紅い弓兵と戦姫 【凍結】   作:無機物

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えー、皆様新年明けましておめでとうございます。
新年最初に投稿をすることができて安堵しているろころです。本来なら年を明ける前にもう1話投稿したいなと思い執筆していたのですが間に合いませんでした。
さて、自分のどうでもいい話はここまでにして。それではどうぞ!


城内

エミヤがエレオノーラに仕える事になってから数十日が経った。捕虜の頃の生活と今のエミヤの生活とを比べ大きく変わったところと言えば、監視役の兵がいなくなった事と行動の制限が外された事くらいだった。行動の制限が無くなったとは言え立ち入り禁止の場所はあったが、それでも充分に動ける範囲はあった。

だが、部屋は捕虜の時と変わらずあの狭い部屋のままだ。

これは聞いたところ、リムアリーシャ曰く

 

『烏滸がましいですね。現状、新たに部屋を用意する余裕はありません。今の部屋に不満があるのなら馬小屋をお勧めします。少し匂いますが、部屋の広さは保証します』

 

との事だった。露骨に嫌な顔を作り、話の後半はただの毒突きだった。エミヤにとって彼女への接し方を改めて考える必要があると感じた一時であった。

 

 

そんな彼は今、兵士達が食事をするために集まる食堂にいる。そこは多くの兵士達が利用するだけあって内装は広く造られている。刻が昼頃となり食事を取ろうと多くの人が集まってくる。

そんな中にいるエミヤは食堂にいながら他の兵士達と食事をしていなかった。

何故ならば

 

 

「スープが完成したぞ。今は一刻を争う。他に手のついていない作業はあるか?」

 

 

彼は厨房の中にいた。そう言ってエミヤは鍋を掻き回していた杓子から手を離し後ろを振り返る。彼の周りには今も忙しく仕事をこなす侍女達がいる。

 

 

「野菜を切る人手が足りません。エミヤさんお願いします!」

 

 

一人の侍女がエミヤにそう叫ぶ。それを聞いたエミヤは即座に行動に移る。包丁を持つと馴れた手つきで野菜を次々切っていく。

 

 

「ここを凌げば後は楽になる。ここが正念場だ。勢を出せ!」

 

 

自分を含む厨房にいる全員に克を入れる。

何故彼が厨房に立っているのか。それは今から一週間程前のことだった。

昼時になり食事を済ませようと食堂へ訪れたエミヤはあることに気づいた。食堂には何時もの様に多くの兵士が集い食事をしている。しかし、食事にありついている者より列を成し自分の番を待つ兵士の割合の方が明らかに多い。気になって厨房を覗くと侍女達が何時になく忙しそうに事をこなしていた。どうやら人手不足の所為で作業が遅れている様だった。

 

 

『人手が足りていない様だな。私も手伝おう』

 

 

この一言がこの一件の始まりだった。

これには侍女達も驚き、当然遠慮した。しかし、彼の引き下がらない強情な意思に負け彼の協力を受け入れてしまったのだ。だが、そのお陰もあって作業は息を吹き返したかの様に迅速になり、無事に人手不足の中の一時を終えることが出来たのだった。

そして、この日を境にエミヤは毎日厨房へ訪れ手伝いをする様になった。

彼の作る料理の味はとても美味しく。長年厨房で勤めてきた侍女も顔負けの腕前だった。

どこから持ってきたのかは不明だが、厨房に立つ際には常にヒヨコの画のある黄色いエプロンを身につけ、時に侍女達に指導を行う彼の姿は誰が見ても異様なものだった。しかし、そのことには誰も触れず的確な指導を行う彼に文句を言う者もいなかった。

 

気づいた頃には厨房は彼の縄張りの様な場所となっていた。

 

昼の忙しい時間を過ぎるとエミヤも食事を済ませた。この後は後片付けを手伝うのが彼にとって当たり前なのだが、侍女達にそこまで手伝って貰うわけにはいかないと断られてしまい、何時も食事を済ませた後はそのまま食堂を出ている。

 

食堂から出た後、正直エミヤには特にすることがなかい。まだ昼過ぎで今日は外が良く晴れている。部屋に戻るにはまだ勿体ない気がした。

稽古をしようかと考えるが行きはしない。考える事は皆同じ。今行っても人が大勢いて賑わっているに違いない。静かな場所で集中して行いたいエミヤには五月蝿すぎる。

 

 

「さて、どうしたものか」

 

 

今は公宮の廊下を歩いている。壁に面していない方を見れば立派な校庭が見れて、稽古に励む他の兵士もいる。

結局なにもせずにエミヤは暇を持て余していた。いっそのこと城壁の上へ行き外の見回りでもと一瞬思ったが門前払いを食らうのが落だ。

考えるのを止め、そこで足を止める。目の前には自分を嫌悪するリムアリーシャが立っていた。

どうやらエミヤに用があるらしい。

 

 

「君も大変だな。この度はどの様な件で私の元に来たのかな?」

 

 

エミヤが口を開くとまた彼女は露骨に険悪な顔を浮かべた。

彼なりに配慮した言葉を並べたのだが逆に気に触ってしまったらしい。言葉の選択を誤ったかと別の言葉を詮索するが、それより早く彼女の口が開いた。

 

 

「……エレオノーラ様がお呼びです。五メイル距離を空けて着いて来てください」

 

 

もはや彼女との蟠りを無くすことは不可能だと確信した瞬間だった。

 

 

 

 

「エミヤ。お前は弓以外に使える物はあるのか?」

 

 

会って早々、唐突にエレオノーラに訪ねられる。

場所は前に来たことのある執務室だった。案内をしたリムアリーシャはエミヤが部屋へ入っていくのを見ると何処かへ行ってしまった。

これで二回目となるが、以前と同様部屋の角は散らかっていた。

 

 

「剣でも槍でも。一流にこなすのは流石に無理だが、手に持てる武器なら全て使える」

 

 

掃除をしたい衝動に駆られながらこたえると万能だな、と彼女は呟いた。その声には疑いは無ったが、からかいが混ざっている。エミヤが言ったことを信じていないのだ。

 

 

「信じる信じないは自由だが、命じればそれを披露しますぞ。エレオノーラ様?」

 

 

「気に入らない」

 

 

彼女は不満そうに口を尖らせた。

 

 

「エレンだ。今度からそう呼ぶこと、決定事項だ。あと敬語は使うな。こそばゆい」

 

 

エレンとは自分の愛称なのだろう。確かに相手とため口で話すのは対等で話しやすいが、その相手は自分の主だ。この場に居ないがリムアーシャも黙っていないだろう。

 

 

「親しい者にはそう呼ばせていてな。その方が慣れているし、お前にもそう呼んで欲しい。私はお前のことを知りたい」

 

 

最後のとろこを聞くと、この機会に良いだろうとエミヤは口を開いた。

 

 

「随分と馴れ馴れしいのだな。それはお前の性分か? 戦うだけが戦姫ではないだろう。そんな様子では他の戦姫に劣るぞ」

 

 

エレオノーラはまた不満そうに表情が険悪になりエミヤを半目で睨み付けた。

 

 

「あいつと同じことを言うのだな。お前は……」

 

 

「アイツ?」

 

 

余程嫌っているのか発せられる一言一言に嫌悪感がある。つい最近に会った相手に馴れ馴れしく振る舞う彼女が嫌う相手は一体何者なのか。少なくとも彼女と正反対の性格であることは間違い無いだろう。

そんなエミヤの思考を読んでか、エレオノーラは話を続ける。

 

 

「口を開けば礼儀だの品性だのとやかましい貧乳チビ女だ。まぁ、ジャガイモの様な奴だな」

 

 

紹介と言うより完全なる侮辱だった。素性も知れない相手だが、彼女の軽率な行為を見かねての事なのだろう。何を言って聞かせたのかは分からないが、エミヤはジャガイモと言われたその人に強く同情した。

 

エレオノーラが溜め息をつく。

 

 

「……話が逸れたな。それで、さっき私が命じればお前は太刀筋を見せてくれると言ったな?」

 

 

確かに言った。真実を言ったのだ弁解する必要もない。エミヤはそれを肯定する。

するとエレオノーラは歩きだし、エミヤの横を通りすぎると後ろの扉に手を掛けた。

 

 

「お前に興味があるんだ。私だけじゃない。他の者もだ」

 

 

エレオノーラは後ろを振り向きエミヤを見る。彼女はその美しい顔に笑顔を浮かべ続ける。

 

 

「お前のことを知りたい。行こう、もうリムが支度を終わらしている頃だ」

 

 

笑顔を見せられる度に思わされる。彼女は人の前に立つ戦姫である依然に年頃の女性なのだと。

 

 

見慣れた稽古場でエミヤ、エレオノーラ、リムアリーシャの三人が居合わせる。

エミヤとリムアリーシャが武器を構え向かい合い、エレオノーラが離れた場所でそれを見ている。その顔はやや不機嫌だ。

 

少々時間を遡る。

エミヤとエレオノーラが稽古場へ訪れると、そこにはリムアリーシャがいた。彼女を見つけるとエレオノーラは急ぎ足に彼女の元へ歩み寄る。それに気づいたリムアーシャはエレオノーラに一礼する。

 

 

「すまない。待たせてしまったなリム」

 

 

リムアリーシャに労いの言葉をかけると後のエミヤへ振り向く。

 

 

「分かっているとは思うが、これからお前には武器を振るってもらう」

 

 

「承知している。それで、私の相手は誰がする?」

 

 

その問にエレオノーラは笑みを作り口を開こうとする。がしかし

 

 

「その役は私が」

 

 

「リム?」

 

 

エレオノーラが口を開く前にリムアリーシャが口を挟む。これには挟まれたエレオノーラ本人も驚きリムアリーシャの方を見る。彼女の眼差しの先には何時になく真剣で仏頂面なリムアリーシャがいた。

 

 

「エレオノーラ様。無礼を承知で進言します。この者との立合を私にやらせてください」

 

 

そして今に至る。

リムアリーシャの思わぬ発言に驚きを見せたエレオノーラだったが少し考えこんだ後、立合を許可した。

本来なら自分がやると言いたかった事を譲った彼女は不本意な結果に頬を膨らましていた。

 

 

「用意はいいですか?」

 

 

「何時でも構わない」

 

 

リムアリーシャが構える武器は片手で振れる長剣。戦場では馬に乗り手綱を引きながらの戦いになる。その為、使い馴れ戦場で活用する物を選んだ。

対してエミヤが選んだのも彼女と同様の片手で振れる剣。しかし、彼女の持つ物と比べ長さが半分しかない。

 

 

「本当にそれで良いのですか?」

 

 

自分と相手の得物を見比べてリムアリーシャが尋ねる。同じ武器とはいえ長さが違うのだ自分より半分も短い剣とでは自分に分がある。それが彼女の見立てだった。

 

 

「私の得物に不満があると思っているのならそれは間違いだ。と言っても実感は持てないだろう。始めてみれば分かる」

 

 

最後まで聞き終えるとまたエミヤに対する嫌悪感が沸いてきた。が、それは何時もの様に露骨に顔に出てこない。今は実戦でないにしろ互いに武器を構えている。余計な思考は取り払い、リムアリーシャは目の前に集中する。

 

 

(……何故仕掛けにこない?)

 

 

彼女の視線が捉えるエミヤの姿は誰が見ても異様。服もそうだが身構えも独特だ。得物の構えも独自に編み出したものに見える。

 

 

(こちらの出方を伺っている? いや違う、あれは……)

 

 

待っている。自分が仕掛けるのではなく、相手からくるのをただ待っていた。

 

 

「――なら」

 

 

相手が来ないなら自分が仕掛ける。

突きの体制になり重心をやや前のめりにし、踏み込む。その勢いを利用して前に剣を突き出す。

 

エミヤはそれを交わさず剣で受け止め、流す。物体同士の衝突を最小限に腕に掛かる負荷を軽減する。

 

ならばと彼女は横払い、斜め下からの切り上げ、更にそこから突きを繰り出す。最初に繰り出した攻撃で切り詰めた距離を駆使する。しかし、それも先と同じく尽く受け止められ、流されてしまう。

 

 

(……弓以外にも使えるというのは嘘ではなかった)

 

 

自分の攻撃をことごく受け流すこの剣技にリムアリーシャは感心を持つ。だが、それと同時に別の情も出てくる。

 

 

(……不自然だ。何故仕掛けにこない)

 

 

そうエミヤは防戦一方で全く反撃に移ろうとしない。相手の出方を伺っているのならもう十分な筈だ。なのに一度もその得物を攻撃に転用しない。あからさまな不自然だ。

 

 

「……やる気があるのですか?」

 

 

苛立ちを覚え、思わず口にしてしまう。

 

 

「無ければ最初からこの場に居合わせてないさ」

 

 

「ならば」

 

 

ならば何故かと、そう聞く前にエミヤの口が先に開く。

 

 

「君の出方を観察していたとでも言おうか。だが、それも今終わった」

 

 

刹那。リムアリーシャの背筋を悪寒が襲う。咄嗟の判断で後ろへ下がる。

気づいた時には虚空をエミヤが切っていた。

 

 

「――ッ!」

 

 

言葉を失った。今彼が切った虚空は先程まで自分がいた場所だ。後ろへ下がなかったら得物に捉えられていた。ここは稽古場。使っている剣も刃の潰された訓練用の代物だ。大事には至らない。しかし、それでも剣は剣。当たれば怪我くらいはする。

 

 

「良い反応だ。多くの戦場を駆けて来たと見て取れる。――次いくぞ」

 

 

そこから流が変わる。

 

 

「――くっ!」

 

 

立場が逆転し、エミヤが攻め、リムアリーシャが防ぐ。剣同士が交差する度に金属音が鳴り、腕に衝撃が走る。

彼女は防ぐばかりで攻撃に移れない。防ぐだけで精一杯だからだ。気を弱めれば今度こそ食らう。その考えが彼女の頭から離れない。

 

 

「防ぐのならもう少しまともにやれ。ただ受け止めてばかりでは腕が持たないぞ!」

 

 

それは尤もな意見だ。現に立て続けに防いでいる彼女の腕には既に痛みが走っている。

その結果。

 

 

「――あ」

 

 

次にエミヤの繰り出した横払いに力負けをしてリムアリーシャの手から得物が離れ、横に飛んでいく。

そこで勝負はついた。彼女はその場に立ち尽くす。

エミヤはそんな彼女の姿を見て勝ち誇ることも労いの言葉をかけることもせず、離れた場所にいるエレオノーラの元へ歩み寄る。

 

 

「これで私の弓以外の技量は理解い頂けただろうか?」

 

 

頷き、肯定するエレオノーラだが、その表情は険しい。

 

 

「技量はよく分かったが、解せないな。エミヤ、お前わざとリムの剣に当てて勝負を早々に切り上げただろ?」

 

 

「気づいていたか」

 

 

エレオノーラの言う通り、エミヤは防御から攻撃に移った際に攻撃の対称をリムアリーシャではなく彼女の持つ得物に向けていた。だから早々に痛手を蓄積していき最後には手から離れたのだ。

 

 

「確かに結果を見れば私が早々に切り上げた様になる。しかし、飽くまでもそれは結果であって故意ではない。その点は理解してもらいたい」

 

 

エレオノーラは視線をリムアリーシャ向ける。余程の衝撃を受けた様で彼女はまだその場で放心状態だった。その様子を見て溜め息をつくと、エレオノーラはエミヤ方へ向き直る。

 

 

「ここらで終わりにしよう。リムもあんな調子だしな。あと悪いが武器の片付けはお前に任せる」

 

 

それではな、と言うと彼女はエミヤに背を向けリムアリーシャの元へ向かっていった。その姿を見送るとエミヤは用意された武器を片付けるため稽古場の側にある武器庫へ足を運んだ。

 

 

翌日。

リムアリーシャは憂鬱だった。常に仏頂面で周りに振る舞うそんな彼女の異変に気づけるのは彼女と親しい仲でもあるエレオノーラくらいだ。

例え気分が沈んでいてもそれを理由に手を休ますのは理由にならない。

今日も何時もの様に主であるエレオノーラに城内での一件の報告をする為に執務室へ向かう。

だが、そんな中でもリムアリーシャは昨日の事を思い浮かべていた。

 

 

(……やはり彼は解せない)

 

 

エミヤとの立合に敗れ、立ち直った後彼女はエミヤという人間の事を考えた。

昨日、エレオノーラに無理を言ってエミヤと対峙したのも一部関係ない私情もあったが、大部分はそのためだ。

しかし、結果は弄ばれる様な扱いを受け敗れた。そればかりか、主のエレオノーラとため口で話すエミヤの姿を見てしまった。

彼が烏滸がましい存在だというのは彼女にとって変えようのないになってしまった。

 

しかし彼の気に入らない点だけを見つけたのかと言うとそうではない。彼の弓の技量の他、太刀筋もかなりのものだった。少なくとも今の自分では相手にならないくらいに。

 

 

(解せない点は多い。しかし、見直すべき点も少なくはないのでは……)

 

 

歩みを止め、外の景色を見る。今日も天気は良く、兵士達は稽古に励み、侍女達も天気が良い内と洗濯物を干している。風に吹かれ洗濯物が靡く。

 

 

「今日も侍女達は忙し……く?」

 

 

一瞬、何かの見間違いだと思った。だが完全に否定することが出来ず衝動に駆られ洗濯物を干す侍女達のいる場所へ向かった。

 

 

「……何ということでしょう」

 

 

物陰に隠れて、そっと侍女達の方を覗く。侍女達は何時もの様に仕事をこなしている。それは間違いない。

しかし、侍女が物干しに洗濯物を掛けるなか、物干し竿より背の高い者が。侍女に混ざって仕事をこなしていた。

格好は皆と同じく清掃服を着て頭に三角巾を株っているが。

 

 

「………」

 

 

彼女は何も言わずその場から立ち去ったのだった。

 

 

 




これからも不定期更新となり、折角書いてくださったご感想への返信を大幅に遅らせてしまったりと大変失礼な事を今年もするかと思います。
なるべくそう言ったことが少なくなる様に努力致しますので今年も自分の作品『紅い弓兵と戦姫』を宜しくお願い致します。
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