静止の月に花開く   作:Mr.♟️

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21話

 

「.....神に誓って約束します。1人で外出して自主練しないと」

 

「そうね、約束したものね」

 

そうですよね、マンダレイさん。夜に抜け出して自主練しないと、間違いなく約束しましたよね

 

「問題が起きてからでは遅いんだ。元から『時飛ばし』の自主練をするべきじゃなかった」

 

レディ・ナガンにまで言われると心に刺さる。確かに問題が起きる可能性はありましたけど、概ね問題ないと判断したんですけどね

 

「苦しくてもなんでも、使わないと成長しないだろ。いいんじゃねーの、別に」

 

ミルコさん、ありがとうございます。この場で僕の味方は多分あなただけです

 

「なので、寝る時は1人にしてくれませんか?」

 

なんで皆さん僕の部屋に集まってるんですか、それも寝間着で。いや、本当に眠れませんから勘弁してください。これでも僕、思春期の男子なんです。悪いことをしたなら謝りますから、許してください

 

「ダメ。花月くんは目を離すと無理するから、監視しておかないと」

 

そんな。いや、確かに無理した部分もあったかもせれませんけど、そもそも特訓って無理するものだと思うんですが。もう本当に抜け出したりしないので信じてください

 

「マンダレイが同じ部屋で寝るなら、私もそうする。護衛するなら同室の方が都合がいいし、間違いが起きないとも限らない」

 

限りますよ。間違いは起きません。まだ高校生ですし、流石にお世話になっている方々にそんな無礼なマネはしませんよ

 

「お前ら過保護だな」

 

「同感です」

 

そう思うんなら、ミルコさんがこの2人を連れて部屋から出ていってくれませんか。お願いします、本当に

 

「まあ、賑やかそうだし、私もこの部屋でいいか」

 

「よくないんですけど。いやもう、本当勘弁してくださいよ。抜け出して自主練したり無茶するようなことはしませんから。そもそも寝るだけですし」

 

「寝るだけなら私達がいていいんじゃない?」

 

「いや、良くないですよ。男女が同じ部屋で寝泊まりするのなんて、健全じゃないですし、もし記者に抜かれでもしたら最悪の見出しがつけられますよ」

 

「プロヒーローになったらこういうこともあるかもしれないだろ。何事も経験だ」

 

ミルコさん、僕の味方じゃなかったんですか。やめてくださいよ、何事も経験だみたいな感じで押し切るの。何も言えなくなるじゃないですか

 

「そうだな。実際災害現場では宿舎が足りずに異性と同じ部屋を使うことがありえる」

 

「いや、緊急時ならわかるんですけど、今は平時なので緊張感が出ないというか」

 

レディ・ナガンが言ってることもわかりますよ。僕だって戦うときは性別なんて気にしませんし、緊急時代なら異性と同室は嫌だなんてワガママは言いません。でも今は、緊急事態じゃないですか

 

「平時より緊急事態と同等の動きができるヒーローは実際の現場でも頼りになるわよね。これも職場体験の一環だとおもって、ね?」

 

ずるいですよ。完全に僕がプロヒーロー3人にわがままを言ってる構図じゃないですか。しかも、反論しづらい言葉を的確にぶつけてくるのやめてください

 

「わかりました。確かに、平時にできないことが緊急時にできるわけがないですよね」

 

こうなったら可及的速やかに眠るしかない

 

 

 

 

 

 

 

 

......全然眠れない。四方八方から異なるいい匂いがする

 

これはなんていう名前の拷問だろうか

 


 

午前中はミルコさんとの模擬戦のはずが、僕は目隠しをされ森の中に立たされている

 

「.....あの、これはなんの拷問ですか?」

 

「私は昨日みたいに実践形式でお前と戦りたかったんだが、ナガンに文句をいわれたから鍛えてやる」

 

「当たり前だ。実践形式で戦えばこいつはまた限界まで時飛ばしを使う。そんなの教師として許可できない」

 

レディ・ナガンの気遣いは本当に嬉しいけど、昨日の夜ミルコが言っていた通り使わなければ個性は制御できるようにならない。いやもちろん、これから行う内容が実践形式よりも僕が成長できるなら文句はない

 

「いたっ...」

 

頭を叩かれた。え、酷くないですか

 

「これからやるのは、目に頼らず気配だけを頼りに攻撃をかわすトレーニングだ。これができるようになれば、お前の戦いの幅は間違いなく広がる」

 

「ある程度できますよ」

 

今叩いたのはレディ・ナガンだったのか。ですが、甘く見過ぎじゃないですか。ヒーロー基礎学の授業で死角からの攻撃はある程度感じることができてますし、わざわざ職場体験でやることではないのでは?

 

「知ってる。ヒーロー基礎学の授業を遠くから見たことがあるからな。ある程度ではなく、完璧にできるようにしろ。強くなりたいなら。もしすぐにできるようになったら、その時は実戦形式にすればいい」

 

「....わかりました。なら、早速始めてもらえますか。ミルコさん」

 

死角からの攻撃は時飛ばしを除いて僕の個性を無効化するに等しい。だからこそ、攻撃されるときの雰囲気を本能的に察知できるよう努力した

 

──後ろから頭狙い

 

「....グホッ...!」

 

腹を殴られた。なんで、感じた気配は頭狙いだったのに

 

「頭を守るよう動いたな。ある程度気配を察知できるってのは本当らしい...おもしれぇ!」

 

ミルコさんの声は嬉しそうですらある。僕は痛い。手を抜いてくれてると思うけど、やっぱり攻撃が重たい

 

「ほらな。ある程度察知できるってのは、ある程度以上の実力者から見ると──反対に騙しやすいカモなんだ。何も分からない雑魚より、少し分かる奴の方が罠にかけやすい」

 

レディ・ナガンの冷静な分析が刺さる。悔しいけど理解できる

 

「──ミルコさん、どんどんお願いします」

 

少し自信を砕かれた。B組のクラスメイト相手なら、死角からの攻撃も大体は感覚で避けられるのに。それが通じないどころか、逆手に取られるなんて初めてだ

 

「ってぇ....!」

 

今度は頬をビンタされた。寸前までは足元に来る気配だったのに、全然違う

 

ミルコさんは足音を鳴らさないように僕の周囲を移動しているのがわかる

 

「ほらほら、どうした?ある程度できるんだろ?かっこいいところ見せてみろよっ!」

 

「...くっ」

 

「気配は読むものじゃなく感じるものだ。頭で考えてる限り、ミルコみたいに優れた相手の揺さぶりには必ず遅れをとる」

 

ありがとうございます、厳しくも温かい言葉を。ええ、見せてあげますよ僕の全力を、本気を。ミルコさんにも、レディ・ナガンにも!

 

僕は深呼吸し、全身の意識を集中させた

 

「ミルコさん、攻撃弱くないですか?もしかして昨日の疲れがとれてないとかあります?」

 

「ハッ!減らず口を叩く余裕はあるみてぇだな!」

 

あ、やばいっ。気配が変わった。絶対次の攻撃は今までよりも強い。くらいたくない

 


 

終わった。午前の特訓は終了した。もう、それはそれは見事にボコボコにされた。途中から10回に1回はかわせるようになったけど、躱せばかわすほど攻撃力を上げられた。特に腹がやばい。ミルコさんの蹴りは威力が洒落にならない。手を抜けてアレなんだから、本気だったらと考えると恐ろしい。あ、この場合は足を抜いたが正しいのか?

 

「だーいぶ、ミルコにしごかれたみたい」

 

ピクシーボブさんが心配そうに顔を覗き込んでくる。午後からはプッシーキャッツに対するSNS運用の相談だ。僕が相談を受ける側なのはおかしい気がするけど、そういうものなんだろう

 

「正直痛いですけど、頑張ります。それで、僕は何を答えればいいですか?ある程度なら答えれますよ」

 

「ふむ。我らもSNSとやらを始めようと思うのだが、どうやって始めればいいのかイマイチわからない。そもそも、どのアプリが良いのかも漠然としかわからん」

 

ああ、なるほど。虎さんの不安、プッシーキャッツの不安は最もだ。確かに各SNSで違いはある

 

「日常のつぶやきとか、手軽に使いたいならhirottaですね。利用者のメインターゲットが若者から老人まで幅広いので色々な人に発信した内容が届きやすい。ヒーロー関連情報をよく見ている人にヒーロー関連情報が表示されやすいので、販促効果もあります」

 

リアルタイムでの反応も一番わかりやすく、他のSNSツールに比べて炎上リスクは中の上。プッシーキャッツなら心配いらないと思うけど。4人ともメモしないでください、なんか恥ずかしいので

 

「綺麗な写真や動画、非日常を共有したいならhirosutaguramuですね。メインターゲットは10代後半〜30代の若年層向けです。あとはハッシュタグの活用が多いツールなので、共通の趣味がある人間同士での交流が活発に行われてます。hirottaより拡散力は低いですが、販促効果はこっちのほうが高いです」

 

その分マウント取り合戦の温床のような部分はあるけど、それはこのSNSに限ったことじゃない。炎上リスクは低く、下の上程度だろうか。このツールは一言で言えばきらびやかな世界ってところかな

 

「最後に僕がよく使っているものになりますが、hirotyu-buです。他の2つと比べたら手軽さはありませんが、動画投稿や生配信を行いたいならこのアプリ一択といってもいいでしょう。これも若者から老人までと幅広いターゲットになってますが、ダントツで販促効果が高いです。興味のある人間しか見ないので」

 

こんなことを言っているけど、僕自身は一度もこれらのアプリで販売したことはない。それでも、詳しく調べて分析すればわかることだ

 

「と、このように目的によって使うアプリも異なりますが、みなさんがSNSを使う目的はなんですか?」

 

「知名度がほしいの。災害救助の際に私達のことを知らない人からの協力と理解を得るのが難しいから」

 

ラグドールさんが答えてくれた

 

ヒーロービルボードチャートにもランクインしているプッシーキャッツを知らないなんて。まあ、それも仕方ないか。悪いランクではないけど上位層にランクインしているわけではないし、主な主戦場が災害救助。山岳救助のスペシャリストではあるが、他の実力派ヒーローが派手に敵を倒しているのだから埋もれてしまう

 

「それならまずはhirottaで、余裕があればhirotyu-buに手を出してみるのがいいかもしれないですね。アカウント開設時に知り合いの知名度の高いヒーローから『やっとアカウント作ったんだ』みたいなメッセージをお願いしておくと、本物だと認知されるのでフォロワーも増えると思います」

 

そうじゃないと、なりきりやbotと勘違いされてフォローされないかもしれない。まあそれはそれで話の種になるかもしれませんが。僕が答えれるのはこのくらいですかね──なんで僕の方を見てるんですか?

 

「知り合いの」

「知名度が高い」

「注目度の高い」

「ヒーロー....候補生」

 

「.........なるほど、確かに。知名度と注目度だけなら日本トップクラスかもしれませんね」

 

ですが、僕がプッシーキャッツのアカウントを紹介するなら、なにか一つ動画を撮って紹介する必要がある。残念ながら僕はhirottaとhirosutaguramuのアカウントは作ってませんから。この機会に作っておこうかな

 

「私も作るかぁ」

 

「ああ、そういえばミルコさんもアカウントを持ってないですよね」

 

隅っこで眠そうに話を聞いていたミルコさんが言葉を発した。同じく隅で話を聞いていたレディ・ナガンは興味なさげに視線を逸らした

 

「えっと、流石に僕も何もなくプッシーキャッツとミルコさんのアカウントを紹介はできませんよ。せめて動画に1本出演してもらえないと、紹介するための流れができないので」

 

なんの流れもなくアカウントを紹介すると視聴者から反感を買ってしまう可能性が高い。裏を返せば、流れさえできていれば炎上することなく紹介できる

 

「動画?何撮るんだよ」

 

「できれば、それは相談しながら考えたいです。紹介動画でもいいですけど、その場合は露骨すぎるんで何本か動画を撮る必要があります。企画系なら1本でも問題ないです」

 

ミルコさんに問われるが、僕は答えれない。そんないきなり言われてアイディアが生まれたら苦労しませんよ。知ってますか?僕の生配信と動画はボランティア、勉強、ヒーロー語りのどれかなんですよ。他の人とコラボなんてしたことないんですから

 

沈黙の時間だけが流れていく

 


 

追い出されそうなのが不服なマンダレイさん

 

 

【挿絵表示】

 

 

ネグリジェナガン

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

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