静止の月に花開く   作:Mr.♟️

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20話

 

花月が晩御飯の餃子作りを手伝っていたその頃──世間を揺るがす大事件は、静かに幕を閉じていた

 

「おーい、ニュースすごいことになってるぞ」

 

花月が料理手伝い中にも関わらずその事に気がつけたのは、テレビをみていたミルコが、台所で作業中のマンダレイとピクシーボブ、花月に呼びかけたからだ

 

三人は思わず手を止め、ミルコが見ているテレビへ視線を向けた

 

画面いっぱいに映るのは、ヒーロー殺しステインがエンデヴァーにより確保されたという速報

 

「ネットニュースもすごいことになってるな」

 

ミルコがスマホを操作しながら眉を上げる

 

『No.2ヒーロー、エンデヴァー!ヒーロー殺しステインを確保!』

『連続殺人鬼ステイン!年貢の納め時!』

『魂の咆哮、英雄回帰を求めた殺人鬼』

『敵連合ステイン、保須市で撃沈!脳無と共に倒れる!』

『レディ・ナガンへの恨み節炸裂』

『ヒーロー殺しの後継者は──Mr.サイレント!?』

 

「なんですかこれ。僕とレディ・ナガンの名前がどうして記事に?」

 

花月はネットニュースの見出しにサッと目を通し、違和感に気がついた。エンデヴァーが確保したのであれば、ナガンへの恨み言ではなくエンデヴァーに対する言葉が出てくるはずだからだ。また、いっさい関与していない自身の名前があることも違和感を強めた

 

「....そうね。不思議ね」

 

「なんでなのか分からにゃい」

 

マンダレイとピクシーボブは、明らかに視線を逸らした。花月は知らないが、プッシーキャッツはナガンが森で花月を護衛していることを知っている。事前に森の中で過ごしても問題ないか許可を取られていたからだ

 

「動画を見りゃ分かるだろ。警察も消してるが、新しいのが次々上がってくるんだよ」

 

ミルコはそう言うと、自分のスマホを軽く投げてよこした。花月は受け取り、再生ボタンを押す

 

 

『偽物が蔓延るこの社会も』

 

『徒に力を振りまく犯罪者も』

 

『全ては粛清対象だ』

 

『全ては──正しき社会のために!』

 

動画内のステインは満身創痍。それでも、隠しきれぬ狂気を顕にしながらも立っていた

 

 

 

 

その瞬間、画面右奥からエンデヴァーが飛び込んでくる

 

ステインが彼を認識した途端──動画越しでも分かるほど、雰囲気が殺意に染まった

 

『偽物....正さねば....誰かが血に染まらねば』

 

満身創痍の身体でステインは逃げることなく、エンデヴァーへと歩みを進めている

 

『──英雄を取り戻さねば!こい、きてみろ....偽物共ども』

 

『──俺を殺していいのは、本物の英雄(オールマイト)だけだ...!!』

 

ステインはもはや逃げようとすらしない。ボロボロの身体のまま、真正面からエンデヴァーへ歩み寄っていく

 

 

その迫力にプロヒーローたちが気圧され止まる。しかし、ステインの足はある地点から先に進まなかった

 

『....邪魔したことを恨むぞ、ナガン。お前なら分かるだろ──Mr.サイレント』

 

動画の最後──今まで出ていなかった字幕が表示される

 

投稿者が口元の動きから読み取ったという、最後の言葉。ステインは抵抗することなく、一切動くことなくエンデヴァーによって拘束された

 

 

 

 

 

 

 

「──なんなんですか、この迷惑な敵は」

 

嘘偽りない花月の感想である。その後、マンダレイがレディ・ナガンを呼んだ。この流れでいけば、どの道隠れて護衛していたことがバレる可能性が高いため、隠し立ては不可能と判断したからだ

 


 

ステインめ、余計なことを。あんな風に私と花月の名前を出したら、私が隠れて護衛したことがアイツにバレるだろ。現にマンダレイからもうバレるのも時間の問題だから、宿泊施設で止まれって言われたし

 

それよりも、アイツはどんな反応するんだ。守られていた事に対する喜びか、それとも護衛させていたことに対する申し訳なさか、あるいは護衛対象だと思われていたことに対する怒りか。まあ、どの道この扉を開けたらハッキリとすることだ

 

この後の反応を予想しながら、私は扉を開いた

 

『お久しぶりです、暇人の皆さん』

 

「ん?」

 

──まさか、配信しているのか?こんな何を言っても炎上するであろう状態で?プッシーキャッツは、ミルコは止めなかったのか

 

見渡すと、マンダレイとピクシーボブが緊張した表情を浮かべており、ミルコは面白そうに笑っている

 

『早速ですが、本題に入ります。巷を騒がせている迷惑な話、ヒーロー殺しステインについてです』

 

おいお前、よりによって今一番避けないといけない話題を自分から出すって何を考えてるんだ。今すぐ止めるべきだ

 

「花月、今すぐ配信を」

「まあ待て、見てろって」

 

花月に近づこうとしたらミルコに止められた。邪魔するな。何を言おうと炎上させられると分かっているんだから止めるべきだろ

 

『まず、ステインが言っていた『お前ならわかるだろ──Mr.サイレント』という発言ですが──わかる部分もあります』

 

おい待て、なんで燃料投下してるんだ。離せミルコ、抑える力を強めるな。離さないなら殴ってでも振りほどく

 

『ゴミ同然のヒーローはいますし、市民に被害を及ぼす敵もいる。そういった存在を排除したいという気持ちは分からなくもない』

 

『ですが、ステインはその方法を間違った。最も短絡的な方法──敵になる道を選んだ。故に、彼の言葉に価値はない。僕が彼を完全に理解することはできない。僕なら絶対に選ばない道だから』

 

『彼が本当に自らの思想が正しいものであるというのなら、正しい方法で広めるべきだった』

 

『──なにより、敵連合なんていう利己的な組織に与した時点で、君の思想に一貫性はない。自覚しろ、君はただの敵だ。革命家でも、思想家でもない。君が忌み嫌う敵と同類であることを』

 

『今日の配信は短いですが、以上で終わります。みなさんも覚えておいてください。ヒーロー殺しステインは、思想家ぶっている利己的な敵であると』

 

花月が配信をやめようとスマホに手を伸ばした時、ミルコの手は私から離れ、今度は花月の手を掴んでいる。位置的に確実に配信画面に映っている

 

『この配信はラビットヒーロー、ミルコが許可したっ。文句があるやつは私に言ってこいよ』

 

『....あの、この配信は僕が僕の考えを話してるので、ミルコさんは関係ないです』

 

──そういうことか、ミルコめ。意外と面倒見がいいし、考えてるな。炎上した時のことを考えて、その視線を花月から少しでも逸らすつもりか。それなら私も

 

私もミルコと同じく配信画面に映り込む

 

『同じく、プロヒーローレディ・ナガンが責任を負う。うちの生徒への非難は許容できない』

 

『レディ・ナガン、あなたまで一体何を...?』

 

生徒を守るのは、教師として当たり前のことだろ。ったく、この配信をした意図は後で教えてもらうからな

 

「──ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ、マンダレイ」

『同じく、ピクシーボブ!』

 

『職場体験引受先として、今回の発言の全責任は』

『私たちプッシーキャッツが負う!』

 

「マンダレイさんとピクシーボブさんまで、何言ってるんですか。皆さんやめてください、僕の発言の責任は」

 

花月が話しているのを遮って、ミルコが配信を終了させた。お前は本当に、色んなやつを引き寄せるな

 

「さて、話を聞かせてもらおうか」

 

「話を聞きたいのはむしろ僕ですよ。レディ・ナガン」

 

ああ、気が向いたら話してやる。だから先にお前から話せ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメなんですよ。かっこいいなんて思わせたら。彼の思想に感化された新たな敵を生み出さないため、模倣犯を生み出さないために。出来るだけ早く、彼はカリスマではなく利己的な敵であると早急に印象づける必要がある」

 

「注目度が高いであろう僕がやることに意味がある。まあ、焼け石に水程度の効果でしょうが、やらないよりはマシだと思いました」

 


 

閑話

 

彼のことは前から知っていた。中学の頃から度々炎上して小さなニュースに取り上げられていたことがあったから

 

そこまで興味がわかなくて配信を見に行ったことはなかった。次に彼の名前を見ることになったのは雄英高校体育祭だった。プッシーキャッツのみんなで、観客席から見ていた

 

そんな中で彼が行った選手宣誓は、雄英高校体育祭至上初の全選手に対しての宣戦布告だった

 

『マスコミ各社、ご来場の皆様にとっては、残念な内容になるかもしれませんが──奇跡の新星?彼らが表彰台にあがることはないでしょう』

 

『僕が優勝します。1〜3位まで、すべてB組が独占します。今年の1年生雄英体育祭の覇者になるのは───僕たちB組です。以上をもちまして、決意表明とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました』

 

虎が立派だと言わんばかりに深く頷き、ピクシーボブがキラキラと目を輝かせ、ラグドールは彼の個性に夢中だったのか、真剣な表情を浮かべ──私は無理だと内心で断言した

 

だって、1年A組の注目度が高く、尚且つエンデヴァーの息子まで参加している。そんな強豪たちの中、一般家庭の生徒が優勝するなんて普通に考えて無理だ

 

 

でも、彼は自らの言葉を実現すべく競技に取り組んでいた

 

 

第1種目は途中まで1位をキープし、順位を落としたものの4位で通過。ラグドールが時折首を傾げていたけど、それは花月くんの時を止める能力を使っていなさそうだったことに疑問を抱いてたんだと思う

 

この時の私たちはそんな能力があることは知らなかったから、ラグドールが何を不思議がっているのか私達も不思議だった

 

第2種目は騎馬戦で2位通過。チーム決めの時からクラスメイトに囲まれていたことから、普段から良好な関係を築いていたことも想像できる。まあ、それは宣戦布告の時から分かってはいたけど

 

その後は余興ともいえる借り物競争に参加者じゃないのに、借り物として何度も引っ張ってこられていたから、本当に人気な子なんだと思った。ライバルであるはずのA組の子からも借りられていたしね

 

 

最終種目も決勝まで危うさなく勝ち進み、その決勝では苦戦を強いられたものの結果的に勝利を掴んだ。A組に注目が集まる中の番狂わせに、会場中が熱狂していたのを今でも覚えている

 

ラグドールが花月くんを指名したいと言い出したのはこの時だった。いつになく真面目に話すものだから、私達も反対することなく賛同した。それでも、他の有名どころからスカウトが来るだろうし、私たちのスカウトを受けるなんて微塵も思っていなかったけど

 

 

 

──まさかの、私たちのスカウトを受けられた。虎は近接戦を教えると気合いが入っているし、ピクシーボブも唾をつけようかななんて迷っているし、ラグドールはホッとした表情を浮かべていた。え、えー?本当に私たちが選ばれたの?洸汰と仲良くしてくれるかしら、なんて不安があったのは内緒だ

 

 

 

初対面の印象は素直でいい子だった。あと、私たちが思っている以上に基礎能力が高かった。魔獣の森を突破した時間から考えても、超人的といえる

 

けど、大事なのはそこじゃない。彼は既に、ヒーローとしての心構えが出来ていた。洸汰のことをただの子どもではなく、1人の人間として尊重し──その上で心を開かせた

 

これはそんな簡単な事じゃない。私でさえそれが出来なかった。洸汰とどう接するのが正解なのかずっと考えていたのに、彼は出会ってからの数時間でそれを成し遂げた。すごいなんてものじゃない

 

 

 

彼が来てから、洸汰の表情に笑顔が戻ってきたんだから、本当に感謝してもしきれない

 

 

 

 

 

でも、彼はただのいい子ではなかった。見てないところで屁理屈をこねて無理をする危うい一面もあった

 

 

あの時はびっくりした。夜遅い時間に身体を強く揺さぶられたかと思えぱ、洸汰が泣きながら私の名前を呼んで助けを求めていたんだから

 

結果的に問題はなくてよかったけど、それはそれとしてしっかりとお説教はさせてもらった。彼の能力は自分の命を落とす可能性があるから、できれば使ってほしくない。元も子もないことをいうと、時間を止めることに関しては個性伸ばしもやめてほしい。色んな意味で心臓に悪い

 

 

 

 

 

まあでも、そんな危うさがあり優しさもあるあの子から少しずつ目が離せなくなっている。洸汰に前を向かせてくれた借りもあるし、私も自分にできることでしっかりとお礼をしたいと思ってる

 

 

その第1歩が彼が行った十中八九炎上するであろう配信の責任を負うことだった。ピクシーボブも反対しなかったし、あの場にいなかった虎とラグドールも怒らないよね....?

 

 

 

 

でも、これだけで借りを返せたなんて思ってない。これからも、借りを返すまで彼のことをしっかりと面倒を見てあげないといけない

 

 

目を離すと、また勝手に無理してそうだから。2日目は疲れで自主練は何もしてなかったけど、今日は体力に余裕がありそうだし抜け出して自主練しそうね

 

 

 

 

 

 

同じ部屋で見守っておくべきかしら?

 


 

恩返し決心マンダレイ

 

 

【挿絵表示】

 

 

護衛ナガン

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

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