「今日は、ヒーロー倫理学について学んでもらう」
教壇にブラドキングが立つ。ヒーロー倫理学を受け持つのは、各学級の担任。校長自らが教壇に立つこともある授業だ
「ヒーローは公共の場での個性の使用が許可されている。その力を行使するにあたって重要なのが『法律』と『倫理観』だ。この授業では主に、その2つについて学んでもらう」
「俺が提示するお題に対して、グループでのディスカッション形式で結論を出してもらう。グループごとにその内容の発表、発表内容についての質問。以上がこの授業の基本方針になる」
ヒーロー基礎学が実技、ヒーロー倫理学が座学と考えればわかりやすいだろう。中学時代にはなかった討論中心の授業に、生徒たちは少しザワツキをみせた。ブラドはそれを制してお題を提示する
「実際にやってみればわかる。今回のお題は『強さはヒーローの条件か』だ」
「ヒーローは強くなければヒーローじゃないか、弱くてもヒーローになれるか」
「グループは事前に俺の方で決めてある。黒板に書いておくから、各グループで1時間ディスカッションしてくれ。この授業に正解はない。各自の意見をしっかりと話し合うように」
ブラドが黒板にグループを書いていく。花月と同じグループだったのは取蔭、小大、塩崎の3人だった。席をくっつけて、ブラドの指示通りに話し合いを開始する
「僕が進行役を担当してもいいかな?とりあえず、進行役・書記・タイムキーパー・発表担当を決めてから討論を始めていければいいと思うんだけど、どうかな?」
最初に口を開いたのは花月だった。より円滑に討論を進めるために、役割決めを提案した。その案に3人は頷き、取蔭が書記、小大がタイムキーパー、塩崎が発表担当に決まった。
「互いの意見・質問・反論を40分。まとめを20分で進めていこうと思う」
全員がその言葉に賛同したことで、このグループのディスカッションが始まった
「『ヒーローは強くなければヒーローじゃない』or『弱くてもヒーローになれる』かを理由も添えて教えてほしい。取蔭、君はどっち派かな?」
「私は『弱くてもヒーローになれる』派かな。例えば、戦闘能力としては弱くても、誰かの心を支えたり、助けたりできる人はヒーローだと思う。力だけがヒーローの条件じゃないはずだよ」
取蔭の言葉は尤もだろう。今のヒーロー社会はまさにそれだ。戦闘能力がない人間でもヒーローになることが出来ている。ヒーローが多様化している今の時代、多数派になるのがこの取蔭の意見だ
「なるほど。強さの定義を何にするかってことだね。『戦闘力』だけではなく『心の強さ』『諦めない力』『優しさや信念』とか他の要素も踏まえて見るべきってことかな」
「そうそう、その在り方が大切だと思うんだ。だから、弱くてもヒーローになってもいい」
花月の言葉に取蔭は賛同した。花月の視線が小大へと向く
「小大はどう思う?」
「私も『弱くてもヒーローになれる』派。サポート向きとかレスキュー向きの個性もある。救助や後方支援に特化するヒーローだっている。だから、戦闘力がない人間でもヒーローになれる」
小大の個性もそうだろう。応用すれば戦闘にも使えなくもないが、どちらかといえばレスキュー等の方が活躍する機会が多い
「今までの前例から見ての考えだね。確かに、戦闘能力がなくても災害救助で活躍しているヒーローもいる。いい考えだと思うよ」
「ん」
小大は静かに頷く
「塩崎はどう思う?」
「私も『弱くてもヒーローになれる』派です。戦闘能力より大切なのは、誰かを救いたいという信念。心の在り方こそがヒーローだと思います」
塩崎らしい真摯な考えだ
「確かに、幾ら強くても内面が伴っていないとヒーロー足りえない。塩崎らしい綺麗な考え方だね」
「ありがとうございます。それで、花月さんはどのようにお考えですか?」
塩崎が今度は花月に問いかける
「『ヒーローは強くなければヒーローじゃない』派かな。ヒーローになるなら、個性に関係なくある程度の戦闘能力は身につけるべきだと思う。幾ら立派な志があろうとも、有事の時に戦えなければ救えない。弱いままでヒーローを名乗るのは、傲慢じゃないかな」
真逆の意見に、3人は思わず表情を強張らせた。花月もこの反応を想定していたのか、驚いた様子はない
「ここからは、質問・反論の時間にしようか。誰か──早いね取蔭。誰に対してかな?」
聞くまでもないだろう。取蔭、小大、塩崎の意見は多少の差異はあれど、分類としては同じなのだから。まずは、正反対の自身に対して言葉が向けられることを花月は理解していた
「花月の意見、理解できる部分はある。戦闘の現場では確かに力が必要だと思う。でも、その強さは本当に戦闘力だけ?心の強さや判断力は、戦闘力以上に大事な時もあると思う」
花月は穏やかに応じた
「もちろん、心の強さや判断力もヒーローにとって大切な要素だと思う。だけど、いくら信念や優しさを持っていても、目の前の誰かを救う瞬間に力が足りなければ──救えなかったという事実が残る。だからこそ、大前提として戦闘能力は必要だと思う」
小大が声を上げる
「でも、強さを身につけるには時間がかかる。候補生だって、最初から強いわけじゃない。そういう人はヒーローじゃないの?」
花月はしっかりと答えた
「まだヒーローじゃないよ。候補生として力を身につける途中だから。ヒーローとして名乗る以上、ある程度の力は必須だと思う」
塩崎が言葉を紡ぐ
「もし目の前にいる人が敵に襲われていたとすれば──確かに、その瞬間だけを切り取れば戦闘力が絶対条件になるかもしれません。ですが、ヒーローは日々の行動や積み重ねが大事だと思います。たとえ戦闘力が弱くても、信念を持ち続けるヒーローもいます。力だけで測れるものじゃないはずです」
花月は塩崎の言葉に静かに頷いた
「その意見には賛成だよ。日々の積み重ねがなければヒーローにはなれない。でも、どんなに信念があっても、有事に人を救えないなら──その瞬間に無力なら、ヒーローとは呼べないと思う。だから、ある程度の戦闘能力がヒーローには必要だと思う」
塩崎は明らかな不服顔を浮かべる。花月は苦笑して続けた
「例えばさ、自分が力のない人間と仮定して、もし敵に襲われている時に戦闘能力のないヒーローが現れたらどうする?どう思う?安心できる?助けてもらえると思う?僕は思わない。仮にそのヒーローが印象が良くてボランティアとかにも活動的で、信念も素晴らしい、立派な志もある。そんなヒーローだとしても──なんで、助けに来たのがこの人なんだろうって、僕ならそう思う」
取蔭が言葉を詰まらせる。小大も小さな戸惑いの色を浮かべていた。塩崎も考えるような表情に変わっていた。花月の問いかけは鋭く、厳しいものだった
「──残り20分」
タイムキーパーの小大が声をかける。花月は息をつき、少し笑う
「あ、ごめん。僕の話が長かったかな。まとめに入ろう」
全員が静かに頷く。鋭い議論の中でも、互いを理解し合おうとする空気は、しっかりとそこにあった
『──緊急連絡です。今すぐ、教員は全員駐車場に集まってください。緊急連絡です。今すぐ、全教員は授業を中止して大至急駐車場まで。3分以内に集まってください』
そのアナウンスに生徒だけではなく、ブラドも戸惑いを見せる。ただ事ではないと判断し、すぐにクラスに授業を一時停止する旨を伝え走り去っていく
「ブラド先生も驚いていたし、また前回のマスコミみたいなイレギュラー?」
ブラドが戻ってきたのは、2時限目終了の時間だった。そしてB組は知らされることになる。USJに敵が侵入し、A組が襲撃されたことを
「今日は、ヒーロー倫理学について学んでもらう」
教壇に立つブラド先生の声が、教室に響きます。ヒーロー倫理学──私が特に興味を持っている授業でした。ヒーローにとって、倫理観と法律の両方を学ぶことはとても大切なことですから
「ヒーローは公共の場での個性の使用が許可されている。その力を行使するにあたって重要なのが『法律』と『倫理観』だ。この授業では主に、その2つについて学んでもらう」
ブラド先生の言葉に、教室は自然と静かになります。中学時代にはなかった討論形式の授業。私は少し緊張しつつも、こうして意見を交わせる機会を嬉しく思います
「俺が提示するお題に対して、グループでのディスカッション形式で結論を出してもらう。グループごとにその内容の発表、発表内容についての質問。以上がこの授業の基本方針になる」
先生の声が力強く響き、私の胸にも意欲が灯る。黒板に向かうブラド先生の背中を見ながら、私は深く息をつきました
「実際にやってみればわかる。今回のお題は『強さはヒーローの条件か』だ」
教室がざわつく。強さ──ヒーローにとって避けられないテーマ。私も思わず背筋を伸ばしました
「ヒーローは強くなければヒーローじゃないか、弱くてもヒーローになれるか」
「グループは事前に俺の方で決めてある。黒板に書いておくから、各グループで1時間ディスカッションしてくれ。この授業に正解はない。各自の意見をしっかりと話し合うように」
黒板に書かれたグループを見て、心が引き締まる。花月さん、取蔭さん、小大さん──私と同じ班になった。きっと充実した話し合いになります
「僕が進行役を担当してもいいかな?とりあえず、進行役・書記・タイムキーパー・発表担当を決めてから討論を始めていければいいと思うんだけど、どうかな?」
花月さんの言葉に、私は自然と頷きました。議論をスムーズに進めるために必要な配慮。全員が同意し、私は発表担当に決まりました
「互いの意見・質問・反論を40分。まとめを20分で進めていこうと思う」
全員が静かに同意する
「『ヒーローは強くなければヒーローじゃない』or『弱くてもヒーローになれる』かを理由も添えて教えてほしい。取蔭、君はどっち派かな?」
花月さんの問いかけに、取蔭さんは落ち着いた声で答えました
「私は『弱くてもヒーローになれる』派かな。例えば、戦闘能力としては弱くても、誰かの心を支えたり、助けたりできる人はヒーローだと思う。力だけがヒーローの条件じゃないはずだよ」
その言葉に私は深く共感します。ヒーローは必ずしも戦うだけではないと、私もそう思っているからです
「なるほど。強さの定義を何にするかってことだね。『戦闘力』だけではなく『心の強さ』『諦めない力』『優しさや信念』とか他の要素も踏まえて見るべきってことかな」
花月さんの補足に、取蔭さんは微笑むように頷きました
「小大はどう思う?」
「私も『弱くてもヒーローになれる』派。サポート向きとかレスキュー向きの個性もある。救助や後方支援に特化するヒーローだっている。だから、戦闘力がない人間でもヒーローになれる」
小大さんの言葉に、私も力強く頷いた。素晴らしい考えだと思います
「今までの前例から見ての考えだね。確かに、戦闘能力がなくても災害救助で活躍しているヒーローもいる。いい考えだと思うよ」
花月さんも同じ考えのようです。そのことを私は──喜ばしいと感じています
「ん」
「塩崎はどう思う?」
「私も『弱くてもヒーローになれる』派です。戦闘能力より大切なのは、誰かを救いたいという信念。心の在り方こそがヒーローだと思います」
私の声は自然と強くなった。強くなくても、志さえあれば、ヒーロー足りえます
「確かに、幾ら強くても内面が伴っていないとヒーロー足りえない。塩崎らしい綺麗な考え方だね」
花月さんにそう言われて、私は自身の心が自然と温かくなるのを感じました
「ありがとうございます。それで、花月さんはどのようにお考えですか?」
先程までの反応から、私たちと同じ意見、考え方だとは思いますが、どの部分を重視しているのか気になります
「『ヒーローは強くなければヒーローじゃない』派かな。ヒーローになるなら、個性に関係なくある程度の戦闘能力は身につけるべきだと思う。幾ら立派な志があろうとも、有事の時に戦えなければ救えない。弱いままでヒーローを名乗るのは、傲慢じゃないかな」
その言葉を聞いた瞬間、胸が少し苦しくなりました。真逆の考え。ですが、花月さんの声には確かな強さがあって、決して逆張りしたわけではないのはわかります
私は取蔭さんと小大さんに目を向けます。みんな同じように少し表情を強ばらせていて、同時に花月さんの真剣さを感じ取っているようでした
「ここからは、質問・反論の時間にしようか。誰か──早いね取蔭。誰に対してかな?」
花月さんの問いに、取蔭さんがすぐに答えます。やはり、まずは反対意見をぶつけるために
「花月の意見、理解できる部分はある。戦闘の現場では確かに力が必要だと思う。でも、その強さは本当に戦闘力だけ?心の強さや判断力は、戦闘力以上に大事な時もあると思う」
花月さんは穏やかな表情で応じました
「もちろん、心の強さや判断力もヒーローにとって大切な要素だと思う。だけど、いくら信念や優しさを持っていても、目の前の誰かを救う瞬間に力が足りなければ──救えなかったという事実が残る。だからこそ、大前提として戦闘能力は必要だと思う」
小大さんが小さく息をつき、声を上げました
「でも、強さを身につけるには時間がかかる。候補生だって、最初から強いわけじゃない。そういう人はヒーローじゃないの?」
花月さんは首を振り、はっきりと言い切ります
「まだヒーローじゃないよ。候補生として力を身につける途中だから。ヒーローとして名乗る以上、ある程度の力は必須だと思う」
私は口を開きます。心の奥にあった小さなざわめきを言葉にするように。
「もし目の前にいる人が敵に襲われていたとすれば──確かに、その瞬間だけを切り取れば戦闘力が絶対条件になるかもしれません。ですが、ヒーローは日々の行動や積み重ねが大事だと思います。たとえ戦闘力が弱くても、信念を持ち続けるヒーローもいます。力だけで測れるものじゃないはずです」
花月さんは、私の言葉を正面から受け止めて頷きました
「その意見には賛成だよ。日々の積み重ねがなければヒーローにはなれない。でも、どんなに信念があっても、有事に人を救えないなら──その瞬間に無力なら、ヒーローとは呼べないと思う。だから、ある程度の戦闘能力がヒーローには必要だと思う」
私は小さく息を呑みました。確かに、花月さんの言うことも正論で。だからこそ、心の中に矛盾する気持ちが生まれてしまいます
花月さんは少し笑うように言葉を続けました。
「例えばさ、自分が力のない人間と仮定して、もし敵に襲われている時に戦闘能力のないヒーローが現れたらどうする?どう思う?安心できる?助けてもらえると思う?僕は思わない。仮にそのヒーローが印象が良くてボランティアとかにも活動的で、信念も素晴らしい、立派な志もある。そんなヒーローだとしても──なんで、助けに来たのがこの人なんだろうって、僕ならそう思う」
その問いかけは、私の胸の奥を鋭く貫きました。何も言えなくなってしまった。取蔭さんも小大さんも同じように沈黙していて。私たちは、花月さんの問いかけが示す厳しい現実を、否応なしに突きつけられたのです。私の考え方が間違っているとは思いません。ですが、花月さんの考え方も間違っておらず──これが、正解のない授業なのですね
「──残り20分」
小大さんの声が空気を動かします。花月さんは小さく笑い、息を整えました。
「あ、ごめん。僕の話が長かったかな。まとめに入ろう」
私たちは静かに頷きました。意見はぶつかり合いましたが、険悪な空気になるようなことはありませんでした。むしろ、私はもっと──花月さんのことが知りたい、そう思っています
「今日は、ヒーロー倫理学について学んでもらう」
ブラド先生の声が響く
「俺が提示するお題に対して、グループでのディスカッション形式で結論を出してもらう。グループごとにその内容の発表、発表内容についての質問。以上がこの授業の基本方針になる」
先生の説明が終わる頃、教室には小さなざわめきが生まれていた。私はただ黙って、その場に座っていた
花月、取蔭、塩崎。そして私。同じグループになった4人で、机を寄せ合う
「僕が進行役を担当してもいいかな?とりあえず、進行役・書記・タイムキーパー・発表担当を決めてから討論を始めていければいいと思うんだけど、どうかな?」
花月の言葉に、私は「ん」と小さく返事をした
取蔭が書記。塩崎が発表担当。そして、私がタイムキーパーになった
「互いの意見・質問・反論を40分。まとめを20分で進めていこうと思う」
花月の言葉に、みんなが頷く。私も静かに頷いた。討論の準備が整った
「『ヒーローは強くなければヒーローじゃない』or『弱くてもヒーローになれる』かを理由も添えて教えてほしい。取蔭、君はどっち派かな?」
花月の質問。私は黙って、取蔭の答えを待つ
「私は『弱くてもヒーローになれる』派かな。例えば、戦闘能力としては弱くても、誰かの心を支えたり、助けたりできる人はヒーローだと思う。力だけがヒーローの条件じゃないはずだよ」
取蔭の声は落ち着いていた。私は「ん」とだけ、また頷いた。共感していることを、目線や小さな仕草で伝える
「なるほど。強さの定義を何にするかってことだね。『戦闘力』だけではなく『心の強さ』『諦めない力』『優しさや信念』とか他の要素も踏まえて見るべきってことかな」
花月が静かに補足する。私はそれを静かに聞いていた。心の中で、その考えに賛同する気持ちがあった
「小大はどう思う?」
花月が私に向けて問いかける。私は迷いなく短く答えた
「私も『弱くてもヒーローになれる』派。サポート向きとかレスキュー向きの個性もある。救助や後方支援に特化するヒーローだっている。だから、戦闘力がない人間でもヒーローになれる」
「今までの前例から見ての考えだね。確かに、戦闘能力がなくても災害救助で活躍しているヒーローもいる。いい考えだと思うよ」
花月は微笑みながら言ってくれた。私は「ん」とだけ返した
「塩崎はどう思う?」
花月の問いに、塩崎が答える
「私も『弱くてもヒーローになれる』派です。戦闘能力より大切なのは、誰かを救いたいという信念。心の在り方こそがヒーローだと思います」
塩崎の真剣な声。私は、視線を少しだけ上げて彼女の顔を見た。やっぱり、塩崎らしい考えだと思う
「確かに、幾ら強くても内面が伴っていないとヒーロー足りえない。塩崎らしい綺麗な考え方だね」
花月が微笑んで言う。塩崎が少し照れたように「ありがとうございます」と返す。私は何も言わずに、それを見ていた。少しだけ、羨ましい
「それで、花月さんはどのようにお考えですか?」
塩崎の問いかけに、私はまた視線を落として花月の返答を待つ
「『ヒーローは強くなければヒーローじゃない』派かな。ヒーローになるなら、個性に関係なくある程度の戦闘能力は身につけるべきだと思う。幾ら立派な志があろうとも、有事の時に戦えなければ救えない。弱いままでヒーローを名乗るのは、傲慢じゃないかな」
花月の声は静かだったけど、強い意志が込められていた。私は小さく息を吐く。真逆の意見に、少し戸惑う
「ここからは、質問・反論の時間にしようか。誰か──早いね取蔭。誰に対してかな?」
花月が笑わずに言う。取蔭がすぐに言葉を繋いだ
「花月の意見、理解できる部分はある。戦闘の現場では確かに力が必要だと思う。でも、その強さは本当に戦闘力だけ?心の強さや判断力は、戦闘力以上に大事な時もあると思う」
取蔭の声は穏やかだけど、真っ直ぐだった。私は無言で、それを聞いていた
「もちろん、心の強さや判断力もヒーローにとって大切な要素だと思う。だけど、いくら信念や優しさを持っていても、目の前の誰かを救う瞬間に力が足りなければ──救えなかったという事実が残る。だからこそ、大前提として戦闘能力は必要だと思う」
花月は静かに返す。私は視線を落として、言葉を飲み込んだ
「でも、強さを身につけるには時間がかかる。候補生だって、最初から強いわけじゃない。そういう人はヒーローじゃないの?」
私は自分の考えを短く言葉にする。普段より少しだけ強い声になった
「まだヒーローじゃないよ。候補生として力を身につける途中だから。ヒーローとして名乗る以上、ある程度の力は必須だと思う」
花月は揺らがない声で言い切る。私はそれに「ん」と返す。確かに、候補生はその時点ではヒーローじゃない
塩崎が、少し真剣な表情で言葉を繋ぐ
「もし目の前にいる人が敵に襲われていたとすれば──確かに、その瞬間だけを切り取れば戦闘力が絶対条件になるかもしれません。ですが、ヒーローは日々の行動や積み重ねが大事だと思います。たとえ戦闘力が弱くても、信念を持ち続けるヒーローもいます。力だけで測れるものじゃないはずです」
私は塩崎の言葉を黙って聞いていた。彼女らしい真っ直ぐさだと思う。でも同時に、少しだけ心がざわついた
「その意見には賛成だよ。日々の積み重ねがなければヒーローにはなれない。でも、どんなに信念があっても、有事に人を救えないなら──その瞬間に無力なら、ヒーローとは呼べないと思う。だから、ある程度の戦闘能力がヒーローには必要だと思う」
花月の声がまた静かに響く。私は小さく瞬きをして、言葉の意味を考え続けた
塩崎が少し困ったように眉を寄せる。花月は小さく笑うように息を整えた。それが、2人が通じ合っているように私には見えた。心がざわつく
「例えばさ、自分が力のない人間と仮定して、もし敵に襲われている時に戦闘能力のないヒーローが現れたらどうする?どう思う?安心できる?助けてもらえると思う?僕は思わない。仮にそのヒーローが印象が良くてボランティアとかにも活動的で、信念も素晴らしい、立派な志もある。そんなヒーローだとしても──なんで、助けに来たのがこの人なんだろうって、僕ならそう思う」
私は視線を伏せた。その問いは、答えにくくて、でも鋭くて。心の中に残ってしまう問いだった。取蔭も口を閉じる。塩崎も少し戸惑ったように黙り込む。私も言葉を飲み込むしかなかった
「──残り20分」
私は静かに声を出す。役割として、ただ時間を知らせるだけ。それ以上の言葉は、まだ見つからなかった
花月は少しだけ笑って言う
「あ、ごめん。僕の話が長かったかな。まとめに入ろう」
私はまた「ん」と返す。その空気に、少しだけ安心する。花月の穏やかな声を聞くと、どこかほっとしてしまう自分がいる。それでも心の奥では、複雑な感情が静かに渦を巻いていた
タイムキーパーとしての役割を果たしながら、心はどこか花月の『戦闘力がないまま、ヒーローを名乗るのは傲慢じゃないかな』という言葉に囚われていた
花月の言葉は鋭くて正論だと思う。それなのに、その正しさが時々怖くなる。あの言葉が私自身に向けられているわけではないのに、自身に言われているような気がして胸の奥に痛みが走る
初めて会った日のことを思い出す。入試の時、花月は私を助けてくれた。その瞬間の力強さを、私はずっと覚えている。もし花月が弱かったら──きっと、私はあの日、大怪我を負っていた。だからこそ、花月の考え方を否定することはできない。私もあの日の自分が、花月の言う「戦えなければ救えない」という言葉の証明だと分かっている
花月の声は、私にとって少し遠いような気がする。塩崎や取蔭のように、はっきりと言葉にできない自分が歯がゆい。「ん」と小さく返すことしかできない自分が、情けなく感じる
──あの日からずっと。名前も知らなかった花月に、私は初恋を奪われた。それなのに、花月は私の知らないところで、いろんな女子と話している。他の子と楽しそうに話している花月を見て、心がざわつく
──好きな人の考えを理解したい。けれど、その考えをすべて受け止められる強さは、まだ私にはないのかもしれない。花月が言うように、強くならなければヒーローじゃないのかもしれない。でも私は、強くなくても、傍にいることで誰かを支えられるなら、それだけでもいいと思っている。それでもヒーローだと思っている
討論の終わりが近づいていく。私はただ静かに、花月の声を聞いていた。タイムキーパーとしての仕事を続けながら、心の中で、小さく小さく、花月の言葉を何度も繰り返していた
「今日は、ヒーロー倫理学について学んでもらう」
ブラド先生の声が響いた
「ヒーローは公共の場での個性の使用が許可されている。その力を行使するにあたって重要なのが『法律』と『倫理観』だ。この授業では主に、その2つについて学んでもらう」
当たり前のことなんだけど、意外と見落としがちなんだよね
「俺が提示するお題に対して、グループでのディスカッション形式で結論を出してもらう。グループごとにその内容の発表、発表内容についての質問。以上がこの授業の基本方針になる」
ブラド先生の説明が終わるころには、教室にちょっとしたざわめきが広がってた。私?意見交流とか討論とか嫌いじゃないし、むしろワクワクしてた。黒板に書かれたグループを見ると、花月、小大、塩崎、そして私。いいメンツだね。塩崎はなんとなく想像がつくけど、花月と小大は気になる
花月がまず話しだした
「僕が進行役を担当してもいいかな?とりあえず、進行役・書記・タイムキーパー・発表担当を決めてから討論を始めていければいいと思うんだけど、どうかな?」
まとめてくれる人間がいるとスムーズに話が進む。小大がタイムキーパーで、塩崎が発表。私は書記。うん、書記は任せて
「互いの意見・質問・反論を40分。まとめを20分で進めていこうと思う」
進め方が決まって、いよいよ本題だ。花月が私に目を向ける
「『ヒーローは強くなければヒーローじゃない』or『弱くてもヒーローになれる』かを理由も添えて教えてほしい。取蔭、君はどっち派かな?」
「私は『弱くてもヒーローになれる』派かな。例えば、戦闘能力としては弱くても、誰かの心を支えたり、助けたりできる人はヒーローだと思う。力だけがヒーローの条件じゃないはずだよ」
自分でも自信を持って言える。だって、ヒーローの価値は戦闘力だけじゃない
花月はすぐに補足を入れてくれた
「なるほど。強さの定義を何にするかってことだね。『戦闘力』だけではなく『心の強さ』『諦めない力』『優しさや信念』とか他の要素も踏まえて見るべきってことかな」
「そうそう、その在り方が大切だと思うんだ。だから、弱くてもヒーローになってもいい」
私の言葉に花月が頷いてくれるのは、正直嬉しかった。認めている相手が自身の考えを肯定してくれるのは誰だって嬉しいと思う
花月の視線が小大に移る
「小大はどう思う?」
小大の声は小さいけど、ちゃんと届く
「私も『弱くてもヒーローになれる』派。サポート向きとかレスキュー向きの個性もある。救助や後方支援に特化するヒーローだっている。だから、戦闘力がない人間でもヒーローになれる」
シンプルだけど説得力がある。小大の言葉って、響くんだよね
花月は小さく笑って答える
「今までの前例から見ての考えだね。確かに、戦闘能力がなくても災害救助で活躍しているヒーローもいる。いい考えだと思うよ」
「ん」
小大の短い返事に、なんだか私まで安心した。小大は喋れないわけでも、暗いわけでもないのに口数は多くない。なんでだろっ?
花月が塩崎に話を振る
「塩崎はどう思う?」
塩崎はまっすぐな声で答えた
「私も『弱くてもヒーローになれる』派です。戦闘能力より大切なのは、誰かを救いたいという信念。心の在り方こそがヒーローだと思います」
この子のこういう真剣な言葉、嫌いじゃない。むしろ好き
花月が微笑んで言う
「確かに、幾ら強くても内面が伴っていないとヒーロー足りえない。塩崎らしい綺麗な考え方だね」
「ありがとうございます。それで、花月さんはどのようにお考えですか?」
塩崎が問いかけると、花月の声が静かに響く
「『ヒーローは強くなければヒーローじゃない』派かな。ヒーローになるなら、個性に関係なくある程度の戦闘能力は身につけるべきだと思う。幾ら立派な志があろうとも、有事の時に戦えなければ救えない。弱いままでヒーローを名乗るのは、傲慢じゃないかな」
一瞬、空気が固まった。塩崎や小大の表情も少し強張る。私も......まあ、驚いた
「ここからは、質問・反論の時間にしようか。誰か──早いね取蔭。誰に対してかな?」
花月が言う前に、私はもう手を挙げていた。相手はもちろん花月
「花月の意見、理解できる部分はある。戦闘の現場では確かに力が必要だと思う。でも、その強さは本当に戦闘力だけ?心の強さや判断力は、戦闘力以上に大事な時もあると思う」
戦闘力が大切なのはわかる。でも、それがないとヒーローになれないっていうのは腑に落ちない
花月は穏やかに返してくれた
「もちろん、心の強さや判断力もヒーローにとって大切な要素だと思う。だけど、いくら信念や優しさを持っていても、目の前の誰かを救う瞬間に力が足りなければ──救えなかったという事実が残る。だからこそ、大前提として戦闘能力は必要だと思う」
その言葉に、私の胸が少し痛くなる。真っ直ぐすぎて、でも本当に正しいのかもって思わされる。私の反論なんて、花月の言葉の前ではちょっと頼りなく感じた。小大や塩崎が意見を言う間も、私は黙々と書記の仕事をしながら、頭の中で花月の言葉を何度も繰り返してた
花月の最後の問いかけはどこか冷たく感じた。でも、それが現実なのかもしれないと納得する自分もいた
「例えばさ、自分が力のない人間と仮定して、もし敵に襲われている時に戦闘能力のないヒーローが現れたらどうする?どう思う?安心できる?助けてもらえると思う?僕は思わない。仮にそのヒーローが印象が良くてボランティアとかにも活動的で、信念も素晴らしい、立派な志もある。そんなヒーローだとしても──なんで、助けに来たのがこの人なんだろうって、僕ならそう思う」
私は何も言えなかった。心に突き刺さったみたいで、しばらく目を伏せるしかなかった。小大も塩崎も黙り込んだ
「──残り20分」
小大の声が響く。花月は息を整えて、笑ってみせた。
「あ、ごめん。僕の話が長かったかな。まとめに入ろう」
花月が少し笑いながらそう言った時、私はホッとした気持ちになった。あの厳しくて鋭い問いかけの後で、空気が重くなったのは確かだった。小大も塩崎も黙り込んで、私もどうしていいかわからなかった。そんな雰囲気を、花月がやわらかくほどいてくれた気がして。やっぱり花月って、周りのこともしっかり考えてるんだなって。心の中で「よかった」と呟きながら、私は小さく息を吐いた。自分が言葉に詰まってしまったのを、ちょっと恥ずかしいとも思った。でも、花月の柔らかな笑顔が見えたから、自然と私も口元が緩んだ
ディスカッションのまとめ作業中の取蔭さん
ホッとしている小大さん
何故か当作品で優遇されがちな塩崎さん
B組もイベント起きてくれぇぇぇぇぇぇぇ