも通り要らないと締めくくり、3年生は次発のGA2003号の車庫へ歩いて行った。
それと同時、整備担当が運転士に話しかけたりなどをして時は過ぎていく。
AM 05:00 始発駅 ゲヘナセントラルステーション
『ただ今到着の列車は、特急GA3005号アビドス行きです。
危険ですので白線の内側にお下がりください。またご乗車されるお客様は、必ず乗車券を直ぐに取り出せる位置にご準備ください。20秒以内に確認できない場合、無賃乗車と判断して排除します』
列車を動かす生徒がこれなら、駅員の生徒もコレである。
運転士が無線でホームの安全の管理する生徒に連絡を入れる。
『おっはー。GA3005定刻通り』
「おはようー。チラホラ無賃っぽいのいるからよろ」
それを聞いた運転士は車内にいる添乗員2人に通信を入れて状況を伝えた。
『後発の為に多少頑張って間引くかー』
サービス業にあるまじき通信を終えた8両編成の列車は、ホームへと滑り込んだ。
AM 05:05
「乗車券を拝見します」
この路線を普段から使ってる生徒や一般人は、胸ポケットなどに最初から準備しており、提示を求められたら直ぐに差し出せるようにしている。
「これです」
「拝見します……確認しました。どうぞ」
添乗員が乗車券のバーコードを専門の機械で読み取り、異常が無い事を確認して返却する。
ここで一言も「ご協力ありがとうございます」と言わないのがこの路線だ。
1車両凡そ5分で確認が終わる。8両編成だが、この時だけは車掌と添乗員2人で分担しているので。15分程度で確認が終わる。
始発駅のため、到着から発車まで少し時間が空く仕様なのだ。
ただし、何も問題が無ければという前提ではあるが。
AM 05:07:03
「乗車券を拝見します」
「あ、はい。えっと……あれ、財布どこだっけ」
ぽわぽわした雰囲気の生徒がその呟きを発した瞬間、普段利用している客が一斉に対ショック姿勢を取った。
AM 05:07:20
17秒経った段階で、添乗員が徐にショットガンに手を伸ばした。
AM 05:07:22
「あ、これだこれだ。はいどうぞ♪」
肝心のお客様はショットガンに気づかず、笑顔で添乗員に乗車券を差し出した。
「拝見します……確認しました。当路線のご利用は初めてでしょうか?」
「そうなんです! 妹がアビドス中学校に入学したので、お祝いに行くんです!」
嬉しそうに語った生徒を確認した添乗員は、携帯している業務用バッグから紙を1枚取り出し、丁寧にお客様へ手渡した。
「この路線をご利用の際の注意事項です。
こちらを遵守頂いている限りにおいて、お客様を目的地へお送りいたします。
この路線でお客様の安全はお客様自身での努力目標となり、当路線のスタッフは一切保証致しません。良い旅を」
困惑する生徒を捨て置き、次の座席の確認を行う添乗員。
何度も言うが、これがSNSで晒されれば大炎上である。だが普段の利用客はホッと胸をなでおろすだけだ。
「テメェ…死にてえのか?」
すると突然、ぽわぽわしている生徒の横…隣の席に座っていたスケバンが生徒に絡んだ。
添乗員も次の乗車券を確認しつつ、いつでも鎮圧できるように気を配る。
「な、なんですか貴方…」
「列車がホームに来た時アナウンスされただろッ…!
あとほんの僅かでも乗車券を出すのが遅れたら…」
そうして事の詳細を聞いた生徒は、帰りは絶対にバスを使うと心に誓うのであった。
AM 05:20
列車は扉を閉めてゆっくりと動き出した。
『お待たせいたしました。この列車はアビドス行き始発列車です。
出発前に8名の無賃乗車が発覚し、3号車の窓2枚が全損しております。
砂漠地帯前の連絡駅で張り替えます。
到着まで1時間30分です。くれぐれも大人しくご利用ください』
先ほどのぽわぽわした生徒は、そのアナウンスに困惑する。
「あの、今のアナウンスで謝罪の言葉とか聞こえなかったんですが!?」
「そりゃお前…なぁ?」
スケバンが近くに居たヘルメット団に声を掛けると、そのヘルメット団も同じような反応であった。
AM 05:45 ゲヘナ都心部 循環線並走区間
「いつまで待たせるんだよ! 会計位さっさとしろよ無能!」
スーツ姿のロボットが列を無視して店員に詰め掛かっていた。
「他のお客様が先に並んでいらっしゃいますので黙ってお待ちください」
「な、なんだその態度は!? 従業員の分際でカイザーコンビニエンス重役の私にそんな口を利くのか!?」
「同じ接客業じゃないですか仲良くしましょうよ。次口開いたら排除しますよ」
「頭に来た! ハイランダーのカスタマーセンターへ連絡入れてやるッ!」
そうしてロボットがスマートフォンを取り出して連絡をするが、返ってくるのは営業時間外のアナウンスであった。
「カスタマーセンターは朝の10時です。その時間でご利用ください」
―――ッドォン!
そんな激しい音と共に、ショットガンを食らったスーツロボットは吹き飛んだ。
普段の利用客は一切我関せずを貫き、慣れてない生徒は悲鳴を上げる。
「お、お前、お前ェ!…くそ、なんだこの列車ッ」
ノロノロと起き上がったスーツロボットは、商品を手に持ちながら去っていった。
『おらー馬鹿添乗員2人。売店車両で商品強奪だぞー』
車掌室で各車輌の監視カメラを確認していた車掌が添乗員に連絡を入れる。
ちなみにこの列車は運転専用の列車を除いて8両編成であり、売店車両は4号車になる。
もっと補足すれば、売店兼食堂車だが。
『いま8号車で無賃野郎を外に出したばっかりなんだが』
『強奪って言っても列を無視して釣銭投げつけた系だから楽でしょ』
『売店担当より至急 強奪客にはサービスとして鉛玉をお届けしたので問題なし』
スーツロボットはショットガンのおかわりを食らい、気絶するに至った。
AM 06:00
『車掌より通達。6号車にて財布の忘れ物発見ー』
『おーこの路線で忘れ物とか勇者かな? この座席に座ってた客は1つ前の駅で降車済。
あれだ、売店で暴れたたスーツロボットの役員のやつだ』
この路線で他人の忘れ物に手を出すのは馬鹿のする事である。
触らずに放置か、添乗員呼出ボタンを使うのが賢い。
稀に巡回中の添乗員が見つけて拾う事もある。
『売店の損害金補填として中身を押収していいよ。車庫に帰ったらSNSで#本日の汚客様で晒すわ』
もちろんこの会話は乗客には聞こえていないが、普段の対応を知る側からすれば、あの財布は多分持ち主には戻らないんだろうなと確信できるのであった。
AM 06:10 ゲヘナ郊外 砂漠地帯前連絡駅 駅員室
「お"ぁー。コレ始発ぞ? ここに来るまでに無賃乗車13件と車内暴行5件って」
「付け加えるなら1から8号車までで合計25枚の窓ガラス割れた」
「1個忘れてるよ? リクライニングを利用した奴が射出されたじゃん」
「かわいそう」
作業の為この連絡駅には15分ほど停車しており、車掌らは駅員室でお茶を飲んでいる。
すると部屋のドアがバンっと勢い良く開かれ、運転用列車に同乗していた整備班のスタッフが叫んだ。
「暇なら手伝え!!!!!」
「うるっさ…。まだ窓の張替え程度でしょ行ける行ける」
「行けないが!? 25枚を5人15分は無理だが!??」
運転士は仕方ないなーと呟くと、作業員についていく。
ちなみに一番動けるであろう添乗員2人は度重なるお客様の対応で力尽きかけており、冷えピタを貼って休憩中である。
車掌は路線を管理する本部と定時連絡を行っている。
AM 06:30 アビドス校区 砂漠地帯
砂漠地帯というかほぼ全てが砂漠である。
『お客様に申し上げます。この区間で再度窓が割れた場合、スタッフの対応は普段より手荒になります。
痛い目に遭いたくなければ大人しくご利用ください』
当初ぽわぽわしていた生徒は、物音一つで過敏に反応するようになり、ガタガタと震えている。
予定ではあと20分程度で終着駅ではあるが、ここまでくれば誰一人として油断していない。
あらかた車内の乗客が大人しくなった今、次の事件は外からやってきた。
『運転士より通達。前方1キロ先、ヘルメット団とスケバンの抗争を確認。線路を挟んで睨み合いの模様』
『最後の最後でさぁ…。運転士ちゃん本部に伝えた?』
『伝えた伝えたー。いつも通りの対応でいいって。車内アナウンス流して』
『りょー。…お客様にご案内申し上げます。当列車はこれより戦闘区域へ突入します。お客様の安全はご自身でお守りください』
「へぇ!?」
ぽわぽわした生徒が恐怖のあまりスケバンに顔を向けた。
「あー、たしかカタカタヘルメット団らが暴れる日だったっけ。窓から離れとけ」
その言葉と同時に、景色を移していた窓の外に軽装甲シャッターが派手な音で下りた。
ガシャンガシャンと次々にシャッターが窓の外に下りてきて、景色を見えなくしていく。
全部下りたと同時に、車内が非常灯で暗くなる。
そして床にはホログラムで「戦域通過中」と表示される。
たまたま目に入った添乗員は、それは恐ろしい形相であった。
AM 06:33
比較的住宅地が近い砂漠で、ヘルメット団とスケバン連合はにらみ合っていた。
その数は優に100人を超え、まさに抗争といった模様だ。
お互いが一触即発でにらみ合う中、突如として砂丘の向こうから警笛が爆音で聞こえた。
―――ボォオオオオ!
と、耳を劈く音と同時、凄まじい大きさの巨体が姿を現す。
「げぇ、ハイランダーの車両じゃねえかよ!」
ここら一帯を縄張りとするスケバンやヘルメット団にとって、ハイランダーの車両そばで戦闘とは非常に危険な行為を表す。
「おいスケバン共、あの列車通り過ぎるまで休戦だぞ!?」
「あぁ!? 知るかよんな事。お前らもあの列車も潰してやるぜ!?」
「馬鹿野郎! この路線の車両だけは―――!?」
その言葉は最後まで続かなかった。
スケバンの一人が車両へ銃を向けた瞬間、車両の側面に隠されていた機銃が顔を出したのだ。
『敵対行為かっくにーん! 両成敗しちゃうぞ☆…撃て』
1車両につき側面機銃10丁、両面で合計20丁。それが8両+運転車両なので180の機銃がぶっ放された。
悲鳴を全てかき消され、残ったのは横たわる100人の無法者と、1000発分以上の空薬莢であった。
AM 06:50 終点アビドス駅
『ご利用ありがとうございました。この列車は折り返しゲヘナセントラルステーション行きとなります。ご乗車される場合は改札口で乗車券をお買い求め下さい』
ここで全ての客は我先にと降りていく。
あのぽわぽわした生徒も必死の形相で列車を飛び降りる。
帰りは絶対にバスを使うんだと意気込み、改札へと切符を入れた。
―――ピンポン。読み取れません。駅員をお待ち下さい。
「……え、え?」
慌てて周りを見渡すと、一緒に乗っていた他の乗客はサッと目を逸らして去っていく。
いろいろ親切だったスケバンでさえも、降りたらもう知らねえと慌てて消える。
あたふたしていると、駅員が無線で通話しながら近づいてきた。
『改札にて問題発生。鎮圧用意しつつ対処に当たります』
そして傍に立った駅員が笑顔で「どうかしましたか」と対応する。
「か、改札に入れたらエラーが…」
そう伝えると駅員は改札機械の上部カバーを外し、中に挟まっていた乗車券を確認する。
「…機材エラーですね。問題ないので通っていいですよ」
笑顔で駅員はそう説明すると離れていく。
ここで「ご不便おかけし申し訳ございません」と出ないのがこの路線である。
「あ、ありがとうございます!」
まるで怖い事から見逃してもらえたかのようにお辞儀をすると。大慌てで駅から飛び出した。
AM 07:10
『ただ今1番線に停車しております列車は、アビドス発ゲヘナ行です。
ご乗車されるお客様は注意事項を必ずご一読の上ご利用ください』
「うへぇ~、じゃあ風紀委員長ちゃんに会ってくるから、皆お留守番よろしくね~」
ゲヘナ循環支線、試練の1日が始まろうとしていた。
感想やこんな役職の1日を見たいなどあれば教えて頂けると励みになります。
挿絵はChatGPTちゃんが頑張りました。
見たい話 どれか
-
復旧工事中、他の路線への研修
-
原作ミニストーリーのHL9000号と邂逅
-
ハイランダー構文のあの生徒と遭遇
-
鉄道公安隊の話
-
3年管理職の話