皆さんありがとうございます。
AM 09:10 ゲヘナ循環支線 GA3005号車庫
「降りてこいボケェ! 野郎ぶっ殺してやる!!!」
「流石に3号車と食堂車が同時に大破したらああよね」
「今出てったらマジで殺される」
運転士と車掌は運転室で頭を抱えていた。
列車の車輪横には複数人の整備班が鬼の形相で声を上げていた。
「スパナとレンチで頭叩き割る準備万端って?」
「…幸いなのは3号車の被害はアビドス持ちだから会計担当からは何も言われない」
お互いに溜息をつくと、仕方ないとゆっくり立ち上がり、運転席から外へ飛び降りた。
すると待ってましたと整備班に囲まれ、四方八方からタコ殴りにされた。
AM 9:30
「まあ顔面にグーは仕方ないとして、工具で頭を何十回は流石に酷いー」
「救急車ぁぁ」
「整備の私たちはこの2両を直すのに徹夜が確定したんだけど?」
「
「これ何の補給を申請すればいいの?」
整備班のうちの2人が運転士らの意見に反論し、補給担当はもう放心状態である。
そうしてわちゃわちゃしていると、管理職の3年生がやってきた。
「えぇ…この顛末書私が纏めるの? もう新しい車両申請しようかな」
仮に新しい車両になったとして、いったい何分間無傷で居られるのかという疑問が残る。
AM 09:35
「3号車は基礎フレームやらはセーフ。4号車はC4爆弾のおかげで風通し良すぎてアウト」
「大体C4カーニバルとは? 予備の窓も無いし…仕方ない3号車は窓の代わりに終日軽装甲シャッター降ろそう」
整備班と補給班が慌ただしく車庫内を駆け回る。
車庫とは通常なら文字通り車両を置いておくための場所で、本当に簡易的な整備しか出来ない。
ただしこの路線に限って車庫の中に整備場の機能も加えている為、その場で修理ができる。
「4号車は内装全焼、車両中央に爆発による陥没・売店用食品冷蔵庫全損。あと天井が…」
「あかん…あかん」
「曲がったり圧し折れているフレームは補修パーツで誤魔化せ! 電力配線やらは予備バッテリーに繋いどけー!」
弾痕を埋める。射出したリクライニングの場所に新しい座席を置く。焼損した場所の煤を取ったりする。
そんな作業だけならどれほど良かった事か。
「うおおお神よーーー! こんなの終わるわけねーだろバァァァカ!」
AM 09:40
地獄なのは整備班だけではない。
「3号車の被害額はアビドス持ちですって…? なんで食堂車の被害も請求してないんですか!」
「流石にそれは…。幸いC4カーニバルやったアホの身元は割れてるから、所属校に請求すればいいじゃん」
PC画面の帳簿と車掌や運転士がタブレットに保存した被害内容を照らし合わせて、補給担当と会計担当は話し合っている。
しかも忘れてはいけないのが、この2両以外の車両もそれなりに被害が出ている事だ。
さらにさらに言えば、添乗員らが使う銃や装備もここから捻出されている。
「……ちょっと待って。ちょい運転士ちょいこっち来て」
「どったのー」
補給担当が青ざめた顔で運転士を呼び寄せた。
呑気な顔で近づいてきたアホ1人の頭を掴んだ補給担当は、無残に拉げている扉を指さした。
「あの、3号車と4号車を繋ぐあの扉! なんであんな風に突き破られてんの!?」
「あーアレ? アビドス生徒の重い奴貰って、吹き飛ばされた私が当たった」
そういうと同じく近くで聞いていた整備スタッフもその異変に気が付いて声を上げた。
「いやこの扉って対物ライフルすら防ぐ装甲厚なんだけど。なにお前も化け物になるんか?」
運転士はそれを聞くと、道理で背中の痛みが取れないわけだと溜息をついた。
別にそんな重装甲を突き破れるほど頑丈になった覚えは無い。
ただあのアビドス生徒の力は、想像以上におかしいのだろう。
「おいしゃさーん」
背中をさすりながら応急室へと向かう運転士。
驚いていた2人は去っていくその背中を一目見ると、何も言わずに持ち場に戻った。
AM 10:00
「で、結論から聞くけど、次発の10:45分に間に合う?」
「凄いね。この惨状で間に合うとか思ってるんだ」
間に合わない。もはやこの一言すら真面に返してくれない整備班であった。
そしてそんな反応など一切気にしないのも運転士である。
「
「いっそこの3005だけ運休してもいいかも」
運転士らはそれを聞くと、ぜひ運休にしようと騒ぎ出す。
運休となってもここで整備の手伝いなどが必要だが。露骨に面倒なお客様対応は無くなるのだ。
更に言えば路線の売り上げが致命的でも、学園本部は給料を払う義務がある。
つまり自分たちにとっては美味しすぎる話なのだ。
「ぜひそうしましょう! 補給からも運休を上申します!」
「整備としてはどっちでもいいよ。ただこの2両は絶対動かせないけど」
「君らこんな時だけ調子いいじゃん」
管理職はブツブツ文句を言いながら通信室へと入っていった。
「お昼ピザ頼もう。8連勤とかいうゴミシフトの代償貰ってもいいでしょ」
その場の全員が「さんせーい」と手を挙げて、各々頼みたいピザのカタログをスマホで調べ始めた。
AM 10:15
「駄目だった。その2両連結から外して運行しろだって。あと明日までに整備終わらせろとも」
「はー!? そんなんだから3年になっても
「言っておくけどこの役職だって就くのは大変だし選ばれたエリートだからね!?」
「でも貴女と同期の3年って殆どがCCCやオフィス組になってるじゃないですか」
それを言うと管理職の3年生は露骨に下を向いて涙目になってしまった。
因みにこの3年生は別に無能ではなく、どちらかといえば有能の類に当たる。
それこそ中央や役員になれる実績や能力もあるのだが、運だけは非常に悪かった。
入学して最初にこの路線に配置されたのが全ての過ちの始まりであるし、ここで仕事が出来るという能力も示してしまった。
従って、他の路線の同期らが普通に活躍して出世していく中、ここで燻り続ける事になったのがこの可哀想な3年生である。
「あーあ。せっかくピザ食べれると思ったのにー」
しかし下級生もとい部下からすれば、上級生たる上司の境遇など知ったことではない。
ブツブツ文句言いながらも連結解除が行われて、出発準備に入るのであった。
AM 10:25
『再編成終わった。行っていいよ』
整備班が無線で運転士に伝えると、運転士はまだ文句をいいながらエンジンを起動した。
「アビドスから帰ってくる時、
車掌が運転士にそう提案する。
「アビドスになんか名産品あったっけ」
と、スマホを弄りながらゆっくり列車を動かす。
そのままチラッと管理職の部屋をのぞけば、まだイジけている3年生が目に入った。
因みに整備班は主に2種類に分かれており、片方は通常の車庫待機組と、もう一つは列車に同乗する組だ。
主に連絡駅などでの窓張り替えや、リクライニング射出後の整備などがある。
「砂ぐらいしかないよね。まあそこら辺の物産店でいいでしょ」
残念なことだが、管理職の扱いは昔からこうなのであった。
それでも持っていけば「ありがとうー!」と喜んではくれるし、お土産を渡される程度の人望は備わっているのだ。
AM 10:30 ゲヘナセントラルステーション
『ただ今到着の列車は、10:45発特急アビドス行きです。この列車は始発時にお客様が大人しくご利用されなかった為、終日食堂車と3号車はございません。3号車の乗車券を購入されている方はご乗車頂けませんので、別の車両の乗車券をお買い求め下さい』
客に対して一切の謝罪が無いのはこの路線のデフォルトであり、補填などという甘い措置も基本無い。
さらにこの駅は都心部にあるのでかなりの大きさを誇る。その為ホームから改札まで往復20分は掛かる。
列車が出発するのは到着後15分なので、ほぼ間に合わない。
言外に諦めろ帰れと言われている。
勿論、そんな事を納得出来る人は少ない。
ましてや返金対応すら無いというのだ。
「ふざけないでよ! 乗れないならせめてお金返して!」
「これから大事な商談があるんだぞ!? 別の車両に乗る補填があるべきだ!」
こういった声がホームのあちこちから聞こえて来た。
元から別の車両の乗車券を持っていた客は、我関せずを貫いており、声を上げる人からも距離を取る。
『駅員より添乗員へ。やっぱ反発大きいけどどうする』
『騒ぐやつには鉛玉だー』
この路線は、客の起こした責任は客の責任。乗務員のやらかしは客のせい。
そんなとち狂ったスタンスを、「暗黙の了解」などといってお茶を濁し蔓延らせていない。
正々堂々と正面から、この路線で起こった事件と事故は全てお前ら客の責任、と声高々に叫んでいる。
あまりの開き直りっぷりに絶句する3号車の予約客たち。
ハイランダー鉄道学園本部に苦情も入るが、各路線の運行はその路線に一任されている。
結局、今日もこの路線のホームには銃声が鳴り響いた。
AM 10:45
『臨時編成GA3005号 出発しんこー。定刻通り』
なぜアビドス行きというローカル特急がここまで利用客が多いのか。
なぜこんな問題だらけの接客対応で廃線やスタッフ入れ替えにならないのか。
それは始発駅であるゲヘナセントラルステーションから、アビドス路線まではゲヘナ循環線と同じ線路を通るからだ。
したがって、循環線内の駅を3分の2ほど停車する。
だから結構多くの人がゲヘナ循環線の代わり、もしくは循環線と勘違いして利用している。
それを知らずに自由席で寝ていると、アビドスなどという聞いたことも無い方面へスイングバイするのだ。
AM 11:15
「何がアビドス行きよ! はやく循環線の次の駅に行きなさいよ!」
どこかの学校の生徒がそう叫ぶ。
「出発時のアナウンスの通り、アビドス行きです。お伝えしています」
「だから!? じゃあ分かれる所が近づいてきたら起こすのが常識でしょ!?」
「……分かりました。お客様を直ぐにこの列車から降ろしましょう」
ここで「あっ…」と察する事が出来ないのは、普段からこの路線を使っていない証拠である。
「何当たり前の事言ってんのよ! それぐらいの"ォッ!?」
突如としてショットガンが腹部に3発ほど叩き込まれ、立ち上がっていた乗客は膝を突いた。
添乗員はその生徒の髪を遠慮なく掴むと、そのまま引き摺って車両の出入り口付近へと持ってきた。
痛い痛いと泣き叫ぶのを尻目にドアをあけ放ち、何の躊躇もなく投げ捨てた。
勿論、走行中である。
幸いな事といえば、アビドスへ分岐してから数分しか経っていない事だ。
PM 12:15 終点アビドス駅
「で、被害は?」
「無賃乗車15件、2号車の窓ガラス6枚。リクライニング射出3件と、外へ捨てた客は19名」
「はー多い。多いし報告が怠い…」
砂漠地帯に捨てられたのは5名。
ホシノとのやり取りなどもう乗務員の中では大昔の忘れ去った出来事であった。
「またゲヘナ戻って休憩して、もう1回ここに来れば今日は上がれる…」
「マジでアビドス側でシフト上がりしても何も嬉しくない」
「おーい。私らお土産見てくるけど何かいる?」
「コンビニでおにぎりとお茶買ってきてー」
運転士は持っていた学生用のキャッシュカードを投げ渡すと、駅員室の机に突っ伏した。
車掌は定時報告を纏めつつ、整備班と談笑している。
添乗員と補佐はアビドスの暑い日差しに文句を言いながら、物産店とコンビニに出かけて行った。
「次は13:00丁度発か…。いやいや転校しようかなマジで」
PM 12:40
『GA3001号より路線全車! 温泉開発部のテロ攻撃発生! 車両及び周囲1キロ程度の軌道が…い、今無くなった』
駅員室にいた全員が一斉に顔を見合わせて崩れ落ちた。
『野郎、ぶっ殺してやぁぁる!!!』
それは、決して定時で上がれない事が決まった瞬間であった。
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次回:温泉開発部との遭遇とその後始末
見たい話 どれか
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復旧工事中、他の路線への研修
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原作ミニストーリーのHL9000号と邂逅
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ハイランダー構文のあの生徒と遭遇
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3年管理職の話