「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!」
ヒーロー基礎学はオールマイトの担当なんだ。どんな授業だろう、座学かな実技かな
「オールマイトだ!すごい、本当に先生やってるんだ!!」
「No.1ヒーローからヒーローについて学べるなんて、この上ない贅沢だよ!」
確かに、物間の言う通りだ。他の学校がどれだけ設備を整えようと、オールマイトから学ぶ事はできない。僕達雄英生に与えられたこの上なく贅沢な学ぶ権利
「では早速だが、私が教えるのはヒーロー基礎学。ヒーローに必要な知識・能力を磨くための授業だ。みんなには最初にこれをしてもらう!」
BATTLEと書かれたカードをオールマイトは取り出した。ふぅん、ヒーロー科っぽい授業だね
「戦闘訓練ですか?」
入試の時みたいにロボットでも壊せばいいのかな
「そう!戦闘訓練だ!それに伴って──」
「入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた戦闘服の出番だ!!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」
「着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!」
元気よく全員で返事をして更衣室へと向かう。
「レディ・ナガンとリューキュウの戦闘服をベースにしてるだろ」
戦闘服に着替えていると、心操に話しかけられた。まだあんまり話したことないけど、よくわかったね。すごいよ
「リューキュウはともかく、よくレディ・ナガンだってわかったね。知ってる事自体珍しいよ」
リューキュウは10位、レディ・ナガンは──タルタロスに収監されている犯罪者。前者はメジャーヒーロー、後者は終わったヒーロー。僕が初めて配信でレディ・ナガンのことを話したときでさえ、知っている人は少なかった
「.....レディ・ナガンを推している知り合いがいるんだ」
どこか誤魔化すように心操は答えてくれた。でも、何故か答えにくそうだね
「そうなんだ。いつか話してみたいなぁ。レディ・ナガンを知ってる人って少ないから」
微妙な反応をされた。いや、僕もあまり話したことのない同級生に知り合いと話したいって言われたら似たような反応をするかもしれないけど、もう少し表情を抑えてくれてもよくない?
僕達B組は全員戦闘服に着替えてグラウンドβに揃った。グラウンドβは都市のような構造をしている。どこに行くにしても規模が大きすぎて驚かなくなってきたなぁ
「花月、似合ってるじゃん」
「ありがとう、取蔭こそ──うん、個性にぴったりな戦闘服だね」
何故だろうか。大部分のクラスメイトは理解できる戦闘服なんだけど、女子の何人かはピッチリとした戦闘服を着ている。嫌ではないし、目の保養になるといえばなるけど、直視できない
「始めようか!!有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!」
「オールマイト先生、今日は入試の時みたいな市街地演習ですか?」
拳藤が聞いてくれた。僕も気になってた、入試の時みたいにロボを壊すだけならあまり成長できない気がする
「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での
屋内戦闘訓練か。屋外と屋内では戦い方や求められることが違うんだよね。リューキュウが『屋内戦闘は建物を壊さないように戦わないといけないので、私の個性だと不向きで苦労してます』ってラジオで話しているのを聞いた事がある
「敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内のほうが凶悪敵出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売...このヒーロー飽和社会、真に賢しい敵は屋内に潜む!!君らにはこれから『敵組』と『ヒーロー組』に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!!」
「でも、僕達まだ基礎訓練とかしてないですよ」
ぶっつけ本番でできるのかな。学校生活が始まってまだそこまで経過してないし、クラスメイトの個性もほとんど知らない
「その基礎を知るための実践さ!ただし、今度はぶっ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ!」
とりあえず話を聞いてみよう。2対2ってことは、対人戦闘だ。ロボを相手にするよりも人を相手にするほうが僕の個性と相性がいい。実践はやったことないけど、練習はしてきたしイメトレもした。大丈夫なはず
「いいかい!!状況設定は『敵』がアジトに『核兵器』を隠していて『ヒーロー』はそれを処理しようとしている!」
(((設定アメリカンだな!!)))
多分みんな同じことを思ってると思う。そういえば、オールマイトはアメリカでヒーロー活動をしていた時期もあったはず。その影響かな
「ヒーローは制限時間内に『敵』を捕まえるか『核兵器』を回収すること、『敵』は制限時間まで『核兵器』を守るか『ヒーロー』を捕まえること、コンビ及び対戦相手はくじだ!」
「ペア決めも応用力を身につけるための練習ってことかな」
拳藤のつぶやきが聞こえた
「現場に出た際に見知らぬ相手と組むこともあるだろうからね。そうなのかも」
お互いの個性を把握しきれていないこのタイミングで行う授業としては合理的なのかもしれない。僕達の考えすぎで、そんな意図はない可能性もあるけど
「Aだ」
引いた紙に記された文字。僕はAチームらしい。さて、誰と組むことになるだろう
「私もAです。よろしくお願いします、花月さん」
振り返ると、そこには塩崎茨がいた。これは運が良い
「塩崎と組めるなんて、運が良いな。こちらこそ、よろしく」
思わず口元が綻んだ。応用力が高い塩崎の個性と、対人に特化している僕の個性ならかなり有利に戦うことができる。少しだけ心の緊張がほぐれていくのを感じながら、僕は深呼吸をひとつした
【敵サイド】
塩崎茨&花月雫
物間寧人&拳藤一佳
鉄哲徹鐵&骨抜柔造
庄田二連撃&凡戸固次郎
泡瀬洋雪&円場硬成
【ヒーローサイド】
宍田獣郎太&黒色支配
回原旋&柳レイ子
小大唯&小森希乃子
心操人使&吹出漫我
角取ポニー&取蔭切奈
「初戦は宍田少年のペアと塩崎少女のペアだ!」
お互いに個性は把握しているから、作戦会議に時間を使えると思ったんだけど
「ああ、なんていう所業をお考えになるのでしょう。鞭で打たねば」
「それは勘弁してほしい。悪くない作戦だと思うんだけどなぁ」
僕が塩崎に提案したのは、塩崎の茨で核兵器を包み込んでいる風のダミーを部屋中に配置。そのうちの1つに僕が隠れて最低でも1人撃破。茨も同じくダミーの中に隠れ、かつダミーだけの部屋ではなく本物がある部屋で待機
相手が核兵器を探している最中に攻撃してもよし、自身の隠れているダミーに触れてから攻撃してもよし。本物に触れそうだったら、塩崎が攻撃すれば問題なし。本物がある部屋で戦闘が始まったら、僕も向かえばいいだけ
「謀は穢れに通じます」
この調子で提案した作戦はすべて却下されている。頭脳明晰で強個性の塩崎にこんな扱いにくい一面があったなんて、困った。でも、ヒーローらしいと言えばらしい
「どの範囲なら問題ない。奇襲はいい?ダメ?」
「いけません、ダメです」
「奇襲の前に堂々と名乗ってから戦うのは?」
「であれば、問題ありません」
なるほど。ようするに、一方的に不意を突くような行為がアウトなわけだ。お世辞抜きでプロヒーローよりヒーローらしいよ。塩崎の個性ならそれでもやっていけそうなのがすごい。作戦を立てるのが面倒さくさいデメリットがあるけど
「もし塩崎が相手に気がついて、相手が塩崎に気がついてない状態で攻撃するのは?」
「問題ありません。事前に奇襲をするような作戦を立案しているならダメです」
事前の謀か否かが判断基準に入っているらしい。なら、塩崎を誘導して──いや、無理だ。相手の個性もわからないし、誘導するにしても塩崎の個性を使わないと難しい。なら、いっその事──
「塩崎、提案なんだけどさ──」
『準備の時間は終わりだ!戦闘訓練開始!』
四階建ての模擬ビル。その一階、玄関口から奥まった場所にある部屋で、塩崎茨と花月雫は待機していた
その部屋の広間の片隅、そこに核兵器が置かれている。核兵器は塩崎がツルを広げ、触れないように封じている。入ってきたところを速攻で制圧する。それが塩崎と花月の作戦だ
正面入り口に続く通路には遮蔽物がない。侵入者が来れば必ず視認できる構造。そしてその先に、花月が佇む
「来る」
足音が聞こえた。花月が呟いた直後──扉が音を立てて開く。獣のような風貌の巨躯が踏み込んできた
「身体強化系の個性なんだ。2人同時に乗り込んできてくれるなんて、ありがたいね」
宍田獣郎太が獅子の如き咆哮を放ちながら、全速力で駆けてくる。肉体から溢れ出す圧倒的な熱量と力。床が軋む。壁が震える。
その背後、彼の影に滑るようにして黒色支配が現れる。床や柱、壁に走る影の中を自在に移動し、まるで水のように姿を変えながら追従していた
(なるほど。影を移動する個性か)
「核は──ツルの奥ですな!? 黒色氏!」
獣の本能を思わせる鋭い勘。宍田の突進は真っ直ぐ花月を貫こうとしていた──その瞬間だった
──静止
何の前触れもなく、宍田の肉体が止まった。文字通り、完全に
片足を踏み出したその姿勢のまま、宍田の動きが空間に封じ込められる。筋肉は膨張し、血液は沸騰せんばかりに流れている。だが、その肉体に命令を出すも動かない。
視線は動く。驚愕と混乱と、理解できない現実に戸惑う瞳
それでも彼は、自分が動けなくなったということだけははっきりと理解していた
──動け
──動け
──動かない
「......っ」
声にもならない声が喉を掠めた。だが喉も、口も、動かない。
花月は一歩も動いていなかった
その場に立ち、見るだけで宍田獣郎太を無力にした
「──いい個性だね。でも、動けなければ何もできない」
淡々とした声で、花月は語りかけた。そこに嘲笑も、威圧もない
あるのはただ、事実だけだった。宍田の身体は塩崎のツルによって拘束され始める
──その間に、花月の影から黒色支配が現れる。影を移動し続け、これ以上ないタイミングでの奇襲
宍田が無力化された原因は花月にあると推測した彼は、宍田が完全に拘束される前に花月を撃破する選択をした
「──頼んだよ、塩崎」
「えぇ、承知しております」
ツルが地を割って黒色に伸びる
「!?」
黒色の足がツルに絡み取られ、機動力を奪われた
「裁きを」
塩崎の声は清らかで、そして冷静だった
「光が届かぬ道は、決して歩むべきではありません」
「
黒色はツルから脱出しようと試みる。しかし、ツルが巻きつく速度がそれを許さない
「っ!宍田!!」
叫んでも、彼は動けない。黒色も完全に塩崎のツルによって拘束された。程なくして、宍田も同じように拘束される
黒色の視線の先、動かない仲間と静かに佇む花月。背後にいるであろう塩崎。これは、あまりにも違う。力と力がぶつかる戦いではない
蹂躙だ。理不尽なまでの制圧だった
「制圧完了」
「勝利をここに」
花月と塩崎がそう呟くとほぼ同時に、オールマイトが戦闘終了を宣告した
私は、自分が他者から受け入れ難い性格をしていることを知っています
──高潔。そう言われたことがあります
──面倒臭い。幼い頃はよく言われました
子供の頃からそうでした
『ズルはダメです』
『それは卑怯ですよ』
私にとってはごく当たり前の倫理観でした。けれど、それは"ルール"ではなく、"空気を読まない"行為として捉えられていたようです
小学生の時は、遊びの作戦会議で意見を出しただけなのに「塩崎がいると楽しくない」と言われました
中学生の時は、「また説教?」と揶揄されました
誰も、耳を傾けようとしてはくれませんでした。それでも私は、問われれば答えました。自分の考えを曲げることは、他者の考えに迎合することは致しませんでした
それは雄英高校に来ても変わりません。自分の正義を誤魔化すような言動は極力しません。例えそれで、また「堅苦しい」と思われたとしても。折角出来た友人に距離を置かれることになろうとも
「ああ、なんていう所業をお考えになるのでしょう。鞭で打たねば」
「それは勘弁してほしい。悪くない作戦だと思うんだけどなぁ」
花月雫さん、高校に入ってから出来た友人の1人です。彼の案は、多分合理的なものだと思います。核兵器に似せたツルのダミーをいくつも配置し、相手が予期していないタイミングで攻撃を仕掛ける。相手が個性を発動する前に戦いを終わらせることができる可能性のある作戦。勝算の高い作戦なのかもしれません
ですが──
「謀は穢れに通じます」
私は断りました。正義とは、ヒーローとは誇り高くあるべきものです。たとえ勝利を手にするためであっても、騙し討ちは私の信条に反します。例えこの授業では敵サイドだとしてもです
「それは勘弁してほしい。悪くない作戦だと思うんだけどなぁ」
少し残念そうにはしていましたが、考え方を否定はされませんでした。花月さんは言葉を続けます
「どの範囲なら問題ない?奇襲はいい?ダメ?」
「いけません、ダメです」
「奇襲の前に堂々と名乗ってから戦うのは?」
「であれば、問題ありません」
「もし塩崎が相手に気がついて、相手が塩崎に気がついてない状態で攻撃するのは?」
「問題ありません。事前に奇襲をするような作戦を立案しているならダメです」
──不思議な感覚でした
これほどまでに私の価値観を尊重し、噛み砕いて理解しようとしてくれる人がいたでしょうか?いえ、いませんでした。大抵は少し苦々しい顔を知って静かにいなくなっていきます
花月さんは私を諭すでも押し切るでもなく、丁寧に輪郭を確かめてくれた。それだけで、胸の奥が温かくなるのが自分でもわかります。尊重される、否定されないというのはこれほど嬉しいことなのですね
「塩崎、提案なんだけどさ──」
彼の声は、私の過去の記憶にあったどの声とも違っていました。決して強く押し付けてこない。決して諦めて切り捨てようとしない。言葉には温かさが、温度がありました
『準備の時間は終わりだ!戦闘訓練開始!』
模擬ビルの一階。私は、花月さんと共に玄関奥の部屋で待機していました。広間の片隅には、模擬の核兵器。その周囲は、私のツルで覆っています。侵入を防ぐためではなく、接触させないための封鎖。それ以上でもそれ以下でもありません
この作戦は私の信条に則り、正々堂々と敵を迎え撃つものです。扉の先、遮蔽物のない通路
──足音が聞こえました
「来る」
私は無言で頷きました。瞬間、ドアが開き、獣のような咆哮が響き渡りました。宍田獣郎太さん──その個性は名の通り、まさに獣の如き力強さを感じます。圧倒的な熱量と筋肉を伴い、正面からの突撃。恐れを知らない、愚直なまでの直進。そしてその背後には、黒色支配さん
「核は──ツルの奥ですな!? 黒色氏!」
宍田さんの考えはあってます。黒色さんは影に消え、宍田さんは真っ直ぐに花月さんへと突進──その瞬間
──静止
動きが、消えました。
それまで轟音を立てて突き進んでいた彼の肉体が、突如として空間に縫い止められたかのように、沈黙しました
──動かない
宍田さんの表情に浮かんでいたのは、理解不能というよりも、理不尽への戸惑い。恐怖ではありません。ただ、どれだけ動こうとしても動けない。そんな純粋な困惑
その隙に、私はツルを展開しました。宍田さんの四肢を絡め取っていく。動けぬ彼は、ただ静かに、私の茨に捕らわれていきます。同時に、黒色さんがどこから現れても問題ないよう、見えないように地面にツルを伸ばしました
花月さんの背後の影から、黒色さんが現れました──私の出番です
宍田さんを抑えて私たちが油断する可能性のあるこのタイミングを好機と見たのでしょうか。もしくは、それしか手段が残されていなかったのか。彼の個性なら1人逃げ出すことは可能でしょう。ただ、その場合は宍田さんを捕らえたあとの私たち2人を1人で相手にしないといけません。黒色さんの勝機は9割方失われます
「頼んだよ、塩崎」
背後から迫る気配を感じたのか、花月さんも気づいているようです。振り返る素振りはなく、宍田さんを見て動きを止め続けています。宍田さんから視線を切って、背後から迫る黒色さんを止めることもできるはずなのに──私を信じて花月さんは動かない
「えぇ、承知しております」
私の茨が、床を走り、壁を這い、黒色さんへと伸びる。彼は即座に反応しました。かわそうとするその足に──茨が絡みます
「光が届かぬ道は、決して歩むべきではありません」
「
黒色さんの身体が縛られ、動きを奪われる。咄嗟に影に逃れようとしたのでしょう、しかし私は、その足場となる影ごと封じていました
宍田さんは動けない。黒色さんも脱出できない
完全な勝利です
「制圧完了」
「勝利をここに」
花月さんの言葉と、私の言葉が重なった瞬間、戦闘終了の合図が鳴りました。
オールマイト先生の声が、ビル内に響き渡ります
──勝利
喜びを分かち合いたく、視線が自然と花月さんの背中に向きました。彼は振り返り、私に笑みを浮かべてくれました
「塩崎を信じて良かったよ。ありがとう」
──あぁ。やっと、やっと、私は。自分の正しさを、誰かと共有できたのだと。誰かと共に、信念を曲げることなく戦えた初めての経験。そのことに、胸が締めつけられるような、暖かい感情を覚えました
「いえ、こちらこそ。私が信条を貫けたのは、貴方が共に立ってくださったからです」
私は絶対に、今日の授業を忘れません
「ふむ、すごいな。あの二人は....」
オールマイトは腕を組んで唸るように言った。観戦室にいる生徒達にも、その言葉は微かに聞こえていた
「さて──第一戦!塩崎ペア・宍田ペアの戦闘について講評する!」
オールマイトの声が観戦室に響き渡った。NO.1ヒーローの講評に、当事者のみならずクラスメイトたちも真剣な表情で聴きいる
「端的に言おう。塩崎ペアの完勝だった!」
その言葉に、教室内の空気がわずかに震えた。観戦していた生徒たちの間から、小さくも確かな感嘆の声が漏れる。塩崎と花月が勝ったのは誰の目にも明らかだったが、それをオールマイトが断言した事実には、別種の重みがあった。
「まず宍田少年!」
名前を呼ばれた宍田は、膝に手を置いたまま顔を上げた。その顔に浮かぶのは悔しさ
「君の突撃は見事だった!あれは並の相手なら回避もできないだろう!瞬発力、咆哮による威圧、そして仲間への指示。敵味方関係なく見惚れる熱量だったぞ!」
宍田は項垂れながらも、小さく拳を握る。褒められた喜びと、それ以上に何も出来ずに負けた事実に悔しさを滲ませる
「だが──それを無力化した花月少年の判断力と個性の使い方は、さらに見事だった!」
花月雫。彼の個性は《静止》。視界に捉えた対象の動きを封じるという、単純かつ強力な能力だ。だが、それを最大限に活かすためには、なによりも冷静さが必要だ。冷静でなければ、突っ込んでくる相手を前に微動だにしないなんてありえないだろう
「花月少年は動かなかった。ただ相手を視て、ただ止めた。突進してくる相手に対して一歩も引かず、己の個性を最大限活かす最適解を選んだ。それは決して、誰にでもできることじゃない!」
「個性に頼るのではなく、個性を理解して信じる。それができていた。だからこそ、宍田少年の強い圧に屈せず、制圧できた!」
反対に冷静なだけでは乗り越えない時もあると、オールマイトは知っている。ここで口にするのは野暮なため、心に留めておいた
「そして黒色少年!」
呼ばれた黒色支配は、やや顔を伏せながらも真っ直ぐにオールマイトの言葉に耳を傾けた
「仲間が拘束されようとした瞬間に飛び出し、花月少年に迫る判断力と行動力は素晴らしかった。影を使った機動力は高く、支援としての働きは一級品だった!」
「だが──」
オールマイトの口調が僅かに厳しさを帯びる
「塩崎少女の備えには及ばなかった!」
教室内に緊張が走る。黒色が悔しそうに唇を噛みしめた
「仲間を助けるために動く。その判断は、ヒーローとして間違いではない。だが、あの場面では逃げるという判断もまた一つの正解だったはずだ。敵の力が想像以上である場合、迂闊に踏み込むべきではなかった!」
オールマイトは少しだけ間を置き、柔らかく続けた
「とはいえ、仲間を助けようとしたその行動は否定されるものではない。君の取った選択は結果的に敗北に繋がっただけで、責められるべきものではない」
黒色は小さく頷いた。その目には、次こそはという強い意志が宿っている
「そして──塩崎少女!」
名を呼ばれた塩崎は、静かに姿勢を正した。彼女の瞳はまっすぐで、一切の揺らぎを含んでいない
「君は今回、敵側でありながらヒーローの鑑だった!」
生徒たちの中にざわめきが走る。中には目を見開く者もいた。だが、オールマイトはそれを受けてさらに声を張った
「戦術としての優位性がありながら、君はそれをあえて選ばなかった。花月少年の提案を退け、正面から戦うことを選んだ。それは愚かで非合理的で、戦いにおいては時に敗北を招く選択だ!」
「だが──君は勝った!」
「信条を曲げず、誇りを捨てず、敵と向き合い、そして勝利した!」
塩崎は目を大きく開いた。その拳が小さく震えているのは、気のせいではないだろう。
「そういう戦い方こそが、ヒーロー社会における灯になると私は思う!」
「合理的な戦い方、勝率の高い作戦、それは正しい。だが──人の心はそれだけでは動かない!核となる信条が、信念があってこそ人の心は動く!」
拍手が起きるわけではない。だが、その言葉が、塩崎の胸に深く届いたことは誰の目にも明らかだった。
「──しかし、だ。時には信条を曲げるかどうか選択を迫られる時がくる。その時、後悔のない選択が出来るよう日々の生活から意識して過ごすといい」
結果をとるか信条を優先するか、その決断を迫られる時は必ず来る
「最後に花月少年!君に聞きたい!黒色少年が君に迫った時、気づいていただろう?あの時、宍田少年を見たままかわすことも出来たはずだ。何故、そうしなかったのか教えてくれるかな?」
自身だけ問いかけられた花月は少し驚いた様子を見せたがすぐに質問に答えた
「塩崎が黒色を捕らえると信じていたので動きませんでした。僕がかわすために動くことで、黒色が攻撃をやめて再度影に潜まれると対応が難しいので」
「味方への信頼。それはヒーローにとって、必要不可欠な資質だ。だが──時にその信頼が己の命を危険にさらすこともある。信頼は大事だが、信頼しきることと、任せきることは違う。今後はそこも意識していってほしい!」
言葉が一通り終わった後、オールマイトは改めて全員を見渡した。
「今回の戦闘は、全てにおいて理想的な“共闘”だった。個性の強さではない。仲間を理解し、信じ、己の役割を全うする。それがヒーローにとって、最も大切な資質だ!」
教室の空気が熱を帯びる。誰もがその熱に触発される
「次は物間少年と回原少年の戦闘だ!前の戦いを参考に、よく考えて戦ってほしい!」
【敵サイド】
WIN 塩崎茨&花月雫
WIN 物間寧人&拳藤一佳
WIN 鉄哲徹鐵&骨抜柔造
loose 庄田二連撃&凡戸固次郎
Ioose泡瀬洋雪&円場硬成
【ヒーローサイド】
Ioose宍田獣郎太&黒色支配
loose 回原旋&柳レイ子
loose小大唯&小森希乃子
WIN 心操人使&吹出漫我
WIN 角取ポニー&取蔭切奈
Mr.サイレント(=花月雫)を知っているか
泡瀬 洋雪→知ってる。関連動画のオススメに流れてきて見たことがある。生配信のアーカイブでクラスメイトとカフェに行っていることを嬉しそうに話していたため、本人には知っていることを言っていない
円場 硬成→知ってる。伝説の炎上回【オールマイトが敵になったら】を見た。泡瀬と同様の理由で本人には言ってない
回原 旋→知ってる。感動回【僕の1番の推しヒーロー】を見た。積極的にコミュニケーションをとろうとしている。同級生も動画みてるからな.....と教えてあげたい
花月 雫→本人。クラスメイトは動画を見ていないと思ってる
拳藤 一佳→知ってる。【勉強生配信〜勉強系なら答える〜】を見た。配信のことを触れてもいいかどうか迷い、カフェに行った日の生配信を見て言わないであげようと決めた。チャンネル登録者100万人おめでとう
黒色 支配→知ってる。【勉強生配信〜喋らないよ〜】を見た。カリカリとノートに文字を書いてる音が心地よく、勉強が捗った。泡瀬同様で本人には言ってない
小大 唯→知ってる。【合格しました】を見た。本人に教えない方が、思っていることを知れそうなので言わない
小森 希乃子→知ってる。チャンネル開設を考えているため、色々と聞きたい。でも、空気を読んで触れないでいる
塩崎 茨→知らない。全く知らない
宍田 獣郎太→知らない。動画配信はあまり興味がないものでして....
庄田 二連撃→知らない。見せられたら、見たことあるかも?程度のレベル
心操 人使→ヘビー視聴者。伝説の炎上回【僕の個性について】を見た。『エロいことするなよとか、敵向きの個性とか、ヒーローになれない個性とか、敵予備軍とか色々言われてきた。僕から言わせれば、そんなことを言う君たちの方が敵予備軍だ。使い手次第でヒーロー向きの個性でも敵になり、敵向けの個性でもヒーローになる。僕は周りに何を言われてもヒーローになる、それだけだよ』同い年が動画でそう言い切ってるのを見て脳が焼かれた。仲良くなりたいけど、お互いにコミュ障気質。泡瀬同様
角取 ポニー→知らない。見せられても思い当たる節なし
鉄哲 徹鐵→知らない。知ったら初回配信から見てくれる
取蔭 切奈→知ってる。中学時代に友達から勧められ、伝説の炎上回【オールマイトが敵になったら】を見た。過去配信も見てたくらいには、気になっていた配信者。教えるかどうか迷っている
吹出 漫我→知らない。見せられたら、あーってなる
凡戸 固次郎→知らない。見せられても検討もつかない
骨抜 柔造→知ってる。【ゴミ拾い楽しい】を見た。ボランティア活動を推奨していたり、度々炎上していたり見ていて飽きないチャンネル。教えるかどうか迷っている
物間 寧人→伝説の炎上回【僕の個性について】を見た。同い年として触発されたし、実際に会えたら仲良くなれそうだと思った。レスバ会場は動画コメント欄ではなく、掲示板。小大同様。次話で関わる予定
柳 レイ子→知らない。ホラー系の配信をしたら見る
裁きを与える塩崎さん
仲間外れにされてしょんぼり幼い塩崎さん
幼い日の私、私は元気です
可愛い取蔭さん
塩崎さんが全てもっていった