静止の月に花開く   作:Mr.♟️

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9話

 

 

場内アナウンスが響く

 

『A組から登場ッ! 氷を操る氷の貴公子!戦場を凍てつかせる、冷徹で強大な個性!!轟焦凍ォォォ!!!』

 

地鳴りのような歓声。轟は今回の体育祭の優勝候補筆頭であり、エンデヴァーの息子という注目の的。先ほどの緑谷出久戦では、ついにその左側──炎を使用した。とはいえ、それは緑谷に対してのみの決断。彼が炎を再び使うかは不明だ

 

──だが、塩崎は感じていた

 

(あの戦いは、特別だったのでしょう──であれば、今の彼が使うのは氷のみ)

 

ならば、勝機はある。もし、この憶測がハズレていて轟が炎を使うのであれば、塩崎に勝ち目はない。個性の相性が悪すぎる

 

『対するはB組ッ!!信仰を刃に──貫け!聖なる戦乙女!! 塩崎茨ああぁぁぁッ!!!』

 

高らかにアナウンスが響く

 

ステージへと続く道を、塩崎はまっすぐに歩く。かみしめるかのように、ゆっくりと──確かな覚悟と共に

 

(私は、負けるわけにはいきません)

 

そこにあるのは、信念と誓い。そして、あの人と──花月雫と同じ舞台に立ちたいという、どうしようもないほどの願い

 

リングに上がった彼女の視線は、正面の相手──轟焦凍に向けられる

 

(強敵です。でも、怖れてはいけません)

 

「全力であなたを倒します」

 

静かに、そしてはっきりと口にした。その言葉に轟は何も返さない

 

 

 

『──スタートッ!!!』

 

開始の合図とともに、氷柱が地を走る。容赦はない。塩崎は瞬時に跳び上がり、茨を地面に走らせる。氷が伸びてくる方向を読み、茨で軌道を変えながら着地した

 

(早い....ですが、避けられない速度ではありません)

 

彼女は即座に反撃へ転じる

 

「──茨よ!」

 

茨がリング上を駆け巡る。轟の足元を狙い、氷の展開を妨げるためだ。だが、轟はそれを察してか、無造作に手を振り払った

 

轟から瞬時に放たれた氷は、塩崎の茨を一気に凍結させていく

 

(凍結範囲が、予想以上に広い....!)

 

下手に茨を這わせれば、それごと凍らされて足場を削られる。茨の使用には慎重さが求められた

 

(距離を詰めるべき。近接なら!)

 

塩崎はすぐさま動く。轟との間合いを詰め、氷が展開される前に仕掛けた

 

「せいッ──!」

 

轟はそれを紙一重で避け、距離を取ろうと氷を出す。だが、塩崎は更にそれを読んでいた

 

(逃がしません!)

 

跳躍し、空中から茨を轟に向ける。捉えて引き寄せるように

 

「っ!」

 

轟が氷で足場を造って防御するが、凍らされる寸前、塩崎は茨を瞬時に引き戻す

 

着地と同時に、茨を地面に這わせる。轟の足元から狙うように

 

「動きを──封じます!」

 

その瞬間、轟は前方へ滑るように氷を生成。塩崎の攻撃を避けつつ、距離を再び取り、右手を振る

 

「……っ、!」

 

一面が白く染まる。全力の氷の波。塩崎は即座に反応し、茨で自身を持ち上げ、空中へ避難する

 

だが──

 

(遅かった....!)

 

右足が、氷にかかった。

 

一瞬にして脚部から膝までが凍結される。着地の自由を奪われた塩崎はバランスを崩し、背中からリングへ叩きつけられた

 

「──がっ...!」

 

息が漏れる。身体が軋む。立ち上がろうとした瞬間、轟が再び氷を走らせてきた

 

(このままでは....!)

 

塩崎は必死に茨を操作し、自らをリング外へ吹き飛ばす氷の波から防御する。氷は茨の防壁に遮られ、間一髪リング内に踏みとどまる

 

(ここまで差があるのですか)

 

塩崎は、自分の体がすでに限界に近づいていることを悟った。氷による足の凍傷、着地時の衝撃、そして──気力の摩耗

 

それでも──彼女は立ち上がる。

 

(──まだ、終われません)

 

「....花月さん、あなたと決勝で...私が」

 

わずかに笑みを浮かべ、再び茨で轟を攻撃する──だが、その攻撃は無意味だった。轟の足元から生み出される氷の塊。塩崎の身体は凍りついた

 

「詰みだ」

 

 

「...っ!うご...いてっ!」

 

既に氷で動きを封じられた塩崎。数分後、ミッドナイトが試合を止める

 

『──勝者、轟焦凍ッ!!』

 

場内に、歓声が響く。

 

リングの上、氷を溶かしてもらい、そのまま地面に崩れ落ちる塩崎。轟は氷をとかし終え、早々にリングから降りている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(.....叶いませんでした。花月さん)

 

それが、私は悲しい。花月さんの期待に応えられなかったことが、決勝で花月さんと戦えないことが──この上なく悲しい

 


 

閑話①

 

体育祭・午後の部。観客の熱気も冷めやらぬ中、スタジアムに明るい声が響き渡った

 

『さあさあ、ここからはちょっと一息、レクリエーション競技の時間だゼェェェェェェェェェ!戦いの前に、愛と笑いと青春を!借り物競走の始まりだァァァァァァ』

 

会場に軽やかな音楽が流れ出す。どこかコミカルな空気が観客の笑いを誘い、プレゼント・マイクの実況がすぐに乗る

 

『最初の出場者はこの4人!さあて、どんなお題が飛び出すかな!?引いたお題の借り物を連れて戻ってきたらゴールだ!誰が一番先にたどり着けるのかっ!?』

 

そして──スタートラインに立つ拳藤一佳は、自然と気が引き締まるのを感じていた。

 

(レクとはいえ勝負だし、勝ちを目指そう)

 

観客席に手を振る他の参加者の様子に少しだけ笑みを浮かべながら、軽くストレッチをして身体をほぐす。勝ち負けはともかく、自分らしいところは見せたい。そう思っていた

 

『位置について──よーい、スタートォォッ!』

 

ピストル音が鳴ると同時に、4人の生徒たちが一斉に走り出す。最初に向かうのは、数十メートル先に設置された「お題ボックス」。そこから「借り物」を確認し、すぐに探しに向かうという流れだ

 

「さて、何が来るか!」

 

拳藤は勢いよくボックスに手を伸ばし、一枚の紙を引き抜いた。広げてみると、そこには見慣れた字でこう記されていた

 

『クラスで1番頼れる異性』

 

──ドクン、と心臓が跳ねた

 

「っ、マジか」

 

咄嗟に目を泳がせながら、観客席の一角へと目を向ける。そこには、ひとり静かに立っている男子生徒の姿があった

 

(花月....)

 

花月雫。クラスメイト。冷静だけど割とノリも良くて──私が、少しだけ特別に意識してる相手

 

思い出すのは、あの日の昼休み。プリンおにぎりとセキュリティの騒ぎ。花月と──間接キスした日。あの時、胸の奥がほんの少しだけ熱くなった。以来、彼の存在が頭から離れないことがある

 

「....ゲームだし、いいよね」

 

自嘲気味に笑って、拳藤はお題を握ったまま観客席に向かって走り出す

 

『おっとぉ!?拳藤選手、迷いのないダッシュで観客席に向かう!引いたお題は『クラスで1番頼れる異性』だぞ!?あのミッドナイトが考えたお題を簡単に突破かァァァァ??』

 

『若い子たち、もっと正直になりなさぁい』

 

実況がやたらと盛り上がる中、拳藤は足を止める。目的の人物──花月雫は、最前列の端、スタジアムの喧騒からやや距離を取るように佇んでいた

 

「ね、花月」

 

声をかけると、彼はゆっくりとこちらを振り向いた。少し驚いたように目を瞬かせ、それから柔らかい声で言う

 

「僕から借りに来たの?いいよ、なんでも貸してあげる」

 

「これ借りたい。協力してくれる?」

 

拳藤は、手にしたお題の紙を見せた

 

『クラスで1番頼れる異性』

 

花月はそれを一瞥すると、ほんの少し眉を動かした

 

「僕でいいの?」

 

「うん」

 

短く、でもはっきりと頷く拳藤に、彼は少しだけ目を伏せて、それから視線を戻した

 

「なんでも貸すっていったもんね。いいよ、行こうか」

 

(あれ、意外とあっさり?)

 

もっと何か言われると思っていた。けれど、彼はただ頷いただけだった

 

「走るよ。ちゃんとついてきて!」

 

「えぇ?多分、僕のほうが速」

「私が引っ張るから!」

 

拳藤はそのまま花月の手をとり──走り出した

 

 

 

 

 

そのまま拳藤は花月の手をしっかりと握ったまま、ゴールを目指して走る。競技場の中央を駆け抜ける二人に、観客席からどよめきと歓声が巻き起こる

 

『おおっと!?拳藤選手、借り物はクラスメイトの花月雫!あのお題に、迷わずこの男を選んだァッ!さあ!一気にゴールまで駆け抜けられるかぁ!?』

 

その実況の言葉に、場内からさらに盛り上がる反応が返る

 

「手を繋いでいる必要はあるのかな...?」

 

「えっ? あ、ああ、ごめん、気にするな。借り物だからさ、離したらゴールできないでしょ?」

 

「そういうルールだったかな?」

 

「雰囲気だよ雰囲気!」

 

そう言って笑う拳藤の顔は、ほんのり赤らんでいる。走っているからか、それとも──

 

(大勢に見られて恥ずかしい...けど、離したくない)

 

心の中でぼそりと呟く。彼の手は少しだけひんやりしていて気持ちがいい

 

「でも、本当に僕でよかったの?」

 

不意に問いかけられて、拳藤は視線を向ける

 

「え?」

 

「クラスで一番頼れる異性なんて、大げさじゃない?物間とか心操とか、頼りになる男子はいるよ」

 

「──ちゃんと考えて選んだんだ」

 

拳藤は立ち止まり、花月の正面に回る。ほんの少し息を切らせながら、真っ直ぐにその瞳を見つめた。ゴールまでもう少しのところで立ち止まった2人に実況は大盛りあがりだ

 

「花月は私が困ってたとき、当たり前のように助けてくれたでしょ。クラスのことも良く見てるし、困ったことがあれば親身に相談に乗ってくれる.....だから、すごく頼りになるって思ってる」

 

 

「だから私は、花月が1番頼れるって、自信持って言えるよ」

 

ふいに、花月の表情がやわらいだ。視線を落とし、わずかに頬を緩める。

 

「.....そう言ってもらえるのは、少し照れるけど、嬉しいよ。ありがとう、拳藤」

 

その言葉を聞いた瞬間、表情を見た瞬間、拳藤の心臓はドクンと跳ねた

 

(──やばっ、思ってた以上にマジかも)

 

「よしっ、照れ顔はあとでじっくり見るとして!ゴールまでダッシュ!」

 

「別に照れてないんだけど」

 

ぐいっと手を引いて、ふたたび走り出す

 

『おおっと、拳藤&花月ペア、最後の直線だァッ!さすが格闘少女、体力は十分ッ!花月もリードされながら並走している!青春だなァ〜〜!』

 

『ふふっ、借り物競走って、つくづく良い競技よねぇ』

 

 

ふたりはゴールラインを駆け抜けた

 

 

 

「──ゴール!!」

 

ミッドナイトの判定が入り、ゴールテープを切った拳藤と花月のペアに、場内から拍手が湧く

 

『見事ゴールイン!!』

 

一際目立ったペアだったこともあり、ふたりには多くの視線が集まっていた。それでも拳藤は気にする素振りも見せず、息を整えながら花月の方を振り返った

 

「お疲れ。協力してくれてありがとう」

 

「構わないよ。」

 

「そっか。……それならよかった」

 

花月は汗の滲んだ前髪を指で整えながら、ちらと拳藤を見た。先ほどの全力疾走が効いたのか、拳藤の頬にはうっすらと赤みが差している。けれどそれが熱のせいか、別の何かかは──判断できない

 

「あのさ、さっき言ったこと、もう一回言っていい?」

 

「照れくさいから遠慮しておくよ」

 

「私は花月が頼れるって思ってるの。これは本気。だから、これからも頼ってもいい?」

 

花月の言葉を無視して繰り返した。ふとした風が吹く。グラウンドに立つ二人の間を、やわらかな空気が通り抜けた

 

花月はゆっくりと頷いた

 

「僕で良ければ、ね」

 

その柔らかな返事に、拳藤はわずかに顔を伏せた。だが、数秒後には満足そうにふっと微笑む

 

 

まだ別の走者の借り物競走は続いていた。だが、拳藤と花月の世界には、それがまるで遠い出来事のようだった。ふたりだけの静かな時間が、確かにそこに流れていた

 


 

『──準決勝第二試合ッ!!A組、夜の覇者、黒き影の支配者!ダークシャドウの使い手ッ!常闇踏陰ィィィィ!!』

 

『対するはB組!静かなる制圧者、大人気配信者Mr.サイレントはこいつだァァァァァァ!冷静沈着、刻の支配者!!!花月雫ゥッ!!』

 

「──来たな、花月雫」

 

リング越しに交差する視線。花月は淡々とした表情のまま、ほんのわずかに頷いた

 

(決勝まで、あと一戦)

 

その一戦に至るまでに、花月はすでに多くを背負っていた。拳藤が敗れ、小大が八百万に及ばず、そして──塩崎が、轟焦凍に敗れた

 

宣誓での言葉、1〜3位、すべてB組が独占する。その約束は、すでに果たされえないものとなった。けれど──

 

(優勝だけは譲らない)

 

場内アナウンスが響く

 

 

 

『──スタートっっ!!』

 

合図と同時、常闇が吠えた

 

「行け、《ダークシャドウ》!」

 

咆哮とともに、黒い獣がリングを走る。影の形をしたそれは、ある程度の範囲であれば伸縮自在の万能個性

 

(出し惜しみする余裕はないんだ──彼と違ってね)

 

花月は動かない。ただ、視界を広く保ち、黒影と常闇を同時に見据えた

 

『静止』

 

動きがピタリと止まった

 

「っ!」

 

常闇が息を飲む

 

(実際に受けると動けないのは恐ろしいな!)

 

花月の《静止》は、視界に入った対象を、その部位ごと止める個性。しかしその発動条件はシンプルな反面、いくつかの穴もある。たとえば──

 

(死角を突く!)

 

常闇がリングの一部に影を伸ばす。ダークシャドウの一部がその中に潜ると、花月から視認できない部分が生まれた

 

「──っ!」

 

潜り込んだダークシャドウの腕がリング下から這い上がる。死角からの一撃

 

 

 

 

 

「──そうくると思ってたよ」

 

花月がリングに背を向ける形で回り込み、死角ごと視界を切り替えた。

 

止まる──黒影の腕が硬直し、攻撃が中断される

 

「常に全方向を意識しているのか」

 

「そうしないと、塩崎に勝てなかったんだ。普段の積み重ねと、B組の皆のお陰だよ」

 

常闇は苦々しい顔で舌打ちした

 

(ダークシャドウを暴走させれば、あるいは──ここでは出来ないが)

 

 

 

 

(僕は彼の弱点を知らない)

 

花月の目が一瞬だけ鋭くなる

 

(でも──そんなの関係ない)

 

『静止』

 

常闇の肩が止まった。足が止まった。ダークシャドウが止まった

 

「今度は、ダークシャドウの一部を隠したりできなかったみたいだね」

 

花月は一歩前に出る。静かに、淡々と、確実に歩みを進める

 

「──決勝に進むのは僕だ」

 

 

 

 

沈黙のリング。常闇は上を見上げることも顔を伏せることもできない。動くということを許されていない。自身のすべてを支配されている感覚に陥っている

 

観客がどよめく。A組の生徒たちも固唾をのむ。ここまで常闇と花月は互いに堅実で圧倒的な勝利を魅せてきた。その両者がぶつかり──片方が絶望的な状況に追い込まれている。強者と強者がぶつかり、その結果が圧倒的な展開

 

 

 

 

 

ダークシャドウと常闇を視界で捉えることができるギリギリの距離まで接近し、そこから花月は鋭く一歩踏み込み、静かに拳を握った

 

「──終わりだよ」

 

小さな声とともに、花月の拳が、正確に常闇の顎を捉える。視界からダークシャドウが外れたことで、常闇は操作しようと試みるも──その時には既に意識はなかった

 

鋭くも過剰な力を込めない、意識を刈り取るための一点打。花月の拳が抜けると同時に、常闇の身体は力を失い、ゆっくりと倒れていった

 

 

 

『──しっ、試合終了!!勝者、花月雫ッ!!』

 

 

 

場内に、爆発のような歓声が響いた。その中で花月は静かに息を整え、リングに倒れた常闇に短く頭を下げる。そのまま担架で運ばれていく常闇を見送りながら、花月はリングから降りる

 

客席では、B組の仲間たちが総立ちで迎えていた。拳藤は思わず叫ぶ

 

「花月、やったじゃん!決勝だよ!決勝進出!!」

 

取蔭が無言で拍手し、小大は安堵の笑みを浮かべ、塩崎は──目を伏せて、祈るように手を組んでいた

 

花月雫は、そのすべてを視界に入れながら、静かに拳を握った

 

 

 

 

 

「──僕が、本当に決勝に...!」

 


 

閑話②

 

ミッドナイトのハイヒールが地面を鳴らしながら、スタートライン前に立つ

 

『続く第二走グループ、走者はこの4人!ヒーロー科A組・耳郎響香!普通科────以上4名だ!さあさあ、どんなお題が飛び出すのか!』

 

「思ったより緊張するかも」

 

耳郎は息を吐くと、スタートの合図を待ち、前傾姿勢を取った

 

 

 

『位置について──よーい、スタート!』

 

ピストルが鳴ると同時に、4人の生徒が一斉に駆け出す。最初のカーブを抜け、直線の途中にある「お題エリア」へと突入する。そこで一人ひとりが箱に手を突っ込んで、紙を1枚引く。耳郎響香も同じく紙を引いた

 

「──え?」

 

耳郎の目が紙の文字を捉えた瞬間、足が止まる

 

 

『A組、耳郎響香!引いたお題は──困った時に頼れる異性!!おいおい、ミッドナイト!?思春期の子どもたちにさっきから刺激が強すぎねぇぇぇかァァァァァ??』

 

『こういうのが楽しいのよ!』

 

 

 

「うっわ、難しいんだけど」

 

後続の他クラス生徒たちが次々と走り出す中、耳郎はお題を手に持ったまま数秒立ち尽くした。思い当たる人物はいる。でも、前走でも借り物として参加していたから、もしかしたら休みたくて会場からいなくなったかもしれない。会場全体を軽く見渡してみる

 

 

 

──いた。スタンド席の一角。落ち着いた姿勢で観戦している男子の姿が目に入る。耳郎が頭に思い浮かべた相手

 

「いてくれてよかった....!」

 

A組の男子は頼りになるといえばなるけど、なんか違う気がする。でも、あいつなら自分の中で違和感がない 

 

耳郎は進路を決め、スタンドへ向かって走り出す。観客の間を縫い、目指すはひとり静かに座っていたその人物

 

 

 

「花月!」

 

彼は声に反応して、少しだけ顔を向けた

 

「また僕?何がひつよ」

「困った時に頼れる異性....ってお題が出てさ。借りたいんだけど、いい?」

 

 

 

少しの間を置いてから、花月はごく自然に立ち上がった

 

「.....どうやら、僕は自分が思っている以上に頼られるらしい」

 

「うん。他にピンと来なかったんだよね。困った時に手を差し伸べてくれるタイプっていうか、そういうの、あんたっぽいなって」

 

「よくそんなこと...いや、なんでもない。行こうか」

 

 

 

耳郎が手を差し出すと、花月は自然な流れでそれを取った。ふたりでコースへ戻る。実況席がざわめいているのが遠くに聞こえた

 

 

 

『おっとおっとー!? A組・耳郎、観客席に向かって一直線──まさかのB組・花月雫を借り物に!? “困った時に頼れる異性”、ミッドナイト先生、これは納得の人選!?』

 

『耳郎さんの目のつけどころ、悪くないわね』

 

『ってか、アイツ!さっき似たようなお題でも選ばれてたよな!!!?クゥぅぅぅぅ!俺も頼られてェェェェェェェェ!!』

 

 〜〜〜〜

 

「」

 

「そうかな?あまりそう感じたことはないかな」

 

 

 

「それでも、ちゃんと真面目に話を聞いてくれるって感じはするよ。頼れるって、そういうことだと思うんだよね」

 

「……ありがとう」

 

 

 

そのままふたりはコースを走り、最後の直線へと差し掛かる。耳郎が息を乱し始めた

 

「あと少しだよ。転ばないようにね」

 

花月が手を握る力を少し強めた、それと同時に耳郎の身体は一瞬跳ねる

 

「.....うん」

 

 

 

ラストスパート。全力で駆け抜け、ゴールラインを割った

 

 

 

『フィニーーーッシュ! 耳郎響香!!1位で2人揃ってゴールだ!借り物はB組の花月雫!困った時に頼れる異性の名に恥じぬ、落ち着いたフォローでフィニッシュを支えたぞ!』

 

 

 

「ふぅ、ありがとね」

 

「このくらい構わないよ。拳藤があのお題で僕を選んだから、選びやすかったんだよね?」

 

花月の言葉に、耳郎は一瞬迷った素振りを見せたが、軽く首を横に振った

 

「──違う。やっぱさ、頼れるなって思ってたから....前に一緒に、迷子の子助けたときから」

 

「そんな事もあったね。僕は耳郎が除籍されるかもって気が気じゃなかったよ」

 

「いやいや、相澤先生いい先生だから。でも、万が一そうなっても、花月は抗議してくれたでしょ?」

 

「まあ、あれは僕が巻き込んだようなものだからね。あの件で君が除籍になるなら、僕も同じ処罰がくだらないとおかしい。そんな事になってたら、抗議しただろうね。全力で」

 

「そういうとこさ。人を見捨てない、信頼したくなるっていうか──周りに安心感を与える、っていうのかも?──純粋に、頼れるなって思ったんだよ。あのときから」

 

「──君たちは面と向かってよく....まあ、お礼は言っておくよ。ありがとう」

 

 

 

耳郎が照れ隠しのように前髪をいじりながら、ちょっとだけ頬を赤く染めた。

 

「別に、変な意味じゃなくてね?その、同じ学年の仲間としてって意味でさ」

 

「もちろん、わかってる」

 

花月の返事に、耳郎はどこか気恥ずかしそうに笑ってから、再びコースに視線を向けた。次の走者たちのためにコースを離れながら、最後にもう一度だけ振り返って言った

 

 

「──困った時は、また頼りにしてもいいよね?」

 

「...僕にできる範囲ならね」

 


 

スタジアム全体が、これまでにない熱気に包まれていた。障害物競走、騎馬戦、1回戦、準々決勝、準決勝──数々の死闘をくぐり抜けた二人が、ついにリングへと歩みを進めていく

 

『さあ、来ましたァァァ!雄英体育祭、いよいよ最終決戦ッッ!!!』

 

プレゼント・マイクのテンションが、限界突破していた

 

『まずはA組から! 氷と炎の継承者!最後のこの一戦、化学反応が起きるか、二つの個性──轟焦凍ォォォ!!!』

 

割れんばかりの歓声。No.2ヒーロー、エンデヴァーの息子としての期待度、実力、すべてが揃ったその存在に、観客たちは期待を寄せる。轟は無言でリングに立ち、視線を前方へ──その先に、もう一人の決勝進出者がいた

 

『対するはB組!静かなる制圧者、影さえ止めてしまう男!氷も炎もその悉くを沈めてみせる──Mr.サイレントこと、花月雫ゥゥッ!!!』

 

歓声の色が変わる。黄色い悲鳴のような嬌声。握手、写真撮影、ファンサ──体育祭中に屋台の手伝いもしていた。人気だけであれば、轟に勝っているだろう

 

花月はゆっくりとリングに上がる。声援にも応えず、ただ無言のまま、轟を見据えた

 

(──やるべきことは、一つ)

 

拳を、ぎゅっと握る。冷静沈着、その奥に宿す、燃えるような闘志があった

 

──そして

 

『いざ、ファイナルバウトォォォ……! スタートォッ!!』

 

開始の合図と同時に、轟が動いた

 

「──ッ!」

 

地響きと共に、氷が一気に地面を這う。リング上の温度が瞬時に下がり、霜が舞うほどの冷気が辺りを包んだ

 

(....速い、思った以上に迫力がある)

 

花月は動かない。いや──動かずに済むように備えていた

 

『静止』

 

視界の中で、氷の奔流がピタリと止まる。そのわずかな間に、足をずらし、回避位置を取る。すぐさま「視界から外し」、静止を解除。その瞬間、静止されたことに気がつき同様に追撃した轟の氷が再び襲いかかる──が、花月は既にそこにはいない。リングの左端、かろうじて安全圏

 

(桁違いに優秀な個性だ)

 

立ち込める冷気の中、轟は動かない。いや、積極的に動く必要がない。仮に轟本体が静止されたとしても、動かなくても個性を発動できる轟にさしたる影響はない

 

(どの展開に鳴っても、押し切れると踏んでるのか)

 

冷静な分析と共に、花月は状況を飲み込む──今の轟は、氷で戦う。過去の試合から、彼が炎の個性を拒んでいるのは明らかだった。塩崎の試合でそれは確信している

 

そこまで思考が至った瞬間。轟がまたも、氷を飛ばしてきた

 

「!」

 

再び『静止』だが、さっきよりもずっと広範囲。静止できるのは一度に見えている範囲まで。斜め後ろから来る氷を止めるために、花月は瞬時に視線を切り替え、全身を捻るように対応した。攻撃はまだ当たっていないが

 

(ジリ貧だ)

 

攻め手がない。接近できない。轟の攻撃は単純だが、個性の出力そのものが防御の役割も果たしている

 

「お前から動かなきゃ、俺が押し切るだけだ」

 

久々に口を開いた轟の声は、静かに低く、そして重い。轟の言葉は間違っていない。このまま続けていけば、いずれ花月は捉えられるだろう。そんなことは本人もわかっている

 

(──でも、彼も長引かせたくはないはず。彼の個性が、自らの体温を奪い、正常な判断力・行動を奪っていく)

 

だとしても、そこまで長引いてる時点で僕の負けは決まっているようなもの

 

 

 

 

 

(この試合、僕はずっと静止に頼っている)

 

(──轟焦凍の攻撃に当たらないための消極的行動)

 

やるしかない。僕ならできる。いや、僕にしか出来ない。僕だからできる......!必要なのは──覚悟だけ

 

(攻撃するんだ)

 

覚悟を決める。息を整える

 

「いくよ」

 

その一言と共に、花月は駆け出した。轟の氷が立ち塞がる。氷壁。氷杭。地形を変えるほどの圧力

 

花月はすべての障害を、『止めて』『避けて』進む。視界と体力の限界に挑みながら──徐々に、確実に距離を詰める

 

轟の表情が僅かに変わった

 

(本気か、お前....)

 

彼もまた、拳を握る。氷の山を創りながら、その奥に『絶対に来させない』という意志を込める。母親の個性だけで勝利するという覚悟を、矜持を胸に。それでも、花月は止まらなかった。

 

氷の瓦礫に覆われた地を、焼けつく冷気の中を、彼はただ黙々と踏み越えていく。一歩、また一歩。

 

静止と回避を繰り返しながら、身体にまとわりつく冷気を、疲労を押し潰すように前進する

 

(あと、数メートル)

 

リング中央には、轟焦凍が立っていた。無傷。微動だにせず、まるで氷の王のようにその場を制していた。個性の出力では、誰も彼に並べない

 

──それでも、花月は止まらなかった

 

轟の眉がわずかに動く。その眼が、この試合で初めてわずかに揺れた

 

(....迷いがねぇ)

 

氷を止め、踏み越え、己の肉体を削りながら、ただひたすらに歩を進める。その姿に、轟は初めて圧を感じた。気が付かないうちに少しずつ下がってしまっていた

 

恐怖ではない。焦りでもない。彼は後にこう語る──

 

 

『気圧された』と

 

──轟焦凍は、目前に素早く迫ってくる花月に、咄嗟に左手を突き出していた

 

ドウッと、低い爆音が鳴る。炎が、解き放たれる。決して、轟の意志ではなかった。その行為は、父の個性であり、彼が最も使いたくなかった力

 

 

 

 

 

 

 

(なぜ、だした....?)

 

自分でもわからない。ただ、来ると思った。来てしまうと、身体が感じた。近づけてはいけないと、本能が警鐘を鳴らした

 

──だから、咄嗟に反応していた。咆哮のように、轟の左手から炎が走る。熱風が渦巻く。本日2度目の炎に、客席では大歓声が響く

 

 

 

 

 

だが。その中を──

 

『静止』

 

──花月雫は進んだ。止まったのは炎の形。それ以上拡大することはない。だが、熱は──止まらない

 

咄嗟に右腕で顔を覆うようにして、花月はそのまま──踏み込んだ。ジュ、という生々しい音が聞こえる。花月の両腕が、一瞬で赤みを帯びる。体操服の袖が焼け落ち、皮膚が焦げる

 

 

 

(熱い、痛い──でも)

 

それでも、足を止めない。唇を噛み締め、呼吸を殺し、視界が白く焼けていく中で、ただ、ひたすらに進む。全ては──

 

──勝つために

 

 

 

一歩、もう一歩

 

風に揺れるようにふらつきながら、それでも前に

 

ついには、轟の目の前へ──

 

そして、花月は右手を伸ばし、制服の胸元を掴んだ。止まった炎の中から突如胸元を掴まれた轟は、考えられない異常事態に固まってしまう

 

「──僕の、勝ちだ」

 

そのまま、力を込めて回転させ──投げる

 

だが──彼の身体は彼の思考に、行動に追いつかなかった。その体勢のまま、花月の足も外へと流れていく

 

 

 

 

 

 

 

両者の身体が──同時に、場外へと投げ出された。

 

【ドンッ!!】

 

大きな衝撃音が響き、空気が一瞬にして凍りつく。観客席からも解説席からも、主審であるミッドナイトからも──同時に落ちたようにしか見えなかった

 

『両者ァァァ場外ぉおおおッ!?!?』

 

プレゼント・マイクが叫んだ。ミッドナイトがすぐさま駆け寄る

 

 

倒れている2人──花月雫、両手は赤黒く焼けただれ、呼吸も荒い。負っているダメージが見ているだけでわかる。対して、無傷である轟焦凍。ミッドナイトは主審として、この勝負に勝敗をつけなければならない。今までの歴史上、2人が優勝するなんて前例はなかった。決めるために再戦──若しくは、ダメージの有無から轟を優勝にするか頭の中で考えが巡る

 

 

 

そんな中、彼は立ち上がろうとする

 

「....っ、再戦を...お願い.......します」

 

声は掠れ、立ち姿もおぼつかない。どう考えても、戦える状態ではない

 

 

──その横で、轟は膝をついたまま、顔を伏せていた

 

与えられたダメージはほぼ皆無。無傷に近い。

 

だが──それと反比例するように、彼の内面は荒れていた

 

(また、使ったのか....)

 

(....あれほど誓ったのに)

 

あの時、彼の頭にはもう父の姿は浮かんでいなかった。ただ、あのとき咄嗟に放ってしまったあの炎が、その事実が──心を大きくかき乱していた

 

花月の姿が焼き付いている。炎の中を、迷わず突っ込んできた狂気にも近い覚悟が、執念が

 

──自分には、あれがなかった

 

轟焦凍は、ゆっくりと顔を上げた。誰にも目を合わせることなく、ミッドナイトの方を向く

 

そして──

 

「──辞退します」

 

その一言は、火照った空気の中に、あまりにも静かに響いた

 

「勝敗の前に......向き合わなきゃならねぇ。自分自身と、そして──」

 

母親と。親父と。家族と

 

ミッドナイトは、わずかに瞳を閉じて──そして手を挙げた

 

 

 

 

 

『──勝者、花月雫ッ!!!』

 

スタジアムが爆発した。花火のような歓声。絶叫。叫び。その中で、観客席のB組が総立ちになった。

 

拳藤が思わず泣きながら叫ぶ。小大が声も出せず手を合わせ、安堵と驚きに目を潤ませている。取蔭は目を細め、感動した表情を浮かべている。塩崎は胸元で手を組み、まるで祈るように静かに瞳を閉じている

 

そして──物間寧人は何かを言いかけて、だが言葉が出てこず、口を噤んだまま、目を細めていた。いつものの調子のまま言葉を投げるには、今の花月の姿があまりにも眩しすぎた

 

 

「勝ちやがった、本当に....!」

 

小さく呟いた声には、羨望と賞賛が同居していた

 

心操人使は無言のまま腕を組み、リングに立つ花月を静かに見つめていた。その目に浮かんでいる感情は物間と同じだ

 

「──やった、のか...すげぇよ、花月」

 

低く、誰に聞かせるでもなく、ぽつりとそう呟いた

 

 

その全てを──傷だらけのまま、花月雫は見上げていた。無言で手を挙げる

 

 

頭上に挙げられた手は焼け爛れていたが──その背は、この体育祭の誰よりも大きく見えた

 

 

「勝った......!」

 


 

閑話③

 

 

『続いての走者はこの5人ッ!爆発的な個性にお転婆スマイル、A組のムードメーカー・芦戸三奈も参戦だァァァ!』

 

「よーっし、いっちょ目立ってやりますかぁ!」

 

観客席へ向かってポーズを決める芦戸。ひらひらと手を振る仕草も、どこかアイドルじみていて堂々としている

 

スタートライン。隣には爆豪、砂藤、峰田、鉄哲というわりと濃いメンツが並んでいた

 

「爆豪、なんかすごい気迫だけど...借り物競争だよね、これ?」

 

「うるせえ、何だって勝ちゃいいんだよ!!」

 

(まぁ、そういうとこ嫌いじゃないけどさ)

 

ミッドナイトが手を挙げる

 

『位置について──よぉ〜い、スタートッ!』

 

芦戸が軽やかに飛び出す。砂藤と鉄哲は真っ直ぐ突っ込み、峰田もあとに続くように移動。爆豪はスタート直後から爆破で飛び上がり、もう見えない

 

「はやっ!? てかズルっ!!」

 

ステージ中盤に設けられた「お題エリア」。芦戸は滑り込むように到着し、箱に手を突っ込んだ

 

 

 

「なになに──《話してみたい異性》?」

 

瞬間、芦戸は足を止め、しばし硬直

 

(話してみたい異性!?誰かいるかな???)

 

ちらりと周囲を見る。すでに誰か連れている参加者はちらほら。競技場の出入り口に向かっている男子が視界に入った。他の生徒と同じで、体操服姿なのに何故か目を惹いた

 

(ど、どうしよ──いや、悩んでる時間ないし、こういうのは感覚で選ぶ!)

 

脳内に思い浮かぶ男子の顔たち

 

(爆豪?ないない、秒で断られるし参加者。切島くん!でも、普段から話してるしな~。上鳴?なんか今日ノリが空回ってたし、別に話してみたくはないかな?)

 

 

 

(B組の、花月くん)

 

落ち着いた顔立ち。配信活動とかもしてる有名な配信者

 

(耳郎が頼れる異性で選んでたし──むむ、気になる。話してみたい、って感じ?)

 

決まった

 

「──ってことでぇ、花月くーん!!借りるよーっ!!」

 

「.....え?」

 

声をかけられた花月は、静かに顔を上げた

 

「お題がさ、《話してみたい異性》だったの!花月くん、ダメ?」

 

「三連続なんだけど.....別にいいけど」

 

「よっし、じゃあ行こ!ゴールまで付き合って!」

 

手をぐいっと引く。不意の接触に、花月の肩がわずかに跳ねた

 

(なんで、女子の手は皆柔らかくてふにふにしてるんだ)

 

「走る速度は合わせるよ」

 

「うん、ありがとー。っていうか、初めましてだよね?私は芦戸三奈、A組!」

 

「B組の花月雫。こんなユニークな自己紹介は初めてだよ」

 

「その方が楽しいよ、きっと!」

 

「そうかな??」

 

芦戸の足は軽快だった。思ったよりも速い速度に花月は合わせる

 

「なんかさ、B組って普段あんまり絡まないじゃん?でもこうして話すと、思ったより普通な感じ?」

 

「君たちと同じ学生だよ。まあ、多分A組よりは治安が良い」

 

「.....確かに!」

 

治安の悪いメンツを頭の中で思い浮かべる

 

「芦戸はアレだね。コミュ強だね」

 

「そう?」

 

芦戸が笑いながらウインクする

 

(──底抜けに明るい)

 

 

 

 

 

『ラストストレーート、来ました芦戸三奈ァ!話してみたい異性に選んだのは──なんとB組!花月雫だァァァ!!え、もしかしてお前参加者だったりする!!?三連続おつかれさん!!!もう少しダゼェェェ!!』

 

「うひゃっ、実況されるとちょっと恥ずかしいねコレ!」

 

「僕を選んだそっちが恥ずかしいなら、僕はとんだもらい事故だよ」

 

「そだね!」

 

「えぇ....」

 

芦戸は天真爛漫な笑みを浮かべる

 

「よし、ラストいっくよー!」

 

花月の腕を引き、加速した。花月は苦笑を漏らしながらも、歩調を合わせて一緒に走る

 

そして──

 

「ゴールッ!!」

 

『フィニーーッシュ!!A組・芦戸三奈ァ!B組・花月雫との異色ペアで1位フィニッシュです!!おいおい、爆豪どうした!!?スタートダッシュは最速だっただろ!?』

 

「やったーっ!ありがと花月くん!」

 

「ああ、うん。1位おめでとう」

 

「えへへ、よかった~。じゃ、またね!」

 

花月に手を振りながら、芦戸は次の走者へコースを譲った

 

花月は一瞬その背中を見送ったあと、今度こそ競技場を後にした

 

(話してみたい──か)

 

A組との交流、それも悪くないかもと密かに思う

 


 

 

雄英体育祭が終わった日のMr.サイレントの生配信にて<一部抜粋>

 

『僕は変わらない。星に手が届くまで伸ばし続ける。そして、彼女みたいに人の心を守れるヒーローになりたい』

 

『もう一つ──誰が敵であっても止めることができるヒーローになる。オールマイト並の力を持つ敵だとしても、1人の力で世界を変える力を持つ敵だろうと──その全てを止めることができるヒーローになる。昔からいってることだけどね』

 

 

 

 

 

雄英体育祭優勝者、元々の知名度に加えて大舞台で実績を残したことで──Mr.サイレントのチャンネル登録者数は爆発的に増加した。それとは別に、今回の配信の内容は視聴者とアンチの不毛なやり取りを生み出すことにもなる

 


 

走る拳藤さん

 

 

【挿絵表示】

 

 

汗をかく芦戸さん

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

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