ハイランダー鉄道は本日も通常運行   作:文月フツカ

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アビドス~ゲヘナ間下り列車

 AM 07:15 アビドス2番線ホーム ゲヘナ行

 

 アビドス方面からの始発もとっくにゲヘナに着いた頃。

 ゲヘナへ折り返す為にホームで準備をしているのは特急GA3005号。

 

 ハイランダー鉄道学園は他校の自治区で有名な生徒(原作キャラ)が乗車しても対応は変わらない。

 どの路線でもこれは不文律なのだが、言い換えればこの路線で働くスタッフは相手が小鳥遊ホシノ(凄い強い生徒)であっても何一つ対応は変えないという事だ。

 

「乗車券を拝見します」

 

 激務続きで死んだ目をしている添乗員がホシノの座席にやってきた。

 ホシノとてこの路線以外のハイランダー鉄道は幾度か利用した事はある。

 

「うへぇ…これだよ~」

 

 少し本気を出した時(臨戦)の自分よりも重武装な添乗員を見て少し引いた。

 同じショットガン使いだからなんとなく分かるが、添乗員がスリングで止めているショットガンは、もう引き金を引けば撃てる状態なのだろう。

 

「確認しました」

 

 何度も何度も言うのだが、通常であれば謝礼であったりをいう場面だが、この路線はそんな事を一切しない。

 挙句に――。

 

「わっ、おっとと…え、投げ、た?」

 

 乗車券を返す時、座っていたホシノの膝に軽く放り捨てたのだ。

 いちいち手渡す暇なんて無ぇよと言わんばかりである。

 

 かつて乗った別の路線と違い、余りに酷い対応であったが、よく見ると周りの乗客全てに同じ態度をしている。

 文句の一つでも出るはずなのだが、普段路線を利用している客はもう何も気にしていなかった。

 

「てめぇなんだその態度は!? 接客業としてありえ―――み"ッ!?」

 

 だが勿論中には初めて利用する人であったりもいる。

 乗車券を投げて返された態度に腹を立てた乗客の生徒が立ち上がるが、その刹那、お腹にショットガンが2発叩き込まれた。

 

「車内ではお静かに願います。次問題を起こせば走行中であろうと車両から降りて頂きます(捨てます)

 

 酷い副音声付の案内が流れた。

 

「う、噂には聞いていたけど…」

 

 ショットガンで撃たれた生徒の横に座っていた別の乗客は、その生徒に手を合わせていた。

 

 

 AM 07:25

 

 ―――ッドォン!

 

「!?」

 

 出発直前、ホシノが乗っていた3号車の1つ後ろにある4号車(売店兼食堂車)から爆発音が響いた。

 それと同時に車内アナウンスが響き渡る。

 

『ただ今売店車両にてC4爆弾でカーニバルを行っていた方を制圧しました。この為5分ほど発車が遅延致します。

 またこれに伴い本日限りにおいて売店車両はご利用いただけません。飲食物をお求めの際は5分以内に駅構内の売店よりお買い求め下さい』

 

 ちなみに駅のホームから売店まで片道10分は掛かる。

 旅客特急の醍醐味の殆どが無くなった事に、流石に慣れた乗客たちも不満を出した。

 

「ちょーっと、アビドスでこの対応を続ける列車は…」

 

 そう思ったが、よく考えればアビドスの正式な自治区は現在利用している校舎周辺であり、線路があるここはハイランダー鉄道学園の自治区であった。

 

 

 AM 07:30

 

『GA3005号出発しんこーう。定刻5分遅れー。』

 

 このゲヘナ循環支線はゲヘナ都心部からアビドスを結ぶ路線なのだが、正確には"元"アビドス自治区の出入り口である都市を結ぶ路線となる。

 

「そういえば幹部のロリっ子姉妹がアビドスの生徒と揉めた事あったじゃん」

 

 運転士が機器を操作しながら、横で出発前の被害状況を纏めている車掌の生徒に雑談を振った。

 

「あーあったあった。あの姉妹って中央管制センター(CCC)だから監理室とバッチバチで怠いんだよね」

 

「近々視察来るってさ。さっき連絡回ってきた」

 

「おー神よー救い給えってね」

 

 そんな懺悔をしながら、車内放送用のマイクを車掌は手に持った。

 

『この列車はアビドス発ゲヘナ行です。到着まで1時間30分となっております。注意事項をご確認の上で大人しくご利用ください。この列車において、知らなかった聞いてなかったは一切通用致しません。

 また車内でも迷惑行為は全て撮影されており、悪質と判断した場合は加工無しでSNSへの投稿措置が取られます』

 

 この悪質と判断した場合という基準だが、凄まじく緩い。

 具体的には殆ど全てが晒される。

 

「いい加減アナウンスも自動音声にしようよ。その分他の作業できるよ?」

 

 アナウンス用のマイクがしっかり送信停止になっている事を確認した運転士は車掌に提案する。

 

「何言ってんの!? この路線で車掌からその仕事奪うとか、休憩時間削る所業だよ!?」

 

 禄を食むとはかくも厳しい物なんだよ!と古風な言い回しをして断固否定する。

 

「えーそうかなぁ」

 

「…そこまで言うならちょい運転代わるから、車掌対応やってみなよ」

 

「免許持ってんの?」

 

「あるよほら! 甲種動力軌道車両運転免許証(ハイランダー鉄道の免許)!」

 

「ほーんマジか。じゃあ暫く交代するかー」

 

 

 AM 07:45

 

 一時的に運転交代するにあたって、さっさと引継ぎ事項を終えた運転士は、車内無線を手に取った。

 

『運転士より通達。終着まで運転手は車掌と交代した』

 

 その放送を聞いてお客様の相手をしていた添乗員と補佐は顔を見合わせた。

 

「それってアリなの?」

 

 補佐が首を傾げるのだが、添乗員は少し青い顔をしていた。

 

「入学してこの路線に配備された時、車内での対応基礎を私に教えたのは運転士よ?」

 

「つまり?」

 

「対応は私より荒い」

 

 

 その言葉を断片的に聞いていた乗客は戦慄した。

 ただでさえ対応が荒いこの添乗員以上の存在が唐突に出てきたのだから。

 

 余談ではあるが、この路線において、運転士と車掌と添乗員の制服はスカートとなる。

 

 

 

 AM 08:00

 

「如何なされましたか」

 

 添乗員が別のお客様対応で手が離せない時に添乗員呼出ボタンが押された場合、車掌が対応する。

 その規則に準じて、車掌は現場へとやってきた。

 

 なんの偶然か、ホシノの横で起きた事件である。

 

「前の奴がリクライニングを倒してくるんだ。少しだけならいいがここまで倒されるのは不愉快だ!」

 

「私は指定席でここ買ったんですー。文句があるなら別の席に移れば?」

 

 ヘイローを持った生徒と犬型の一般人の争いである。権利を主張するのは生徒の方であるが。

 

「かしこまりました。お客様、一度リクライニングを元の位置へ戻して頂き、再度勢いよく一番後ろまで倒していただけますか」

 

 ここで一方的に戻せといっても反発されるので、もう一度全力で倒してみろと示唆する。

 

「はぁ? 一体コレに何の意味ィィィィィィ―――……」

 

 座席を勢いよく倒した瞬間、突如としてその乗客の真上の天井だけが吹き飛び、勢いよく元の角度に戻った座席ごと射出されていった。

 そのまま座席ごと空を飛んだお客様は、まだそのまま走行中の列車からベイルアウトを果たし、線路そばへと打ち捨てられた。

 

 運転士は無言で天井のハッチを閉めなおすと、タブレットにリクライニング射出による座席紛失にチェックを入れてその場を去った。

 

『リクライニング使用による座席紛失、車内対応完了ー』

 

『FFFFFFFFFF』

 

 同乗していた整備班から怨念のようなFワードが連発されるが、事後処理して役目でしょと無線を切った。

 

「ちょっと、砂漠地帯で人を捨てるなっておじさん達は何度か抗議文出したよね?」

 

 その瞬間、この車両の気温が一気に下がった。

 普段慣れている客は、ホシノをありえないような物を見るかのような目で、慣れていない客はそうだそうだと小さな声で囃し立てる。

 

 

 AM 08:05

 

「お客様はアビドス高等学校の方ですか」

 

「そうだよ~。アビドス高等学校3年、小鳥遊ホシノ。何回か君たちハイランダー鉄道学園に対して抗議文送ったんだけど届いてないのかな?」

 

 優しそうな口調とは裏腹に、ホシノの雰囲気はひどく冷たい。

 過去に何かトラウマでもあったかのような感じだ。

 

「ハイランダー鉄道学園は線路の上が自治区です。今回の事はハイランダーの自治区内で起こった事であり、他校の方が干渉する事は如何なものかと」

 

「今放り出された子、線路の上じゃなくて砂漠に着地したんだけど?」

 

「そうですね。それがどうかされましたか」

 

「水も食料も無く砂漠に放り出される危険さを知らないっていうのかなー」

 

「線路があるので遭難はしません。また、リクライニングに関しては事前の注意事項に記載されてます」

 

「……あの子を拾うために列車を止めてくれるかな」

 

「遅れた分の被害額をお客様が補填されるのでしたら」

 

 

 AM 08:10

 

 開戦は、唐突だった。

 

 お互いに暫く無言の睨み合いが続いたが、どちらともなくお互いにショットガンをぶっ放した。

 

「ッ、意外に硬いね」

 

「このッ!」

 

 お互いの1手目が有効打で無かったのを確認した2人は、お互いに空いている座席へと身を隠した。

 

『運転士より至急。車内にて反撃事案発生。3号車封鎖措置』

 

 そう通信すると同時に、運転士らが居た車両の窓と扉がロックされ、非常灯が灯った。

 

 

 AM 08:13

 

 他の客が逃げる隙も無い中で、完全に封鎖された3号車。

 

 2号車に居た添乗員と補佐2人が、いつでも突入出来るように待機していた。

 

 中から悲鳴をかき消すほどの爆発音と衝撃、そして銃声が聞こえてくる。

 

「最悪の場合は通気口経由で催涙ガス流すか」

 

 補佐は催涙グレネードを手元でお手玉しながらぼやく。

 もちろん周りの客は嘘だろと目を剥いて距離を取っていく。

 

「あー思い出した。むかーしアビドス生徒が砂漠で遭難して何かあったらしい。運転士からの情報だとそれ関連で客が怒ってるんじゃない?」

 

「えぇ知らないよそんなの。大体この路線は客を投げ捨てるって明記してるじゃん」

 

「だよねえ」

 

 

 AM 08;15

 

 ―――ガンッ!

 

 そんな鈍い音と共に、突如として封鎖していた扉が突き破られた。

 同時に、ボロボロの運転士が待機していた添乗員らの横を吹き飛んでいく。

 

「……マジか。運転士(あの人)って私より強いんだけどな」

 

 添乗員と補佐がショットガンを構えて3号車に突入すると、そこには少し傷を負ったが、全く戦闘に影響が無いホシノが経っていた。

 

「うへぇ~。まだ来るの?」

 

 運転士が対応していた時とは違い、雰囲気は柔らかくなっていた。

 

 というのも、運転士との初動が終わった後、ホシノは急いでアビドス対策委員会に連絡を入れて、ベイルアウトした客を捜索するように頼んだのだ。

 

 幸いにも線路沿いであることから直ぐに見つかっており、よくよく確認すれば、座席は線路が必ず目視できる範囲に落ちるように設定されているとの事だった。

 

 無法の路線の整備班にも人の心はあったようである。

 

 対策委員会で安全は確保するとの事なので、人が、生徒が、誰かしらが死ぬといった事は無くなった。

 だがそれを差し引いてもこの路線の対応は酷いとホシノは口に出す。

 

「警告します。これ以上の戦闘は完全なる営業妨害と判断し、あらゆる手段を用いて排除します」

 

 などといいつつ2人はショットガンをホシノに叩き込んでいく。

 ホシノは大きな盾で防いでおり、特に堪えた様子は無い。

 

 そんな中で、添乗員は徐に、プレートキャリアに装備していた催涙グレネードに手を伸ばす。

 それに気づいた乗客の1人が声を上げた。

 

「嘘だろ!?」

 

 いよいよそんなもの使うなど、周りの客からすればたまったものではない。

 

「お、おいアンタアビドスの生徒だろ!? さっきの客は自業自得なんだからもういいだろ!」

 

「そうよそうよ! 普通に利用していれば問題ないんだから巻き込まないで!」

 

「うへッ!?……し、仕方無いか」

 

 これ以上関係ない人を巻き込むのはどうかとホシノも判断する。

 そして愛用のショットガンと盾を下した瞬間、とんでもない電流がホシノを襲った。

 

 続いて背中からショットガンを浴びせられて膝を突く。

 

「確保!」

 

 その言葉で一斉に取り押さえられ、手錠を掛けられた。

 

「うへぇ~、分かったよー。もう動かないから~」

 

 ホシノはそのまま大人しく添乗員が待機する区画へ連行されていった。

 この時ホシノは、真後ろからテーザーガンを食らったのだが、別段効いても居なかった。

 

 連行される間際に、後ろを振り返ると、何故か2号車に吹き飛ばしたはずの運転士が、4号車の方に立っていた。

 ご丁寧にテーザーガンを左手に持って。

 

 

 AM 08:30

 

 ホシノとの戦闘があった3号車は被害が凄まじかった。

 窓は割れて天井の一部は酷く開放的になっている。

 

 だが、この程度なら、乗務員からすれば問題は無い。

 整備班はガチギレであるし、乗客は砂漠を抜けるまでの間酷い砂が混じった風に耐えないといけない。

 

 そしてこの路線の生徒からすれば、別段ホシノの様に文句を付けてくる客など沢山いる。

 最後まで話を聞かない奴は勿論車両から降ろされるが、まだまだ理性的だったホシノは、とりあえずは隔離区域へ連行で済んだ。

 

「車両や備品の被害額はアビドスへ請求します。またこの路線を注意事項は公式サイトに記載されてるので必ずご一読ください」

 

 おじさんも沸点が少し低くなって軽率な行動だったよーと反省し、アビドスへの賠償金額を聞いていた。

 

「でもね、本当に砂漠地帯へ投げ捨てるのだけは止めてあげてほしいんだ。その子が悪い事もあるだろうけど、せめて次の駅とか、都市部に近づいたら降ろすってのはダメなの? いまここの、隔離区域とかに入れてさ」

 

 添乗員と補佐は顔を見合わせて、何言ってんだコイツといった表情を浮かべる。

 

「ご存じないようですのでお教えしますが、この路線も当初はその様な対応でした。

 ですが1年半ほど前、ちょうどこの路線のこの隔離区域で自爆テロが起こりましてね。爆発の衝撃で列車は全て横転し、乗員乗客全員がもれなく重傷でした。

 ただでさえ普段から利用客の民度が低い所にそのテロですからね。貴女が吹き飛ばしたあのスタッフも当時の経験者です」

 

 それ以降、この路線は乗客に対する扱いを改めた。

 

 

 AM 09:00 ゲヘナセントラルステーション

 

 とはいってもこの程度の被害なら通常より少し酷い程度である。

 これ以上はと言っていた客も、普段から慣れている為そこまでうるさくはしていない。

 

 3号車だけ8割程原形を止めてないまま終着駅に滑り込んだ。

 

「私が運転代わった時だけコレはずるくないー?」

 

 運転士が車掌の横でグチグチ文句を言うが、車掌は一切気にしていない。

 

「知らない。でも車両内の鎮圧で負けるなんて珍しいね」

 

「プレキャリ着てなかったからさ」

 

 残酷な真実を言えば、今回はホシノもプレートキャリアを装備していないし、普段の実力も出していない。

 どこまで行っても、キヴォトス最高の神秘と呼ばれる存在には彼女では敵わないのだ。

 

「それより帰ったらヤバイよ。管理から連絡あったけど、整備班が笑顔で待ち構えてるって」

 

「……ほら、アナウンス」

 

『ご乗車ありがとうございました。終点、ゲヘナセントラルステーションです。お忘れ物はお手元に戻ってきませんのでご注意ください』

 

「暴れていたアビドスの生徒は?」

 

「なんか偶然近くにいたゲヘナの風紀委員長とシャーレの先生と一緒に行ったよ」

 

「いいなーそんなビッグネームに囲まれたい。私らこれから整備班に囲まれてボコボコにされるのに」

 

 更に言えば、一旦車庫に戻って整備を終えたら、また運行しなければならない。

 現在時刻、凡そ朝の9時。

 

 そう。まだ朝の9時なのだ。

 

「1日が、1日が長いッ…」

 

 この路線スタッフの総意がコレなのだ。

 

 

 ゲヘナ循環支線、試練の1日はまだお昼にすら至っていなかった。




この原作キャラ乗せてとか教えて頂ければ励みになります!
次は車庫に戻った時の描写や整備班の予定

※この作品はギャグやコメディ全開なので、シリアス展開の予定は一切無いんです
また誤字脱字報告いつもありがとうございます

見たい話 どれか

  • 復旧工事中、他の路線への研修
  • 原作ミニストーリーのHL9000号と邂逅
  • ハイランダー構文のあの生徒と遭遇
  • 鉄道公安隊の話
  • 3年管理職の話
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