TS魔法少女飲酒フォックス   作:TSF大好きマン

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相棒

 機械兵との戦闘から一夜明け、ヒカルは魔法少女協会の支部へと足を運んでいた。

 魔法少女姿で駅地下の専用ゲート前に立ったヒカルを、柔らかな光が包み込む。

 

『〈ワイルド・フォックス〉の魔力反応を確認。第三支部への通行を許可します。』

 

 無機質な少女の声が告げると同時に、光は静かに霧散し、ゲートが無音で開く。

 その先に広がるのは無機質ながらも洗練された近未来的なロビーだった。壁や床は金属と強化ガラスで構成され、床のラインに沿って光が静かに流れている。

 受付カウンターでは女性職員が数名、端末に向かって作業をしており、ヒカルの姿に気が付いた職員の一人が軽く会釈をした。ヒカルは会釈を返すと受付カウンター横の通路へと足を進める。

 

 近未来的な通路を進んで少しして、強化ガラス張りの壁越しには、訓練室で模擬戦を行う魔法少女たちの姿が見えた。

 訓練室では光弾が飛び交い、金属の床には煌めく魔力の跡が焼き付いている。若い少女たちが真剣な表情で武器を振るう中、指導役と思われる年長の魔法少女が、その動きを逐一チェックしながら指示を飛ばしている。

 

(――新人魔法少女の訓練か…懐かしいな。)

 

 ヒカルは通路の窓越しに目を細めると、かつての自分もあの場で汗を流していたのを思い返す。

 魔法少女になって右も左も分からなかった当時のヒカルは、師事した魔法少女に徹底的にシゴかれ魔法少女のいろは――機械兵との戦い方から魔力制御の基礎に至るまでを叩き込まれた。ついでと言わんばかりに女としてのあれこれを伝授されたのも今となってはいい思い出である。

 訓練室から視線を外し、ヒカルは歩みを再開した。目指すはさらに先の精霊たちの居住区だ。

 

 

◇ ◆ ◇

 

 

 そこは幻想的な空間だった。

 精霊たちの故郷から持ち運ばれた植物類が各地に植えられ、そのどれもが地球上の生態系には存在しない異界の植物であり、宙に浮かぶ七色の蔦や、淡く発光し続ける青白い草花等が周囲に神秘的な輝きを放っている。

 天井には精霊たちの故郷の空を再現した人工の空が投影され、見たこともない星座が煌めく夜空が広がっていた。

 不思議と空気は澄んでおり、ヒカルは胸の奥が静かに落ち着いていくような感覚を覚える。

 

そんな幻想的な空間の中で、それぞれ異なる姿をした精霊たちが思い思いに過ごしていた。地球上の生物に似ているがどこか違うもの、妖精のような姿をしたもの、形すら定まらない光のように揺らめくものも居る。

 この場に居る精霊たちは皆、魔法少女と契約を交わした存在であり、この世界を守るために人類に力を貸している。

 

 魔法少女は勿論、協会職員すらあまり立ち入らない精霊たちの居住区に足を踏み入れたヒカルを、精霊たちがちらちらと視線で追う。その視線は敵意でも警戒でもなく、ただ純粋に物珍しさで向けられているものだった。

 好奇の視線に気恥ずかしさを覚えながら、ヒカルは足早に目的の場所へと歩を進める。

 目的の精霊は直ぐに見つかった。人工物の岩の上で寝転がりながら、尻尾をゆらゆらと揺らしている。眠そうに欠伸をしており、こちらに気づいている様子はない。

 

「…ユズ、少しいいか。」

 

 その言葉に狐のような耳がピクリと動いた。寝転がっていた白いワンピース姿の銀髪の少女、ユズは上体を起こし、目元を擦りながら眠たげに背筋を伸ばす。

 サファイアのような青い瞳に、腰まで届く柔らかな銀色の髪。頭頂部からはヒカルとお揃いのふさふさとした大きな狐耳がぴんと立ち、腰の辺りからは同じく銀色の尻尾が一本、ゆるやかに揺れている。

 その姿はヒカルを少し成長させ、髪と瞳の色を変えたかのようにも見える。何も知らない者が見れば、二人は姉妹だと思うことだろう。

 

「んー…ヒカルが居住区に来るなんて珍しいね。何か用かな?」

 

 ユズは尻尾を一度ぽんと岩に打ち付け、ヒカルに隣に座るよう促した。ヒカルは軽く頷くと、ゆっくりと隣に腰を下ろした。

 

「昨日の空間異常で少し、気になることがあってね。」

 

 ユズは興味深げに目を細めると、体を少しヒカルの方へと寄せた。

 

「気になること? 何かあったの?」

「言語化が難しいけど、今回の揺らぎは何かいつもと違うような気がしたんだ。」

 

 ――空間異常。

 機械兵たちの出現に伴い空間に生じる揺らぎであり、これまでもヒカルは何度もその異常を体験してきた。今回感じた"不穏な気配"と"不快感"は単なる空間の揺らぎ以上のものだった、ような気がした。

 

「ボクたちは此処でサポートすることしかできないから、ヒカルが感じた違和感の正体を突き止めることはできないかな…でも、感じた違和感は何か重要なサインかもしれないね。」

「ボクから他の精霊たちと職員に伝えておくよ。話してくれてありがとう、ヒカル。」

 

 ユズは優しく微笑みながら、そっとヒカルの頭を撫でた。

 

「そういえばこの前、ミサキがヒカルに話があるって言っていたよ。」

「げっ…。」

 

 ユズの口から出た名前を聞き、ヒカルは顔をしかめた。

 ミサキはヒカルとの連絡を担当している協会の女性職員だ。酒類の注文窓口も兼任しており、つい先日、大量の酒類を注文したばかりのヒカルに話があるということは十中八九、小言に違いない。

 逃れられない運命を悟り、ヒカルの狐耳がしゅんと垂れた。その様子を見て、ユズはくすりと笑う。

 

「ミサキがヒカルに話がある時は、大体お酒の話だよね。」

「ちょっと注文しただけなのに、あの人色々言ってくるんだよ…。」

 

 嘘である。"ちょっと"で済む量ではなかったことを、ユズは知っていた。だがそれを指摘することはせず、代わりに尻尾をゆらゆらと揺らしながら言葉を返した。

 

「でもミサキが怒るのは、ヒカルの健康とかを心配してのことじゃないかな?」

「…そうだとしても、酒くらい好きに飲ませてほしいんだ。」

 

 図星をつかれたヒカルはむっとした顔でそっぽを向くと、口を尖らせた。拗ねたように吐き捨てたヒカルに、ユズはふっと笑みを浮かべる。

 

「子どもみたいなこと言っていると、余計心配されるよ?」

「…わかってる。」

 

 小さく吐き出すように答えたヒカルは、視線を落とした。

 肉体に引き摺られているのか時折、自分の振る舞いに幼さを感じることがあった。内面では冷静に物事を判断しているつもりでも、感情の波がふとした拍子に漏れてしまうのは、この"身体"の影響だろうか。

 その考えを振り払うように、ヒカルはユズと穏やかな談笑を交わした。

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